2018年04月01日
愛と気と創造で日々前進/島精機製作所 代表取締役会長 島 正博 Masahiro Shima
企業家倶楽部2018年4月号 2015年企業家大賞受賞
和歌山に「日本のエジソン」と称される発明家がいる。島精機製作所の島正博会長である。子供の頃から創意工夫に励み、24歳で創業。不屈の精神で発明に挑み続け、世界のニット業界を席捲してきた。無縫製ニット横編み機「ホールガーメント」の発明は世界を驚かせ、それを使った製品はファッションだけでなく、医療や介護、自動車業界にも広がっている。永遠の発明家島会長にその原点を伺った。
問 2017年、社長を交代し会長に就任されました。
島 15年に企業家大賞をいただき、ホールガーメントを世に出して20周年、世の中に高く評価されてきました。80歳という節目の年でもあることから、2017年6月に社長を交代しました。
問 まだまだお元気なので100歳まで大丈夫だと思います。
島 アナリストの方々に75歳すぎると何が起こるか分からないと言われてきましたので、代表権のある会長としてバトンタッチしました。事務的なことや決算や予算の数字的なことは社長に任せています。
問 島会長はホールガーメントも含め、画期的なニット編み機を開発、世界のファッション界をリードしてきました。技術開発の分野は島会長が先頭に立っておられるのですね。
島 先頭に立つなと言われているので、今は若手の指導に努めています。決算発表の時にはアナリストや記者から、発明できなくなったら島精機の株価が下がるのではと言われますので。
問 島会長に頼ってばかりいては、という心配からですね。
島 ずっとそう言われてきたので、1年も2年も前から先頭に立って発明しないようにしています。しかし、指導だけというのはストレスが溜まるし忍耐も要る。自分でやった方がうんと早い。何人かでそれぞれ分担していて、全部分かる人がいませんので、連合艦隊で行くしかありません。
問 島会長はオールマイティーですから、これを他の人が背負うというのは難しいでしょうね。
問 24歳で創業した時に、こんなに大きな会社を作ろうと思っていたのですか。
島 最初から「世界一になるぞ」と言っていました。そうしたら「大きなことを言うのもほどほどに」と皆に言われた。
問 最初から志が違うのですね。だからこそ御社がずっとトップを走って来られた。
島 企業家大賞をいただいたので、より上昇気流に乗っていこうと思います。
問 ユニクロのニット商品は全て御社の編機を使用しているとのことですね。
島 25年以上前からです。ユニクロのニット製品は島精機の機械で作りなさいという柳井さんからのご指示がありました。
問 ユニクロのニット製品の品質を支えているのは、まさに島精機の編機というわけですね。
島 当社の機械で作られた商品はゲージがきちんとしていて生産性が上がると導入していただいています。
問 ライバルはいますか。
島 今はいませんね。今はAIの時代と言いますが、AIは頭だけ良くても、手が動かんでしょ。
問 最近ホールガーメントで作られたセーターがテレビ通販に出てきています。縫い目が無いから軽くて着心地が良いと宣伝していました。日本の企業にも出荷されていますか。
島 日本の企業はやる気が無いし度胸が無い。ホールガーメントを導入しているのはほとんど中国と香港の企業です。
問 一回のテレビ通販で1万着くらい売れます。たくさんの予約注文も受けていて驚きます。
島 1万着といってもホールガーメントは何台も必要ない。1日は1440分でしょ。1着作るのに28 分とすると1日で51枚できる。1年365日ですから、1台で優に1万着できます。
問 予約注文も十分こなせるということですね。
島 ミシンで縫い合わせる必要が無いから人件費がかかりません。糸を繋いでおいたら自動で編み上がる。縫い代が無いので軽いですし、作る時のカッティングロスが無いからムダが出ない。ゴミが出ないので地球にも優しい。着る人もカシミアでサイズもぴったりだったら着心地が良く、何年も着るのでゴミになりません。省資源に繋がるから心の満足度が上がります。
問 ホールガーメントで作ればロスが出ないので、地球環境にも良いということですね。
島 しかもオーダーメイドができたら、世界で私だけのものということで、満足度も高い。何から何まで良いことづくめです。
問 色やデザインなど自由自在ということですね。今、高機能のものを納品しているのはヨーロッパの会社ですか。
島 最新型はイタリアに納品しています。日本人はそういうセンスがあまり無いね。
問 島会長は何度もイタリアに行かれ、ミラノでは有名人だと聞いています。
島 去年、一昨年と年に10回行きました。イタリア人は感性があり、色を見分ける目がある。日本人は色を使うものは不向きです。日本人は「衣食住」だが、イタリア人は食べるのが好きだから「食衣住」です。おしゃれで、美味しい食べ物やワインをゆっくり楽しむからパワーが出ます。日本人は早く食べるので感性が出ない。
問 人生を楽しまないと良いものは生まれないということですね。島会長の元気の要因が分かりました。島会長は半分イタリア人ですね。ホールガーメントで色々な製品ができますが、何か次に面白いものを考えておられますか。
島 次のITMA(国際繊維機械見本市)は2019年。だいぶ時間があるので、日々進歩しなければなりません。「限りなき前進」が当社のモットーです。昨日はもう古い。既に1440分経っています。
問 前にホールガーメントで色付けできる技術を考えていると言っておられました。
島 その技術にはもう既に特許が下りています。
問 それはすごいですね。島会長の頭はどんどん先にいきますね。
島 頭は使うためにあります。
問 創業55年、ここまで来るには色々ご苦労もあったと思いますが、危機を突破する秘訣は何でしょうか。
島 目標を持って一生懸命やること。何を何時までにやり遂げるかというプランニングが大切です。それを自分の心に焼き付けて、目的に向かってやり遂げる「気」が無いと。フィンランドには不屈の精神でやり遂げるという意味の「sisu(シス)」という言葉があります。それを日本人から学んだと言いますが、今の日本人には無くなって向こうで生きている。
問 それは日本人として寂しい限りです。
島 64年、創業3年目の頃、1週間不眠不休で全自動編み機を完成させましたが、それが昨年機械遺産に登録されました。不可能と言われた、世界のどこにもない機械を不眠不休で創り上げた。ずっと立ちっぱなし。まさにsisuの精神です。
問 島会長のようなサムライがいたからこそ、世界に誇る会社が出来上がったということですね。島会長はまさに日本の誇りです。
問 和歌山では皆が島精機製作所に就職したいということで、優秀な方が集まってくると聞きます。
島 何をもって優秀かということです。学校を出て知識はあっても知恵がないとあかん。コンピュータでもAIは高度な知識を速く編集しているだけ。知恵と知識を混同している人に発明はできません。
問 今はAIの時代と言われています。
島 人間の頭のセンサーが一番なのに、頭を使わずAIと騒いでも無駄。人間が一番です。どこの学校を出たかではなく何を学んだかが大切。父親が戦死したので、僕は小学生の頃から焼け跡を開墾して、生活を支えてきた。
問 ハングリー精神が島会長の原点ですね。
島 やる気があったら仕事が楽しみに変わる。「愛」と「気」と「創造」。人間にしかできないものはこの3つ。それ無しにどんな学校を出てもダメ。仕事を愛し、地域を愛すること。松下幸之助さんは和歌山出身ですが、地元に戻ってこなかった。留守番も必要だから、僕は和歌山に本社を置いて、少しでも地元に尽くしたいと思います。
問 本社を移そうと思ったことは無いのですか。
島 なぜ和歌山にいるか原点に戻って考えてみると、気候が良くて食べ物は美味しいし、通勤も楽です。東京は通勤時間が長く、人件費が高い。なんで東京に本社を作らんといかんの。新しいことを考えるにはここが一番。他はノイズがあるし、ニーズも1年くらい先しか分かりません。
問 ここの方が、ウォンツが見えるということですか。
島 東京にいると今のニーズは分かっても本当のウォンツは分からない。引いて見た方が良く見える。関西空港ができたおかげで世界が近くなりました。
問 今80歳とのことですが、これからの夢を教えてください。
島 ホールガーメントで作る製品は、ファッションだけでなく、スポーツウエアやシューズ、メディカルにも活用できます。着圧度を変えてリンパ浮腫とか血流を良くするなど、困っている人を助けることができる。
問 ファッション以外にも広がりますね。
島 帽子、靴、ネクタイ、スカーフ、手袋、エレガントなイブニングドレスなど、ファッションだけでなく介護用品やメディカル用品もできる。工業製品としてスクリューをホールガーメントで作ったら軽い。そうすると車も軽量化できる。
問 夢が広がりますね。島会長の発想の豊かさには驚きます。企業家賞20周年に向けてメッセージをいただければ幸いです。
島 柳井さん、孫さんら立派な方が受賞されたが、その中に入れていただいたことで自分自身もやる気になりました。社員もお得意さんにも見直してもらう良いきっかけになりました。ビジネス上でも信用度が上がり感謝しております。
■会社概要
事業内容 コンピュータ横編機の製造、デザインシステムの開発など
売上高 730億円(2018年3月期見込)
経常利益 150億円(2018年3月期見込)
上場市場名 東証1部
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