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トピックス -企業家倶楽部

2018年08月27日

斜陽産業を再成長産業に再生したい/ティーケーピーの未来戦略

企業家倶楽部2018年10月号 TKP特集第1部


「私は運がいい」と貸会議室事業で国内最大手に成長したティーケーピー(以下、TKP)社長の河野貴輝は謙遜する。2005年、取り壊しの決まったビルを割安に仕入れ、時間貸しに小分けし会議室を提供するニッチビジネスから始め、地道に全国に事業を拡大。創業から12年の2017年3月、東証マザーズに株式上場を果たした。最近では赤字が続く大塚家具の経営再建の受け皿として名前が上がっている。「挑戦していると運が巡ってくる。運を引き寄せ、チャンスをものに出来るかが重要なポイント」だと企業家の心得を語った。(文中敬称略)



四半期で昨年を上回る増加数

「昨年1年間で貸会議室を106室オープンしましたが、この第1四半期の3カ月間で新たに146室を出店することが出来ました。すでに昨年の実績を大幅に超えるペースです。今後も出店は続きますので、売上げも順調に上がっていくものと考えています」

 2018年7月18日、東京・京橋にある大型複合施設「京橋エドグラン」にてTKPの2019年2月期第1四半期の決算発表が行われた。登壇した河野は順調に業績が伸びていることもあり、自信に満ちた表情で今後の出店計画について力強く語った。

 最近、都内を電車や車で移動していると、赤地の旗のマークに白いアルファベットで3文字「TKP」と書かれた大きな看板をよく目にするようになった。JR東京駅八重洲口や品川駅高輪口、新橋・虎ノ門周辺の日比谷通りなど、オフィス街として人気があり、ビジネスマンの行き来が多いエリアだ。つい先日まで違う会社のオフィスが入っていたと記憶していたが、大通りに面した窓やビルの屋上看板が目を引く赤色のロゴに変わっていることもあり、タクシーの運転手の間ではランドマークになっているほどだ。

 2018年7月末時点で、国内・海外で2063室(国内2017室、海外46室)の貸会議室と宴会場を展開中で、年間利用企業は約2万4000社もあり、客の満足度を表すリピート率は85%という高さを誇ることから、安定した収益を確保していることが理解できる。

 2018年2月期の売上高は286億8900万円、経常利益は32億円を計上し、2019年2月期の売上高は345億5000万円(前期比20・4%増)、経常利益は37億2900万円(同16・5%増)と増収増益を見込んでいる。2017年3月に東証マザーズに株式上場を果たし、現在時価総額は1300億円超と急成長するなど、注目の企業家である。


四半期で昨年を上回る増加数

三方よしのビジネス

 東京、大阪、その他の地方都市でも駅前の好立地とされる土地の再開発工事が随所で行われている。都市の再開発が進めば古いビルの建て替えやリノベーションという流れになる。数年の間に取り壊しの決まったビルは新しく借り手を見つけるのが難しい。そうした遊休資産を不動産オーナーからTKPが割安に仕入れ、主に法人相手に時間貸しの会議室やセミナー会場として提供し、業績を拡大している。

 なぜ、貸会議室事業がユーザーにこれほどまでに支持されているのだろうか。その背景には昨今のオフィスの在り方の変化が挙げられる。以前は使用頻度の少ない会議室や社員総会用の大きなホールを所有し、無駄な賃料を払っている企業も多くあった。だが、企業経営において生産性が重要視されるようになり、非効率なスペースの見直しが行われ、会議室やイベントホールは必要なときに借りるという傾向に変化している。

 ユーザーは、用途に合わせてスペースのサイズや場所を選び、無駄な賃料を払わなくて済む。一方の不動産オーナーは、借り手のつかない不稼働資産を収益の生む資産に変えることが出来る。そして、TKPはB2B向けに遊休資産を小口販売し、「シェアリング」することで収益を創り出している。

 まさに河野がよく口にする近江商人の「三方よしの商売」と言える。景気の動向に左右されずに会議需要は存在するので、河野はまだ大手が参入していない「貸会議室ビジネス」という金脈を掘り当てたのだ。


 三方よしのビジネス

所有からシェアへ

 今「シェアリング・エコノミー」に世界的にも注目が集まっている。アメリカ発の企業が多いが、創業から僅か数年で時価総額が1兆円超えするメガベンチャーも誕生している。カーシェアリングや民泊、クラウドソーシングなど私たちのライフスタイルにも少なからず影響を与え始めている。

 このように人々の価値観が「所有」から一つのものを「シェア」する方へ変化している。シェアリングサービスの例を挙げれば枚挙にいとまがないほどだ。流行りの新しいビジネスモデルかと思えば、そうでもない。身近なところでは以前からコインパーキング(有料駐車場)がある。有休不動産をシステム的に収益化し、大きな市場を創り出したという意味では老舗的存在だろう。

 1時間当たりの料金を払うシステムは、TKPが手掛ける貸会議室事業と駐車場ビジネスはよく似ている。タイムズを展開する駐車場開発の最大手パーク24も創業当時から営業マンが全国を歩き回り、足で稼ぐ地道な営業活動をして、現在の地位を築いた。

 「創業当時はITバブルの真っ只中でしたが、私はもっと実体のあるビジネスをしたいと思っていました」と河野は言う。



たまたま貸会議室が当たった

 河野は、もともと貸会議室事業をしたくて起業したのではない。起業までの経緯を見てみよう。

 河野は1972年大分県生まれの現在45歳。慶應義塾大学商学部を卒業後、伊藤忠商事に入社して為替証券部に配属されたのち、日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)、イーバンク銀行(現・楽天銀行)の立ち上げに参画。最先端のITと金融の融合ビジネスを間近で体験した。

 2005年、河野が32歳のときに退職し、起業することになった。どんな事業をするか決めていた訳ではなかった。たまたま六本木駅から徒歩3分ほどの古い3階建てのビルが目に止まった。オーナーに問い合わせると、「1階のレストランが立ち退くまで取り壊しが出来ない。何とかならないだろうか」と相談された。

 そこで2階と3階の計40坪を家賃20万円という相場の3分の1の割安な価格で借り上げることにした。すぐに3階は近くで工事をしている建設会社の仮設オフィスとして、家賃25万円で借り手が見付かった。これで月5万円の利益が出た上に2階分の賃料が無料になった。しかし、取り壊しが決まればすぐに立ち退かなければならない。限られた条件で出来ることは時間貸しの「貸会議室」ぐらいしかなく、取り敢えず試しに始めてみたところ、これが当たった。

「まさか貸会議室がビジネスになるなんて確信はありませんでした。他にもトライしたが、結局貸会議室しか上手くいかない。これが天職なんだろうと思い、他の事業は損切りして、貸会議室事業を伸ばしていくことに経営資源を集中しました」

 ビジネスチャンスはどこに転がっているか分からない。顧客のニーズを拾い、泥臭い仕事から逃げずに自社のコア事業を磨き上げた結果、貸会議室事業で国内最大手の地位を確立したのだ。

 「会議室の椅子をどれだけ運んだかが会社の売上げの貢献に繋がる。そんな泥臭いビジネスに、流行りのITベンチャーより惹かれた」と営業第1部長の星竜二は入社の経緯を笑顔で話す。



ピンチが会社を強くする

「所有から共有(シェアリング)」という時代の変化と「会議需要」という潜在的な顧客ニーズに応えるサービスをゼロから創り上げ、時代の寵児と評されるまでに成長してきたTKPであったが、ここまで順風満帆で来られた訳ではない。倒産の危機はこれまで2度あった。

 最初のピンチは2008年に起きたリーマン・ショックである。それまで日本の製造業の業績は好調で、研修会場は予約で埋まっていた。それが全てキャンセルという非常事態に陥った。全体で5億円分のキャンセルが生じ、月間で1億円の赤字になり、奈落の底に突き落とされた。

 しかし、転んでもただでは起きないのが企業家である。日本電産創業者の永守重信は、「困難さんは解決君と一緒にやって来る。解決君だけ先にやって来ないのが厄介である」と名言を残している。

 経営をしているとトラブルが起こるのは日常茶飯事である。しかし、困難から逃げずに対処すると必ず解決策は見つかるという「社長の心構え」を擬人法を使いユーモアで伝えている。

 河野は行動に出た。リーマン・ショックの影響は大きく、調べてみると不動産の家賃相場も下がっていた。そこでオーナーに「家賃を半額とまでは言わないが4割下げて頂けないでしょうか」と交渉し、コストダウンに成功した。

 そこで貸会議室の料金を3割下げると、これまでの製造業に変わり、外食産業やアパレル産業といった新しい顧客を得る結果となった。むしろ売上げはリーマン・ショック前より5割増えた。

 まさに「災い転じて福となす」とはこのことであろう。逆境から学ぶことで、ピンチをチャンスに変えた組織は強い。



周辺事業で相乗効果

「貸会議室」という事業の柱を確立したTKP。しかし、事業の柱が1本では弱い。そこで河野は貸会議室事業を補完し、ユーザーが付加価値を感じるサービスから広げていった。

「やみくもに新規事業を始めても成功確率は低い。『飛び地』は難しいので、コアビジネスの周辺事業から手を付ければ、1+1が3にもなる」と事業拡大の要諦を語る。

 具体的には、会議室にはプレゼン用のプロジェクターやスクリーン、マイクなどが必要になる。クライアントの担当者がそれらを手配するのは面倒なため、一括で機器の手配を請け負う。定番の機器や什器は購入してレンタル料を取れば客単価も上がり一石二鳥と言う訳だ。

 会議や研修が食事時に掛かれば、弁当やお茶などの注文も大量に入る。懇親会など宴会場需要も多く、ケータリング事業が成立する。そして、宿泊もセットになれば、日帰り研修から泊まり込み研修も提案でき、翌日も研修が可能になって稼働が2倍になるなど相乗効果が大きく見込める。コアビジネスの周辺には潜在的な需要が眠っているケースが多い。それを深掘りし、可視化出来た企業は大きく発展する。第2の成長エンジンを見付けられるかが鍵となる。

 ビジネスホテルは不景気が長く続いたせいで宿泊に特化し、宴会場を持たないホテルも多くなった。そんな中、河野は「逆張り」で宴会需要を果敢に取りにいった。

 2014年8月にビジネスホテルの国内大手アパホテルと組んで、会議と宿泊が融合した「TKPガーデンシティ札幌駅前」の開業を皮切りに、ホテル運営の展開を始めた。現在は、札幌に2つ、関東では日暮里駅前、西葛西、川崎駅前と合計5つ稼働している。今後も仙台、大阪、博多、上野と2020年までに全国10棟の運営を予定。全てオープンすると客室は2002室になり、アパホテル最大のフランチャイジーになる。

 「以前、ホテル建設で検討していた物件を河野社長に先に買われてしまったことがあります。そのスピード感には驚きました」とアパホテル社長の元谷芙美子も河野の決断力には一目置いている。


 周辺事業で相乗効果

飢餓感のある人材

「経営をする上で心掛けていることは、若さです。物理的な年齢ではなく、思考が新鮮かどうか。それと情熱を持って行動を起こせるかどうかが重要です」と河野は語る。

「新しいことに挑戦しているときがワクワクし、夢を語って、何かを創り出すことに生き甲斐を感じる」と自己分析する。

 少年時代のエピソードが河野の自書『起業家の経営革命ノート』で語られていたので、紹介したい。幼い頃より好奇心と探究心旺盛だった河野少年は、普段食べている卵が本当に鶏から生まれるのか疑問に思い、母親に有精卵を手に入れるように頼んだ。そして、実際に湯たんぽで卵を温め孵化に成功した。

 また、豆腐が大豆から出来ていると聞くと豆腐屋にニガリをもらい豆腐作りに挑戦したこともあった。世の中で当たり前だと思われていることに疑問を持ち、自ら仕組みを知るために行動する。ビジネスマンにとっても必要とされるスキルは幼少期に育まれたのかもしれない。

 また、いつも思い付いたことをメモする習慣がある。閃きや夢を書き残して置かないと忘れてしまうので落ち着かないという。

「MBAを持っている人なら当たり前の方程式かもしれないが、自ら思い付き、自分で法則をゼロから創り出すことに意味がある」

 そこには座学とは違う、現場で培ってきた知識や身銭を切って得た失敗体験から学んだ本物のデータが活きている。

 河野は「がむしゃらに突き進んでいく根性のある人。飢餓感がないと学ぼうとせず、成長できない。逆に飢餓感がある人は自ら勉強し、吸収しようとする。少し話せば分かるし、目つきに出る」と求める人材について語る。



「再生」で世の中に貢献する

 取り壊しの決まったビルの遊休資産を割安で仕入れ、「貸会議室」として時間貸しのリセール事業で空間再生するビジネスを確立させたTKP。会議室から宴会場、大型宿泊研修所、企業にとって不要となった地方の保養所の再活用など、同社が強みとする分野は広がりを見せている。

 時代の移り変わりで、成長産業と言われた百貨店や予備校なども縮小し、今や斜陽産業と言われる。好立地にある商業施設などはTKPの集客力を持ち込めば、まだまだ再生の余地はあると河野の目には映る。

 市場も日本国内だけではない。飛行機に乗れば、中国、韓国、台湾、シンガポールなど、2時間から3時間程度で移動できるアジア諸国は景気が良く、賃料も土地代が上昇傾向なので出番がない。

 しかし、上がったものは下がるのが経済の原理原則である。臨界点を超えたらTKPの強みを発揮できるに違いない。そのタイミングで勝負できるように今はキャッシュを作る戦略だろう。

 現在は国内の地方で使われていない保養所や旅館で宿泊研修を企画し、地方の再生を手掛けているが、一巡したら次は海外進出を本格化させるはずだ。

 企業家は本来、「リスク愛好家」である。

「会社の経営が傾くほどのリスクテイクはいけない。しかし、経常利益の範囲内であれば思い切って投資をすべき」が河野の信条である。

 今後も斜陽産業の中から再生できる事業を発掘し、TKP流再生事業を起こし、日本経済再生のエンジンになることを期待したい。



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