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トピックス -企業家倶楽部

2018年09月18日

デイサービスに選択肢を/ACA Next代表取締役社長 森 薫

企業家倶楽部2018年10月号  フォーカスチャレンジングカンパニー





 高級感漂う赤い絨毯の上に置かれた麻雀卓を囲む人々。壁際に並ぶパチンコ台の向こうには、カジノテーブルやシミュレーションゴルフが見える。広い部屋を奥まで進むと、カラオケルームも完備。座り心地の良い革張りの黒い椅子にもたれながら、ゆっくりと映画を楽しむこともできる。

 新手のレクリエーション施設かと思う向きもあろうが、ここはゲーム要素を取り入れた新興のデイサービス「ラスベガス」の店舗だ。デイサービスとは、介護保険サービスの中でも「通所介護」と呼ばれるもの。要介護と認定された利用者は、日中の一定時間施設に通い、機能訓練(日常生活に必要な機能の低下を防ぐための訓練)や食事、入浴といったサービスを受けられる。

 確かに、よく見ると来ているのはシニアばかり。デイサービス ラスベガス利用者の平均年齢は83歳で、90歳代はもちろん、中には100歳超えの人もいる。ただ、端から見ている分には、とても要介護認定とは思えないほど元気で楽しげだ。

 現在は関東・東海地方を中心に20店舗を展開。契約者数は約1100名に上る。9店舗ある直営店では、1店舗あたり年間の売上げ6000万円、営業利益1200万円が目標。神奈川・横浜市や東京・足立区にある店舗は既にこの数字を上回っており、残る店舗も着実に業績を伸ばしている。

 介護サービスとカジノのような店内。一見すると全く結び付かなそうな両者だが、ここに勝機を見出したのが、施設を運営するACA Next社長の森薫だ。では、彼はなぜ、こうした施設を手掛けることとなったのだろうか。



「仕方なく行く場所」から「行きたい場所」へ

 デイサービス ラスベガスは2013年、森が前職時代に新事業として自ら開発した業態だ。紆余曲折を経て、現在はACA Nextの柱を成す一事業となっている。

 この新事業を始めたきっかけは、約15年前に遡る。デイサービスに携わっていた森は、利用者が少々遠くに住んでいたり、重度の要介護度であったりしても、決して断ることなく受け入れていた。可能な限り家族のニーズに応え、その負担を少しでも請け負うことで、誇りと自信を持って仕事をしていたのである。

 しかし一方で、そこには利用者本人の意思が欠如していることにも気付いていた。「なぜこんな所に来ないといけないのか」との声は日常茶飯事。それでも「娘夫婦には迷惑をかけられない」といったある種の諦念から、デイサービスの施設は「仕方なく行く場所」であった。

 それでもせっかく来てもらう以上、元気になってほしい。森は何とか利用者の機能回復に努めたが、効果がうなぎ上りというわけにはいかない。当然、病人扱いしているつもりは無かったが、知らぬ間に利用者のプライドを傷つけていた。

 デイサービス施設を、「仕方なく行く場所」から「行きたい場所」に変えたい。その想いから、森の挑戦が始まった。



アメリカのシニアを見て衝撃

 介護と言えば高福祉国家の北欧諸国が有名だが、彼の地では消費税25%など北欧流の仕組みが機能しており、日本がすぐにそうしたシステムを整えられるとは到底思えなかった。「一サービス事業者として、目の前にいる利用者が困っていることを解決するのが先決」と考えた森。むしろ介護保険に頼らない有り方を模索するため、国民皆保険制度の無いアメリカへ飛んだ。

 彼がまず向かったのは、カジノの本場ラスベガス。昼間に行くと、来場しているのは高齢者ばかりだ。杖をつこうが、車椅子だろうが、好きなことをするのだという姿勢から気概を感じた森。「こういうサービスが、日本にも絶対あった方が良い」と確信した。また、フロリダ州サンシティにあるシニアコミュニティも視察。こちらでもシニアの人々が自身の意志で入居し、楽しく過ごしているのを目の当たりにした。

 一方、日本に目を向けると、5万件ものデイサービス事業者がひしめいているにも関わらず、サービスの内容には大差が無いように思えた。「私たちは利用者に選択肢を提供できていない。選ばれるための努力が必要だ」。森の中に、少しずつ構想が芽生え始めた。



クレームを糧に大改革

 アメリカ視察で衝撃を受けた森。当初はカジノを日本に誘致することも考えた。ただ、流石に現実的とは言えない。では、自社の経営資源の中で何ができるか。

「そうだ、うちのデイサービス施設をラスベガス風にしよう!」

 かくして、デイサービス ラスベガスが誕生した。極力資金をかけず、介護用のベッドや椅子の代わりに、カジノの雰囲気に合うソファやテーブルを購入。当然奥の部屋には従来通りの介護用設備を残しつつ、内装を華やかに「改造」した。

 従来型デイサービスからの変更点について、「全てお客様のクレームに対応しただけ」と森。「病院みたいなところは嫌だ」「子どもじみたことをさせないでほしい」「お年寄り扱いされているように感じる」。こうした声に一つひとつ真摯に向き合い、改善していった結果が、現在のデイサービスラスベガスに繋がっている。

 森が最も重視したのは「楽しさ」だ。そもそも、レクリエーションとして麻雀やカジノを導入したのも、「貼り絵や塗り絵は楽しくない」という声を受けてのこと。また、朝来たらまず行うべき声出しについても、従来は「アメンボ来た来た、あいうえお」などと言っていたところ、デイサービス ラスベガスでは「お金は絶対賭けません」という具合に、施設内で守るべき七カ条のルールを唱えるようにした。

 また、簡単な計算問題を解いてもらう施設もある中、デイサービス ラスベガスではブラックジャックを導入。一見ただのトランプゲームだが、ブラックジャックでは引いた手札の合計数が21を超えないようにせねばならず、自然と暗算能力や論理的思考力、判断力が培われる。

 服装にもこだわった。せっかくカジノの中にあっても、介護服を着たスタッフがいては、雰囲気が台無しだ。そこでスタッフもディーラーのような服を着ることで、首尾一貫してムードを演出している。

 シックな黒塗りの送迎車も改善点の一つ。以前、森が利用者を白い車で迎えに行った際、契約時は和やかであったシニア男性がにわかに怒り出したことがあった。車の外装には明らかにデイサービスと分かる表記。「要介護なのが近所に知られてしまう」というわけだ。そこで森は、「利用者の外出意欲を削いでしまうようでは本末転倒」と車を黒で統一し、「ラスベガス」のロゴだけを掲載することで、家の前に付けても大丈夫なように取り計らった。



要介護度の改善事例も

 カジノの部分が注目されることの多いデイサービス ラスベガスだが、もちろん厚生労働省認可の通常介護事業者として、利用者の機能訓練から食事、入浴、送迎まで一貫してサービスを提供する。

 機能訓練は1時間に1回。ただしこれも、要介護だから行うわけではない。1時間も麻雀に集中していたら、誰でもストレッチくらいはした方が良いだろう。元々は嫌がる人の多かった機能訓練だが、今や1日合計46分間の取り組みとして定着した。これは、厚生労働省の発表している平均値よりも10分以上長いというから驚きだ。

 実際、ずっと家にいたシニアがデイサービス ラスベガスを利用し始めて、車椅子から歩行器で歩けるようになる事例は後を絶たない。中には、元気になって要介護認定から外れ、施設を利用できなくなったという嬉しい悲鳴も聞く。

 デイサービス ラスベガスを3年利用している人は、80%以上が要介護度の維持または改善に繋がっているというデータもある。要介護5の人が要介護3まで改善した場合、ひと月あたりの支給限度額は約36万円から約27万円に9万円近く下がる。年間で言えば、実に100万円以上の差だ。これが10人、100人と増えれば、確実に国家財政の負担軽減に繋がるだろう。


要介護度の改善事例も

利用者と向き合う

 デイサービス ラスベガスの成功を見て、今後似たような店舗が増えて来ることが予想される。しかし森は「内装などハード面はお金さえかければ整えられるが、ソフト面は一朝一夕にはいかない」と強気だ。

 彼らの真の強さは、利用者ととことん向き合う姿勢にある。麻雀に興じている時一つとっても、スタッフは全体を見て、全員が快適に過ごせるように気を配っている。中にはかっとなる人もいるが、デイサービス ラスベガスでは決して逃げることなく、コミュニケーションを密に取る。

「家では元気が無かったのに、こちらに来るようになって、楽しく麻雀をする父が見られて嬉しい」と喜ぶ家族。「これまで合うデイサービスが見つからなかったけど、お父さん、明日からここに来るわ」と号泣する妻。どんなことがあっても、デイサービス ラスベガス側から受け入れを拒否することはない。そこには、「従来型のデイサービスが合わない方の最後の砦になる」という自負がある。

 それを体現する事実として、デイサービス ラスベガスの男性利用者の多さが挙げられる。従来、デイサービス利用者の男女比率は2:8であったが、デイサービス ラスベガスでは7:3というからその差は歴然。これまでの店舗では利用を躊躇しがちであった男性陣が、デイサービス ラスベガスに流れ込んでいることがよく分かる。森が「確かに競合は多いが、元々デイサービスに来ていなかった層を取り込んでいるので、ある意味でブルーオーシャン」と言うのも頷ける。



賛否両論は当然

 躍進するデイサービス ラスベガスだが、「税金を使って遊んでいるとは何事だ」という非難や、「ギャンブル依存症になるのではないか」との懸念もある。

 前述のように、説明さえ聞けば、レクリエーションには意味があるのだと分かる。また、館内で使えるのは施設内通貨「ベガス」であり、金銭はもちろん、モノやサービスにすら替えることはできない。そもそも、デイサービスは要介護の度合いに応じて来られる日数が決まっているため、ギャンブルに依存のしようがない。

 ただ、賛否両論あることに対して、森は「様々な意見があるのは健全だし、当然のこと。他のデイサービスが合えば、そちらを選んでもらえれば良い。私たちの意義はあくまで、利用者に対して選択肢を提供すること」と言い切る。そして「税金を使っている以上、利用者の要介護度の維持、改善という結果を出していきたい」と力強く語った。

「将来的に日本のデイサービスの選択肢となるのが目標。そのためにも、最低100店舗は展開せねばならない」 

 日本は長寿大国として知られるが、近年取り沙汰されるのは健康寿命だ。デイサービス ラスベガスは、これを延ばすのに貢献していると言える。誰もがいつかは歳を取る。その時、受けられるサービスに広がりがあると嬉しい。



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