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トピックス -企業家倶楽部

2018年11月22日

香港、中国ユニコーン企業の出口拠点に--種類株解禁でIPO加速2つの「失敗」を教訓に

企業家倶楽部2018年12月号 グローバル・ウォッチ vol.22


香港が中国ユニコーン企業の出口戦略の拠点として注目を集めている。米中貿易戦争のあおりを受けて株価は低迷するが、資金回収を急ぐ有望企業は相次ぎIPO(株式公開)に踏み切っている。一株当たりの議決権が異なる種類株の発行を解禁したことが香港取引所が選ばれている理由だ。スタートアップ不毛地帯だった香港には初めてのユニコーン企業も誕生しており、今後、アジアのスタートアップ・ハブとして注目が高まりそうだ。




 今年に入り中国のユニコーン企業のIPOが相次いでいる。7月9日、スマートフォン世界第4位の小米科技(シャオミ)が香港取引所に上場した。7月26日には電子商取引国内第3位の?多多(ピンドゥオドゥオ)が米ナスダック市場でデビュー。9月に入り、電気自動車メーカーの上海蔚来汽車(NIO)が12 日にニューヨーク証券取引所に株式を公開した。同20 日、食事配達など生活関連サービスを手掛ける美団点評(メイチュアンディアンピン)の株式取引も香港取引所で始まった。

 評価額10億ドル以上の未上場企業のことをユニコーン企業と呼ぶが、中国ユニコーンの中でも香港取引所に上場した2社は特大級だ。米調査会社CBインサイツによれば、現在最も評価額が大きいのは配車サービスの滴滴出行(ディディチューシン)の560億ドル(6兆4千億円)で、上場前の小米はそれに次ぐ460億ドルだった。次が美団点評の300億ドル。日本企業でも3兆円を超える時価総額の企業はそう多くない。パナソニックやスズキと同程度の規模だ。ビン多多も設立3年にして150億ドル。NIOも設立4年にして50億ドル。こうした企業はそれだけ多くのベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受け、IPOによる投資資金回収の圧力も高まっていたともいえる。

 いずれも個性の強い企業ばかりだ。小米は「中国のスティーブ・ジョブズ」などと言われる雷軍(レイ・ジュン)CEOが2010年に北京で創業したメーカーで、高機能スマホを低価格でネット販売するビジネスモデルで急成長した。ビン多多は浙江大学出身で元グーグル社員の黄 (コリン・ホアン)氏が上海で15年に設立した会社で、チャットアプリ「微信(ウィーチャット)」で商品の共同購入を呼び掛け、メーカーから直接購入することで低価格を実現する。瞬く間にアリババ集団、京東集団(JDドットコム)に次ぐ業界3位に成長した。

 NIOは北京大学出身で自動車情報サイトを立ち上げた経験のある李斌(リー・ビン)CEOが14年に上海で起業。ライバルの米テスラが創業者イーロン・マスク氏の奇妙な言動などで揺れるなか、7人乗りのSUV「ES9」をテスラの「モデルX」の半額で販売するなどして注目される。美団点評はグループ購入サイト「美団網」とレストランレビューサイト「大衆点評網」が15年に合併してできた会社で、中国の街を歩けば「美団」のジャンパーを着て食事を配達するバイク運転手を見かけないことがないほど。

 上場した4社に続いてユニコーン企業を「卒業」すると見られているのが、ニュース配信サービスの北京字節跳動科技(バイトダンス・テクノロジー)、仮想通貨関連の比特大陸科技(ビットメイン・テクノロジーズ)、動画ストリーミングサービスの快手(クアイショウ)などだ。いずれも香港取引所に上場すると見られている。

 ビットメインは9月26日にすでに香港取引所に上場申請済み。ビットコインなどの仮想通貨を採掘(マイニング)する装置やICチップを開発、販売するとともに、自ら仮想通貨の採掘も手掛ける。米国を代表するVCのセコイア・キャピタルが出資しており、人工知能(AI)に続く技術である「ブロックチェーン」銘柄として注目されそうだ。バイトダンスはAI銘柄で、ニュースサイトから持ってきた記事をAIで読者の好みに応じて表示する。自撮りダンス動画投稿アプリ「ティックトック」の人気も上昇しており、日本での知名度も高まっている。



■ハンセン指数は年初来約10%下落

 香港マーケットへの上場は、今は環境がいいとは決していえない。香港ハンセン株価指数は年初に比べて9月末時点で10%以上下落している。上海株式市場が20%以上下がっているのと比べると軽微だが、好調な米国経済を反映してナスダック市場が10%近く上昇しているのとは対照的だ。米中貿易戦争が本格化する中、投資家は香港銘柄への投資に消極的になっている。実際、1千億ドルの市場価値になると期待されていた小米は、初値が公募価格を下回り、9月末現在では初値を下回って株価が推移する。貿易戦争がエスカレートして株式市場がますます低迷するのを恐れて、ユニコーン企業が株式公開を急いでいるようにも見える。

 勢いのない香港市場に中国のユニコーンが向かう理由は何か。

 その背景には香港取引所のルール変更がある。「デュアル・クラス・ストック」という2種類の株式発行を認める制度の導入に、今年4月に踏み切ったのだ。いわゆる「議決権種類株」の解禁で、普通株の最大10倍の議決権がある種類株を発行できるとした。ただし株式評価額が400億香港ドル(5800億円)あるか、100億香港ドル以上の評価額かつ10億香港ドル以上の売上高がある企業に限定した。種類株が発行できれば、資金需要が旺盛なテック企業は、創業者が会社の支配権を失うことなく市場から資金調達が可能になる。新制度適用第一号が小米で、同社は雷軍CEOと林斌(リン・ビン)社長の二人の創業者に普通株の10 倍の議決権がある株式を発行した。

 こうした措置を受けて、IPO先としての香港市場の魅力は高まり、「18年通年で世界最大のIPOになる」とKPMG中国は予測する。小米に続いて、中国本土の携帯電話基地局をほぼ独占的に運営する中国鉄塔(チャイナ・タワー)が8月8日に上場し、543億香港ドルを調達して18年の世界最大のIPOとなった。年初から9月までにメインボードには88社が上場し2382億香港ドルを調達した。17年は80社、1226億香港ドルだった。KPMGは年内に調達額が3千億香港ドルに達するとみている。テック企業のIPOは17年は10%だったが、18年はその倍になる見通しで、「香港取引所は『ニュー・エコノミー』のハブになる」とKPMG中国は語る。

 出口として注目を集める香港だが、種類株を解禁したのは過去の「失敗」を反省した結果だ。4年前に阿里巴巴集団(アリババ)のIPOをニューヨーク証取に取られたことだ。企業向け電子商取引の子会社、阿里巴巴網絡(アリババ・ドット・コム)は香港に上場していたが、12年6月に上場を廃止。代わって14年9月に本体がニューヨーク証取に上場したのだ。アリババは香港での再上場も検討したが、香港では種類株の発行が認められていなかった。基本的に株式会社は「1株1議決権」で、種類株はコーポレートガバナンス上の問題があると香港取引所は考えたからだ。アリババはニューヨーク上場で250億ドルを調達し、これは史上最大のIPOとして記録された。

 「アリババのニューヨーク上場で我々は学んだ。世界は変化している。最高の競争力を保っていくには、継続的にルールを見直していく必要がある」。香港政府のトップ、キャリー・ラム行政長官は、香港で開催されたテック・イベント「RISE」で語った。

 もう一つ香港が教訓としていることがある。それは中国のドローンメーカー、深セン市大疆創新科技(DJI)を香港企業とすることができなかったことだ。DJIは評価額1千億ドルのユニコーンで、ドローンの世界シェアトップ。創業者の汪滔(フランク・ワン)氏は浙江省杭州市出身だが、香港科技大学に留学。そこで開発したラジコンの姿勢制御技術を使って、深センでDJIを起業した。携帯電話の製造で培った電子部品のサプライチェーン網や香港に比べると安い人件費など、製造系スタートアップには香港よりも深センが魅力的だったからだ。

 「DJIのケースは、基礎研究の強さと優れた大学が香港にあることの証明である」とラム長官はうそぶくが、18年度の予算では研究開発関連の予算を前年度の5倍の500億香港ドルに拡大した。予算執行の中心となるのが「香港サイエンス・アンド・テクノロジー・パーク(香港科技園)」で、香港中文大学に隣接するパークに100億香港ドルを投じる。パーク内をハイテクプロジェクトの展示場にする「スマートキャンパス」を推進し、バスの自動運転、顔認証技術を使った無人コンビニ、ドローンによるピザの配達などを実際に来訪した人が体験できるようにする。現在拡張工事中で、スタートアップへの支援も手厚くし、入居企業数を5年後に現在の倍の500社にする方針だ。さらに香港科技園は香港と隣接する深セン市の落馬洲河套地区(ロクマチャウ・ループ)に「香港深センイノベーション・テクノロジーパーク(港深創新及科技園)」を建設する予定で、今年度は敷地整備などに200億香港ドルを投じる。


■ハンセン指数は年初来約10%下落

■初の香港発ユニコーン誕生

 科技園に香港政府が注力するには理由がある。それは香港初のユニコーン企業がここから生まれたからだ。17年にユニコーン登録された商湯集団(センスタイム)だ。CBインサイツは北京企業に分類しているが、香港中文大学で画像処理、顔認識技術を研究している湯曉オウ(タン・シャオオウ)教授が、弟子の徐立(シュー・リー)CEOとともに14年に創業した香港企業である。アリババもその技術力に注目して同社に出資し、5月には両社が共同でパーク内に人工知能ラボを設置することを表明した。

 ほかにも有力な香港発スタートアップが育っている。「物流版のウーバー」とも言われるゴーゴーバン(高高客貨車)は13年創業で、荷物の運搬を委託したい人と、請け負いたいトラックやバンを仲介するサービスを手掛ける。すでに台湾、インド、シンガポール、韓国にも展開する。北京市の同業、58速運(現・快狗打車)と17年に合併し、現地の報道によれば評価額は10億ドルを超えたとされる。香港発のフィンテック企業ウィラボは13年設立で、個人にスマホを通じて融資するサービスを展開する。AIで融資判断を効率化しており、現地報道では香港取引所への上場を申請中という。

 香港でもスタートアップが生まれ、さらに中国本土にも有望企業がごろごろしている。「卒業」が相次ぐ中国ユニコーンだが、驚くべきは次から次へと新しいユニコーン企業が生まれていることだ。18年に入ってからも22社が新たに登録された。こうして香港市場に供給される上場予備軍は後を絶たない。ライバルのシンガポールも「種類株」による上場を6月に解禁したが、IPO候補の供給という面では香港に分がありそうだ。

 一方、日本はどうか。実は日本でも「議決権種類株」発行によるIPOは08年に解禁されている。この制度を使って東京証券取引所に上場したのが、ロボットスーツ「HAL」を開発するサイバーダインだ。筑波大学の山海嘉之教授が設立した大学発スタートアップだ。山海社長が10倍の議決権を持つ株を保有する。「必要不可欠な属人的な能力を有する特定の者が、経営者として経営に関与し続けることが、株主共同の利益につながるかどうか」といった点を審査した上で、新規上場企業に限って発行が認められる。サイバーダイン以降、種類株を発行して上場したケースはない。

 日本のユニコーン企業は現在1社。フリーマーケットアプリのメルカリが6月に東証マザーズに上場し、代わってAI系スタートアップのプリファード・ネットワークスが登録された。政府は6月に発表した「未来投資戦略」で23年までに20のユニコーンを創出する目標を掲げる。この9月には産業革新機構が「産業革新投資機構」に衣替えし、企業再生でなく、企業育成にリスクマネーを供給するという。日本でも入り口から出口まで、スタートアップ生態系が整備されることを期待したい。




P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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