• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル
  • 私の注目ニュース
  • 新商品コーナー

トピックス -企業家倶楽部

2019年01月18日

2019年の世界経済 米中貿易摩擦の行方が鍵に 米国が中国にかける3つの揺さぶり/梅上零史

企業家倶楽部2019年1/2月合併号 グローバル・ウォッチ vol.23


2019年、世界経済はどうなるのか。鍵を握るのは米中易摩擦の行方だろう。18 年12 月のトップ会談では19年3まで問題を先送りした。先送りでは米国の貿易赤字は減らず、中国がハイテク分野での取り組みを強化する流れに変わりはない。両国の対立の根幹には中国による米国覇権への挑戦があり、「新冷戦」と呼ばれる状況は19 年春以降に本格化する。これは1980年代の日米ハイテク摩擦の再現であり、米国は3つの方向から中国に揺さぶりをかけていくとみられる。




 12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレスでの20カ国・地域(G20)サミット。ここでトランプ大統領と習近平国家主席による米中トップ会談が行われた。17年11月に北京で会談して以来、二人が顔を合わせたのは1年ぶりだ。

 会談では米国が19年1月1日に実施予定だった中国への追加関税を猶予することにした。中国からの輸入分2千億ドル分の関税を10%から25%に引き上げる追加措置だ。猶予の条件として中国が農業、エネルギー、工業製品などを米国から「かなりの量」購入して貿易赤字削減につなげること、そして中国の構造問題について協議し90日以内に結論を出すこととした。構造問題とは、中国に進出する米企業への技術移転の強要、米国の知的財産権の保護、非関税障壁、サイバー攻撃、サービスと農業の市場開放の5つだ。

 この1年、米中関係は悪化の一途をたどった。1年前の会談の焦点は北朝鮮問題だった。北朝鮮問題解決に中国の協力が助けになると考え、トランプ大統領は中国の対米貿易赤字について批判のトーンを弱めていた。しかし18年6月12日に初めての米朝首脳会談が実現し、北朝鮮の「非核化」を進めることでとりあえず合意。ミサイル発射と軍事演習という両国の挑発合戦が終わり、外交的な成果が出たと判断するや、トランプ氏は中国攻撃を再開。中国が北朝鮮問題であまり協力的でなかったことも、トランプ氏の怒りを増大させた。

「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ政権は発足当初、米国の国内産業を守るため、貿易相手一律に課税する「国境調整税」の導入を検討していた。法人税減税を実施する代わりに、輸入企業の法人税に「国境調整」をして税収減を補うという考えだ。共和党牛耳る議会側が積極的だったが、手続きが煩雑になることからトランプ大統領自身は消極的で、17年7月に断念。その後は18年1月にセーフガード(緊急輸入制限)発動による太陽光パネルと洗濯機の関税を引き上げ、3月に62年通商拡大法232条(国家安全保障上の脅威を理由にした貿易制限)に基づく鉄鋼及びアルミニウム製品に追加関税をかけるなど、小さなジャブを繰り出す程度だった。



追加関税による市場締め出し

 大きく対中制裁に舵を切ったのは米朝会談直後の18年6月15日だ。トランプ政権は74年通商法301条に基づき、5百億ドル(約5兆5千億円)分の中国製品に25%の追加関税を課すと発表した。301条は貿易相手国の不公正な取引慣行に対し、協議しても解決しない場合に制裁を発動する。中国が多額の補助金を投じて国内のハイテク産業を支援する「中国製造2025」計画を特にやり玉に挙げた。「不公正な取引慣行」には、中国企業が違法な方法で米国の知的財産や技術を得ていることも含まれる。

 米国は制裁第1弾として7月6日に自動車や情報通信機器など818品目、中国からの輸入額340億ドル分に25%課税した。するとすかさず中国も大豆や鶏肉など545品目、米国からの輸入額340億ドル分に課税する対抗措置を取った。8月23日には第2弾として米国が半導体や鉄道など160億ドル分に25%課税すると、中国も古紙などに同額分の課税を実施。9月24日には第3弾として米国が家具や家電など2千億ドル分に10%の関税をかけた。中国も報復措置をとったが、液化天然ガスなど6百億ドル分に5~10%課税する内容で、米国の措置に比べるとやや小粒になった。米国は中国からの輸入額5千億ドルの半分に制裁関税をかけた形だが、中国は米国からの輸入額が1500億ドルとそもそも少なく、うち7割をすでに使ってしまったからだ。制裁合戦では米国に太刀打ちできないのは目に見えていた。

 18年12月の米中首脳会談で合意したのが第3弾の2千億ドル分への追加関税で、19年1月1日に10%から25%に引き上げる予定の延期だ。関税引き上げで米国市場へのアクセスを制限し、米国からの商品購入や中国市場の開放を迫る、というのが米国の戦略の初期段階だ。



個別企業の締め上げ

 通商法301条の発動でも見られるように米国は中国のハイテク分野における追い上げを警戒している。貿易赤字の直接的な削減と合わせて、ハイテク輸出の根本的要因である技術流出をなんとか防ぎたいと考えている。そのため米国は実際に不正行為をしている個別企業に揺さぶりをかける。そして中国からさらなる譲歩を引き出す。これが対中戦略の第2段階だ。

 例えば、中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)への制裁措置。4月16日、米商務省はZTEが米国の輸出規制に違反してイランや北朝鮮などに通信機器を輸出していたとして、米国企業が同社と取引することを今後7年間禁止した。17年3月にZTEは違法取引を認めて罰金11 億9千万ドルを支払うことで合意していたが、その後も米国政府に虚偽報告などを続けたという。制裁でZTEは米クアルコムなどからスマホ向け半導体などを調達できなくなり、スマホの製造中止に追い込まれた。経営陣の刷新も余儀なくされた。中国政府の働きかけもあり7月13日に制裁は解除されたが、ZTEの1~6月期の最終損益は78億元(約1300億円)の赤字になるなど経営環境は厳しい。

 敵もさるもの。米クアルコムが計画していた、オランダの半導体メーカー、NXPセミコンダクターの買収について、中国政府は独占禁止法を建前に許可を出さないという嫌がらせをした。その結果、クアルコムは7月25日に440億ドル(約5兆円)の買収計画を断念する事態に追い込まれた。計画は16年10月に公表され、クアルコムは携帯電話だけでなく、自動車市場にも足場を広げる予定だった。18年12月の米中首脳会談では、クアルコムによる買収計画が再度提出されれば、中国側は承認する方針であることも確認された。この合意の日、ZTEと並ぶ通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長がカナダで逮捕されていたことが後に判明した。同社の創業者は人民解放軍出身で、逮捕されたのはその長女だ。

 中国ハイテク産業の弱点は基幹部品である半導体だ。中国の半導体自給率は現在20%ほど。「中国製造2025」ではこれを20年に40%、25年に70%に引き上げることを目標にしている。そのために5年間で5兆円規模の投資を実施して、集積回路をシリコンチップに焼き付ける前工程の工場を国内に増やそうとしている。中国の15年の半導体の貿易赤字額は1600億ドルに達し、石油の輸入赤字よりも大きい。スマホの輸出大国となった中国だが、輸入した基幹部品を組み立てて輸出しているにすぎず、その付加価値は小さい。

 半導体自給率向上の先兵の1社が福建省晋華集成電路(JHICC)。同社は福建省晋江市に半導体メモリーの前工程工場を建設中だが、10月29日、米国政府は同社に対する米国企業の輸出制限措置を発表した。JHICCの新型メモリーチップによって「米軍システム向けにチップを提供する米企業が脅かされる『重大なリスク』がある」(米商務省)ためだ。米半導体大手マイクロン・テクノロジーは半導体設計図を盗んだとして、JHICCと台湾のユナイテッド・マイクロエレクトロニクス(UMC)をカリフォルニア州の裁判所に提訴している。台湾の対面にある晋江市のJHICCの工場は必要な半導体製造装置が購入できず、建設が中断したままだという。

 米中貿易摩擦は80年代の日米ハイテク摩擦を彷彿させる。経常赤字と財政赤字の双子の赤字に苦しむ米国と、貿易黒字を謳歌する日本という、今の米中関係とそっくりな状況にあった。世界貿易全体に占める日本の輸出シェアは80年代に10%に達し、米国のシェアを追い抜かんとしていた。中国の輸出シェアは15年に14%に達しており、9%前後の米国をすでに上回っている。パソコンやスマホなど情報・通信機器に至っては世界輸出の40%前後を中国が占めており、米国にとっては看過できない事態になっている。

 日米ハイテク摩擦解消に向けた交渉の始まりは85年1月2日のレーガン大統領と中曽根首相の日米首脳会談だった。ここで電気通信、エレクトロニクス、医薬品・医療機器、林産物の4分野について「市場重視型個別協議(MOSS協議)」を開始することが決まった。日本は協議を通じて関連製品の関税引き下げなどを余儀なくされ、市場を米国に開放していった。

 MOSS協議とほぼ平行して85年8月に始まったのが日米半導体協議だ。これは米半導体工業会(SIA)やマイクロンが日本の半導体をダンピングで提訴したことから始まった。協議で米国側は米企業による日本市場へのアクセス改善を要求。86年9月には日米半導体協定が結ばれ、米国製半導体の日本でのシェアを20%にするという「努力目標」が日本に課せられた。こうした米国の圧力に加え、韓国勢の台頭、さらには経営の失敗などもあり、日本の半導体産業は衰退の道を歩む。

 米国は日本製スーパーコンピューターなども狙い撃ちした。日本企業が85年に米国立大気研究センター、87年にマサチューセッツ工科大学のスパコン入札で落札したが、米国政府の圧力でキャンセルとなった。その後も日本製スパコンは米国市場から締め出され続けた。米国は自国の巨大な市場へのアクセス制限を武器に、日本に市場開放を迫り、それでも米企業のシェアが増えないと、89年には日本の商習慣の改善など非関税障壁の解消を狙った日米構造問題協議を開始した。 


個別企業の締め上げ

そして為替

 そして貿易交渉とは別に問題として議論されたのが為替だ。85年9月、日米に英仏独を加えた先進5カ国(G5)はニューヨークのプラザホテルでドル高を是正する「プラザ合意」に至った。これを受けて当時1ドル240円前後で取引されていた円は2年後には120円に価値が高まった。2倍に為替レートが切り上がった形で、悲鳴を上げた日本企業の海外移転が加速した。90年代には株式、不動産のバブルも崩壊し、日本経済は「失われた10年」に突入していく。

 米中貿易摩擦もその根底には人民元問題がある。米財務省は半年に一度、貿易相手国の為替操作の状況をレビューする報告書を発表している。2百億ドル以上の対米貿易黒字、国内総生産(GDP)比3%超の経常黒字、繰り返し行われる為替介入による自国通貨安誘導の3条件を満たす国を為替操作国に認定し、認定されると高関税などの制裁措置が取られる。

 米財務省は10月17日に公表した報告書では中国の為替操作国認定を見送った。3つの条件を満たさないためだが、その一方で監視対象国指定は維持した。人民元のレートは現在1ドル=7元弱。18年3月の時点からは10%ほど元安に振れている。ということは米国の関税引き上げはある程度、人民元安によって相殺されていることになる。中国の為替制度は管理変動相場制に05年に移行したが、まだ完全変動相場制ではない。約30年前に米国が日本にプラザ合意を迫ったように、いずれ中国には人民元の切り上げを要求してくるだろう。貿易戦争は為替戦争と表裏一体の関係にある。

 米中貿易摩擦について、日本ではトランプ政権の保護主義的なやり方に批判的な意見が多く、「自由貿易体制」を日本のイニシアチブで維持すべきであるとの論調が正論のようだ。報復的な関税の掛け合いは米中間の貿易だけでなく世界貿易の縮小を招き、世界経済の成長率鈍化につながるというロジックだ。しかし米国は議会も含めて成長を犠牲にしてまで、中国による覇権への挑戦を挫こうとしているのだ。日米ハイテク摩擦は日本企業のアジア投資を促進し、結果的に中国や東南アジアは恩恵を受けた。日本は米中摩擦を奇貨とすべく知恵を絞るべきだ。

Pr o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



  • DEGITAL DATA SOLUTION
コメントをシェア

骨太対談
DEGITAL DATA SOLUTION
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top