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トピックス -企業家倶楽部

2018年06月11日

「ヴェニスの商人」とVC投資 投資の選択と、成功の秘訣とは?/日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合 代表 村口和孝 

企業家倶楽部2018年6月号 日の丸キャピタリスト風雲録 vol.60


村口和孝 《むらぐち かずたか》

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 

 1958年徳島生まれ。慶應大学経済学部卒。84年ジャフコ入社。98年独立、日本初の独立個人投資事業有限責任投資事業組合設立。06年ふるさと納税提唱。07年慶應ビジネススクール非常勤講師。社会貢献活動で、青少年起業体験プログラムを、品川女子学院、JPX等で開催。投資先にDeNA、ジャパンケーブルキャスト、テックビューロ等がある。



主人公はシャイロックでない?

 ユダヤ人の金貸しシャイロックと、人肉裁判で有名な「ヴェニスの商人」は、シェイクスピアの戯曲である。うっかりすると、キャラクターが際立って目立つため、主人公がシャイロックであるような勘違いをしてしまうことが多い。世界の上演史の中で、ナチスのユダヤ人迫害が、戦後シャイロックを被害者に描く演出が増えた原因の一つだろう。「アントーニオさん、あんたはこれまで幾度となく取引所で私をののしった、私の金や利子がどうのこうのと。私はいつだって肩をすくめてじっと我慢してきた、私の髭に唾をはきかけたあんたが、玄関先から野良犬でも蹴飛ばすみたいに私を足蹴にしたあんたが、金を用立ててほしい。どうお返事しましょうかね。」(シャイロック一幕三場)

 被害者シャイロックの復讐裁判劇のように、受けとられがちなのだ。



第一場:アントーニオを主人公にして見える景色

 ところが、明らかに劇の題名と構成からして、ヴェニスの商人(The Marchan t o f Venice)は、そもそもアントーニオの商人としての武勇伝であるに違いない。そうだとしたら、この劇は本来どんな劇なのか、もう一度戦後の常識をいったん忘れて、素直に劇を読み直してみよう。主人公は、一幕一場冒頭に登場するアントーニオである。その彼は謎めいたセリフで登場する。

「まったく、どうしてこう気が滅入るのかな。我ながら厭になる、君たちだって付き合いきれないだろう。どうしてこんなものに出くわし抱え込んだのか、こいつが何で出来ていて、どこで生まれたのか、見当もつかない。この憂鬱のせいで私はご覧の通り腑抜け同然、自分で自分が分からなくなってひと苦労だ。」

 脇には、サレーリオ、ソラーニオという二人のヴェニスの商人仲間が、アントーニオの投資ポートフォリオのお世辞を言っている。二人は、彼が分散投資した船の船荷が心配で、落ち込んでいるのだろうと、推測しているが、彼は否定する。アントーニオの憂鬱とは何か?

 そこに親友の金遣いの荒いバサーニオがやって来て、アントーニオに、金持ちのお嬢さんのポーシャへの求婚するための金の工面を依頼する。ただ、彼のお金は船に目一杯投資されて、手持ちの貸せる現金がない。そこで、ヴェニスの商人仲間から、資金を集めてバサーニオに提供しようとすることになった。



  アントーニオはキャピタリストだ

 ビジネスの世界で、突然資金が必要になったときに限って、現金が、回収待ち状態となって、手元にないと言う事はよくある。厳しい状態で無理してでも資金提供すべきかどうか?ここが、ビジネスの世界の天国か地獄の、運命の分かれ道になる。1999年末、南場智子さんの創業したDeNAに投資をしようと準備中に、システムの立ち上げ作業に失敗し、発注先のソフトウェア開発がサービス開始に間に合わないという、窮地に陥ったとき、南場さんは、これで「村口さんも失態にあきれて離れていくだろう」と思ったようだ(「不格好経営P34」)。私は、「48時間で、あれだけ集中的に挽回の作業が出来るチームは、正直すごいと思い」(「私は、こんな人になら、金を出す!P58」)、最初の投資を断行し、何とか南場さんのDeNAは立ち上げる活動資金を手に入れることが出来た。

 さらに、創業の翌々年、ドットコムバブルが崩壊した直後の2001年、DeNAは赤字状態でのヤフオクとの戦いを繰り広げる中で、極端な資金不足に陥る目前まで来て、金策に走り(「不格好経営P72」)、窮地に追加投資したVC投資家は、NTVPだけという厳しい状態だった(「私は、こんな人になら、金を出す!P27」)。事業の立上で黒字化達成する前に、さらに追加資金を得るのは、最初に資金を出した人も躊躇しやすく、かくも、難しいことなのだ。ドットコムがはじけて、環境が悪化したとなればなおさらだ。 アントーニオに話を戻すと、彼とバサーニオが、一幕一場の終わりで退場するときのセリフの最後は、「すぐ、金づるを探してこい、私も探す、間違いない、金は必ず手に入る、私への信用か好意がものをいうよ。」

 果たしてヴェニスの商人仲間の中で、ほんとにアントーニオは金策に成功するだろうか?



第二場:ビジネスで重要な「選ぶ」

 次の一幕二場は、ポーシャと言う大金持ちご令嬢の結婚相手選びの最初の場面だ。「いい行いをするのと、知るのと、同じくらい簡単なら、貧乏人の小屋は王侯貴族の宮殿になる」と、知っていること通りに人生がその瞬間瞬間に選択できれば、経済的に大成功するのに、と、思った通りに選択・実行できない人間の矛盾を指摘している。ある結論Aが良いと分かっていても、半沢直樹の組織世界で、過去の成功例や内部抗争、力関係に忖度してしまって、違う結論Bを出してしまう失敗例は多い。

 
 また、死んだポーシャの金持ちの父親が、箱選びで夫を選ぶように遺言を残したために、ポーシャは、「ああ、『選ぶ』、なにこの言葉!」と、遺言に縛られている自分の宿命を嘆いている。ポーシャの父親は大金持ちだが、あちこち投資で成功も失敗もした人物だっただろうし、箱選びにどんな工夫をしているか、気になるところだ。人生の上で、それがビジネスであれ、結婚相手であれ、選ぶのに、何らかの基準や方法を定めておくと、情に流されず、投資リスクを、少しでも下げることが出来る一つの方法だろう。

「選ぶ」がキーワードだと分かると、ヴェニスの商人の戯曲には、様々な選ぶシーンが描かれていることに気が付く。人生の選択である結婚相手の箱選び、アントーニオの投資する船の選択、支援する友人選び、ランスロットの就職先選び、資金調達先選び、などだ。

 ベンチャー立上の経営の選択も、DeNA南場さんの創業期のパートナーとの選び、投資家選びによって運命が大きく分岐し、事業は選択次第で、成功すれば数百億円でも夢ではなく、失敗すれば元の木阿弥だ(笑)。

 一方、世の中には選択を間違って大失敗してしまったベンチャーも多く、シェイクスピアの活躍していた当時のロンドンでも、大航海時代を迎え、選択によってビジネス投資の悲喜劇が、あちこちに見られただろう。



第三場:アントーニオの金策はどうなった?  

 次の一幕三場で、ここで冒頭説明したシャイロックが初めて登場する。何でまた、アントーニオが、こんなヴェニスの商人仲間ではない悪い関係の付き合っていない相手から、お金を借りる羽目になったのか?それが、この劇のドラマの厳しいリアリティである。それこそ、一場でアントーニオが予感していた、ヴェニスの商人仲間の中でのヨイショされている憂鬱だったのだ。もし、一場のソラーニオ、サレーリオという表面のいい仲間が、口で言っているように本当の仲間だったら、彼らはアントーニオに三千ダカットの資金を提供していただろう。何と、結果的に、ヴェニスの商人仲間は誰も、アントーニオにお金を提供しなかったのだ!だから、最もあり得ないシャイロックにお金の工面を御願いせざるを得なかった。

 
 金に色がついてないと言うものの、誰から資金を調達するかは、重要である。誰から資金を調達するかで、何か事が起こったときに、大きなトラブルになることがある。返済が延びる場合、債権者は、裁判所に債務者の破産申し立てをすることすら可能で、相手が関係の悪い人なら、それをやられかねない。現在も過去も同じで、へたすると、裁判沙汰になりかねないのである。しかも、違約したときは、体の肉一ポンドを差し出す契約を付けたのだから、万が一の場合は大変だ。

 アントーニオは、バサーニオに言っている。「心配するな、違約などするものか。期限が切れるひと月前に、証文にある金額の九倍の金が戻ってくるはずなんだ。」「不安の種は何もない。船は期限のひと月も前に戻って来るんだから。」我々ベンチャーキャピタル投資事業組合による投資も、投資先の上場IPOの予定や、M&Aの予定に、どれだけ期待してきたか、ベンチャー創業立上の世界で、よく聞かれるセリフで、それを当てにするのは滅茶苦茶危険である。



事業立上の直面する現実と噂

 実際の事業企画が、予想通りに行くことはまずない。DeNAの立ち上げ時の計画では、99年にビッダーズに投資して、02年くらいに上場することを計画していたが、上場時の事業が当初計画とは異なりモバオクになり、上場は05年になった。その間、ドットコムバブル崩壊や、ライバルの動向など、予期せぬ様々なことが起こった。

 ヴェニスの商人の世界では、アントーニオの投資している船が座礁すると言う噂が、港を駆け巡る。噂好きの連中が、仲間なはずのサレーリオ、ソラーリオらであり、ユダヤ人のテューバルらであり、いわゆる大衆である。この「噂」と言う集団心理が生み出すお化けが、相場を動かし、ボラティリティを高くする。大統領がTwitterでつぶやいて、誰かがアメリカで辞任し、ニューヨーク証券取引所の株式が暴落すれば、翌日の日本株が、さらに株の暴落に拍車をかける、といったことだ。

 事実が単なる噂やフェイクに過ぎない情報であっても、責任を取らなければいけないと思っている組織人は、過剰反応して、忖度して余計な想像までしてしまう。それが、組織社会と言うものだ。最近では、それがSNSで情報操作され、ビッグデータ解析や、AIによる販売促進策のレコメンドなどで、すぐにマスコミの世界に情報が還流してくる。ネット社会の現在は、むしろヴェニスの商人の世界に近づいている。つまり、港でアントーニオの船の難破の噂が飛び交って、それがシャイロックの裁判にまでビンビン影響しているような当時の世界が、SNS世界っぽい。



最後に船が戻ってくる

 資金を出すドラマはさらに、投資された事業の成功不成功、さらにその周辺の噂が、最終的な資金回収の成功不成功に影響してくる。これが、現在でも毎日経済・経営世界で起こっている「選択と、成功と失敗のビジネスの現場」である。昨日も、今日も、明日も、市場において様々なニュースに反応しては、株価が暴騰暴落し、為替が変動し、ビットコインが暴騰暴落している。誰も、未来の予言など出来ない。不確実な未来に、経営者や投資家の人生は嵐のように翻弄されるのだ。投資にかかわった人々の人生が、豊かになったと思ったら、翌月には資金繰りが窮地に陥ったりするなど、事業家や投資家の人生は、ドラマチックだ。

 
 さて、なぜ最後にアントーニオの船は戻って来て成功したのか?運もあるが、金銀鉛の箱選びの所で、シェイクスピアは、その答えを明かしている。あなたならどの箱を選ぶだろう?

●金の箱「諸人の欲するものを得ん」

●銀の箱「その身にふさわしきものを得ん」

●鉛の箱「持てるものすべてを手放し、危険にさらすべし」

 正解は、鉛の箱である。皆の意見にまどわされ流行を追ったり、現状にしがみついて保守的になるなと言う事だ。ということは、どこまで行っても起業家や投資家は、どこかで悟りを開き、必勝法を手に入れる事がない。その本質は、死ぬまで「挑戦と誠実な努力」を継続すること以外にないと、知るべきだ。

(ヴェニスの商人の翻訳は松岡和子さんのものを使いました、お礼申し上げます!)



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