• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2018年01月23日

【竹中平蔵の骨太対談】vol.47 挑戦する企業文化を構築/経済学者 竹中平蔵 VS ボヤージュグループ社長 宇佐美進典

企業家倶楽部2018年1/2月号 骨太対談 




ネット広告市場は10%成長が続く

竹中 宇佐美さんはインターネットビジネスの黎明期から存在を知られています。様々なご経験をされてきたと思いますが、まずは現在の事業内容について簡単にお話しいただけますでしょうか。

宇佐美 弊社は主にインターネット領域の事業開発を行っています。柱となっているのは、インターネット広告のプラットフォーム事業とインターネット上のメディア運営です。

 インターネット広告は、広告主と広告掲載を求めるメディアがマッチすることでビジネスが成り立ちます。どの広告を、どのタイミングで、誰にどう届けるか、高度な運用が求められる中、私たちは一番適した広告を一番高い効果が出るように表示する技術を提供。今はシステムも全て自動化され、1000分の1秒単位で誰にどの広告をいくらで出すか決められています。いわゆるアドテクノロジーという分野です。

竹中 凄いですね。海外でもそうした事業を展開する企業がありますが、御社はどのような点で優位に立てるのでしょうか。

宇佐美 アドテクノロジーが日本で広がり始めてから6~7年は、先行者優位で利益を上げることができました。現在は、大きなプラットフォームを構築してより多くの広告主とメディアを結び付けることで、しかるべき箇所に適切な広告を出し、1広告あたりの費用対効果を高めることに注力しています。

竹中 扱う広告とメディアの量的規模を大きくすることで経済性を働かせ、コストを下げると同時に、広範なニーズに応える。その総合力においてボヤージュグループは競争優位性を保っているということですね。

 宇佐美さんはインターネット広告と不動産業界には類似点があると仰っていましたが、詳しくお聞かせ願えますか。

宇佐美 私たちはメディアに対してプラットフォームを提供しています。メディアにとっての最重要ミッションは、いかに自分たちの広告スペースを最適化し、1サイトあたりの広告収益を最大化するか。これは、いかに土地を有効利用し、どのような収益物件にするかを究める不動産の話と似ています。

竹中 なるほど。インターネット広告市場そのものの今後については、どのように見られていますか。

宇佐美 1999年に創業してから、インターネット広告市場は毎年10~15%成長しています。年間で1兆円を超える規模になりましたが、2020年までは10%程度の成長が続くでしょう。

竹中 日本経済の成長率が1.3~1.5%ですから、その中で10%の成長率というのはかなりの伸びですね。ここまで事業開発をされてきて、万事想定通りという印象ですか。

宇佐美 いえ、「事業開発会社」との概念を使い始めてから既に10年ほど経ちますが、歩みは想定通りではありませんでした。時代と共に、事業開発で求められることも刻々と変してきたと思います。

 この10年はパソコン、フィーチャーフォン、スマートフォンという急激な端末の変化が起こりましたので、新規ビジネスが創りやすい時期でした。比較して最近は、スマホの利用が浸透し、新たな端末へと変化する兆候があまりありません。その中で、事業開発に求められる時間軸や規模感がより大きくなり、新規ビジネスを創造する難易度が上がってきていると感じます。当初は次々に事業を創り出していこうと考えていましたが、最近は大きく伸びる可能性のある事業を見極めてしっかり構築するという方針に変えなければならなくなりました。



個の力を引き出すことに注力

竹中 事業開発などの取り組みを支えるのは人だと思いますが、ボヤージュグループは「働きがいのある会社ランキング」で3年連続1位を獲得しています。働きがいのある会社を作ろうとの志向は早い段階から抱かれていたのでしょうか。また、どのような点がこのランキング結果に繋がったと思っていますか。

宇佐美 正直、今でも働きがいのある会社の構築を最大目標としている訳ではありません。ただ、「いかに一人ひとりの力を引き出せる組織にするか」は重要視しています。そのためには個々人が自分の力を信じ、やりたいことを認識し、次に向かうために何をすればいいのかを日々意識して行動することが必要です。その一歩を進めやすいよう会社としてサポートすることを大切にしています。

竹中 従業員から「働きがいがある」と評価されるのは難しく、どの会社も苦労しています。具体的に何か面白い取り組みはあるのでしょうか。

宇佐美 目標設定、評価、フィードバックのサイクルをしっかり行うのが大事だと実感しています。そうした小さな積み重ねを日々行ってきた結果でしょう。

竹中 今の時点でご自身が考える会個社の強みと克服すべき点はどのような部分ですか。

宇佐美 強みは人、組織、カルチャー(企業文化)ですね。これらがあるから事業を柔軟に創り、前に進めることができます。課題は、採用を厳選しているため、一緒に働きたいと思う人がなかなか増やせないこと。そこがボトルネックになり、新しい事業に取り組む際にできることが限られてしまっています。自社の魅力を伝える部分がまだまだ弱いですね。


個の力を引き出すことに注力

好調な時こそ次に挑戦

竹中 99年の事業立ち上げから、外部環境の変化とともにご苦労もあったかと思います。2001年頃のITバブル崩壊の影響は受けましたか。

宇佐美 そうですね。01年頃、資金調達が難しくなるタイミングで、いくつもの会社が倒産した時期もありました。

竹中 1つの事業モデルは3~5年しかもたないと言われており、柔軟に事業形態を変えていかねば時代に置いていかれてしまいます。その中で、懸賞サイトを価格比較サイトに変えるという大きな決断をされましたね。どういったお考えで、どんな転換をされたのか詳しく伺えますか。

宇佐美 創業時はキャンペーンやプロモーションの情報を1つに集める懸賞メディアを運営し、一時は業界首位に輝くまで成長しました。しかし参入障壁が低く、後発の会社と広告料金の価格競争に陥ります。03年頃、このまま競争が続けば収益が圧迫されて衰退すると予測し、次のビジネスモデルに変える必要性を感じました。

 参入障壁が高く、懸賞サイトの強みを生せる次のビジネスモデルを探したところ、価格比較サイトという一つの答えに辿り着きました。当時は一社を除いて大きな競合はおらず、「今のタイミングであれば追いつける」と考え、満を持して懸賞サイトから価格比較サイトへと転換しました。

竹中 成功しているモデルを捨て去るのには勇気が必要で、人々は往々にして成功体験にしがみつくものです。事業転換にあたって社内を説得する際には、リーダーとしてどのように振る舞いましたか。

宇佐美 現状のままでは会社が衰退するという危機感を共有するところから始めました。その上で、「価格比較サイトは一つの方向性でしかない。より良い考えがあれば出してほしい。無ければとりあえずこれに挑もう」と、当時のリーダー層を中心に話し合いました。

 彼らがある程度納得した段階で、今度は全社に向けて説明会を行い、理解が得られるまで質問も受け付けました。最後は個別に説得し、「宇佐美さんがそこまで言うなら」と言ってもらえました。

竹中 大変苦労されたことが伺えますね。苦労話としては、社内に「ハリケーン」という言葉があると聞いています。「ハリケーン=突如襲ってきた巨大な嵐」というイメージですが、どのような出来事だったのでしょうか。

宇佐美 ある時、協業していた取引先から突然連絡が入り、「海外の会社と提携するため、今後御社との取引は行えない」と言われたのです。それは当時の主力事業の1つであり、売上げの3分の1が消える非常事態でした。

 たまたま役員合宿の最中に連絡が来たため、まずは役員の間で情報を共有。会合はまるでお通夜のような状況でした。幸い、会社内に資金はありましたので、たとえ翌日からその事業の売上げが無くなっても、4年間は会社を存続できる計算でした。「4年あれば、消失する事業に代わるビジネスを立ち上げられる」と前向きに考え、新しい事業を作る方向にアクセルを踏みました。その際には、「今落ち込んでいるところを、後で見て笑ってやる」と言って、皆が打ちひしがれている姿を写真に収めました。

竹中 写真に撮るというのは大変興味深いエピソードですね。混沌とした状況下にあると、その雰囲気に飲み込まれてしまい、なかなか俯瞰することは難しい。その際に俯瞰し、冷静な対応をするというのは、私たちの日常生活においても大切な教訓だと思います。危機に遭遇しても冷静に次の展開を考えているように見えますが、その際に心がけておられることはありますか。

宇佐美 心がけるというより、楽観的な性格のためだと思います。あとは竹中先生が仰ったように、自分がいる状況を一歩下がって捉え、「もしこれを解決できたら面白い」と考えるようにしています。



失敗からの学びを座礁学と称す

竹中 宇佐美さんは古代ローマ史がお好きで、その統治法などを経営の際にも参考にされているそうですね。ガバナンスを考えるにあたり、歴史や過去の失敗から学ぶことはとても重要ですが、宇佐美さんはどのように行動に移しておられますか。

宇佐美 事業開発においても、多くの失敗がある中で、失敗した原因を次にどう生かすかが重要です。そこで、失敗を組織に共有する仕組み作りとして、「失敗」ではなく「座礁」という言葉を使うようにしています。社内では「座礁学」と称し、失敗した人を講師とする勉強会を開催。失敗を次にどう生かしていけば良いか、内容をテキスト化して社内で共有しています。

竹中 言語化することはとても重要ですよね。言葉に落とし込むという観点では、他に特殊な事例などありますか。

宇佐美 大陸や星座の名前を会議室に付けたり、社員のことを「クルー」と呼んだりしています。ボヤージュという企業名にも、荒波を乗り越えて航海するという意味が込められています。

竹中 実際に言葉に出してみると、その言葉を一番聴いている自分に対して働きかけ、自分を説得することにも繋がります。それが社員としてアイデンティティ形成になることも多いでしょう。宇佐美さんは企業文化にもこだわりを持っておられますが、これはなぜですか。

宇佐美 私がサイバーエージェントの役員を務めていた時、同社と弊社の違いについて考えました。そして、サイバーエージェントは企業文化に強みがあると気付いたのです。自社をより良くするには、良い文化を醸成する必要があると感じ、人材育成や企業文化の醸成に責任を持つCCO(チーフ・カルチャー・オフィサー)という役職も設置しました。

竹中 CCOとは面白いですね。ボヤージュグループにおける企業文化のコンセプトは何でしょうか。

宇佐美 やはり社名の通り航海ですね。海軍ではなく海賊のように、自分たちで自身の進む道を切り拓いていきたいという想いがあります。

竹中 航海はまだ始まったばかりで、これからも様々な荒波や新天地があると思います。将来、どういった航海の先にどういうものを見出していきたいですか。

宇佐美 100年後を見据えて、もっと自分たちでビジネスを創り、会社の規模を大きくしていければと思っています。そのためにも、志を同じくする仲間と共に、更なる大きなチャレンジをしていきたいですね。

竹中 クルーとともに、長いボヤージュに挑んでいただきたいと思います。ありがとうございました。




宇佐美進典(うさみ・しんすけ)

1972年愛知県生まれ。96年早稲田大学商学部卒業後、トーマツコンサルティング入社。99年アクシブドットコム(現ボヤージュ・グループ)を創業、取締役COOに就任、02年代表取締役CEOに就任。05年サイボウズと合弁でcybozu.netを設立、代表取締役CEOに就任。05年サイバーエージェント取締役に就任。14年7月東証マザーズ上場。14年第16回企業家賞チャレンジャー賞受賞。




竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。経済学者。73 年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。16 年4月より慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授に就任。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top