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トピックス -企業家倶楽部

2018年08月07日

アマゾン効果でテックジャイアントが対抗連合形成ーインド通販最大手買収に見る合従連衡の縮図

企業家倶楽部2018年8月号 グローバル・ウォッチ vol.19


アマゾン効果(エフェクト)--。米アマゾン・ドット・コムがネットからリアルの小売、さらに物流や出版、金融などあらゆる産業を飲み込む動きをこう呼ぶ。それに対抗してほかのテックジャイアントなどが反アマゾン連合を形成する動きが出ている。インドにおけるネット通販最大手の買収劇を通じて、電子商取引を巡る合従連衡、そして決済ビジネスの未来を垣間見る。 




 敵の敵は友ーー。米小売最大手ウォルマートによる、インドのネット通販最大手フリップカートの買収の構図はまさにそうした感がある。

 5月9日、ウォルマートは約160億ドル(約1兆7千万円)を投じて、フリップカートの77%の株式を取得すると発表した。インド市場で攻勢を強めるアマゾンに対抗する狙いだ。米国でのせめぎ合いが、2024年にも中国を抜いて世界最大の人口国となるインドに飛び火した。 

 米国でウォルマートとアマゾンの競合は激しくなっている。リアルな店舗での消費活動で支配的なウォルマートに対して、アマゾンはネットで優越的地位を占めつつある。それが17年6年、米高級スーパー、ホールフーズ・マーケットのアマゾンによる買収の表面化で、両社の対立は抜き差しならない状況になった。買収金額は137億ドルにも上る。ホールフーズはオーガニック食品の品ぞろえに特徴のあるスーパーで、全米に約400の店舗を持つ。約5千店舗のウォルマートには敵わないものの、急成長中のスーパーとネットの相乗効果は侮れない。早速、アマゾンは有料会員サービス「アマゾンプライム」で、ホールフーズの生鮮食品などを2時間以内で配送するサービスを始めたり、ホールフーズの店頭にアマゾン用ロッカーを設置して、商品の受け取り・返品ができるようにしたりしている。

 この買収劇にはテックジャイアントと呼ばれるグローバルIT企業の主要メンバーが絡んでいる。ウォルマートとともにフリップカートの株主として、反アマゾン陣営に参加しているのは米マイクロソフト、中国の騰訊控股(テンセント)。そして地元紙によれば、グーグルの持ち株会社アルファベットも出資する方向で交渉しているという。

 マイクロソフトはクラウドサービスでアマゾンと競合関係にある。企業向けにクラウド型プラットフォーム「アジュール」を提供し、「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」とシェア争いをしている。アマゾンのホールフーズ買収で、競合する流通業者が情報管理のプラットフォームをマイクロソフトに相次ぎ乗り換えているもようだ。



■「グーグルゾン」、今や昔

 さらに18年3月には「グーグル・ショッピング・アクション」というサービスを発表し、検索した商品をグーグルが提供するプラットフォーム上で購入できるようにした。ウォルマート、コストコ・ホールセール、ターゲットなど大手が参加している。消費者はそれぞれの流通業者のサイトに飛ばなくても、グーグルの提供するシステムで決済まで完結できる。グーグルは17年8月にウォルマートとネット販売で提携しており、両者の関係は対アマゾンでさらに深まっている。

 電子商取引の物流でもグーグルは追随戦略を取る。「アマゾンプライム」は送料無料、最短当日配達、さらに映画や音楽も見放題のサービスだが、グーグルも14年から「グーグル・エクスプレス」の名称で即日配達サービスを開始し、全米にサービス対象エリアを広げている。またアマゾンがAIスピーカー「アマゾンエコー」を14年に投入すると、グーグルも16年秋「グーグルホーム」で参入。ともに音声だけで商品を検索、購入できるサービスを提供している。

 04年、ネットで「EPIC2014」という未来のメディアの姿を描いたショートムービーが流行った。その中では08年にアマゾンとグーグルが合併して「グーグルゾン」が誕生するという設定だった。個人の好みや消費行動などのデータを握った「グーグルゾン」が「進化型パーソナライズ情報構築網(EPIC)」を14年に構築し、ユーザーの好みに合ったニュースを自動的に作成・提供し始めるというストーリーだ。18年の現実は、両社が統合するどころか、別々に世界の消費者のデータを独占しようと激しく競争する。


■「グーグルゾン」、今や昔

■テンセントはアリババ意識

 ウォルマート、グーグル、マイクロソフトは米国でのアマゾンとの戦いをインドに持ち込んだが、テンセントは中国でのアリババ集団との競合関係をインドで再現しようとしている。 アリババはインドのスマホ決済最大手のワン97コミュニケーションズ(ペイティーエム)が展開する電子商取引「ペイティーエム・Eコマース」に出資し、アマゾン、フリップカートに続く第3勢力を築こうとしている。

 
 アリババは傘下の金融会社アント・フィナンシャルを通じて、ペイティーエムに出資しており、QRコードを使ったスマホ決済サービスでインド市場の先頭を走る。

 
 インドでは16年11月の高額紙幣廃止で一気にキャッシュレス化が進んだといわれる。ペイティーエムの口座に現金をチャージしたり、銀行口座からお金を移したりして使う「電子マネー」で、QRコードで支払い先の口座を読み込んで資金を移す仕組み。店舗側はQRコードを紙か、スマホ上で表示するだけでよく、特別なPOS端末も不要。初期投資も小さく、クレジットカード会社の手数料に比べても割安なため普及が加速した。 

 中国ではアリババは電子商取引に付随する、安全な決済システムとして「支付宝(アリペイ)」の提供を開始。それをリアル店舗での決済インフラに発展させた。インドでは逆にリアル店舗の決済インフラとなったペイティーエムをテコに、ネットの世界に切り込もうとしている。テンセントも中国で決済サービス「微信支付(ウィーチャットペイ)」をネットとリアルの両方で展開し、「アリペイ」とほぼ複占状態だ。テンセントは対話アプリ「微信」でテックジャイアントとして地位を築き、インドでは同業のハイク・メッセンジャーに出資。電子商取引ではアリババに続く業界2位の京東集団(JDドットコム)に出資し筆頭株主となっている。ウォルマートは中国のネット事業をJDに売却し、代わりにJDに5%出資する。

 
 しかしインドの決済市場は中国のように2大民間勢力がしのぎを削るという単純な構造にはなりそうにない。ペイティーエムは「電子マネー」市場の7割前後のシェアを握っているとされていたが、その電子マネー市場がインド政府(中央銀行)が民間金融機関と共同で始めた「統合決済インターフェース(UPI)」に置き換えられつつあるからだ。UPIは銀行口座間の決済インフラで、消費者は個人の銀行口座から直接、お金を支払う。「インド決済公社(NPC)」が運営しており、NPCは「BHIM」という決済アプリの提供を16年12月から開始して電子マネー市場を駆逐し始めた。18年1月時点でのUPIを使った決済金額が1554億ルピーと、電子マネー(1256億ルピー)を上回るまでに急成長している。

 
 実はグーグルも17年9月、インドで「テズ」という決済サービスを開始している。世界で初めてインドで提供を開始したサービスで、「テズ」のアプリをインストールしたスマホ端末は超音波を使ってお互いを認識する。QRコードを画面で読み取って支払先を認識する「ペイティーエム」などに比べて、一連の動作が素早く(テズのヒンディー語の意味)できる。「テズ」は電子マネーではなくUPIを使った決済システムだ。

 ペイティーエムは同社の口座間の決済が主流だったが、18年1月からUPI経由の決済にも対応することにした。UPIを使った決済では「テズ」、フリップカートの「フォン・ペ」などもシェアを拡大中。アマゾンも18年2月からサイト内でUPIでの支払いに対応できるようにした。ペイティーエムはUPI決済で40%のシェアを握ったと豪語するが、その存在感の低下は否めない。



  ■中国では政府は規制強化へ

 中国では民間企業が決済インフラを整備し、それが全国の標準になった。アリペイなどの口座は銀行口座よりも金利が高く、口座にたまっている余剰資金を「余額宝」というファンドとして運営している。その総額は1兆元(約17兆円)を超えるほどに拡大した。中国政府はこれまで民間に好き勝手にやらせ、それが決済イノベーションにつながったが、ついに政府は規制・統制に向けて動き出した。16年4月、中国人民銀行(中央銀行)はネット決済の清算プラットフォーム「網聯」の構築を決め、すべてのネット決済は「網聯」を経由しなければならないとした。アリペイやテンセントペイなどはこれまで個別の銀行と直接接続することで手数料を安く設定していたが、18年6月からは「網聯」経由で決済することになる。コストアップになると同時に、すべての取引を中銀に把握されることになる。

 
 またアリババは金融当局の意向を汲み取って、「小額宝」の自主規制に乗り出した。1人当たりの投資額残高の上限をこれまでの百万元から、17年5月に25万元、同年8月に10万元に引き下げた。同年12月には1日に投資できる金額の上限を2万元に設定した。さらに1日当たりの解約額の上限を1万元に設定する規制が導入されるとの報道が出ている。金融当局はネット金融の拡大で金融市場全体が不安定になることを懸念しているのだ。中国とインドでは政府の関わり方のベクトルがやや異なるが、いずれにしろ決済分野で政府の存在感が高まっている。

 
 デジタル経済の分野ではテックジャイアントのグローバルな展開、市場支配力の高まりに伴い、特に税金の徴収と個人情報保護の面などで政府の役割が問われ始めている。 

 税金を巡っては、アマゾンやグーグルのようにグローバルに事業を展開している企業が利益を税率の低い国に移し、実際に事業活動している国で税金逃れをしているのではないかという批判がある。欧州連合(EU)などは売上高に課税するなどの提案をしている。20カ国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)などで国際的に議論が進む見通しだ。

 
 テックジャイアントが集めている個人データについては、米フェイスブックの8700万人分のデータが英ケンブリッジ・アナリティカに不正流出した事件で社会問題化した。5月にはEUが個人情報保護ルール「一般データ保護規則(GDPR)」を施行し、欧州の消費者や従業員などの個人データを保有したり域外に持ち出したりする場合、個人の許可を求めることを企業に義務付けた。違反企業は最大2千万ユーロ(25億円)か世界売上高の4%に相当する金額のどちらか大きい方の罰金が課せられる。
 

 「邪悪になるな」。有名なグーグルの社是だが、18年5月、同社の社是からこの文言が消えたのではないかと話題になった。その意図は不明だが、テックジャイアントの支配力が高まる中、各国政府は邪悪な意図と戦うことができるのか。アマゾン、反アマゾン連合の競争を通じて、けん制することができるのだろうか。

P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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