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トピックス -企業家倶楽部

2018年03月06日

2018年世界経済、デジタル景気で絶好調  その継続に水を差す4つのリスク/梅上零史

企業家倶楽部2018年4月号 グローバル・ウォッチ vol.17


2018年に入り、世界経済は17 年に続き活況を呈している。成長率見通しは上方修正され、世界貿易も拡大が見込まれる。スマホやクラウドサービスの普及などデジタル化の波が世界の景気をけん引している。しかし世界金融危機から10 年が経ち、金融市場の過熱も懸念される。2月の世界的な株価急落をみると、絶好調の世界経済に変調をもたらす4つのリスクが浮上する。




「世界的に経済活動が安定的に拡大しつつある…16年中盤に始まった循環的な景気回復はその勢いを強めてきている」。1月22日、国際通貨基金(IMF)は「世界経済見通し」の中で、17年の世界経済成長率が3.7%になるとの見方を示した。10月の時点の予測3.6%から0.1ポイントの上方修正だ。16年の3.2 %からは大きく伸びる。18年の成長率は0.2ポイント上方修正の3.9%とし、17年以上に拡大するとした。IMFの上方修正は世界各国で成長が加速しつつあり、それに加えて米トランプ政権が実施する税制改革が世界にプラスに寄与することを織り込んだ結果だ。

経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数(CLI)を見ても先進国は16年半ばから景気拡大の方向にあるようにみえる。減速が懸念されていた中国も17年4月から拡大トレンドの波に乗った。CLIは6~9月先の景気のトレンドを予測する指標で、18年半ばまでは経済は好調を維持するとの見通しを示している。IMSマークイットが公表しているグローバル製造業PMI(購買担当者指数)も1月は54・4と11年2月以降で2番目の高い水準となった。PMIは製造業の購買担当者に直接、景況感を聞いて指数化した数字で、50以上は「景気拡大」を示す。

 世界経済の好調さの背景には経済のデジタル化の進展が世界規模で起きていることがある。スマートフォンやデータセンターへの需要が世界的に拡大し、そうした情報通信機器向けに半導体の生産・設備投資も拡大しつつある。「ユーチューブ」や「インスタグラム」で動画や写真をスマホで閲覧できるようになり、そうした大量のデータはデータセンターに保存され、クラウドサービスを通じて提供される。関連する情報通信機器や部品の需要拡大が世界貿易の伸びを牽引。IMFは世界貿易額が17年は4.7%、18年は4.6%拡大すると見ている。これは10月の時点よりもそれぞれ0.5ポイント、0.6ポイントの引き上げになる。



■株式市場が変調

 絶好調の世界経済だが、18年2月6日月曜日、株式市場に動揺が走った。ダウ工業株30種平均が急落し、前週末に比べて1000ドル以上下げたのだ。87年10月19日のブラックマンデーでは500ドル以上の下げ幅だった。もっとも当時の株価は現在の10分の1以下で下落率は23%に及んだ。それに比べれば2月6日の下落率は5%弱に過ぎない。ダウ急落を受けて、日経平均も一時1600円以上下げ、その日は2万2000円割れとなった(下落率は5%弱)。アジア株も下落し、世界的な調整局面入りかと騒がれた。

 ダウ急落の原因とされたのが長期金利の上昇だ。米10年物国債利回りが前の週に2・85%と約4年ぶりの水準に上昇したのが原因とされる。新聞報道では、2日に発表された1月の米雇用統計で賃金が8年半ぶりの上昇率となったことからインフレが加速し、長期金利も上昇すると市場が判断したという。だが長期金利の上昇は将来の景気拡大を示唆するともいえ、これまでは株価上昇とともに金利も上がっていた。トランプ政権は大型減税に続き、戦後最大規模の1.5兆ドルのインフラ投資計画を打ち出した。財源確保のために政府による債券発行が増えることも金利上昇の要因だ。

 もっとも株式市場が債券市場の利回りに敏感になっているのもわけがある。長期金利が上がれば株式よりも債券に資金が流れる。株価はかなり割高に評価されている可能性があるからだ。

 先進国23カ国と新興国23カ国の株式指数を総合化したMSCIオールカントリーインデックス(MSCI ACWI)は17年は前年比25%上昇している。16年の8.5%を上回るパフォーマンスだ。ちなみに新興国の株価インデックスは38%アップで、先進国以上に資金が流入した。ダウ平均も25%も上がった。ダウ平均は17年1月25日に史上初めて2万ドルを突破し、1年後の1月26日には2万6616ドルと最高値を更新。日経平均株価は17年の上昇率は19%と米国ほどの勢いではないが、17年6月2日に約1年半ぶりに2万円台を回復。その後も上昇は続き、18年1月23日には2万4 1 2 4 円と、91年11月以来、26年ぶりの高値をつけた。

 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が株価の割高感を判断するのに使う「バフェット指数」というものがある。株式市場の時価総額を名目GDPで除した指標だ。証券市場が成熟した先進国では、経済規模の拡大に比例して株式市場の規模も大きくとなると考えられる。米国の場合、セントルイス連邦準備銀行が公開している指数(ウィルシャー5000という時価総額加重平均型の株価指数を名目GDPで除した指数)が類似の指標として知られ、17年10~12月の時点で162%だった。これはITバブル時の117%をかなり上回っている。リーマン・ショック直前のピークは101%。ショック後に57%に落ち込んでからはほぼ右肩上がりで上昇しており、かなり警戒水準に達しているといえる。日本版のバフェット指数も2月5日時点で128%。平成バブル時のピーク145%には及ばないが、リーマン・ショック前のピーク109%に比べるとかなり高い水準にある。


 ■株式市場が変調

■金利はFRB次第

 金利の水準は米連邦準備理事会(FRB)の動向次第という面がある。FRBは15年12月に利上げを実施し、量的金融緩和からの出口戦略に着手した。17年10月からは4兆5000億ドルに膨らんだ資産(バランスシート)の圧縮を開始し、引き締めモードに完全に移行している。市場から吸収してきた米国債や住宅ローン担保証券を売却。利上げは短期金利の上昇に直接つながるが、国債売りは長期金利の上昇要因になる。折しも5日にパウエル理事がイエレン議長の後任に就任。FRB新体制のメンバーは金融引き締めに積極的なメンバーが増えたとの見方もあり、18年は3回と見られていた利上げが4回になるのではないかとの観測も出ている。30年前のブラックマンデーの時は、2ヶ月前の8月にグリーンスパン氏がボルカー氏に代わって議長に就任したばかりで、今回の状況と重なる。



■中国の企業債務問題

 米国が利上げのペースを上げれば、新興国からの資金流出を招く可能性がある。一頃に比べて落ち着いている人民元だが、その下落を防ぐために中国も米国に追随して利上げをせざるを得ないだろう。金利上昇は中国国内の投資にブレーキをかけ、成長率鈍化を加速させかねない。さらに人民元が下落して中国が買支えるためにドル(米国債)を売れば、米国の長期金利の上昇に拍車をかける。利上げが利上げを呼ぶ悪循環になりかねない。

 スマホを筆頭にハイテク製品の製造・輸出が好調な中国だが、鉄鋼や造船といった重厚長大産業は過剰生産、過剰設備に喘いでいる。過剰設備と抱き合わせで存在するのが過剰債務の問題だ。中国の企業債務は16 年6月末の時点で約19兆ドルで、GDPの1.6 強とかなり高い水準に達している。金利が上昇すれば、企業の債務負担コストも上昇する。景気の悪化で企業の利益が減少すれば、債務を返済できないデフォルトに陥る企業も出てくるだろう。債務の多くは国有企業が抱えており、中国政府の暗黙の債務保証があるとの前提で金融機関が融資していると思われるが、IMFは巨額の債務の金融システムへのリスクに対して警鐘を鳴らしている。


■中国の企業債務問題

■スマホ変調

 デジタル経済を牽引し、中国の成長を支えているスマホ市場にも変調の兆しが見える。調査会社キャナリストによれば、世界最大のスマホ市場である中国の出荷台数が17年は4億5900万台となり、前年比4%減となった。16年は2桁成長していたが、初めてのマイナス成長だ。米調査会社IDCは17年3月時点では17年の世界スマホ出荷台数は16年比4.2%増の15億3000万台と見ていたが、同年9月時点では1.7%増の15億台に下方修正。12月には1.2%増の14億9000万台にさらに引き下げ、この2月には0.1%減の14億7200万台になったと発表した。

 米アップルが「スマホの未来」と豪語していた新機種「iPhone X」の販売目標を引き下げたと伝わると、17年12月にはアップル及び関連株が下落した。調査会社CIRPによれば、発売後1ヶ月間で「X」の販売台数は全体の30%に過ぎず、「8」「8プラス」と合わせた台数よりも小さかったという。IDCによれば17年10~12月のアップルのスマホ出荷台数は前年同期比1.3%減の7730万台だった。「X」は暗雲漂う「スマホの未来」を暗示する。さらに電池が劣化したスマホについて、アップルがOS(基本ソフト)によって意図的に動作速度を落としていたことが発覚し、同社は割安価格での電池交換に応じることにした。スマホの買い替えサイクルが今後は長期間する可能性があり、市場縮小に拍車をかけるかもしれない。



■地政学リスク

 17年8月に北朝鮮が中距離弾道ミサイル「火星12号」を発射した前後から、米朝戦争勃発のリスクが高まってきている。18年2月に始まった平昌(ピョンチャン)冬季五輪期間中(パラリンピックを含めると3月18日まで開催)は開戦はないと見られているが、北朝鮮が核兵器開発を諦めていない状況では、米国による軍事行動のシナリオは消えていない。米朝戦争になれば、サムスン電子を始めハイテク産業が集積する韓国が巻き込まれるのは必至。スマホ生産のサプライ・チェーンを通じて、中国やベトナムなど周辺国にも影響は及ぶ。

 中東でも地政学リスクは増している。トランプ政権が17年12月、イスラエルの米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを表明したことから、エルサレムがイスラエルの首都として認知されることになり、イランやパレスチナを始め中東のアラブ諸国が猛反発している。トランプ大統領は15年に結んだイランとの包括的核合意についても見直す考えを表明。経済制裁を再開する趣旨の発言も繰り返している。

 これに加えサウジアラビアではムハンマド皇太子が自身の王位継承を脅かしかねない政敵を拘束するなど、強権的な政治に走っている。同皇太子は中東における覇権を巡り、イランを敵視している。もう一つの中東の大国トルコも含めて、地域全体にキナ臭い雰囲気が漂っている。中東地域の不安定化は原油価格にも直接影響が及ぶ。原油が高騰すれば、物価も上昇する可能性が高い。インフレ率が上がれば、FRBは利上げを加速するだろう。絶好調な世界景気に水を差すのは確実だ。

 IMFも世界銀行も18年の世界成長は加速するとみているが、19年の成長率はIMFは18年横ばいの3.9%、世界銀行は0.2ポイント減の2.9%に鈍化するとしている。絶好調が続くのはあと1年で、19 年以降は否定的なのだ。米国の利上げ加速、中国の企業債務負担増、デジタル経済を牽引するスマホ市場の変調、そして北朝鮮や中東などの国際情勢の変化といった4つのリスクのいずれかが顕在化し、株式市場が変動してさらにその変動が実体経済に悪影響を与えるという景気逆回転のシナリオもありえなくはない。

P r o f i l e  

梅上零史  (うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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