2018年10月19日
激変する世界の教育環境/日本経済新聞社参与 吉村久夫
企業家倶楽部2018年10月号 教育への挑戦~新しい日本人を求めて~ vol.15
Profile
吉村久夫(よしむら・ひさお)
1935 年生まれ。1958年、早大一文卒、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員、日経ビジネス編集長などを経て1998年、日経BP社社長。現在日本経済新聞社参与。著書に「本田宗一郎、井深大に学ぶ現場力」「歴史は挑戦の記録」「鎌倉燃ゆ」など。
21世紀の世界はいくつかの難問に直面しています。一口にいえば時代閉塞状態です。教育の力がかつてなく重要になっているのです。
人口調整の問題があります。人口問題は先進国では少子高齢化です。半面、途上国は人口が増えています。地球全体では増えているのです。
富の格差の問題があります。グローバリズムは本来、世界の富を平準化するはずでしたが、逆に富の格差をもたらしました。これは一部の人たちが強欲、傲慢になったせいだと思われます。これが根因となってテロが頻発し、難民問題が起きています。
AI問題があります。これは明暗二つです。暗い方は人々から職業を奪っていくだろうという恐怖です。明の方は新規産業誕生の期待です。
総じて人々は科学技術の進歩の前にたじろいでいます。核兵器の問題一つとっても、一向に解決できないからです。そこへ来て宇宙時代が近づいて来ました。
肝心の大国は自国第一主義と覇権主義に陥っています。自由思想が消えそうな雲行きです。米国大統領は宇宙部隊の創設を指示しました。
これでは若者は将来を懸念し、消費を押さえ、結婚を見合わせようとするでしょう。時代閉塞感が強まっているのです。
このままで行けば、世界の経済は停滞するでしょう。保護主義に傾いて行けば、戦争の危険だって強まるかもしれません。
人間は愚かになったのでしょうか。いえ、科学技術は進歩しています。人間の英知はそれを活用して、新しい世界を切り開けるはずです。
AIは新しいビジネスを生みます。教育の武器としても期待が持てます。AIは人々が嫌がる仕事を引き受けてもくれます。しかし、一歩間違うと、戦争だって引き受けてくれます。
要は使い様です。つまりは私たちの英知の問題に帰着するのです。どうやら、21世紀は個々人が主役となって、新しい世界の調和を作り出していかなければならない世紀のようです。
臨済宗を開いた臨済和尚が「随所に主となれば立処すべて真なり」と言っています。自分が主役となって対処すれば、真実が分かる、つまり悟りが開けるというのです。世界は個々人が主役にならねばならない時代を迎えているのです。
となれば、教育もそれに応えなければなりません。それに応えて変わっていかなければなりません。そういえば、教育の世界も変わって来ています。いろいろな実験が始まっています。
例えば、E-ラーニング、在宅勤務、在宅医療、オープン会議などなどです。IT社会はインターネットを使って、コミュニケーションの革命をもたらしました。個人が主役になれる条件が整ってきたのです。
こうなると、高齢者たちも「スマホなんてややこしくて、孫たちにお任せよ」などとは言っていられなくなります。高齢者たちにも勉学の機会は開かれています。大学や地方自治体もいろいろな講座を用意しています。
今や百歳時代なのだそうです。老人はいつ病気になるか知れませんから、ある程度のお金は持っています。オレオレ詐欺に狙われるくらいなら、もっと有効な使い方をしたいものです。
そこで最近の新聞報道によれば、高齢者たちが海外留学を希望しているのだそうです。若い時に海外に留学したかった老人は今になって見果てぬ夢を実現しようとしているのです。
江戸時代後期の儒学者、佐藤一斎はその著『言志四録』の中で、それぞれの年代での勉学の勧めを述べた後で、最後に「老いて学べば死して朽ちず」と書いています。江戸の昔から生涯教育の教えはあったのです。政府も百歳時代の教育の在り方を考えなければならなくなりました。
一方、若者は年々強化される管理社会に窒息状態のようです。加えて、年金が貰えるかどうかも心配しています。これでは所帯を持とうという気にもなれないかも知れません。
そこへ来て最近、政府がこと細かに面倒を見過ぎるような気がします。政府は問題の核心を押さえて、大きな方向を示せばいいのです。後は民間の創意工夫に任せるべきです。
ところが、現実はその逆です。こと細かに指導します。例えば、大学は社会科学系を縮小して理科系を増やした方がいいと勧告します。
AI時代こそ人間性を高めなければなりません。だというのに、リベラル・アーツの重要性が分かっていないのでしょうか。
また、こんな方針も出します。都内23区にある大学は新人募集を増やさないで、地方振興に協力してもらいたい。
昔から「可愛い子には旅をさせろ」と言います。向上心の強い若者の就学地まで制限する必要はないでしょう。地域振興に役立つとも思えません。
ジンギスカンの右腕だった耶律楚材がこう言っています。「一事を成すには一事を減らすにしかず」。省事の勧めです。主要官庁が「省」と名付けられているのは、何が大事かを見極めて、しっかりそれに対処しますという意味なのです。
最近、日本は劣化しているのではないかと思わせられるニュースが続出しています。
官庁が文書を隠蔽したり改ざんしたりします。企業もまたデータを改ざんしたり、守るべき点検を怠ったりしています。
高度経済成長の時代までは、日本人の特質は勤勉努力、創意工夫でした。世界の人々は、送電ミスなどで遅刻するようになった最近の新幹線をどう見ているでしょう。
そうでなくても今、日本は微妙な立場にあります。米国の自国第一主義と中国の覇権主義の間で揺れています。下手をすると、日本は世界の孤児になり、いじめられっ子になりかねません。
私は日本の和の文化は世界で尊敬されるに値すると思っています。そうです、日本は世界からその存在を歓迎される国にならなければなりません。それこそが日本の生きる道です。
それには日本が世界から尊敬される真の教育国にならなければならないと思います。教育は一朝一夕には効果が上がりません。それこそ百年の計で挑戦すべき課題なのです。
教育の場は社会全般に広がっています。当然、マスコミにも責任があります。私自身、マスコミの世界で生きて来ましたから、大きな責任を感じています。
IT社会とあって、情報が氾濫しています。受信者の取捨選択が難しくなっています。言論を統制すべきだとは、毛頭思いませんが、マスコミは自分たちの責任を自覚して、もっと問題の本質に迫るべきだと思います。
どうも昨今のマスコミは部数や視聴率を気にし過ぎるようです。読者や視聴者におもねっているように思います。そのせいか、番組の質が低下しています。反面、番組の宣伝が急増しています。政治だけでなく、マスコミまでが愚民政策の一端を担わないよう願いたいものです。
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