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トピックス -企業家倶楽部

2017年12月28日

歴史と文化を紡ぎ世界に発信したい/バリューマネジメントの未来戦略

企業家倶楽部2018年1/2月合併号 バリューマネジメント特集第1部


歴史的建造物を再生、結婚式場、レストランなどに利活用するバリューマネジメント。放置され、壊される運命の歴史的建物を、アイデアとマネジメント力で稼げる施設へと蘇らせる。代表の他力野淳は、日本の歴史と文化を紡ぎ、世界に発信したいと熱く語る。地域活性化&再生請負人他力野には、今や日本中から再生依頼が舞い込んでいる。(文中敬称略)



熱い想いを共有

 2017年11月14日、朝10時、京都木屋町にある伝統的な建物の中に多くの若者たちが集まっていた。建物は5層の和風建築で、そのどっしりと風格ある佇まいは、見る人を圧倒する。かつて人気を誇った老舗料亭旅館「鮒鶴」が、「鮒鶴京都鴨川リゾート」として蘇って約10年、京都随一の結婚式場として親しまれている。

 国指定の登録有形文化財に指定されているここには、伝統と格式が息づいている。奥のフレンチレストランは、予約の取れない創作フレンチとして人気を誇る。手動式のエレベーターで3階に上がると、鴨川を臨む京都らしい眺めに癒される。

 いつもならオシャレな装いに身を包んだお客で賑わうところだが、この日は違っていた。黒や紺のスーツを着込んだ若い男女が続々と詰めかけてくる。どの顔も明るく、活気に満ちている。

 
 10時30分きっかりにセレモニーが始まった。価値ある歴史的建造物を再生、運用するバリューマネジメントの全社ミーティングが始まるのだ。会場には社員約280名が集結。緊張感の中にも一体感が漂う。この日は一日スケジュールがビッシリ組まれている。司会者の進行で、人事情報の共有などが終わると、いよいよ代表の他力野淳が登場する。軽快な音楽とともに、颯爽と前方のマイクの前に進みでる。

「皆さん、このたび、我々がいよいよ平安神宮をやることになりました。東京の明治神宮の次に多くの結婚式が行われる施設です。我々はここの事業部門を任せていただけることになりました」

 他力野の力強い言葉に、会場からはどよめきと大きな拍手が沸き起こる。バリューマネジメントにとって、平安神宮から事業部門・会館運営を任されることは大変名誉なことだ。よくぞここまできたという喜びと、責任感や使命感などさまざまな想いが拍手に込められている。

「営業代行ではなく直営となります。従って平安神宮での挙式はバリューマネジメントが担当することになります。今、年間600組の挙式が行われているが、我々ならすぐ1000組にできる」

 気合の入った言葉に、280人の目が他力野に注がれる。

「皆さん、自分事に置き換えて考えて下さい。12月から平安神宮で何十年も仕事をしてこられた方々と共に歩むことになります。今粛々とスケジュールを進めていますが、1月1日から営業をスタートします。

 これからは世の中から必要とされることのみが生き残れる時代。挙式はもとより、初節句、七五三とその人の人生にずっと関わっていきます。またカフェもオープンし日本茶の文化を啓蒙。平安神宮そして岡崎エリアの活性化に繋げていきます」

 他力野の言葉に一段と力がこもる。

「通常なら創業13年の我々が選ばれることは絶対ない案件です。バリューマネジメントなら大丈夫と言っていただけ、これまでの我々の頑張りを認めていただいた。本当にありがたいことです。この期待に応えなければならない。我々の頑張りが社会の直接的な価値になるよう心に留めて、これからも走っていきたい」

 他力野の力強い宣言に、会場には割れんばかりの拍手が沸き起こる。それは常に全力で先頭を走り続ける他力野へ、そして共に頑張ってきた自分たちチームを称え合う拍手でもあった。


熱い想いを共有

バリューマネジメントという会社

 伝統と格式を誇る平安神宮から事業部門を任されたバリューマネジメントとはどんな会社なのか。あまりご存じない向きに、紹介しよう。バリューマネジメントは他力野が05年設立。歴史的建造物を再生、運用するユニークなベンチャーとして知られる。手掛けるのは歴史的価値の高い建造物だ。

 一番の特長はオーナーから建物を借り、建物の再生だけでなく、結婚式場やレストラン、ホテルなどに活用、その運用も手掛け、収益化していることだ。当然オーナーには家賃が支払われる。従ってオーナー、お客、バリューマネジメント、三方良しのビジネスモデルを創り上げている。

 だからこそ最高のクオリティ、マネジメント力、オペレーション、そしてホスピタリティが求められる。他力野は創業前から、結婚式のポートレートには、世界的なフォトグラファー林幸則に依頼。料理人としては12年に神戸の人気フレンチレストランのシェフとして名高い石井之悠を口説いて社員に引き入れている。

 今、全国に11施設を運営するが、社員教育への力の入れ方は半端ではない。冒頭の全社ミーティングを毎月実施、他力野が熱弁をふるい、志や想いの共有に余念がない。従業員が600名以上になった今も、毎月一堂に会し、社長塾や情報の共有に時間をかける。ホテル、レストランを休業すればその分利益が減るが、他力野は意に介さない。

 他力野は「文化を紡ぐ」を理念に掲げ、歴史・文化そのものを継承、発信していくことに力を注ぐ。そして価値の高い歴史的建物をマネジメント力で、経営の力で残していく。まさにバリューをマネジメントして自走できるよう再生する。

 先に挙げた「鮒鶴京都鴨川リゾート」もバリューマネジメントが手掛けたものだ。高級料亭旅館として親しまれた「鮒鶴」は、バブル崩壊後、経営危機に陥っていた。壊してしまうのは惜しい、なんとか残したいと考えていたオーナーに、他力野が提案したのだ。今や人気の結婚式場、レストランに生まれ変わっている。

 それだけではない。兵庫県の山あいにある篠山市の古民家ホテル「篠山城下町ホテルNIPPONIA」もバリューマネジメントが手掛けたものだ。築100年以上の古民家の良さを残し、水回りなどは快適に改修。大阪から1時間で行けるここは、地域活性化の成功事例として注目されている。

 天空に浮かぶ城として名高い竹田城、その麓に位置する兵庫県朝来市の木村酒造場も、ホテルとレストランに変身、しっかり収益化している。そして大阪城の敷地内にある「大阪迎賓館」、神戸市須磨区にある「神戸迎賓館 旧西尾邸」など、9施設を再生・運用、16年度の売上げは55億円、17年度は27%増の70億円を見込んでいる。



他力野淳の原点とは

 他力野はなぜそれほどまでに歴史的建造物の再生、文化の継承にこだわるのか。その原点は8月9日長崎生まれであることに因るという。5歳年下の弟も奇しくも8月9日生まれ。ここに運命のようなものを感じている。幼い頃より祖父から戦争の悲惨さについて聞かされて育った。原爆で一瞬にして跡形もなく崩れた長崎の風景。まだ幼い他力野だったが、頭に染み付いていた。

 その後神戸に移り住んだが、その記憶が呼び起こされたのは1995年、大学時代に経験した、阪神・淡路大震災である。壊滅的な被害を受けた神戸の街を見て、昨日までの当たり前が今日の当たり前ではないという現実を知ったという。子供のころから歴史が好きで、神社やお城を見て回ったという他力野。価値ある建物、文化を残し、後世に伝えなければという思いが強くなっていった。

 起業を念頭に、大学卒業後はリクルートに入社、ビジネススキルを学ぶが、ここで結婚情報誌「ゼクシィ」などを担当、婚礼事業への知見を深めることとなる。そして05年、バリューマネジメントを設立した。


 他力野淳の原点とは

施設がオープンできない

 創業して13年、バリューマネジメントへの再生オファーは、3桁にも達すると語る他力野だが、ここまでくるには順風満帆とはいかなかった。「失敗はたくさんあります」と苦笑する他力野、中でも痛手だったのは、独立して初めて手がけた神戸市須磨区にある、旧西尾邸だ。

 オーナーの西尾一三から資産を借りて運用するというモデルだが、資金集めを任せていた会社の社長が、オープン1カ月半前になって「お金が集まらない」と言ってきた。工事は全てストップ、開業できないこととなった。アニバーサリービジネスは半年前から予約を取り付ける。既に結婚式の予約が入っていた。他力野は一組一組、謝罪して回った。雇用していたスタッフにも、オープンできないと辞めてもらった。

 資金集めに奔走し、なんとか1年後にオープンにこぎ着けた。結局5億円以上の借金を背負うことになったが、今ようやく完済まできたという。

「その前に手掛けていた事業が成功し、鼻息荒くやってやると思っていた矢先に、バチンとやられた」と他力野。「お客様にご迷惑をおかけしたのが一番つらかった」と当時を振り返る。いまでこそ「神戸迎賓館 旧西尾邸」として、人気の施設となっているが、実は苦いスタートだった。



ギンザシックスの500坪を任される

 東京・銀座。日本の顔として発展してきた銀座にも栄枯盛衰がある。今や外国人観光客がひしめく銀座にあって、最大の開発プロジェクトとして注目されたのが「ギンザシックス」だ。241軒ものテナントを有する巨大な商業施設として、また文化発信基地として銀座に君臨する。その最上階を占める500坪のスペースをバリューマネジメントが任されたのだ。それだけで同社の実力、その期待値がいかに高いかを物語る。

 当初、森ビルの担当者からオファーが入ったが、歴史的建造物を手掛ける他力野にとっては、新築の物件は初めてのこと。自分たちがやる価値はどこにあるのかと考えた。昔から親しまれた銀座という街を活かし、ここを世界への文化発信基地としたいというコンセプトに合致、引き受けることとなった。

 
 13階の500坪のスペースにはレストラン、結婚式場、ラウンジ、バーなどが並ぶ。その「ザ・グラン銀座」のコンセプトはただ一つ。日本の魅力を発信することという。ここでは日本全国の食材を生かした料理を、世界に発信していく考えだ。

 黒を基調とした上質感漂う大人の空間、京都の鳥居をモチーフにしたエントランスは他力野のアイデアという。4月にオープン以来、事業としては成功しているが、「ザ・グラン銀座」の魅力の発信は出来ていないと他力野。秋以降ようやく動き始めたばかりという。

 その一つが長年銀座の顔として君臨してきたフランス料理の老舗「銀座マキシム・ド・パリ」の人気商品「ナポレオンパイ」(ミルフィーユ)の復活だ。今や銀座マキシム・ド・パリは無くなってしまったが、銀座の文化の一つと考え、総支配人ら数名を雇っている。大阪が本社のバリューマネジメントにとって、銀座の文化を知り尽くす人材はありがたい存在だ。ナポレオンパイについても創業当初のレシピを限りなく再現しているという。そうした細かいところまで大切にするのが他力野の仕事術である。



バリューマネジメント成功の原点

 バリューマネジメントがなぜここまで頑張れるのか。それは他力野のパッションと人間的魅力につきるといえる。その志、パッション、熱量は、会う人を皆、魅了する。そしてこの人と一緒に何かを成し遂げたいと思わせる。だからこそ他力野の魅力に惹かれ、多くの社員が集まってくる。自らを「人たらし」という他力野、その誠実さ溢れるパワーは天性のものといえそうだ。

 その他力野の心を突き動かしているのは、日本の歴史・文化を残し後世に伝えたいという熱い志だ。日本には約150万棟の古民家があるが、保全されているものは1万5000棟のみ、あとは放置されたままだという。税金で維持するには限界があるし、長く続かない。民間でマネタイズして自走する施設にしなければという使命感に燃える。

 社会貢献的な要素が強い再生事業だが、それを活用し稼げる事業として成功させるのは容易ではない。しかし他力野にはその志に共感し、共にやり遂げる仲間がいる。成功にコミットするプロ集団がいる。そのチーム力を磨き上げ、組織力を最大化するのが他力野の重要な仕事だ。この組織力こそが成功の原点ともいえる。


バリューマネジメント成功の原点

「信頼」を武器に 日本の文化を紡ぐ  

「これまでは施設単体での再生を成功させてきたが、これからはエリアとしての開発に注力、魅力ある町づくりを仕掛け、社会的価値を創り出していきたい」と他力野。木屋町の例を語ってくれた。当時閑散としていた木屋町は、鮒鶴を再生することで、徐々に人が集まり、町全体が活性化するという価値が生まれた。ここでは間接的に町の活性化に貢献してきたが、これからは意図的にエリアで開発、町をどう活性化し潤わせるかに注力する考えだ。

「よそ者が金儲けにきた」と言われる再生事業だが、地元の人々に受け入れてもらう最大の武器は「信頼」しかない。

 鮒鶴の再生のときもそうだ。木屋町では社員の私用での携帯禁止や私語を慎むなど、細かいルールをつくり、実行してきた。その細かい一つひとつが実を結び、町の人に受け入れられるようになった。

「小さな積み重ねが信頼に繋がり、お客様に喜んでいただいてこそ次の信頼に繋がる。小さなことが出来ない人間に大きなことは出来ない」と常に諭す。



海外も視野に

 実は日本だけでなく海外からもオファーがあると他力野。アメリカやアジアなど、歴史的建造物を利活用するのは世界の課題という。保存するだけでなく、どうやって活用し、マネタイズしていくのか。これは世界中の問題なのだ。

 日本を脱出してみないと日本の良さは分からない。観光立国としてこの10年で芽が出るかどうかが大きな勝負だ。これは言わば、世界戦争である。海外への発信は20年開催の東京オリンピック・パラリンピックまでにどれだけプラットフォームを作れるかが鍵を握る。

「短期的には海外進出は無いが、中期的には海外も攻める」と語る他力野。城や教会などの再生に熱心なヨーロッパではなく、アジアやアメリカが面白いという。どこをどう攻めるのか、他力野の頭には設計図が描かれているのであろう。世界の放置された歴史的な遺産がバリューマネジメントの手でどのように蘇るのか、楽しみだ。

 これまでは自分たちがどこまで通用するのかを確認してきた10年、次の10年は社会のために直接仕掛ける10年と定める。15年から19年はその価値づくりを徹底。次の5年は不景気になっても我々が先陣を切って町づくりができるための土台を作っていくと明快に語る。

 建物の再生だけではない、日本の文化を後世に伝えるのもバリューマネジメントの大切なミッションだ。京都の老舗茶舗「上林春松本店」とコラボしたカフェ事業は、日本茶の文化を残したいという想いが込められている。

「どの時代も必要とされたものが文化。町づくりを通してどう文化を残していけるかが我々のチャレンジ。それをビジネスを通して実現したい」と熱く語る。この他力野の志は創業以来1ミリもブレることはない。そのブレないところが人を惹きつける。

 創業13年、目標の達成度合いは富士山登山に例えると、まだ1.5合目と他力野、日本の再生のために全力でてっぺんを目指す。しかしそれは他力野一人ではない。その志に共鳴、はせ参じた仲間たちと一体となって目標に向かう。「今は未来しか見ていない」と他力野。高い志と溢れるパッションで、他力野チームがどこまで登り詰めるのか。その挑戦はまだこれからが本番だ。
   



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