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トピックス -企業家倶楽部

2018年11月12日

日本のサマータイム導入論議、腰砕けの様相/千葉商科大学名誉教授三橋規宏

企業家倶楽部2018年12月号 緑の地平 vol.44


三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授

1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。
 



2020年の東京五輪対策として急浮上

 EU(欧州連合)のサマータイム廃止の動きに影響され、日本の導入論議が腰砕けの様相を見せている。


 サマータイムといえば戦後の占領時代の1948年(昭和23年)に健康福祉や省エネに良いという名目でGHQ(連合軍総司令部)のイニシアチブで4年間導入されたことがある。しかし労働時間の延長や日の出とともに起き、日没とともに一日を終える日本人の生活・労働慣習に合わないなど国民の抵抗が強かったため、52年の講和条約で日本が独立を手に入れると、サマータイムも廃止になった。


 その後もサマータイム導入論は浮かんでは消えてきた。93年には通産省内に「サマータイム制度懇話会」が設置された。95年の導入を目指したが先送りになった。同年には超党派の議員連盟が発足し、08年までに計3度法案をまとめたが、いずれも党内の反発が根強く提出に至らなかった。


 一方、日本列島の中では緯度の高い北海道ではサマータイム導入支持者が多く、04年から3年間、札幌商工会議所の呼びかけでサマータイム導入実験を道内各地の企業や地方自治体が実施した。06年には6月21日(水)から8月11日(金)までの52日間実施された。札幌市役所からは5753名の職員が参加した。参加職員に対するアンケートでは「北海道のみの導入に賛成」が41%、「全国一律なら賛成」が33%と拮抗したが、合わせて74%が本格導入に前向きな回答で、反対はわずか15%だった。


 サマータイム導入のメリット、デメリットについてはアンケート調査結果なども踏まえ整理すると表に掲げた通りである。メリットとしては省エネに対する一定の効果、明るい時間の有効活用、家族団らんなど。逆にデメリットとしては、睡眠不足や残業時間の増加、コンピュータシステム変更の難しさなどが指摘されている。


 今回、導入論が浮上してきたのは、7月下旬、東京五輪組織委員会の森喜朗会長らが安倍晋三総理と面会した際、酷暑が予想される2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として「サマータイム導入」を要請したことが始まりだった。国際オリンピック委員会(IOC)も日本の導入には前向きの姿勢を示している。これに対し安倍総理も「なるほどね、内閣としても考える」と応じ、自民党に検討を指示、導入論議が一気に盛り上がってきた。



EU市民の84%が廃止を支持

 こんな折、突然降って湧いたように登場してきたのが、EUのサマータイム廃止提案だ。EU加盟28カ国の間ではこの数年、サマータイム制度は「健康によくない」、「省エネの効果が乏しい」などの批判が強まっている。例えば今年1月に7万人を超える廃止の署名を集めたフィンランド政府がEUに廃止を提案した。17年3月にはオランダでも2万人の署名が集まった。ラトビア、リトアニアなどでもサマータイム廃止をEUに求める動きが強まっている。ドイツでは17年の世論調査で74%が廃止を支持、フランスでも54%が夏時間に反対と回答している。


 各国の動きに対応して、EUの行政機能を担う欧州委員会は7月から8月中旬にかけて、域内28カ国の市民を対象に制度の廃止の是非や理由を聞く「パブリックコメント」を実施した。過去最多の約460万人から意見が寄せられた。速報値として8月31日に発表された結果によると、84 %が廃止を支持した。健康への悪影響や交通事故の増加などを廃止の理由に挙げる向きが多かったという。


 欧州のサマータイムの歴史は古い。夏時間を初めて導入したのは第一次世界大戦中のドイツで1916年。続いて英仏も同年に導入した。第二次世界大戦や70年代初めの石油ショックを経て米国など各国に広がった。ただし一時採用したものの廃止した国も多い。


EU市民の84%が廃止を支持

欧州議会と各国に廃止を正式提案

 ユンケル欧州委員長はパブリックコメントの速報値が発表された日、「人々に意見を聞いておいて、その結果に従わなければ意味がない」と述べ、欧州委員会は「欧州議会と欧州理事会に廃止を提案する」と発表した。この発言を裏付けるようにユンケル委員長は9月12日、EU加盟国が一律導入しているサマータイム制度を2019年に廃止する法案を欧州議会と加盟国に正式提案した。廃止の実現には欧州議会と加盟国(欧州理事会)の承認が必要だからである。


 廃止を実現するに当たって、欧州委は19年4月までに夏時間と冬時間のどちらを採用するかの最終判断も求めている。加盟28カ国のうち夏時間の継続が多数だったのはギリシャとキプロスだけで、残りの26カ国は冬時間を選択する見通しだ。


 EUをお手本にして、20年の東京五輪対策として提案された日本のサマータイム導入論議は見事にはしごを外された格好で、導入論はあっという間に後退してしまった。


 自民党は夏時間の導入を目指して設立を予定していた議員連盟を「研究会」に切り替えた。欧州での廃止論の広がりや国内の反対意見を受け、導入を前提にせず、論点整理に時間をかけることにした。EUの廃止論が浮上する前には、法案提出の時期を今秋の臨時国会と想定していたが、先送りが確実になった。来年の通常国会への提出も見送られる見通しで、東京五輪対策としてのサマータイム導入は事実上、放棄せざるを得なくなった。



国民の意見を集約するための議論が必要

 20年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策は何も大仰にサマータイム制度を導入しなければできないということではないだろう。五輪・パラリンピックの期間中、競技の種類、性格などによって、1時間スタート時間を早める、逆に1時間遅らせるなどで十分対応できるはずだ。


 国民の生活やビジネスに大きな影響を与えるような制度改革は、サマータイムに限らず一部のグループの思い付きだけで進めるべきではないだろう。情報化時代の日本では時間の変更は慎重かつ十分な配慮の下で実施されなくてはならない。航空や鉄道などのダイヤはいまや秒刻みでつくられている。それを支えるコンピュータシステムも複雑化しており、変更には多くの時間、巨額の資金が必要になる。夏時間導入のためのメリット、デメリットなどを十分に吟味、検証することなく、「酷暑の夏の五輪」を切り抜けるためだけの安易な提案が国民の支持を得られるはずがない。2年後に迫った東京五輪・パラリンピックを成功させるためには、快適な時間の中で競技ができるような競技環境の整備・工夫、選手や外国からの観光客をもてなす質の高いボランティアの育成、さらに省エネ、資源循環型のオリンピック運営などサマータイムに頼らない日 本らしい五輪へ知恵を結集すべきだろう。



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