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トピックス -企業家倶楽部

2018年12月03日

デジタル化への方策は組織改革にあり/デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘 氏 

企業家倶楽部2018年12月号 核心インタビュー


デジタル化の波は確実に迫ってきている。2016年、米国小売大手ウォルマートがEコマース新興企業のジェットコムを買収した。17年にも米食品スーパーマーケットのホールフーズ・マーケットがアマゾン・ドット・コムの傘下に入るなど、聖域と言われてきた食品業界でデジタル化の象徴的な事件が起き続けている。業界に激震を与えるデジタルシフトの未来を、著書『アマゾンエフェクト!』を発表したデジタルシフトウェーブ社長の鈴木康弘氏が語った。(聞き手:編集長 徳永健一)




『アマゾンエフェクト!』「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか

アマゾン・ショックが日本にも押し寄せている。デジタル化が進む今日のグローバル社会に、私たちはどう対処すれば良いのだろうか。デジタル、オムニチャネル、そして企業家精神を熟知した鈴木康弘氏が、これからの日本企業のあるべき姿を語った一冊。



アマゾン・ショックを自ら体験

問 ご著書を出版後の反響はいかがでしょうか。

鈴木 「アマゾン・ドット・コム」という流通企業の名前を出しているにも関わらず、自動車業界や全国の中小企業等、異業種の方からの講演依頼が続いています。それだけ皆さんがデジタルシフトに関心を持っているということでしょう。

 しかし実際の声を聞くと、「カタカナばかりで、何をどう取り組んだら良いか分からない。推進してメリットがあるのか」と、デジタルシフトという概念に複雑で難解なイメージを持っている方が多いのが実情です。私は実体験から、このデジタル化の波に日本がきちんと対処できるのか、危機感を持っています。そしてこの思いが、今回の著書執筆に至るきっかけになりました。

問 どんな実体験があったのですか。

鈴木 私がソフトバンクで働いていた時代に遡ります。そこで私は、本のネット販売を行うイー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を立ち上げ、社長に就任しました。

 そもそもなぜこの事業を始めたかというと、1996年に偶然友人から孫さんを紹介されたのです。当時私は、富士通でシステムエンジニアとしてシンガポールに駐在していました。孫さんに会ってすぐ、お互いに坂本龍馬が好きだということで意気投合しました。彼の魅力ある人柄に、思わずその場でソフトバンクへの転職を決断。当時のソフトバンクは社員が500人程度で、月曜日には孫さん自ら椅子を引っ張ってきて、その上に立ち、社員の前で朝礼をしていた時代です。それからインターネット分野に経営資源を投下することになり、新規事業の企画を担当。こうして社長に就任したわけです。

問 1996年といえば、まだインターネットの勃興期。孫社長と出会ったことが、ソフトバンクへの転職などターニングポイントになったのですね。

鈴木 その通りです。それから、今でも忘れられない衝撃的な出来事が起こりました。アマゾンとの出会いです。その時に見たアマゾンの勢いは圧倒的なものでした。私たちイー・ショッピング・ブックスの売上げは200億円、かたやアマゾンは1000億円で、アマゾンプライムの会員サービスを始め、ますます事業の拡大をしようとしていた時期でした。

 この現状を見て、アマゾンに匹敵するような立ち位置に追いつける自信がなくなってしまいました。ただ、「Eコマース(電子商取引)の市場が拡大しても、リアルの世界の市場がなくなるはずはない」という確信がありました。むしろ将来的にはネット世界と現実世界が融合するだろうと考え、思い切って先回りをして、店舗戦略へと大きく舵を切ったのです。



従来の制約を取り払って考えよ

問 具体的にはどのような戦略ですか。

鈴木 セブン&アイ・ホールディングスのグループ会社となることを決めました。2006年のことです。今回の著書ではここでの失敗談を基に、ネット世界の本質に迫っています。

 また、今振り返ると、ソフトバンク時代には孫正義氏、現在のSBIホールディングスを設立した北尾吉孝氏、セブン&アイ・ホールディングスでは鈴木敏文氏と、偉大な経営者の下、その姿を間近で見ることができました。カリスマと呼ばれる彼らの時代を読み解く着眼点や懐の深い人間性なども読者の役に立つだろうと思い、執筆しました。

 デジタルシフトというと、私たちはどうしても「店にある商品をネットで売ろう」と考えてしまいます。しかし、そもそもこれが大きな間違いだと学びました。実は逆転の発想で、「端末の世界」からモノを考えなければならないのです。

問 なかなか難しいですね。逆転の発想とはどういうことでしょうか。

鈴木 現実世界では、店舗や陳列棚など物理的な制約があります。30年前には、夜中に買い物をすることも、店舗に無い商品を購入することもできませんでした。まして地球の裏側にあるものを気軽に買うなど不可能でしたよね。

 また、昔は東京の大きな書店に行けば、日本中の全ての本が揃っていると思っていました。しかし、戦後の出版数は200万冊を超え、流通する商品も100万冊という中、実際書店に並んでいたのは20~30万冊ほどの在庫だったのです。いかに出会ったことのない本が多かったことか。実は無意識のうちに、私たちは「時間」、「距離」、「量」、「方向」の制約を受けていたのです。

問 それがどう変わったのですか。

鈴木 この制約から解放してくれたのがインターネットです。店のバイヤーが選んだ商品だけでなく、閉店後でも休日でも24時間365日買い物が可能になりました。そして、その便利な世界を現実世界にも適用しようというのがアマゾンの発想なのです。多くの制約がある世界と何にも縛られない自由な世界。どちらが柔軟な発想ができるかは一目瞭然です。

 そしてポイントは、この一連の流れは流通業界だけで起こっている現象ではないことです。例えば金融業界では、以前は駅前の一等地に店舗や営業員の数をどれだけ増やせるかで勝負が決まりました。しかし、ここにフィンテックというデジタルシフトが起こったことで、家計簿ソフトやオンライン取引などが可能になり、拠点や労働力を重視する戦略自体が時代に合わなくなってきたのです。

 同様に、自動車の分野でいえばコネクティッドカーが代表的なものです。車が単なる移動手段ではなく、暮らしの中の一つの情報端末として、より良い生活を創造する道具になりました。つまり、企業が提供する商品、サービスの概念が根底から変わってしまったのです。

 この視点から、ネット上では足りない顧客との接点を補強するために、アマゾンは家庭用のAIスピーカー「アレクサ」を開発、実店舗のホールフーズ・マーケットを買収し、自前の小売業「Amazon Go」を展開しています。自由に新しい発想ができる端末上の視点から、現実世界の企業戦略を考えなければなりません。

問 興味深い話ですね。今までの考えを全て変えなければいけないということですか。

鈴木 インターネットのお陰で誰もが自分の好きな情報にアクセスし、十人十色どころか「億人億色」のニーズを持つようになりました。もはや、人の力では対応しきれません。こういった観点からも、ITの力を借りなければ企業は立ち行かなくなります。将来的にはヤフージャパンや楽天など、現在「テック企業」と呼ばれている企業のレベルまで、全ての企業がIT化を推進していかなければならないでしょう。



米国はフラット型組織で躍進

問 デジタルシフトは単なるシステムのIT化ではないということですね。

鈴木 そこがポイントです。デジタル化とは、制約から解放されて、新たなビジネスの種を生み出すための手段にすぎません。そしてこれが、今後の企業競争力を高めるための唯一の方法ではないでしょうか。

問 アメリカのテック企業は、どうしてイノベーティブな戦略を生み出すことができるのですか。日本企業との違いは何でしょう。

鈴木 皆さんは、役員や経営企画室の中だけで企業戦略を考えていませんか。それを今年の方針3つなどとスローガンを付けて発表していないでしょうか。実はこれがテック企業と全く違います。

 日本企業の多くは、年功序列、定年制の「ピラミッド型」組織です。それに対してテック企業は「フラット型」で、数百の組織がそれぞれプロジェクトを抱えた集合体となっています。そのプロジェクト自体が企業戦略になっているわけですね。

 つまり、組織の仕組みが違うのです。3つの戦略と数百の戦略では、どちらの確率が高いでしょうか。もちろんビジネスに繋がらないものもたくさんあります。しかし、先行きが不透明な時代には、多くのアイデアの中で成功確度を上げる組織の方が強いのです。

問 日本企業はどのように対抗していけば良いのでしょうか。

鈴木 まずは皆さん一人ひとりが意識を変えることから始めるべきでしょう。考えてみてください。この20~30年で私たちの生活は便利になりました。そしてこれからも、より快適な環境へ変化していきます。翻って、企業の変化はどうでしょうか。「うちはうちのやり方がある」と何十年も同じ体制をとっていませんか。

問 多くの企業が変革に至らないジレンマを抱えているようにも思えます。

鈴木 実際、多くの日本企業が社内で新技術と既存技術を並行して進められないという問題を抱えています。長年システムのデジタル化を自前でなく外注してきたため、システムが複雑化した今では、何社ものベンダーに頼らざるを得なくなりました。すると、ベンダーの数が多すぎて使いこなせなくなってくるのです。本来は社内に技術者を置いてスムーズに統合するべきなのですが、「デジタル」という言葉が出てきた途端に、「それは技術に詳しい人間の仕事だ」と人任せにしてきてしまった結果でしょう。



一人ひとりに企業家精神を

問 実際に御社はどのようにデジタルシフトをしているのですか。

鈴木 時代の変化に対応するには、常に「人材」と「組織」を革新していくことが求められると思っています。

 スマートフォンを誰もが使いこなし、生活の中にIoT(モノのインターネット)が浸透してきた昨今、個人の情報を獲得する技術が急激に発達しました。そしてAI(人工知能)を使い、一人ひとりのニーズに合わせたマーケティングが可能になったのです。この多様な顧客のニーズに応えようとする姿勢は「カスタマーファースト」と呼ばれ、リーマンショック以降、多くの欧米企業でビジョンやミッションとして取り入れられています。このような環境では、デジタル技術を熟知し、発想豊かで未来を描ける人材が欲しいところです。これは「企業家精神」が求められているとも言えるでしょう。

 日本企業のようなピラミッド型の組織では多くの情報を整理できる調整型の人間が必要とされます。一括採用をし、画一的な教育をして同質化していくと、牙が抜かれていき、社内でしか通用しないマネジメントを覚えてしまいます。すると有名企業に勤めている人でも、「明日起業して下さい」と言われてできる人材はなかなか育たない。社内から革新的なアイデアが出てこないのには、こういう理由があると思います。

問 どんな育成体制を整えているのですか。

鈴木 私は社員一人ひとりに経営者と同じ視点を持ってほしいと思っています。入社してすぐ「自分の飯は自分で食え」という考え方を教えるべく、一人ひとりにPL(損益計算書)を持たせ、社員一人にいくらコストがかかっているのか、それに見合う収益を上げられているのかを可視化しています。私の願いは、全員に当事者意識を持ってもらい、いずれは起業してくれることです。そのためにスタートアップ支援制度も導入しています。

 ただ、今の若者は将来に不安のない環境を重視するので、退職金制度や70歳定年制、確定拠出年金制度、長期所得補償制度なども導入しています。挑戦できる環境と不安をなくす体制を整えるだけで、社員のパフォーマンスは圧倒的に上がるのです。

 もちろん、組織のフラット化も進めています。いくら技術に長け、情熱を持ってアイデアを生み出す人間がいても、組織体制が整っていなければ、その良さは発揮されません。そのため、私たちは企業戦略を社員全員で考えています。収入の流れとコストの構造を明確化し、目標達成に向けたプロセスを全員で話し合います。これならば社員が自分の頭で考えたことですので、経営者が説明を行い、納得感や共感を得る必要がありません。むしろ責任感が生まれるのです。これはアメリカのスタートアップ企業では当たり前にやっているデザイン思考で、こうした訓練を3年も続けていれば起業できる力は自然と身に付きます。そういう人間が組織にいればいるほど、企業の力は強くなると思います。



デジタルシフトとは社内文化の変革である

問 デジタルシフトが進んでいない日本では、リアル世界からネット世界に進出することになりますが、どのようにしたら良いのでしょうか。

鈴木 これは米アップルの事例が参考になるでしょう。アップルもiMacやiPodのように端末製造というリアルの世界からスタートしました。当時は音質ではiPodよりもソニーのウォークマンの方が良く、市場でも劣勢に立たされていました。そこでアップルは、iTunesやAppStoreのようなプラットフォームビジネスに転換し、これがその後の命運を分けることになったのです。そして今度はプラットフォームの視点から端末を作り、未来を切り拓きました。

問 デジタルシフトはネット世界、リアル世界のどちらからでもできるのですね。

鈴木 端末の世界から戦略を考えることが重要です。人材育成をしっかり行い、組織を革新すれば自ずとアイデアは生まれてきます。つまりデジタルシフトとは、社内の文化を変えることとも言えるでしょう。そして、答えは常に現場にあり、考えるのは社員なのです。外部の人間が戦略を考えても何も意味がない。ただ、これを決断できるのは社長しかいません。その覚悟を経営者の皆さんに持っていただきたいと切に願っています。




P R O F I L E

鈴木康弘(すずき・やすひろ)

1987 年、富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96 年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役就任。2006年セブン& アイHLDGS. グループ傘下に入る。14 年セブン& アイHLDGS. 執行役員CIO 就任。グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退職し、デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBI ホールディングス社外役員も兼任。



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