トピックス -企業家倶楽部

2018年12月10日

「うまい・安い・早い」で人間の本能を刺激する/ペッパーフードサービスの強さの秘密

企業家倶楽部2018年12月号 ペッパーフードサービス特集第2部


一瀬邦夫が率いるペッパーフードは、今外食業界で最も勢いのある会社といえる。新業態の「いきなり!ステーキ」は知名度抜群で、オープンからわずか5年足らずで店舗数は300を超える。ステーキの本場米国ニューヨークにも進出、既に10店舗まで増えた。2017年8月、東証一部に指定替えし、2018年9月には米国ナスダックに日本外食企業として初の株式上場の快挙を果たした。下町発の外食ベンチャーの強さの秘密に迫る。(文中敬称略)



強さの秘密1  ステーキの大衆化

「人間の本能」を満たす

「うまい・安い・早いという店が繁盛する3大要素を満たしている」

 一瀬は高校を卒業すると、女手ひとつで自分を育ててくれた母親に楽をさせるため、料理人になった。日本で5本の指に入るコックを目指して半世紀、満を持して世に送り出した厚切りステーキの新業態「いきなり!ステーキ」は時代の流れを見事に掴み、当たった。

 今が勝負どころと一気呵成に出店攻勢を掛ける一瀬に、お客から支持されている理由は何かと問うと、自信に満ちた表情で冒頭の答えを返した。

 今、食の世界では空前の「肉ブーム」が到来している。外食業界では、熟成肉の専門店やワインと一緒にグリルした肉を食べるコンセプトの肉バルなど同社以外にも「肉」を売りにした新規出店が相次いでいる。

 うまいものを安くお腹いっぱい食べたいと欲するのは、感情や記憶を超える人間の本能と言える。一瀬は一過性のブームではなく、数々の成功と失敗を繰り返し、遂に「厚切りステーキの大衆化」を成し遂げた。「本能」に訴える金脈を掘り当てたといっても過言ではない。

「肉ブーム」を追い風に

 この50年間で日本人一人当たりの肉の消費量は10倍になったというデータもある(農林水産省)。日本人の主食は米であったが、その消費量は反対に半減している。肉ブームはもはや日本人の食文化になったと言える。

 肉といったら男性的なイメージがあったが、様変わりしている。「肉を食べると太る」と信じられていたのはもはや昔の話。脂肪分の少ない赤身肉はむしろヘルシー食として認知され、市民権を得ている。女性を中心にダイエット法の1つとして注目されている低炭水化物の食事法も追い風となり、女性からの支持も大きい。食事量を抑える我慢のダイエットとは違い、積極的に赤身肉を食べ、結果的に減量効果のある赤身肉ダイエットは精神衛生的にも優れており、しばらくこのブームは続くことだろう。

 支持層は女性だけに収まらない。年配層は和食派で魚を好むと言われてきたが、最近のシルバー層はもともと肉料理に馴染みがあり、年を取っても頻繁に肉を食べる習慣は衰えていない。昨今の「肉ブーム」は性別も年齢も関係なく、まさしく老若男女に支持されており、層の厚さを感じさせる。

 以前は冠婚葬祭の場など特別な日にしかお目にかかることのなかった高級な「寿司」だが、外食業界の努力もあり、「宅配ずし」や「回転寿司」など新しい市場を開拓することでぐっと価格が下がり、「寿司の大衆化」が進んだ。そのおかげで今では学生や若い世代でも寿司屋を普段使いできるようになった。

 同様に肉を扱う店が増えたことで競争が生まれ、量が出回ることで上質な肉をリーズナブルな料金で提供する店が増えた。中でも庶民の憧れである厚切りの高級ステーキを大衆化した同社の功績は大きい。同時に先行者利益を享受するため出店攻勢の手を緩めることはない。


強さの秘密1  ステーキの大衆化

強さの秘密2  接客サービス

もう一度行きたくなる店

「お客様が店に行きたくなくなる理由は何だと思いますか?」

 6月に入居したばかりの東京・隅田区にある新オフィスビル17階の会議室。月一回、定期的に開催される店長会議の場。辞令交付や各種表彰を終えると、社長の一瀬は開口一番に切り出した。

 一人の店長が挙手し、「お店の雰囲気が良くないと足が遠のきます」と意見を言う。

「お店の雰囲気が良くないとはどういう状況ですか?」と一瀬が聞き返す。

「従業員の笑顔が少ない、挨拶などの声が小さいことです」とハキハキ返答する店長。

「確かにそうですね。お店でも会社でも入ったときの雰囲気が暗いと分かります。実は私が20代後半から30歳の頃にも同じことがありました。新しく入ってきたコックさんが言っていました。『この店の雰囲気はなんて暗いんだ』とね。他に意見のある人はいませんか?」、このようなやりとりが数名の店長と続く。

 会社の役員や社歴の長い中堅から新人店長まで約150名が一堂に会する場であるが、一瀬は立ち話でもするかのように店長たちに話しかける。同社では当たり前の光景となっているが、大きくなった組織では珍しい方かもしれない。しかし、東証一部の上場企業となった今でも一瀬と従業員の距離感は変わらない。

「私は思ったことをすぐに口に出してしまう性格だから仕方ない」と舌を出す。今年齢76歳になる一瀬だが、好奇心旺盛で最新のスマホを巧みに操作し、冗談をはさみながら周囲への気配りを忘れない。最近のお気に入りは小型の自動翻訳機である。近々渡米する予定があり、スピーチの練習をしているという。気取らず、畏まらずに誰とでもコミュニケーションを取るのが一瀬流だ。若い頃からコックとして店を切り盛りしてきた経験からだろう、ちょっとした人の表情も見逃さない。まだまだ現場を離れて老け込む気などサラサラ無いといった印象だ。今でも500gの厚切りステーキをペロッと完食するという。

お客をよく見る

 現場のことを誰よりも知っているのは店長だ。また、現場の責任者が当事者意識を持たなければ店は人気店にならない。一人ひとりが本気になって、どうやったら「また行きたい」とお客が思ってくれる店作りを出来るか、その重要さを一瀬は説いているのだ。

 ユニクロを展開するファーストリテイリング会長の柳井正も「店が繁盛しているときの方が不安になる。スタッフは何もしないでもお客様が来てくれるものと勘違いするから。逆に店に閑古鳥が鳴いていると、社員は必死になって考える」と話していた。

 経営者は社員と違い、常に最悪の場合を考えている。倒産の危機を経験していれば尚更であろう。「勝って兜の緒を締めよ」、油断は禁物というではないか。今や破竹の勢いで店舗数を増やしている現状でも、お客が喜ぶ店舗作りに余念がない。

 勝利に奇策は通用しないのもまた事実である。地道に「お客がもう一度行きたくなる店」を作るために、店では床とテーブルを綺麗に磨き、スタッフは身だしなみを整え、笑顔での接客を心掛けることを徹底する。

「新人スタッフには、まずお客様をよく見ることを教えています。注文をしたいのか、お冷のおかわりなのか。違和感があったら直ぐに声を掛ける。クレームの原因はお客様が不安に思うことを放ったらかしにすることです」と 「いきなり!ステーキ」オリナス錦糸町店店長の榊原秀幸は接客のポイントについて語る。

 問題があったときにクレームを言うお客はまだ対応できるのでいいが、ほとんどは嫌なことがあったら黙って店をあとにし、二度と来店しない。これが最も店側にとってはマイナスとなる。客が来なくなる原因が分からず終いになってしまうからだ。

「お客の満足とは何か」を考える習慣をつける。マイナス要素を一つずつ取り除けば魅力のある店舗に確実に近づいていく。


強さの秘密2  接客サービス

強さの秘密3  イノベーション

感動を仕組み化

 いくら美味しいステーキを提供しても割高感があるとリピーターには繋がらない。「高けりゃうまいのは当たり前」となる。逆に人は期待値を上回る満足を得るとその店のファンになる。ファンは満足のお返しに相乗効果をもたらす天使のような存在だ。感動は独り占めすることなく、大切な家族や友人と共有したいと考える。写真を撮ってSNSに投稿し、自慢したい人もいるだろう。店舗の行列を見て並ぶ人もいる。

 食の世界でもサプライズはスパイスとなるのだ。高級でなかなか手の出なかった厚切りステーキがいつでも半額で食べられる。同じ金額を出すならお腹いっぱい2倍の量を食べられるとあれば、お客に対してインパクトがある。しかし、限られたキャンペーン期間ではなく、通常のメニューにするとなると他社と同じことをしていては実現不可能だ。

 肉だけなら原価率は70%を超える。高い原価率を「立ち食いスタイル」にして滞在時間を短くし、回転率で補うビジネスモデルは、「俺のシリーズ」とよく似ている。しかし、俺のシリーズは高級イタリアンやフレンチが主流で料理の仕込みに時間がかかる。さらに腕の良いシェフを雇うため人件費も必然的に高くなる。

 一方の「いきなり!ステーキ」は客の目の前で肉をカットして焼くだけなので、研修を受ければ、コックや料理人の経験がなくても短期間でオペレーションを回せるようになるのが特長だ。外食産業の肝である人件費を抑えられるのも同社の成長を支える鍵と言える。

 お客の満足度を上げるために何が出来るか。あっと驚くような価格戦略やきめ細かい接客サービスも、目の前で肉をカットする臨場感あるオペレーションも、全て顧客満足度を上げるために知恵を絞って生み出されたアイデアであり、企業努力の賜物である。

 一見常識とかけ離れていると思われるビジネスモデルに再現性を持たせ、「仕組み化」するところまで落とし込んだ徹底力が同社の成長エンジンと言える。不可能だと決めつけず、常識を疑い、新しいことに挑戦し、硬直感のあった保守的な外食業界の中で常に一瀬は「イノベーション」を起こし注目を集めてきた。

稀代のアイデアマン

 一瀬は若くして独立し、FC展開も軌道に乗せ裸一貫、一代で東証一部上場企業の経営者まで登りつめた。そのビジネスセンスは疑う余地もないが、次々に新しいモノを発明するアイデアマンの一面も持つ。

 「ペッパーランチ」の業態を開発する際、誰でも気軽に600?700円程度で肉を食べられるように価格を下げなければならなかった。人件費を減らすことと、大量の注文をさばくために肉を焼く行程をスピードアップする必要に迫られた。そこで火を使わずに鉄皿を熱する電磁調理器をメーカーと協力して開発してしまった。このオペレーションの簡素化が「ペッパーランチ」のFC展開を可能にしたことは言うまでもない。

 さらに鉄皿の改良も一瀬のアイデアだ。鉄とアルミの間に水が入り、急激に熱すると破裂してしまうという問題が起こると、皆は水が入らないように改良を重ねたが、一瀬のアプローチは違った。水が入るなら、水が出ていく穴を大きくしたら良いという逆転の発想で解決した。着眼点が人とは違い、柔軟である。

 また、今では「いきなり!ステーキ」の代名詞となっている「肉マイレージカード」もポイントカードと名付けなかったことがミソである。一瀬は出張時はいつもJAL便を使っていた。マイレージカードのメリットがあることで自分がJALのリピーターになっているのをヒントにして、自分のお店でも何度も来店してくれるお客に喜んでもらおうと「肉マイレージ」と名付けた。食後にレジで精算する際に、自分が食べた量をカウントし、累計3kgでゴールドカード、 20kgでプラチナカード、100kgでダイヤモンドカードとランクアップすると、ドリンク1杯無料などの会員特典が受けられるようになっている。食べた肉の量を見える化することで熱心なファンが生まれた。

 現在、肉マイレージメルマガの会員登録数は100万人を超え、定期的に交流会「肉友の会」が開催されている。一瀬も参加し、熱心なファンとのコミュニケーションを楽しんでいる。


強さの秘密3  イノベーション

強さの秘密4  共感の輪を広げる

社長の決意

 喜怒哀楽を隠さずに表現する一瀬は涙もろいことでも知られている。東京下町育ちの商売人は義理人情に厚い。そんな一瀬が忘れられない一日がある。創業28周年の社内決起大会である。

「ペッパーランチ」のFC1号店が大成功を収め、「直営店ならもっと繁盛するはず」と出店を急いだあまり、資金繰りに窮する羽目に陥った。人の育成も追いつかず店舗運営が回らず赤字が続いた。倒産の二文字が頭をよぎった。

 そんなとき、「枯れ木に水をやる人はいない」という母親の言葉を思い出した。社員や取引会社に不安を与えないように、盛大に記念式典を開催することにした。1997年5月7日、全社員、FCオーナー、取引会社を招待し、一瀬の夢、将来構想を語った。これが起死回生のホームランとなった。社内には活気が戻り、高揚感に満ちた。

 この想いを形に残すため「社内報」を作ることにした。これが現在まで続いている「馬上行動」である。毎月発行され、バックナンバーは2 5 7 号になり、一度も休んだことはない。

「社内報が出せなくなったらこの会社は倒産する。だから何があっても出し続けると決意した」と一瀬は語る。人との約束を破らないのは礼儀である。しかし、自分との約束は簡単に破ってしまうことが多い。それでは大事は成し遂げられない。

「決意とは自分との約束である」と一瀬は意志の固さ、一度決めたことをやり遂げることの大切さを説く。

店長は社長代行

「誰でもお腹いっぱい厚切りのステーキが食べられるようにしたい」

 一瀬が10代でコックになったときから抱いてきた夢である。それが今、現実のものとなった。「いきなり!ステーキ」は一瀬の想いを具現化した店と言える。

 4年間で188店舗を出店し、今期だけでそれを上回る200店舗を出店すると宣言した。国内だけで1000店舗はオープンできると強気の姿勢を崩さない。

「社長がこれでいいと満足したら組織の成長は止まる。あえて少し背伸びするくらいの高い目標の方が社長にも緊張感が漂う。その背中を見て、社員は発奮する」と一瀬は経営の極意を語る。

 同社では店長の名札には、「社長代行」と肩書が加えられる。一瀬は夫婦二人で小さなレストランから始めた。そこから社員が一人増え、二人増え、店も2店舗、3店舗と増えていった。チェーン展開になって店が増えていっても、創業の精神、経営理念を忘れてはいけないという強い思いから、店の経営を預かる店長には「社長だったらどう考え、行動するか」肝に銘じて欲しい。そんな想いから「社長代行」と必ず入れるようにしている。

 良い店には人が集まる。人が集まれば売上げも伸び利益も出る。優秀な人材もより良い環境を求めて入社する者が増えてきた。金の卵を生むビジネスモデルが確立できたことで、FC加盟も増える。株価も1年で10倍に上がり、社内にも億万長者が誕生している。組織の成長とともに社員の豊かさも実現し、好循環となっている。

「まずはやってみよう!」は一瀬の口癖だ。トライアンドエラーのチャレンジ精神と思い立ったらすぐ行動するスピードを原動力に同社の快進撃は続く。


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