• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2018年09月14日

【竹中平蔵の骨太対談】農業に熱いプロ集団を目指す/経済学者 竹中平蔵 VS 農業総合研究所社長 及川智正

企業家倶楽部2018年10月号 骨太対談




農業をトータルコーディネート

竹中 農業で上場する会社が出てくるとは、本当に素晴らしいですね。まずは、農業総合研究所の事業内容について教えてください。

及川 弊社は、農業の「作る」という部分だけでなく、「食べる」ところまでを総合的にコーディネートしたいとの想いを込めて、農業総合研究所という社名を付けております。独自の物流とITのプラットフォームを構築し、現在約7600軒の農家、全国約1100店舗のスーパーと提携。これを繋げる仕事をしています。

竹中 プラットフォームとは、具体的には何ですか。

及川 一つ目は、物流プラットフォームです。野菜を流通させる上で一番難しいのが物流。野菜はかさばる上にグラム単価が安く、鮮度も求められます。例えば、冬が旬の白菜ですが、大きいのに100円という安価で売られていることも。首都圏の白菜は長野県などから来ていますが、物流コストを鑑みると、都会のスーパーで新鮮な野菜を安い値段で提供するのは、実は非常に難しいことなのです。

 そこで弊社は、物流プラットフォームの整備・運営を行うことにしました。まずは、地方の空いている倉庫を借り、私たちが集めた野菜などの集荷拠点とします。現在これが71カ所あり、地元の農家さんには野菜や果物をここまで持ち込んでもらっている。そして、集まった生産物は、翌日の朝までに全国のスーパーへと運ばれていきます。

竹中 農業は第一次産業、加工すると第二次産業、流通すると第三次産業、これらを組み合わせて第六次産業などと呼ばれています。それら全てを担うことは、産地直送の生産物を市場に届け、消費者から生産者の顔が見えるようにするという利点があり、御社のような大規模で展開されると大きな影響力があるでしょう。また、物流コストの削減が課題となる中、大きなプラットフォームとなることで効率化を図っているのも強みですね。

及川 その通りです。そして、二つ目はITのプラットフォーム。農作物をどこのスーパーで売るか、ITを駆使することでより効率的に配置できます。

 私たちが配送を担うのは、集荷場からスーパーのセンターまで。そこから販売される店舗までの運送は各スーパーの物流に任せています。これまではスーパー各社ごとに、バーコードの種類が異なっていました。ですから、新たに提携させていただくスーパーが増えるたびに、それぞれのバーコード発券機を使用する必要がありました。しかし農家の方々から「どの発券機を使えば良いのか分からない」との相談を受け、一台の発券機からあらゆるラベルが発券できる仕組みを構築。これによって農家の方々も簡単に様々なスーパーに商品を並べられ、気兼ねなく新たなスーパーとも直取引できるようになりました。

 またこの仕組みでは、生産者自身が売価を決めることができます。例えば、山下さんが自分で作ったミニトマトを100円で売りたいとすると、「山下 ミニトマト 100円」と書かれたバーコードシールを自ら作って商品に貼り付ける。これで生産者は販売場所、価格を自分自身の手でコントロール可能となりました。

竹中 従来は、スーパーからラベルを提供してもらって、それを生産者に振り分けるというイメージがありましたが、生産者側が販売場所や値段を決めても本当に売れるのですか。

及川 弊社では、委託販売方式を採用しています。農産物が売れた時点で初めてお金が入ってくる。何かの生産物が売れた場合、売上げの約65%を生産者に納め、残りの35%をスーパーと弊社で分けます。またスーパーのレジと連動し、どこで何がどれだけ売れているかという情報を、逐一農家の方々に共有しています。その情報を受けて、農家の方々は翌日集荷拠点に持って行く野菜の種類や量を決めるわけです。

竹中 素晴らしいビジネスモデルだと思います。自分が作ったものを誰が食べているのか見える化されると、働く上で大きなインセンティブとなりますよね。


農業をトータルコーディネート

スーパーの直売コーナー

及川 私も三年間農業に従事しましたが、自分が作ったものを誰が食べたのか分かりませんし、どこに出荷されたのかさえ知らず、そんな状況で働くモチベーションをどう高めればいいのか疑問に思っていました。生産者から消費者、消費者から生産者へ、互いに「ありがとう。またよろしくね」といった声がダイレクトに届く仕組みを作りたかったのです。

竹中 現在7600軒もの農家と取引をしているということでしたが、一方でこのシステムに参入してこない農家の方々もいますね。それはなぜでしょうか。

及川 一番の要因は年齢です。どうしてもITを駆使するとなると若者の方が得意ですから、比較的このシステムに参入していただけます。ただ、弊社の強みを詳しく理解していただければ、より多くの方に使っていただけるのではないかと信じています。農家の方々が使いやすいプラットフォームを構築し、好きな時に好きなだけ大事な生産物を販売できるようにしていきたいですね。



未経験からの挑戦

竹中 和歌山で、資本金50万円で創業したというのはユニークですね。もともと農業は勉強されていたのですか。

及川 学生時代は東京農業大学に在学し、農業の未来について研究しました。テーマは「将来、日本の農業はどうなっていくのか」。すると研究の結果「農業をする人は益々減っていき、平均年齢は上がっていく。そして食料自給率はさらに下がっていく」という予測が顕れたのです。これを目の当たりにし、「どうにかしなければいけない」と強く思いました。

竹中 ただ、社会に出てすぐにビジネスを始めたというわけではないですよね。

及川 はい。まずは商社に就職しましたが、心の底では「農業をどうにかしたい」と思い続けていました。そんな時、結婚が契機となり、妻の実家であるキュウリ農家に弟子入りすることに。こうして一年間、農業に携わりました。そして思ったのは、「農業ってつまらない」ということです。一体誰が私の作ったキュウリを食べていて、美味しいと言っているのか。消費者との間に大きな壁を感じました。

竹中 会社を設立する時点で、今のようなビジネスモデルを作ろうという構想は頭の中にあったのですか。

及川 全くありませんでしたね。弟子として一年間農業を経験した後、収穫から販売まで自分一人で挑戦しました。しかし、現実は甘くなかった。まず、まっすぐな形をしたキュウリが作れないのです。その結果、年収はたったの40万円になりました。

 そんな時、営業先のスーパーから注文がありました。「及川さん、キュウリの漬物やサラダを持ってきてよ」というのです。こうしてどんな形状のキュウリでも売れるようになった。販売をこれに特化すると、翌年の収入は地元農家さんの1.5倍ほどになりました。「これだ!」と思いましたね。また、農家ながら直接営業をして消費者の要望を聞くことで、「ありがとう」と言われる機会が格段に増えました。



生産と販売の双方を知る

竹中 年収が各段に高くなったのは、生産だけでなく流通までご自分で担ったからかと思います。これで、流通までをシステム化したビジネスが作れると閃いたのですか。

及川 いえ、まだそこまでは考えつきませんでした。農業を変えたいという想いはあったので、農家の方にその志を語ったところ、喜んではくれたのですが、最後には「頭を下げてまで売ろうとは思っていない」と言われてしまったのです。実際、一生産者が徒手空拳で従来の仕組みに変革をもたらすのは難しかったでしょう。

 そこで今度は、販売現場から農業を変えようと思い、青果店を営むことにしました。すると、生産者であった時には1円でも高く販売したかったにも関わらず、販売者になってみると1円でも安く買おうとしている自分に気が付いた。立場が逆転しただけでこんなにも意見が変わってしまうのかと、我ながら驚きました。そして、この水と油の関係は、両方を知った人物でなければコーディネートできないと考えたのです。


 生産と販売の双方を知る

世界市場で海外進出

竹中 今や海外にも目を向けていらっしゃると思いますが、海外戦略の現状と未来について教えて下さい。

及川 2017年に経済産業省のクールジャパン機構と一緒に海外輸出専門の会社「世界市場」を創立しました。私の目標は、海外を中心に売ることだけではありません。例えば、国内で豊作貧乏となった場合、余剰分を海外で販売するなど、需給バランスを考えた施策を打とうと考えています。

 ただ、そのような時だけ海外で販売するというのでは私たちの勝手が過ぎますし、そもそも海外の人々も、毎日のように日本の作物を食べたいと思うかもしれません。そこで、需要過多となった生産物を海外に優先的に販売できる仕組みを構築しようとしています。

竹中 どのような地域に展開するのですか。

及川 最大の輸出先は香港です。私たちは、今までと異なる仕組みで日本の野菜や果物を香港に輸出し、より多くの人が日本の作物を毎日食べられるようにしていきたいと思っています。

竹中 今後の目標をお聞かせください。

及川 私自身は60歳で引退することを考えておりますが、会社として、あと2つの目標があります。一つは、持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにすること。もう一つは未来の農業が衰退しない仕組みを作ることです。そして農林水産省の仕事をさせていただきたいとも考えています。農水省の仕事を全て預かっても大丈夫なくらい、農業に熱いプロフェッショナル集団を目指します。

竹中 個人としての目標はありますか。

及川 企業家を大切にしたいですね。私は企業家を志す人たちからよく相談を受けますが、彼らに対しては「相談する前にまずやってみなよ!」と言っています。やってみないと何も分かりませんから。やってみて困ったことがあったら、相談に来ていただければと思います。

 私自身は、60歳まで農業にしっかりと情熱を燃やしていきたいです。「農業に対する情熱は誰よりも熱い!」「日本で一番、いや世界で一番農業に熱いのは及川です!」と胸を張って言えるくらいの仕事をしたいです。

竹中 これからも日本の農業のために頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました。




及川智正(おいかわ・ともまさ)

1975 年生まれ。97 年東京農業大学農学部農業経済学科卒業後、巴商会入社 宇都宮営業所転属。2003 年和歌山県にて新規就農。06 年エフ・アグリシステムズ(現フードディスカバリー野菜のソムリエ協会)関西支社長に就任。野菜ソムリエの店エフ千里中央店開設、スタッフへ譲渡。07 年農業総合研究所を設立し、代表取締役就任。17年企業家賞ベンチャー賞受賞。




竹中平蔵 (たけなか・へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。経済学者。73 年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04 年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。16 年4月より慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授に就任。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top