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トピックス -企業家倶楽部

2019年01月17日

ミッションと起業経営 ゴーン役員報酬問題を考える/日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝 

企業家倶楽部2019年1/2月合併号 日の丸キャピタリスト風雲録 vol.64


村口和孝 《むらぐち かずたか》

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 

 1958年徳島生まれ。慶應大学経済学部卒。84年ジャフコ入社。98年独立、日本初の独立個人投資事業有限責任投資事業組合設立。06年ふるさと納税提唱。07年慶應ビジネススクール非常勤講師。社会貢献活動で、青少年起業体験プログラムを、品川女子学院、JPX等で開催。投資先にDeNA、ジャパンケーブルキャスト、テックビューロ等がある。



スタートアッププロセス

 起業のストーリーは、DeNAもアインファーマシーズも、アップルやGoogle も同じである。

1.下積時代、ミッションへの気付き

 起業家は、自立し、機会と制約を観察して事業構想し、人生のミッションに気付き、パートナーと出会い、下積時代を経て、会社を起こす。

2.ビジョンに基づき会社設立

 さらに起業家は、事務所を立ち上げ、商品サービスを完成し、ビジョンが明らかとなり、事業計画を作成してファイナンスを行い、資本と人材を調達し、組織化して事業を組み立てる。

3.商品サービスをバリューに基づき投入

 供給した商品サービスに価格をつけ市場投入し、販売促進し、顧客が購入し、試行錯誤の末バリューが明確となり、売上が立ち始める。

4.事業化で、収益化から成長モデルへ

 その事業を収益化し、市場の中で成長モデルにして、開示を強化して上場会社と規模も拡大。社会で影響力のある事業体となる。

5.上場経営で飛躍モデルへ

 投資家市場で株価がついて、結果的に起業家の持ち株が巨大な資産となる。会社の財務力も相当の規模になったことによって、市場の中でM&Aによる発展も可能となる。事業立ち上げの成功によって、社会の中でさらに大きな経済活動が可能となり、企業は飛躍する。



起業家の正義「ミッション」

 人によってはスタートアップを、格差社会を産み出す悪の根源のように言う人もいるが、起業家が世の中で、イノベーティブな事業を創造し、立ち上げ、収益を上げ、成長し、投資家の価値を高めることによって、自らが資産家となることを、世界中が足を引っ張るどころか、推奨するのはなぜか?もともとの起業家のミッションが、社会的に正義であることに他ならない。ミッションとは、もともと経営用語ではなく、宗教用語(布教)である。「ミッションは宗教的使命」と訳しても良いだろう。ミッションは起業家の人生の意義そのもので、情熱を注ぐべき創業活動の根幹をなすものだ。起業家がミッションを世の中で実行すると、その正義が、新しい時代の商品サービスとなって、異文化の中に広がることになる。それが財務的には業績の成長であり、株価の上昇であるから、ミッションを追求する起業活動は、格差が広がろうとも、その基本的な姿勢が健全である限りにおいて、起業家の活動は社会善である。

 起業活動は、そもそも起業家人生のミッションに基づく、善行でなければならず、だからこそ、ミッションの異文化への共感と浸透によって、多くの多様な従業員やスタッフが一生懸命事業立ち上げを成功させようと、必死になって努力する根拠や拠り所になるものである。起業家に協力する取引先もそうだ。また、未来の答えが明確でない経営が、ある意味不合理で矛盾だらけで不完全であるにもかかわらず、場合によっては数万人という大人数の従業員を抱えながら、いい加減にならず、一貫した経営が実現できているのも、ミッションの効用である。ミッションが正当でなければ、株主や従業員など、他人の人生を巻き込む合理的根拠がない。

 揺るぎないミッションを力強く掲げて、実現する具体的なビジョンを持ち、バリューの実現を求めて熱心に戦うチームは強い。よくある経営の過程の中で巻き込まれる最悪の窮地においても、社会的にも多方面からの支援が得られ、偶然のみならず、成功を後押しされる良い状況を導くのもミッションの正義ゆえである。年月を経て、売上数千億円の巨大になる企業は、ミッションがしっかりしている。だから、ベンチャーキャピタリストとして起業家と話をする時も、人生のミッションが何なのか、聞き出そうとする。たまにミッションと事業内容が遊離してしまっているベンチャーを見かけるが、自己分裂しているから投資しない。ミッションがいい加減であったり、その起業家から聞いた人生の履歴に重ね合わせてみて、不自然である投資案件が、長期的にうまく行く訳ないからだ。



ミッションの達成が問われる

 ミッションが実現するとは、ユニクロにとっては、「本当に良い服」を創造し、あらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供していく、と言う事だ(会社ホームページより)。DeNAのミッションは、Delight and Impact the Worl d(世界に喜びと驚きを)である。Googleは、“to organize the world ’s information andmake it universally accessible and useful.”だ。

 ミッションを達成するとは、ビジョンに基づいて、顧客に具体的な商品やサービスを通じてバリューをお届けして、売上を上げることである。そのミッション達成前の活動はすべて、達成のための長期に渡る準備活動である。会社を設立し、事務所を立ち上げ、投資家に株を買ってもらって資本を集め、人を採用して働きあう。すべてミッション達成のためのビジョンに基づく準備である。

 ミッションが達成されると、妥当な価格設定によって財務的には売上が上がり、利益が出る。会社の株価は高くなり、起業家の財産は必然的に大きくなる。ミッションの達成には、ビジョンに基づき、大きな労力と時間の投入が必要である。経営資源を組み合わせてバリューに変換する「経営力」が問われるのだ。経営者の役割は極めて重要で、その分、報奨としての役員報酬も大きくなるわけである。

 ミッションを達成した結果として、大きな利益が出る場合、株主が保有する株式の評価が、投資マーケットで高まることが期待される。どれほど高まるか?株式価値(時価総額)は、常に、新たに生み出される利益の成長の、数十倍の増加が期待される。それは、次の式で現わされる。

 年間の利益=利子率×時価総額

 移項すると、時価総額=年間の利益×(1/利子率)

(1/利子率)がPER倍と言われ、数十倍なのである。

 例えば、一億円の利益を生み出すことのできる会社は、PER倍をかけて、証券市場で時価総額が数十億円となる。一億円利益が増えることは、投資家にとっては、数十億円の時価総額が増加することである。

 このことから、常にミッション達成の結果として、企業グループの利益(社会で生み出される価値)が大きくなるなら、株主として役員報酬は、一桁大きい金額で支払う合理的根拠がある。



予算統制経営の危険性

 財務的結果である売上や利益は、予算統制によって常に組織内で分かりやすい目標となり、上場審査でも、上場後の取締役会でも、特にミッションに疎い部外者にとって、成績を測るテーマとなりやすいが、財務的予算達成とミッションの達成とは、必ずしも同義ではない。無駄のない効率的経営が求められるのは言うまでもないが、ミッション達成に沿わない、ビジョンに基づかず、バリューの伴わない売上利益は、常に疑問視する決意が重要である。

 例えば、商品サービスの品質を落として原価を下げたり、経営の手抜きをして採用活動をせずに販管費を下げたり、顧客への訪問を減らしてする、予算達成へのズルい足元だけの数字合わせである。予算達成のためにミッションを犠牲にするなど、本末転倒である。日本に多い、予算統制に真摯で、ミッション、ビジョン、バリューに疎い取締役会は、経営が病んでいる。役員の役割は、ミッションを達成して財務的結果を産み出すことであって、予算管理ではない。



役員報酬の本質と金額?

 ミッションつまり宗教的使命の達成は、いくら報酬を伴うべきか?世界の考え方は、経営者すなわち役員には報酬を支払い、人件費を支払った後の、果実としての利益は、資本を投入してくれた株主に分配されるべきである。期待される企業の役員は、ミッション達成のためにビジョンを定め、バリューを産み出し、企業を経営できる人の事である。場合によっては、創業精神に戻り、過去のミッションのデザインのし直しも出来るような、ゼロから人材だ。

 一方、働き方の一つとして、時間給という被雇用者としての就業規則に基づく働き方もある。これは事業の中の作業オペレーションについての時間的働きへの対価の支払いであるから、ミッションが達成されようが、されまいが、雇用契約通りの支払いがなされるのが当然である。被雇用者の給与水準は、仕事の中身で、おおよその相場があると言えるだろう。

 さて、役員報酬は、設立したスタートアップそれぞれの実情に応じて決められる、としか言いようがない。給与所得者みたいな立場であれば、社内の給与水準を参考にすることが多いだろう。ただ、会社が利益が大きく財務力がある場合、どれだけ役員報酬を支払うか、については上限がない。役員報酬を採用の武器として使い、凄腕経営者を引っ張って来て、経営をやってもらう選択肢もある。ソフトバンクは、2014年以来孫氏の後継候補として、ニケシュ・アローラ氏に16年までで、退職金も含め数百億の報酬を払って話題となった。もちろん、ソフトバンクに財務力があるから可能な選択肢だ。DeNAは1999年から05年にマザーズに上場するまで、南場智子さんの役員報酬は一般の上場企業の常勤取締役より低かった。DeNAは、上場前に財務で苦労したスタートアップを象徴している(もちろん、上場して業績が拡大した後は、DeNAの役員報酬は上場会社並みとなった)。

 日本の武士道は、腹を切るなど、ミッションの達成への美意識が強く、報酬を無関係と、遮断する極端なところがある。ただその武士も、中世において、戦いに勝利すれば領地を報奨として期待していたのだ。ミッションが達成されず、利益を産み出せないならば、役員報酬は、限りなく給与水準にまで下がるだろう。あるいは、別の役員を探してこないと、会社の将来が危うい。

 日産のゴーン氏逮捕の報道にみんな驚いたが、経営と役員報酬の関係は、ミッションの達成というテーマ抜きでは、すなわち単に高いとか安いとかの、単純な議論だけではすまない、他山の石だ。ちなみに、日産のミッションは、「私たち日産は、独自性に溢れ、革新的なクルマやサービスを創造し、その目に見える優れた価値を、すべてのステークホルダーに提供します。それらはルノーとの提携のもとに行っていきます。」である。

 なお、役員報酬を決めるのは、株主総会であり、取締役会である。ただ、取締役会で代表取締役に報酬額決定の調整を一任する場合も多い。キャピタリストとして承認を求められることも多く、いつも悩む。役員報酬をどう決めるか、予算達成ではなく、ミッションに照らしちゃんと経営しているか、見る目を持たないと、会社はすぐに内向きの病気にかかってしまう。役員人事はミッション経営の根幹だ。



ミッションが豊かな社会を目指せ

 経済環境がこれだけ激変する21世紀にあっては、あらゆる業界においてイノベーションが起こっており、競争条件が見る見るうちに変化していく。解決しなければならない経済的難題は多く、機会でもある。スタートアップ社会の発展は、そこで生きている人々が真摯に向き合うミッションの質量の合計で決まる。世の中で一人でも多くの起業家候補が自分の活躍すべきミッションに気付き、一人でも多く、若いうちに、事業創造の試行錯誤に取り組んでほしい。その道のりは、新しい世界を切り拓くのだから、常に困難に満ちている。起業家が目指すべきミッション経営は、同時に、挑戦し続ける経営でもあるのだ。



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