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トピックス -企業家倶楽部

2017年11月27日

ガラパゴス化に向かうエネルギー基本計画/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏 

企業家倶楽部2017年12月号 緑の地平 vol.39


Profile

三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。



世耕経産相 現計画の骨格変えない

 経済産業省が今後のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の見直しに着手した。来年3月末をメドに見直し案をまとめる予定である。基本計画はエネルギー政策基本法(02年公布)で3年ごとに見直しすることが定められている。2014年に決定した現計画は旧民主党政権が掲げた「脱原発」を転換し、原発を安く安定供給できる「ベースロード電源」として位置づけている。

 世耕弘成経産相は見直し着手の最初の会議(8月)で、「基本的には現計画の骨格は変えない」と釘を刺した。世耕発言は、経産省が現計画の見直しに極めて消極的なことを示しているように思われる。

 法律があり、3年ごとに見直せと定められているので、本心はやりたくないのだが仕方がないのでやる、といった姿勢が見え見えだ。実際に見直し作業に取り組むのは総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の分科会だが、大半の委員が経産省のお気に入りの有識者のため、来年3月末に提出される見直し案は、現基本計画とあまり変わらない内容になる可能性が極めて高そうだ。

 エネルギー分野は技術が日進月歩で進むうえ、供給体制、需要構造面で短期間に大きな変化が起こるので、3年に一度見直すことによって、時代の変化に適切に対応していくことが義務づけられているのである。石炭と原発を中心とした戦後日本のエネルギー供給体制は原発事故や地球温暖化対策の進展で大きく揺らいでいる。代って、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用、普及が急務になっている。

 輸送分野ではCO2を大量に排出するガソリン車、ディーゼル車に変わって走行時にCO2 を排出しない電気自動車の時代が迫っている。需要面でも、中・長期的にみると低成長に伴う電力需要の減少、家庭の節電、省エネ機器の普及などで需要全体が縮小している。家庭や企業の節電が進み、太陽光発電など再生可能エネルギーの普及もあり、夏のピーク時の電力需要は震災前と比べ1割強も減少している。

 
 20年からスタートする国際的な地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定は、今世紀後半までに大量にCO2(二酸化炭素)を排出する石炭など化石燃料の使用を事実上ゼロにすることが望ましいと指摘している。抜本的改革のチャンスなのに・・・

 今回の「基本計画見直し」は、日本を取り巻く内外のエネルギー事情の変化、再エネ分野の急激な技術革新に対応するため、これまでのエネルギー政策を抜本的に改革、転換させるための絶好のチャンスのはずだ。

 現計画によると、30年度の主な電源構成目標(発電能力)は、図からも明らかなように原子力20~22%、石炭26%、液化天然ガス27%、再生可能エネルギー22~24%などとなっている。

 見直し案ではこの構成比はほとんど変えず、現状維持を貫くことを密かに狙っているように見える。だが現計画は、脱原発、脱化石燃料を目指す世界の潮流から大きく遅れてしまっている。せっかくのチャンスなのに、現状の電源構成比を大きく変えないという経産省の消極的な姿勢は日本の国家百年の計を損なう恐れがある。気が付いたときには、日本のエネルギー政策はガラパゴス化し、CO2の排出削減はあまり進まず、「世界のお荷物」という情けない事態に追い込まれているかも知れない。

 この機会に時代遅れの現計画から抜け出し、脱原発、脱化石燃料、再生可能エネルギーおよび水素エネルギーの積極活用を柱とする野心的かつ魅力的な「エネルギー基本計画」の作成に取り組むべきだろう。



地震・火山国の日本に原発は不向き

 現計画が時代遅れなのは、第一に原発比率が高過ぎることだ。原発事故後原発比率は2%まで低下している。反原発意識の強い今の日本で2割まで高めることは事実上難しい。パリ協定ではCO2を排出しないクリーンな電源として原発を認めている。だから日本として原発を推進するのは当然だというのが政府の公式見解だ。だがこの見解には重要な欠点ある。日本が世界有数の地震・火山大国であることへの認識が欠落していることだ。これから日本は大地震が発生しやすい時代を迎えようとしている。

 大規模地震の発生予測を研究している政府の地震調査研究推進本部が発表した17年版「全国地震動予測地図」から、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の高い地域を見ると、千葉市が最も高く85%、次いで横浜市と水戸市(81%)、高知市(74%)、徳島市(72%)、静岡市(69%)、東京都庁(47%)などとなっている。関東、東海、四国地方の確率が特に高い。

 最悪ケースの一つは、「東海」、「東南海」、「南海」の3地震が連動して起こるマグネチュード9クラスの「南海トラフ巨大地震」の発生だ。仮に起これば、死者数最大32万3000人、経済被害総額は最大220兆円を超えるとの不気味な予測もある。

 地震の恐ろしさは福島原発事故で経験済みである。地震多発国の日本は欧米と違い原発に不向きな国なのである。事故が起こってからでは遅い。安全の観点からできるだけ早く脱原発を目指すべきである。

 第二は脱化石燃料への取り組みが及び腰なことだ。パリ協定では今世紀後半には化石燃料の消費をゼロにすることが望ましいと指摘している。この方向に沿う形で、欧州や中国、トランプ大統領の米国でさえ石炭火力の縮小が急速に進んでいる。そうした世界潮流に背を向けるように、30年度の石炭火力比率26%を維持しようとする日本の姿は海外から異常に見える。振り返ってみると、原発事故発生前の10年度の石炭火力比率は25%、11 年の事故後の12年度は27・6%である。石炭比率は事故前も事故後もこれからもほとんど変えないという姿勢が透けて見える。高効率の石炭火力が開発されているのでCO2 削減に貢献できると経産省は指摘するが、それでも化石燃料の中では最大の排出量であることには変わりがない。



時代の要請受け入れた基本計画の作成を

 さらに、英国やフランス政府はCO2を大量に排出するガソリン車やディーゼル車の販売を40年までに禁止すると発表したが、日本政府は自動車産業に与える影響が大き過ぎるとして及び腰だ。

 このような諸事情を考慮すれば、今回の見直しに当たっては、脱原発、化石燃料を全面的に廃止することは難しいので暫定的に石炭からCO2の排出が少ない天然ガスへの転換、再生可能エネルギーの大幅拡大、さらに分散型エネルギーや燃料電池自動車向けの水素エネルギーの利用拡大などを柱にした抜本的、かつ時代の要請に適った『エネルギー基本計画』の作成が求められている。



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