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トピックス -企業家倶楽部

2018年06月08日

SDGs配慮の東京五輪、道険し/千葉商科大学名誉教授三橋規宏

企業家倶楽部2018年6月号 緑の地平 vol.41




17の目標、169のターゲット12兆ドルのニュービジネス

  最近「持続可能な開発目標(SDGs)」という言葉が新聞やテレビによく登場する。SDGsは英語のSustainable Development Goalsの略称だ。2015年9月、国連サミットの場で15年後の30年を期限とする持続可能な開発のための目標として採択された。 国連の「環境と開発に関する世界委員会」は今から30年以上前の1987 年に出した報告書「OurCommon Future(我ら共通の未来)」の中で、初めて「持続可能な開発」という考え方を示した。それによると持続可能な開発とは「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現代世代のニーズを満たすこと」と定義されている。持続可能な開発のためには、生態系の全体的な保全、天然資源の開発や投資、技術開発の方向づけ、制度改革などがすべてひとつにまとまり、現在および将来の人間の欲求と願望を満たす能力を高めるように変化していく過程だと指摘している。しかし、「持続可能な開発」の定義は抽象的で人によって様々な解釈が可能なため、いつしか忘れ去られてしまった。

 
 この言葉が15年の国連サミットで不死鳥のように蘇り、復活した背景には、温暖化に伴う異常気象の頻発や自然災害などが世界各地で多発する一方、資源枯渇現象にも歯止めがかからず、「持続可能な開発」が大きく損なわれているとの危機感がある。SDGsは87年に示された「持続可能な開発」が抽象的だった反省から、30年までに実現させるべき17の目標、169のターゲットを具体的に掲げている。17の目標の中には環境保全や資源対策などの他に貧困の撲滅、教育や持続可能なインフラ整備、働き方改革、持続可能な生産と消費など広範囲な分野が含まれている。グローバルベースでSDGsに取り組めば、30年までに12兆ドル(約1350兆円)の関連ビジネスが生まれるとの予測もある。



国際オリンピック委員会、SDGs五輪の推進迫る

 企業にとっても大きなビジネスチャンスであり、SDGsに取り組む企業が急増している。政府も安倍晋三首相をトップにSDGs推進本部を設け、16年12月に実施方針を作成している。

 国際オリンピック委員会(IOC)もSDGs五輪の推進に力を入れている。12年のロンドン五輪はSDGsを意識した最初のオリンピックと言われている。この時は大会中に提供される食品素材が品質や環境、持続可能性に配慮した食材であることを示すGAP(Good AgriculturalPractice=農業生産工程管理)の認証取得を調達基準として義務づけた。IOC大会組織委員会は、15年の採択以降、東京が初めての夏季五輪になるため準備段階からSDGs五輪の実施を日本に強く迫っている。組織委は、建設業者、選手村の食堂や競技施設のフードコートで飲食類を提供する業者らに対し、木材、農産物、畜産物、水産物などに調達基準の遵守を求めている。

 SDGs配慮の東京五輪を目指すためには調達基準はほんの第一歩に過ぎない。食品ロスをいかに削減させるかも大きな課題だ。12年のロンドン大会では、全体で1500万食以上、選手村では200万食の飲食が提供され、約1500トンの食品廃棄物が出たという。東京五輪でもロンドン同様の大量の食品ロスが発生する可能性がある。食品ロスを大幅に削減させるための対策、最終的に排出された食品廃棄物の循環処理など具体的に考えていく必要がある。



受動喫煙対策は「SDGs五輪失格」との指摘も

 東京五輪がSDGs配慮の五輪として評価されるかどうかの大きな試金石が受動喫煙対策である。政府は3月9日、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を閣議決定し国会に提出した。今国会で成立すれば、東京五輪・パラリンピック前の20年4月施行となる。改正案は喫煙者や施設管理者に受動喫煙防止を義務づけた初の罰則付きの対策になる。罰則は都道府県などが指導や勧告、命令をしても改善されない場合に適用する。施設管理者に最大50万円、禁煙場所でたばこを吸った人には最大30万円の過料を科す。改正前の同法は、受動喫煙対策を「努力義務」にとどめていたため、改正案はその点では前進と言える。その一方で最大の問題は「屋内全面禁煙」を貫けなかったことだ。

 受動喫煙による健康被害が世界的に深刻化する中で、05年にWHO(世界保健機関)の「たばこ規制の枠組み条約」(FCTC)が発効した。同条約8条には「たばこの煙にさらされることからの保護」が記載されている。IOCはWHOと協力し、「たばこのない五輪・パラリンピックの実現」で合意している。前回の開催地のリオデジャネイロは09年に州法で「屋内禁煙」を決めた。韓国も2月に開催された冬期五輪を前に15年1月にすべての飲食店が原則禁止になった。

 日本が今回健康増進法の改正に踏み切ったのも、当然東京五輪・パラリンピックを意識したものだ。改正案では、規模の大きな店は屋内禁煙だが、客席面積100平方メートル以下で、個人経営か資本金5千万円以下の中小企業が経営する既存の飲食店では「禁煙」、「分煙」などの表示をすれば喫煙を認める。昨年3月に厚生労働省が公表した30平方メートル以下のバーやスナック以外は原則屋内禁止にする案から大幅に後退してしまった。改正案では飲食店全体の55%が喫煙可能になると推計されている。国際水準から見ると、受動喫煙対策後進国のレッテルを貼られかねない内容だ。このままではIOCからの苦情、抗議は避けられない。受動喫煙対策だけでもSDGs 五輪は失格だとの厳しい指摘もある。

 きめ細かなバリアフリー対策がどこまで実施できるかも未知数だ。

 真夏のオリンピックになるため、選手、観客などに対するきめ細かなヒートアイランド対策も欠かせない。選手や観客の誘導やガイドを担うボランティアの労働環境にも様々な配慮が必要だ。さらにオリンピック終了後の選手村の宿泊施設に使われた給湯器、エアコンなどの備品のリユース、リサイクルもこれからの検討課題だ。


 受動喫煙対策は「SDGs五輪失格」との指摘も

前途多難な東京五輪・パラリンピックのSDGs対応

 東京五輪では、金、銀、銅メダルをすべてリサイクル金属で充当する試みも進んでいる。2年後に迫った東京五輪のSDGs配慮はまだスタートしたばかりだが、具体策に踏み込むと、資金調達や実施方法などで各団体、グループの利害対立が目立つ。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が中心になり、主催都市、東京都と協力して今後、具体的内容を詰めていくことになる。様々な試みをその場限りの一過性で終わらせず、五輪終了後、日本のSDGs推進の飛躍台になるような質の高い内容に仕上げる手腕と実行力が求められているが、前途多難といえるだろう。

 三橋規宏 (みつはし ただひろ)

 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。



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