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トピックス -企業家倶楽部

2018年05月20日

インドで進むモバイル・ネット革命- 配車、教育など海外に雄飛するスタートアップも

企業家倶楽部2018年6月号 グローバル・ウォッチ vol.19


インドでモバイル・ネット革命が進行している。インターネット利用者数は米国を超え、その9割超がスマートフォン経由だ。大都市では配車サービスや決済アプリ、フード宅配サービスなどの利用が一気に進んでいる。そうしたイノベーションを支えるのがスタートアップで、支援・育成の生態系(エコシステム)もインド全土に広がる。海外にスケールアップするスタートアップも出てきており、日本もインドとの協力を模索する必要がありそうだ。



インド、この十年で変貌

 この十年でインドは大変貌を遂げた。特に交通インフラの整備は目を見張る。首都ニューデリーの玄関口、インディラ・ガンジー国際空港は2010年7月に新ターミナル・ビルが完成。06年に設立された新興航空会社インディゴが、「時刻に正確」を売りにシェア1位を獲得。ナショナルフラッグのエア・インディアを差し置き、インドの空の足となっている。

 空港からニューデリー中心街コンノートプレースまでは、11年に開通した地下鉄デリー・メトロの「オレンジライン」に乗って30分だ。郊外にある衛星都市グルガオンとノイダはそれぞれ10年、9年にニューデリーとつながった。デリー・メトロは現在9路線が開通している。交通渋滞に巻き込まれて、約束の待ち合わせ時間に遅れるリスクも低下し、ビジネスのしやすさは格段に向上した。

 消費のインフラも変化した。巨大なショッピングセンターが各地にできている。デリー中心部から地下鉄で40分のところには、「セレクト・シティーウォーク」が12年にオープンした。自動車の排気ガスや発電所の煤煙などによる環境汚染は深刻だが、ショッピングモールの中は外の埃っぽさとは無縁だ。冷房を完備した屋内にはヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、ギャップ、無印良品といったファッションブランドの店舗や、バーガーキング、スターバックスコーヒー、クリスピー・クリーム・ドーナツといった海外の有名飲食店も入居する。



スマホで配車や決済も

 そして何よりも今のインドを象徴するのはスマホだ。空港には「オッポ」「ビボ」「サムスン」などの中国、韓国系の最新のスマホの広告があふれていた。このスマホがタクシーという庶民の交通インフラにも目に見えない変革をもたらしている。配車アプリ「ウーバー」や「オラ・キャブズ」を使って、スマホの地図上で指定した場所にタクシーを呼ぶ。行き先もすでに入力済み。料金も配車決定時点で決まっている。支払いもクレジットカードで可能で、領収書もメールで送られてくる。かつてのインドではタクシーに乗るのも一苦労。外国人だと法外な料金をふっかけられ、途中で土産物屋に連れて行かれるというトラブルも頻発していた。配車アプリなら運転手も乗客も下車後にお互いを星で評価するので、トラブルへの抑止力になる。

 タクシーや店舗などでの少額の支払いでは、中国と同様にスマホ決済が普及している。決済サービス最大手が、ワン97コミュニケーションズが運営する「Paytm(ペイティーエム)」だ。専用の口座にお金をチャージしておけば、店頭に掲げられたQRコードや店主のスマホ画面のコードを読み取るだけで、お店の口座に入金できる。果物や野菜を売っている街中の屋台でも「Paytm受け付けます」との看板を出していた。特に16年11月の高額紙幣(500ルピーと千ルピー)廃止以降は紙幣不足になり、キャッシュレス化が一気に進んだ。ウーバーの料金もPaytmで支払うよう設定できる。「オラ」は独自の決済システム「オラ・マネー」を導入し、専用口座にお金をチャージして支払えるようにした。この口座にあるお金で宅配ピザや予約したホテルの料金を支払えるようにするなど幅広い決済手段に育てようとしている。


スマホで配車や決済も

モバイル革命進行中

 インドは押しも押されぬデジタル経済大国だ。インターネット利用者数は17年末で4億6千万人で、中国(7億7千万人)に次ぐ世界2位。米国の1.5倍の規模になっている。モバイル経由のネット利用者は4億2500万人と9割を超える。ブロードバンド利用者は3億6千万人で、モバイル経由の大半は動画を不自由なく見られる。モバイル・ネットを使っている時間は1日平均200分で、中国とほぼ同等。米国や日本の倍近い時間をインド人はスマホを見ながら過ごしている。携帯電話の利用者は17年末で11億7千万人。スマホ端末の市場としても17年第3四半期の出荷台数が4億台に達し、米国を抜いて中国に次ぐ市場に育っている。フェイスブックの利用者に至っては2億5千万人と米国を上回る世界1位となっている(中国ではフェイスブックは使えない)。

 インドにおけるモバイル・ネット利用者は16年9月以降、特に激増した。ムケシュ・アンバニ氏率いる財閥リライアンス・インダストリーズが低価格の第4世代(4G)通信サービス「ジオ(J io)」を開始したためだ。通話料は無料で、データ通信料は1ギガバイト当たり平均50ルピー(約82円)と「世界で最も安い」(リライアンス・ジオ・インフォコム)。2999ルピー(約4900円)の低価格スマホ端末も同時に投入した。半年足らずで利用者数は1億人を突破。携帯電話利用者の純増分のほとんどをジオが占めている。低価格競争のあおりを食ったのがムケシュの実弟アニル・アンバニ氏が経営するリライアンス・コミュニケーションズで、17年末に事業撤退に追い込まれた。17年末の固定インターネット利用者は16年9月末比たった2万人増の2128万人。もはや固定ネットは置き去られ、一気にモバイル・ネットの時代に「カエル跳び(リープフロッグ)」している。


モバイル革命進行中

主体はスタートアップ

 4Gの通信インフラ整備は巨額な設備投資が必要なため、リライアンス・インダストリーズなどの大企業が競いながら進めているが、モバイル・ネット向けのサービスで活躍するのはスタートアップ企業たちだ。インドは90年代に米IT企業のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)先として注目され、インフォシス、ウィプロ、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、HCLテクノロジーズといった地元のIT企業が急成長した。しかし07年のアップル「iPhone」の登場から「スマホ時代」が始まり、ソフト開発の中心もアプリにシフトした。アプリの開発は低コストで済む上、小回りの効く小組織の方が新しい技術体系にうまく対応できたことから、開発の中心はIT大手から新興スタートアップに移った。

 例えば配車アプリで「ウーバー」に対抗する地元の「オラ」。運営するのはANIテクノロジーズで、インド工科大学(IIT)ボンベイを卒業したバービッシュ・アガーワル氏とアンキット・バーティ氏が11年に創業した。サービスを提供している都市数も「ウーバー」より多く、登録者数も倍近い。ウーバーテクノロジーズは中国に続き東南アジア事業を競合のグラブに売却することを決めており、将来、インド事業もANIに売却するのではないかとの観測も出ている。オラはオーストラリアでも事業を展開するなど海外展開も始めている。

「ジオ」が加速するモバイル・ネット革命は配車、決済サービスの普及から、幅広いサービスに広がりつつある。その一つがフード宅配ビジネス。インドの場合、日本ほどはレストランが充実して道端の露天商でもスマホがあれば「Paytm」で支払いができる。いるとはいいがたい。自宅で作った弁当を昼時に運んでもらうサービスもあるが、最近はアプリのメニューから食べたいものを選んで届けてもらう宅配サービスが急成長している。スウィギーやフードパンダといったスタートアップは顧客とレストランを仲介する宅配業者で、顧客に代わってレストランまでドライバーを派遣し、注文した食事を受け取って届ける。インナーシェフなどは実店舗のないレストランで、自ら調理した食事を届ける。ユニコーン企業の一つで、レストラン情報サイトのゾマト・メディアもフード宅配ビジネスに参入した。



教育テックも

 さらに教育もモバイル革命の恩恵を受けている。都会における洗練された教育を受けられなかった地方の子供達も、オンライン教育アプリを使ってスマホの画面を見ながら勉強ができるようになっている。オンライン教育アプリで注目を集めているのが、ベンガルールに本社を置くバイジューズだ。教師のバイジュー・ラビンドラン氏がインド経営大学に入るための塾を07年に始めたのがスタート。15年に開発した中高校生向けスマホ教育アプリが大ヒットし、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグの個人ファンドからも出資をアジア企業で初めて受けた。セコイア・キャピタルなどシリコンバレーのベンチャーキャピタル大手からも資金調達し、ユニコーン企業入り目前とされる。講師の身振りと図表描画などのアニメーションがシンクロした授業の動画は、見るものを釘付けにし学習意欲を高める独創的なコンテンツとなっている。数学や科学の教育に特化し、すでに70万人の有料会員がいるという。英語のコンテンツなので海外展開にも意欲的だ。すでにアラブ首長国連合(UAE)でサービスを開始しており、今後は米国や英国に展開する予定だ。



エコシステムも充実

 インドは社会にイノベーションをもたらす、こうしたスタートアップの育成に力を入れている。IT業界団体、全国ソフトウエア・サービス企業協会(NASSCOM)によれば、17年の時点でインドのスタートアップは5千~5200社あり、これは米国、英国に次ぐ規模で、イスラエルと第3位を競っているという(中国の数は不明)。さらにスタートアップを支援・育成するインキュベーターとアクセラレーターは140超。中国の2400、米国の1500には及ばないが、イスラエルや英国を上回る。スタートアップはベンガルール、デリー首都圏、ムンバイの3都市に多くあるが、ハイデラバード、チェンナイ、コルカタ、プネ、アーメダバードなどでも生態系の整備が進む。モディ政権が進める支援政策「スタートアップ・インディア」は全土に広がりつつある。

 こうした動きを見て日本企業とインドのスタートアップを結びつけようという動きも出てきた。日本貿易振興会(ジェトロ)ベンガルール事務所は3月、インドと日本のベンチャーキャピタルの交流会を開催した。お互いの投資先スタートアップを紹介し合い、いずれ提携関係に発展すればとの願いからだ。スタートアップへの相互投資や、スタートアップの市場開拓の支援、インド企業の日本の株式市場への上場といった協力が考えられる。ソフト開発が得意なインドとモノ作りがうまい日本は相互補完的な関係になりうる。「インドには若者が多い。日本には技術と金融がある。協力を通じてお互いが強くなれる」。インドの代表的アクセラレーター、GSFアクセラレーターの創業者、ラジェシュ・サウネイ氏は語る。

P r o f i l e  

梅上零史 (うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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