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トピックス -企業家倶楽部

2018年09月11日

深刻化するマイクロプラスチックの脅威/千葉商科大学名誉教授三橋規宏

企業家倶楽部2018年10月号 緑の地平 vol.43


三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授

1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。
 



海の生物が餌と間違えて食べてしまう

 マイクロプラスチック(MP)による海洋汚染が深刻化しており、グローバルベースの対策が急務になっている。

 マイクロプラスチックとは5ミリ以下の微小な海のプラスチックごみの総称だ。MPは大きく二つに分類されている。ひとつはビニール袋や発砲スチロールなどが海に流れ込み漂流しているうちに波や温度差、紫外線などによって劣化し細かく砕けて小さなプラスチック粒子になったもの。もうひとつは「マイクロビーズ」とよばれるもの。洗顔料や歯磨き粉、ボディーソープなどを製造する際、数十~数百マイクロメートルのより小さなプラスチックの粒(マイクロビーズ)が洗顔料、洗浄剤、垢落し物質として配合されている。小さ過ぎて排水処理で取り除けず、排水口から流れでて海洋に運ばれ漂流している。MPに占めるマイクロビーズは全体の1割程度で、大部分はプラスチックの破片だ。

 MPの最大の問題は、海洋を漂流中に海の生物が餌と間違え食べてしまうことだ。野鳥やウミガメ、サメなどの大きな海洋生物によるプラスチックの摂取は70年代から報告されていたが、最近では世界中の海洋で、より小さな生物である貝類、カニ、イワシなどの小魚からも検出されている。

 東京農工大学教授の高田秀重さんは東京湾で15年に捕れたカタクチイワシ64匹を調べたところ、8割近くからプラスチック片が見つかった、と報告している。

 MPはポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質を吸着しやすい性格がある。小魚がMPを誤飲し、それを大きな魚が捕食し、それを人間が食べるという食物連鎖によって人間への健康被害も懸念されている。

 ダボス会議の主催団体、世界経済フォーラムの報告書によると、ペットボトルやレジ袋などのプラスチック製品は、現在世界で約3億トンが生産(その大部分が使用後ごみになる)されており、そのうち約800万トンが海に流れ込んでいると推定している。同報告書によると、現状が続けば、2050年には11億トンを超えるプラスチック製品が生産される見通しだ。そうなれば、「海洋を漂流するプラスチックごみが世界の魚の総重量を超す」異常事態になりかねないと指摘している。世界中の海洋にMPが溢れ出し、海洋生態系が完全に破壊されてしまうだろう。

 特に経済発展がめざましい日本、中国、韓国を中心とする東アジア、インドネシア、フィリピンなどを含む東南アジア新興国の流出量が突出しており、その周辺の海洋汚染が深刻化している。表は陸上から海洋に流出したプラスチックごみ発生量のランキングである。1位から4位まで東・東南アジアの国が占めている。



東・東南アジア諸国のプラごみ流出量が突出

 最大の流出国は中国で、年間353万トンと際立っている。次いでインドネシア、フィリピン、ベトナムと続く。ちなみにアメリカは20位、日本は30位で6万トンだ。

 なぜ、中国および東南アジア新興国の流出量が多いのだろうか。これらの国が経済発展期にあること、使い捨て文化の真最中にあること、プラスチックごみが引き起こす海洋汚染についての基礎的知識が市民レベルで欠けていること、廃棄物の3R(リデュース、リユース、リサイクル)対策、ポイ捨て規制などが遅れていることなどが指摘できるだろう。

 便利なプラスチック依存のライフスタイルを思い切って転換させないと大変なことになる。こんな危機意識から脱プラスチックへの挑戦が世界各地で始まっている。MP対策として特に重要なのはプラスチックごみの減量だ。そのためにはごみになりやすいプラスチック製品の生産、販売の中止が効果的だ。


東・東南アジア諸国のプラごみ流出量が突出

便利なプラスチック依存のライフスタイルから転換を

 環境問題に熱心なEU加盟国の中ではフランスが16年からレジ袋の配布を禁止、20年からカップや皿の販売を禁止することを決めている。英国ではストローやマドラーなどの販売を19年から禁止する方針だ。このような動きを受けて、欧州委員会は今年5月、プラスチック製ストローやカップなどの生産、使用を禁止する規制案をEU加盟国に提案した。

 アジアではインドのモディ首相が22年までに使い捨てプラスチック製品の全廃を発表している。台湾ではストローやカップ、レジ袋を30年までに全面禁止する方針だ。プラスチックごみの発生量が際立っている中国も7月に廃プラスチックや古紙などの資源ごみの輸入を19年末までに段階的に縮小する方針を打ち出した。

 一方、米国カリフォルニア州では、15年にレジ袋の客への提供を禁止する法案を米国の州の中では初めて成立させた。さらに化粧品などに使われるマイクロビーズの製造と販売を20年までに禁止することも決めている。

 個別企業の間でも使い捨てプラスチック製品廃止の動きが活発になっている。米コーヒーチェーン大手のスターバックスは7月9日、プラスチック製の使い捨てストローの使用を止めると発表した。2020年までに世界で2万8000店を超えるすべての店で廃止する。同社が1年間に提供するプラスチック製ストローは10億本にのぼる。

 米マクドナルドも英国とアイルランドの計1361店舗で9月からプラスチック製ストローから紙製ストローに順次切り替えると発表、日本店舗についても25年までに切り替える方針だという。

 スウェーデンの家具チェーン、イケアも店舗やレストランから使い捨てプラスチック製品を全廃すると発表している。

 一方、ホテルチェーンの米マリオットも6500を超える世界の関連施設で、使い捨てプラスチック製品のストローとマドラーを全廃すると発表した。この決定が実施されると1年後には10億本以上のプラスチック製ストローと2.5億本のプラスチック製マドラーが削減できると指摘している。



日本の取り組みは世界の潮流から何周りも遅れている

   これに対し日本の取り組みは大幅に遅れている。事業者に廃プラスチックなどの排出抑制を求める海岸漂流物処理推進法の改正法が今国会で成立した。このこと自体は一歩前進だが、問題は規制ではなく努力義務に止まっていることだ。努力したが抑制できなかったと事業者が言えば、それ以上追及できない。

   さらに6月下旬カナダで開かれた主要7カ国首脳会議でも、リサイクルなどの数値目標や行動を促す「海洋プラスチック憲章」をまとめた。欧州各国やカナダは署名したが、一人当たりの使い捨てプラスチック量が世界1位、2位の米国と日本は署名しなかった。温暖化対策、禁煙対策に続いて廃プラスチック対策でも環境後進国日本を世界に印象づけてしまった。

   ちなみに、政府はMP対策を含め「プラスチック資源循環戦略」を来年夏までに策定する方針だ。世界の潮流から何周りも遅れた日本の取り組みに失望を禁じ得ない。



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