• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2018年01月22日

自動車産業、世界中がEVシフト― 主戦場は中国市場、民族系とドイツ企業の動き活発/梅上零史

企業家倶楽部2018年1/2月合併号 グローバル・ウォッチ vol.17


世界各国でガソリン車廃止が政策として打ち出され、次世代自動車の本命は電気自動車(EV) という流れが出来つつある。その主戦場となると考えられているのが世界最大の自動車市場となった中国だ。中国は民族系メーカーに有利になる規制を導入し、市場のEVシフトを加速すると同時に、国内産業の育成・強化を図ろうとしている。先手必勝とドイツ系メーカーの動きも活発になっている。新時代をリードするのはどこか。




 EV市場調査サイト、EVセールスによれば、2017年1~10月の世界のEV市場は88万8千台に達しており、通年で百万台を超えるのは確実な情勢だ(電動モーター単独で走行可能なガソリンエンジン搭載のプラグイン・ハイブリッド車=PHEV=含む)。世界の自動車市場が1億台に乗るのは19年と見られており、EVのシェアは17年に初めて1%を超える見通し。16年の実績は77万4千台で全体(9386万台)の0.8%だった。

 この百万台が10~20年のうちに恐らく4千万台規模に急拡大するだろう。17 年4月にインドが販売する自動車を30年までにすべてEVにする検討をしていることを明らかにすると、7月にはフランス政府がガソリン車とディーゼル車の販売を40年までに禁止する方針を打ち出し、英国も追随した。オランダやノルウェーでも25年以降のガソリン車などの販売禁止を検討し、ドイツも昨秋に30年までにガソリン車などの販売を禁止する決議を国会で採択するなど、世界中でEVシフトを表明する動きが顕在化している。30年の自動車市場が1億台とし4割がEVになるとすれば4千万台。控えめな数字かもしれない。

 EVシフトの主戦場は現在年間2千8百万台と世界の3割を占める中国だ。米国の1.6倍と世界最大の市場であり、中国政府の方針が世界の自動車メーカーの戦略に大きな影響を与えるようになっている。77万台のEV市場のうち中国は39万台と実に5割を占める。その中国は19年から「新エネルギー車(NEV)規制」を導入し、EVの生産・販売台数を25年に7百万台とする目標を打ち出している。30年には中国市場は4千万台に達し、うち千5百万台がEVになるとの予測もある。

 NEV規制は国内で自動車を製造・販売するメーカーに対して、一定規模のEVの生産を義務付ける内容だ。19年には生産台数(輸入も含む)の10%、20年には12%のNEVポイントを獲得しなければならない。各社は自らNEVを生産することでポイントを獲得するか、NEVを義務量以上に生産したメーカーからポイントを購入する。EVはもっぱら中国メーカーが生産している。中国市場の6割弱はドイツや日本など外資系企業が占めており、外資は自らEVを生産しない場合、EV専業メーカーからポイントを購入するか、罰金を払う。シェアを多く持つ外資系企業から罰金を取って、EVに力を入れる民族資本に資金を注ぐ仕組みなのだ。



BYDがトップ

 EVといえば米起業家イーロン・マスクが立ち上げた米テスラがスポーツカー、セダンを相次ぎ投入してシェアと知名度を獲得した。しかし16年にEV市場でそのテスラを抑えて世界首位を堅持したのは広東省深セン市に本社を置く中国系民間企業、比亜迪(BYD)だ。PHEVが主体のメーカーだが、もともとリチウムイオン電池のメーカーとして出発したところに強みがある。「秦」「宋」といった中国の歴代王朝の名前を冠したPHEVが好調で、17年も引き続き世界最大のEVメーカーの地位を保つ可能性が高い。

 創業者の王伝福董事長は中国のEV普及政策にも大きな影響力を持っているとされ、日本経済新聞のインタビューで「20年に公共バスが全面的にEVに代わり、25年にトラックなど特殊車両、30年には全ての車が電動化するだろう」と語っている。BYDは独ダイムラーともEVの合弁会社を持ち、騰勢(テンザ)ブランドの高級EVを製造・販売している。リチウムイオン電池、電気制御系の装置など中核となる部品はBYDが提供している。

 BYDに次ぐのが北京汽車集団(BAIC、北京市)。中国の6大国有メーカーの一角を占め、現代自動車や独ダイムラーと合弁でガソリンエンジン車を生産している。同社の小型車「ECシリーズ」は2万2千ドルという価格が受けてヒットし、月1万台を超えるペースで売れている。17年のベスト・セラーになる見通し。日産自動車を抜いて世界第4位のEVメーカーになりそうだ。

 BAICは17年7月、ダイムラーと共同で50億元(850億円)を投資してメルセデスベンツブランドのEV及び電池を生産すると発表した。BYDとともにダイムラーの中国におけるEV戦略の一翼を担うが、パナソニックと共同でEVのエアコン向け電動コンプレッサーを18年に量産する計画も公表している。

 
 16年の世界14位から8位に躍進しそうなのが知豆(チードウ)電動汽車(浙江省寧波市)。民間自動車メーカー、浙江吉利控股集団(ジーリー、浙江省杭州市)と民営電機メーカーの新大洋機電集団(同省台州市)などが15年1月に共同出資で設立した。2人乗りの小型EV「知豆」を生産している。「知豆」はイタリアのピサ市で観光客向けレンタカーとして使われ、そのノウハウを生かして中国でもレンタカー市場で販売を伸ばしている。

 浙江吉利はスウェーデンの自動車メーカー、ボルボ・カーを10年に買収し、ボルボの経営を立て直したことで知られる。ボルボは19年以降に発売するすべての車種をEVにする方針を打ち出している。吉利とボルボは共同でEVのプラットホーム(車台)開発などを進める合弁会社を設立するなど、共同でEV普及を図る考え。吉利はまた17年5月にマレーシアの国民車メーカー、プロトンを傘下に収めている。東南アジア市場でEVを展開する布石とも考えられる。

 仏ルノーや米フォード・モーターをかわしてトップ10入りしそうなのが上海汽車集団(SAIC、上海市)。上海汽車は6大国有メーカーの最大手で、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラルモーターズ(GM)と合弁工場を持つ。上海汽車が17年6月に投入したのが、インターネットと常時接続する「コネクテッドカー」のSUV「栄威(ローウェ)ERX5」だ。アリババ集団(浙江省杭州市)が開発した基本ソフト「ユンOS」を搭載した「アリババカー」で、音声による運転制御やナビゲーションなどが可能という。アリババ・グループのスマホ決済サービス「アリペイ」も車内から使える。自動車そのものがスマホになるという印象だ。

 民族系メーカーの中でも出遅れ気味の国有大手は大合併に向けて動き始めている。中国第一汽車集団(吉林省長春市)、東風汽車集団(湖北省武漢市)、重慶長安汽車(重慶市)の中国国有大手3社は17年12月、包括的な戦略提携をすると発表した。EVや自動運転などの新技術開発、自動車の製造や部品調達、海外進出などを共同で進める。3社のトップが相互に入れ替わるなど統合に向けて動き出しており、年間1千万台の生産規模を持つメーカーが誕生するかもしれない。規模拡大でEVを開発する体力を高める戦略だ。


 BYDがトップ

外資系ではドイツ系が攻勢

 外資系もNEV規制の罰金を払って、こうした民族系EVメーカーの成長を助ける気などない。むしろ自らEVを中国で生産していく姿勢を見せている。特にドイツ系企業の動きは活発だ。

 外資系で中国ナンバー1のシェアを誇るVWは17年5月に安徽江淮汽車(JAC)とEVの合弁会社を設立し、総額50 億元を投じると発表した。VWはすでに上海汽車と第一汽車の2社と合弁会社を持っている。外資系は中国企業との合弁会社は2社までとされており、中国政府の異例な認可として注目された。JACは中国国内では知豆、上海汽車に次ぐEVメーカーで、16年は世界16位の位置にいる。

 VWのマティアス・ミュラー社長は日本経済新聞のインタビューで「25年に約3百万台のEVを世界で販売する。うち中国は半分の150万台だ」と語る。25年に想定されている中国のEV市場は7百万台であり、VWはその2割のシェアを握るということだ。25年までに中国市場にEVの生産や開発に、総額百億ユーロ(約1兆3千3百億円)を投資するとも発表している。

 もう一つのドイツ企業BMWは河北省保定市にある民間メーカー、長城汽車と小型車「ミニ」のEVの合弁生産を交渉中だ。BMWは25年までにEV12車種を発売することを表明している。また同社は遼寧省瀋陽市の自動車大手、華晨汽車集団と提携しており、同社とは電動車向けバッテリー工場を10月に稼動させたばかり。

 独系メーカーがEVに急速に舵を切っている背景には、米EV 大手のテスラがドイツ車とバッティングする高級車市場で急拡大していることがある。そのテスラも中国市場に照準を合わせている。米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、テスラは上海市の自由貿易区に単独でEV工場を建設するという。外資系メーカーが中国に単独で工場を設ける初めてのケースになる。中国政府はこれまで巨大な国内市場へのアクセスと引き換えに外資に技術移転を促してきただけに、極めて異例の措置となる。20年にも生産を始める見通し。テスラにはネット企業大手の騰訊控股(テンセント)が出資しており、コネクテッドカーの開発で協業していくと見られる。


外資系ではドイツ系が攻勢

スタートアップの動きも注目

 動きを活発化させている地元勢、ドイツ企業に比べ日米大手も遅ればせながらEVへの取り組み強化を表明している。日産自動車・ルノー連合は8月に、すでに提携関係にある東風汽車とEVの共同開発会社を新たに設立すると発表した。ホンダも8月に、広州汽車集団及び東風との合弁会社、本田技研科技(中国)の3社で18年に発売予定のEVを共同開発すると発表した。トヨタも11月に中国でEVを20年に発売すると発表した。GMは中国では上海汽車と合弁生産し、EVも「シボレー・ボルト」をすでに投入済み。10月に23年までにEVや燃料電池車を20車種ほど投入すると発表した。

 EVは複雑な内燃機関がないため設計・製造が比較的容易になり、スタートアップや異業種からの参入も活発になると見られている。スタートアップ設立が盛んな中国ではすでにそうした動きが出ている。EVスタートアップ、蔚来汽車(NextEV)は世界最速のEVスーパーカー「NIO EP9」を開発し、148万ドルで販売している。7人乗りのSUV「NIO ES8」を17年中に発売する予定。同社はテンセントや百度(バイドゥ)、米ベンチャーキャピタル大手のセコイア・キャピタルなども投資しており、中国の「テスラ」の異名を持つ。VWと提携したJACが「NIO」の受託生産を引き受けている。自動車情報サイト「汽車之家」で成功した李想氏が創業した車和家信息技術も注目だ。BMWの合弁パートナーである華晨汽車ともスマートEVの製造・開発で提携した。

 異業種からの参入で注目されるのが英家電大手のダイソン。同社は17年9月、20年にEV市場に参入することを表明した。サイクロン式の吸引力の高い電気掃除機を投入し、既存の掃除機業界の地図を塗り替えたダイソンは「従来とは過激に異なる方式」のEVを投入するとしている。25億ポンド(約3800億円)を投じて、心臓部の電池を含めて開発中だ。創業者のジェームズ・ダイソン氏は英紙ガーディアンズに「電池を作るのがどこであろうと、そこで車も作るだろう。極東に大きな市場がある」と中国での生産を示唆している。

 
 17年はEVシフトが表面化した元年。18年には日本勢を含めて動きがもっと活発化するだろう。

P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)


大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top