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トピックス -企業家倶楽部

2018年10月29日

全米1000店舗展開を目指す/ペッパーフードサービスの未来戦略

企業家倶楽部2018年12月号 ペッパーフードサービス特集第1部


「いきなり!ステーキ」で快進撃を続けるペッパーフードサービス(以下ペッパーフード)。2018年9月にはアメリカのナスダック市場に上場。全米1000店舗展開を掲げて突き進む。その勢いの背景には、社長である一瀬邦夫の危機をチャンスに変えてきた不屈の精神があった。(文中敬称略)


Photography by Libby GreeneNasdaq, Inc.




 現地時刻2018年10月10日午後0時30分、ニューヨーク・ウォール街の空に、澄んだ鐘の音が鳴り響いた。集まった証券関係者、報道陣からの盛大な拍手に応え、晴れやかな笑顔でガッツポーズをするのは、ペッパーフード社長、一瀬邦夫その人だ。秋も深まりつつあるニューヨークだが、この日はポカポカとした陽気で、資本主義の聖地の熱気が乗り移ったかのようである。

 
 ペッパーフードがナスダックに上場を申請したのは、日本時間9月4日夜のこと。米国東部時間9月27日付で無事に許可が下り、この日、滞りなくセレモニーが行われたというわけだ。

 
 ナスダック上場は、日本の外食企業としては初の快挙。日本で人気沸騰中の「いきなり!ステーキ」を引っ下げ、ニューヨークに斬り込んだ一瀬は、17年2月23日に初出店した「いきなり!ステーキ イーストビレッジ店」を皮切りに、現在マンハッタン島に10店舗を展開し、今年度末までに11店舗目のオープンも見込む。

 
 今回のナスダック上場は、今後もアメリカ全土を対象として見込まれる直営店の新規出店と、フランチャイズ(FC)加盟店による展開を見据えての施策だ。「上場による知名度とブランド力の向上は確実に武器となる他、企業と提携する場合も、国際会計基準に則っていることで関係を築きやすい」と一瀬は戦略を語る。



倍々ゲームで業績拡大 

 ペッパーフードという会社をご存知ない方に、同社を少し紹介しよう。主力は何と言っても「いきなり!ステーキ」と「ペッパーランチ」の二大事業。特に「いきなり!ステーキ」は9月末現在で326店舗(このうちFC108店)を展開しているが、注目すべきはその拡大の勢いだ。17年12月期決算の時点では188店舗(このうちFC127店)であったところ、18年通期で200店舗の出店を目指してばく進中だ。何気なく街を歩いている時に見かけることも多いのではないだろうか。

「ペッパーランチ」も9月末現在で国内145店(このうちFC100店)を展開。海外も中国93店、フィリピン54店、インドネシア53店などを中心に、15の国と地域に合計311店を構える。18年度末までに、海外店舗は合計338店舗の達成を掲げる。

 
 足元の業績も凄まじい伸びを見せている。17年12月期でも売上げ362億2900万円、経常利益23億2200万円という好業績を記録していたが、18年12月期の予想では売上げ629億3200万円、経常利益40億3700万円を見込む。まさに倍々ゲーム。怒涛の勢いとはこのことだ。17年初頭には600円付近をウロウロしていた株価も、一時は7840円まで高騰。18年10月現在は、4000円前後を推移している。


倍々ゲームで業績拡大 

視覚、聴覚、嗅覚のすべてが食欲をそそる  

 百聞は一見にしかず。会社帰り、快進撃を続ける「いきなり!ステーキ」の秋葉原万世橋店を訪れた。JR秋葉原駅から徒歩5分ほどに位置する、全席立ち食いの小ぢんまりとした店舗だ。

 
 店内に入ると、店員が爽やかな笑顔で席へと案内してくれる。「いきなり!ステーキ」への来店が初めてかどうか尋ねられ、初来店のお客には注文までの流れを丁寧に説明する。

 
 まずは、肉選びだ。定番のリブロースステーキは1g6.9円(税抜き)、脂身を抑えたヒレステーキは1g9円(税抜き)という具合である。リブロースステーキ300gにライスを付けるも良し。ダイエット中ならば、ヒレステーキだけ400g 頼めば、お腹一杯食べつつ、脂質の摂取を控えられる。

 
 肉の種類と量が決まったら、奥のカウンターへ進もう。従業員が、頼んだ肉を後ろの冷蔵庫から取り出し、目の前でカットしてくれる。注文の重さに沿って切った肉を量りに載せ、多少オーバーした分は、脂身を除いて調整。「これで良いですか?」と必ず聞かれるので、自分がこれから食べる肉をしかと目視確認して了承の旨を伝え、もし追加のトッピングがあれば、これもオーダーする。あとは肉が焼かれて出てくるのを待つだけだ。

 
 冷蔵庫がガラス張りなのも、肉を目の前で切るのも、お客の安心に繋がるため。また、量りに載せられた分厚い肉を見れば、誰でもワクワクすること間違いない。

 
 加えて、従業員が付けているマスクも透明だ。通常のマスクでは顔の表情が見えず、お客に笑顔が伝わらないため、特注して作ったのだという。これは「ペッパーランチ」でも同じものが使用されている。

 
 待つこと5分。本当に「いきなり!」ステーキが運ばれてきた。プレートを覆わんばかりの巨大な肉塊、肉汁をほとばしらせるジュージューという音、焼いた肉から漂う良い香り。視覚、聴覚、嗅覚の全てが食欲をそそる。もちろん、肉本来の味を楽しんでも良いが、各席に置かれた「ホットステーキソース」をかけて食べると絶品だ。多くの量を楽しむ人が味に飽きないよう、わさび、マスタード、おろしにんにくといった調味料も豊富に用意されている。

 
 実はこの店舗、従来のマニュアルからすると、出店が見送られていてもおかしくはなかった。決して人通りが多いとは言えない立地に、取締役の芦田秀満も「上手く行かないのではないか」と考えていたという。しかし、実際に現場に足を運んだ一瀬は、「ここが良くない立地だって?大きな通りから看板がよく見える素晴らしい場所じゃないか」と絶賛。一転して出店することとなり、見事に利益を生み出している。

「店舗展開における社長の感性は天才的」と脱帽する芦田。「秋葉原万世橋店に限らず、全ての店舗にドラマがある」と言うから、同社の出店に対する思い入れの深さを感じずにはいられない。



いきなり!ステーキ誕生

「いきなり!ステーキ」1号店が銀座4丁目にオープンしたのは、13年12月5日のことであった。「ランチ難民を取り込める」という一瀬の予測は大当たりし、当日午前11時には店の前に30メートルの行列ができた。 記念すべき新業態の開店日ということで、自ら腕を振るって肉を切っていた一瀬。しかし、いくら切れども客足が途絶えることはなかった。少し表に出てチラリと外を見やると、目視できないところまで人が並んでいる。

「これは、とんでもない金脈を掘り当ててしまったかもしれない」

 
 一瀬は、2日目に入っても変わらず来店し続けるお客の数に、恐怖すら覚えたという。また、大量にさばかれていく肉を目の当たりにし、「これらの肉も元々は牛という生き物であったことを考えると、申し訳ないとも思った」と当時を回想する。

 ただ、お客の側からすれば、食べたくなるのも当然だ。普段は到底手が届かないような上質な肉をたっぷり、2500円程度の値段で食べられるのだから。ランチであれば約1500円で済むので更に行きやすくなる。

 
 こうして幸先の良いスタートを切った「いきなり!ステーキ」は、20 坪の店内を全て立ち食いにしたことも功を奏し、一日で100万円を売り上げた。月商にすれば、実に3000万円である。確かに銀座の一等地の家賃は150万円と高かったが、それを覆して余りあるほどの利益を叩き出した。

 
 この大成功に、ペッパーフード社内も活気づいた。当然、一瀬はこのドル箱事業に経営資源を集中投下する意思決定を下す。

「この熱狂ぶりは一過性なのではないか」「強みの商品が単品では飽きられた時に大変なことになる」「客単価に対して原価率が高すぎる」ー。

 
 事業に対する懸念の声は数々上がったものの、「いきなり!ステーキ」の躍進が決して偶然の産物ではないことを、数々の危機と試行錯誤を経てきた一瀬が、一番よく知っていた。


いきなり!ステーキ誕生

商売はリピーター作り

 ペッパーフード創業社長の一瀬は、1942年10月生まれの現在76歳。60年に高校を卒業すると、由緒正しい赤坂の山王ホテルに入社し、コックとして活躍した。9年の修行を経て、70年に独立し、「キッチンくに」を開店。その後、85年に有限会社くにを立ち上げて始めたレストラン事業が、現ペッパーフードの直接の母体となった。

 
 まず爆発的な人気を博したのは、94年7月3日にオープンした「ペッパーランチ」だ。「美味しい肉を安く食べてもらいたい」という、一瀬が長年抱いて来た想いを具現化した業態で、同社の一つの集大成とも言えた。

 
 大船に構えた1号店は、初日だけで500人のお客が殺到。一瀬は舞い上がり、帰りに乗ったタクシーの運転手に「凄いシステムのステーキ屋を作ったんだよ!」と熱く語ったほどだ。

 
 ペッパーランチのビジネスモデルの本質は、「肉の大衆化」であった。それまでは憧れながらも値段が高くて手が届かなかったステーキを、ご飯と合わせて700円そこそこで誰もが楽しめるようにしたのだ。

「従来は高かったものを、クオリティーを保ちながら安く提供する。こうしたビジネスモデルは天丼でもイタリアンでも、他業種であれば洋服でもあった。しかし、肉に関してはうちが草分けだ」

 
 そう語る一瀬は、1号店の成功に気を良くして、一気に年間10店舗を出店した。だが、この大量出店が大失敗。ことごとく赤字店舗となってしまい、一転して倒産の危機に陥ることとなったのだ。

 
 失敗の原因は単純であった。一瀬の考えたビジネスモデル自体は秀逸だったものの、出店の立地を深く考え抜いていなかったばかりか、従業員の育成さえ怠っていたのだ。当然、お客に出す料理の質は低下する。期待して来店したお客は離れていく。

 
 ここで一瀬は、一つの大きな学びを得た。それは、「商売とは、リピーター作りである」ということだ。そして、「自分が納得していない商品は、決してお客様に出さない」と肝に銘じた。

 
 前述の通り、現在「いきなり!ステーキ」は空前の勢いで大量出店している。しかし、一瀬は一度犯した失敗を繰り返す男ではない。店舗展開に際しては自ら立地を見に行くほどの注力ぶり。従業員の採用と育成にも相当な力を割く。何より、「いきなり!ステーキ」で提供する肉に最もこだわっているのは一瀬自身だ。言うは易く行うは難いが、失敗から学ぶ力が「いきなり!ステーキ」の躍進に繋がっていると言えよう。



助けてください

「助けてください。このままでは本当に困ります」

 
 01年10月、「ペッパーランチ」の店頭に、前代未聞の張り紙がなされた。同年9月に日本で初めてBSE感染牛が発見された事件について、新聞やテレビが連日報道。ペッパーフードで使用していたのは安全な米国産牛肉であったにもかかわらず、風評被害のあおりを受けたのだ。

 
 各店舗やFCから伝わってくるのは、日々売上げが落ちていくことへの戸惑いと恐怖。前年には「ペッパーランチ」渋谷駅前店がオープンして大繁盛し、社員に「株式上場を目指す!」と宣言したばかりというのに、思わぬところで足元をすくわれた形であった。

 
 こんな中、一瀬が店頭に張り出すことを決めたのが、前述の悲痛な叫び。もちろん、「かえって店舗のイメージダウンに繋がるのではないか」との声があるのは承知していた。自身も熟慮を重ねたが、一瀬の中で、飲食業界全体を揺るがすこの風評騒動に対して「何か行動を起こさねばならない」という義憤にも似た感情が勝り、決断に至った。

 
 一瀬の思いは、国にも届いた。10月18日には厚生労働省と農林水産省が「安全宣言」を発表。ペッパーフードの業績も、11月、12月と経るごとに前年並みに戻っていった。

 
 この騒動以降、既存店の地固めを行った一瀬。それが経営の強化に繋がり、かえってその後の出店を容易にした。04年には100店舗、05年には150店舗を突破し、06年9月には東証マザーズへの上場を果たす。



会社継続に疑義あり

 全てが順風満帆に思えた09年8月、ペッパーフードを事件が襲う。「ペッパーランチ」の商品が原因で、O157による食中毒が発生してしまったのだ。客足が途絶え、売上げは見る見るうちに減っていった。

 
 そしてついに、監査法人によってゴーイング・コンサーン実施条項の注記を付けられることとなった。「会社継続に疑義あり」との評価に、各銀行は一斉に手を引く。資金が枯渇すれば、当然会社は立ち行かない。一瀬の頭に「倒産」の文字がよぎった。

「いや、ここで潰れてなるものか!」

 
 奮起した一瀬は親しい知人・友人に頼み込み、何とか総額1億円近い資金を集めて、この窮地を脱した。

 
 この危機を突破すべく、一瀬は新しい商品開発にも挑戦している。詳しくは第3部に記すが、この時に開発された「ワイルドステーキ」の「原価率を高めながらも、粗利額で稼ぐ」という発想こそ、後に「いきなり!ステーキ」へと繋がる原点になった。

 
 12年2月、ゴーイング・コンサーンの注記が外れ、ペッパーフードは不死鳥の如く蘇った。「いきなり!ステーキ」の登場は、それからわずか1年10カ月後のことである。その後は一気に店舗を拡大し、17年8月には東証一部上場へと至った。


 会社継続に疑義あり

東西からアメリカを攻める

 2017年、ついにアメリカへの上陸を果たした「いきなり!ステーキ」。ただ、場所は変われど、お客様目線は変わらない。

 
 例えば、商品名。日本では安くて美味しいというイメージが定着している「ワイルドステーキ」だが、一瀬は現地在住のアメリカ人に聞き込みをし、「ワイルド」という名称では「硬そう」との印象を抱かれることを知った。また、ペッパーフードは美味しくて質の高い肉を安く提供することが強みにもかかわらず、アメリカでは「安かろう悪かろう」と見られる傾向にあることも分かった。

 
 こうした調査の結果、アメリカでは認知度が高く、使用しているのが高級牛であることを明示する意味も込めて、一瀬は商品名を「チャックテンダーCABステーキ」に変更した。「郷に入っては郷に従え」である。

 
 一瀬のCAB(サーティファイド・アンガス・ビーフ)認定へのこだわりは凄まじい。アメリカの屠殺場に何度も足を運び、肉の断面からコンピュータが分析してCABか否かに仕分ける厳格な検査現場を視察している。取引先の肉屋からは、「これから急激に出店するのだから、なにもCABにこだわらなくても良いのでは」と言われたこともあったが、一瀬は頑として受け付けなかった。

「CABの認定があるというだけで、その肉の質を私が心配する必要が無くなる。それだけでも価値がある」

 
 現在ニューヨークには10店舗を展開するが、同地での成功は足掛かりに過ぎない。「全米に1000店を出すという夢が無ければ、ナスダックには上場していない」と一瀬も明言。そのためには、アメリカが本場のFCビジネスを現地で花開かせなければならない。その提携のしやすさと信用力向上のためのナスダック上場であったことは、冒頭に述べた通りだ。

 
 目下、アメリカでは西部のカリフォルニア州に「ペッパーランチ」が進出している。その業績は好調で、来年はテキサス州にも広げていく考えだ。東に「いきなり!ステーキ」、西に「ペッパーランチ」。広大なアメリカ大陸を、東西から攻めていく。もちろん、場合によっては二つの業態を組み合わせて相乗効果も狙えるだろう。

 
 そして、全米1000店舗オープンは、更なるグローバル展開への先駆けとも言える。「ペッパーランチ」は既に東南アジアを中心に300店以上を展開し、人気を博しているが、「いきなり!ステーキ」も含めて、この流れを全世界に波及させる契機となるだろう。

「美味しい肉を、低価格で楽しんでほしい」。一瀬の熱い想いが、世界の食を変えていく。


東西からアメリカを攻める

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