トピックス -企業家倶楽部

2019年03月12日

ロジカルかつ情熱的な挑戦者/松本恭攝の人的ネットワーク

企業家倶楽部2019年4月号  ラクスル特集第5部


リーマンショック後の2009年に、縮小の続く印刷業界に打って出た松本を知る人は皆、「ロジカルかつ情熱的な人物」と口を揃える。綿密な戦略によるビジネスの手法もさることながら、現場を歩く泥臭さ、事業への熱き想いも兼ね備える松本。彼は、思い描く「より良い世界」に向かって今日も翔ける。(文中敬称略)



ロジカルで美意識の高い経営者


ロジカルで美意識の高い経営者


A. T. カーニー日本法人会長 梅澤高明 Takaaki Umezawa

 世界的な経営コンサルティング会社A.T.カーニー日本法人会長であり、テレビ東京の人気番組「WBS」のコメンテーターも務めるなど、多忙を極める梅澤高明。松本と出会ったのは、2007年春のことだ。

 大学卒業後、「幅広くビジネスを勉強したい」とA.T.カーニーに就職を希望した松本。その入社内定を祝い、二人でランチをしたという。初対面の梅澤に「入社したら3年以内に辞めて起業します」と熱く語る松本に、「やんちゃな青年だな」という印象を抱いた。そのくらいの方が頼もしいと好感をもったが、3年どころか1年で退職し、起業することになるとは思わなかった。

 A.T.カーニーに入社した松本だが、梅澤と一緒のプロジェクトで働く機会はなかった。1年で退職するときも、梅澤に相談・報告することはなかったという。

 その後二人はG1サミットという経営者イベントで再会し、梅澤が食事に誘ったことから交流が復活した。

 ラクスルのビジネスモデルについては「『仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる』というビジョンを体現している。印刷や物流は古い業界慣行が残る地味な産業で、かつリアル世界でのプロセスの比重が高いため、インターネット企業があまり手を出さなかった分野。アナログな産業であることに加えて、プレイヤーの数が多く、かつ多重構造になっている。だからこそ効率化の余地も大きいB2Bの領域だ。ここにインターネットを活用し、非連続な効率化、最適化を実現しているのは素晴らしい」と梅澤は評する。

 そして「ラクスルは顧客中心デザイン(ユーザー・セントリック・デザイン)を徹底的に追求しており、コンセプトやビジネスモデルの秀逸さに留まらず、優れたユーザーエクスペリエンスを実現していることが、ビジネスの成果に繋がっている」と説く。

 多忙を極める二人だが、年に数回は会食をするという。お互い現代アートが好きということもあり、アートの話で盛り上がる。最近は青山のフレンチレストラン「ナリサワ」で食を楽しんだという二人、美食も共通の趣味であろう。

 
 18年、経済産業省・特許庁は「デザイン経営宣言」を発表したが、梅澤はこの研究会の委員を務め、報告書のドラフト起草のコアチームメンバーとして活躍している。クライアントにはデザインを活用したイノベーションの支援をすると同時に、このテーマでカンファレンスなどにも登壇している。

 ラクスルは「デザイン経営」を実践するスタートアップとして、先進事例の一つ。梅澤が企画したパネルセッションに松本が登壇したこともあった。そうした経緯から、最近は「デザイン経営」のテーマで一緒に活動することも多いという。

「彼は頭脳明晰なのは言うまでもないですが、好奇心と学習意欲がとても旺盛。普段は冷静な語り口ですが、事業の将来や趣味の現代アートについて語る時は、胸に秘める強いパッションを垣間見ることがしばしばあります」と梅澤。「ロジカルな頭の良さと美意識の高さが両立しているところが凄い」と語る。

 今後の成長について梅澤は、「大きなビジョンを大事にして、ぶれずに業界変革を追求し続けることが大切」とアドバイスする。そして最後に「B2Bの産業分野を抜本的に変革する骨太なスタートアップとして、また『デザイン経営』を体現する先駆的企業として、大いに活躍して欲しい」と結んだ。



共に戦い続ける親友


 共に戦い続ける親友


投資家 佐俣アンリ Anri Samata

 投資家として活躍する佐俣アンリと松本との出会いは大学時代に遡る。同じ大学でキャンパスも学年も同じというのに、大学構内では会ったことがなかった二人。初対面は2007年、ドリームインキュベーターのインターンシップでのことだった。

 大学生が60人集まり、指導を受けながらコンサルティング業務の体験をするというプログラムは、佐俣曰く「自分は頭が良いと思っている学生が集まる武道大会」。そんな優秀な学生たちの中でも松本は、図抜けてロジカルで頭が切れ、自分の言葉で語ることのできる男であった。「論点の整理が上手く、議題を明快に切り分けていくので、結果的に松本さんがリーダーシップをとる形に収束した」と回想する佐俣。当時、意気投合した面々とは、今でも交流が続いている。

 お互いに就職後少し経った09年、突然松本から興奮気味に電話がかかってきた。「会社を辞めたよ。起業する」。リーマンショック後で日本経済が動揺する中、「おめでとう」と声をかけた。「チャレンジする人にかける言葉はそれしかない」と佐俣は言うが、松本の宣言に「おめでとう」と返したのは佐俣一人だったという。

 こうして二人は急速に親密になり、事業について議論するメールが日々飛び交った。松本から送られてくるのは、長文と膨大な添付資料。ミーティングの翌日には、綺麗なパワーポイントが仕上がっていた。

「いかにもコンサル出身という感じでしたね。あなたが作るのはパワポじゃなくて事業だよ、とよく冗談を言っていました」

 佐俣は、ラクスルの立ち上げにどんどん関わっていった。創業期のラクスルにとって、彼が紹介した友人や同級生、後輩たちの存在は大きかったと言える。ただ、佐俣が言うように、当時の松本が「とにかく暴れん坊」だったのも事実。佐俣は、松本と社員の間に入ってお互いの話を聞く役回りも務めた。

 ラクスル創業時は、言わば学生ベンチャーの雰囲気があり、同年代の優秀かつ情熱的な若者が集まっていて勢いがあった。当然、会議を開けば紛糾することもしばしばだったが、その中で最も吼えていたのは松本だ。創業時から、口を開けば飛び出すのは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」との想い。佐俣が抱いた松本の第一印象は「ロジカルで頭が切れる男」であったが、共に行動する中で「彼はロジックよりも情熱が勝る。情熱にロジックを後付けできる男だ」と認識を改めた。

 投資家としてもラクスルに関わる佐俣。ある時、印刷事業がまだ黒字化していないにもかかわらず、松本が新規事業を始めたいと言い出した。株主が全員反対する中、佐俣は一人、こう説いた。

「私は創業期から見てきましたが、ラクスルは『産業構造を変えるような何かを作りたい』という松本さんの情熱のタネを育てる会社です。松本という男の『やりたい』を正当化してきた会社なのです。だから今回も、条件を付けてやらせてみてはいかがでしょうか」

 創業経営者が「やりたい」と言う事柄には何らかの意味がある。それが投資家、佐俣アンリの信条だ。優秀な企業家にしか、未来は切り拓けない。共に戦い続ける親友として、ライバルとして、二人はお互いを意識する。

「私は日本のトップファンドを目指しますから、松本さんはトップカンパニーを目指してください。そしてその後は、一緒に世界へ羽ばたきましょう」と松本にエールを送った佐俣。二人の友情と信頼は厚い。



地に足がついたキレのある経営者 


地に足がついたキレのある経営者 


ストライプインターナショナル社長 石川康晴 Yasuharu Ishikawa

「今、一押しの経営者を紹介してください」という依頼に「ラクスルの松本社長」と即答したのは、ストライプインターナショナル社長の石川康晴だ。

「ラクスルは印刷業界にイノベーションを起こしているが、ある意味旧態依然とした斜陽産業で、ベンチャーが興味を持たないような業界に、改革心を持って挑んでいるのはスゴイ!」と絶賛する。中小企業が多く、古い体質が残る印刷業界にイノベーションを起こすのは並大抵のことではない。そこにチャレンジすること自体、松本は他と違うベンチャーなのだと石川は説く。

 二人の出会いは1年ほど前、アットコスメでお馴染みのアイスタイルの役員会でのことだ。石川は約2年前、松本は1年前から同社の社外役員を引き受けているが、「ロジカルでキレのある発言をするスマートな人」と強い印象を受けたという。石川48歳、松本34歳と一回り以上違うものの、「歳の差を全く感じない尊敬できる人」と石川は評す。

「ド真面目で仕事好きな人ですね。今のIT系の若いベンチャーは楽しい話が好きだが、松本さんは9割がビジネスの話題。地に足がついている」

 シェアリングビジネスの先駆けとしてシステムを構築し、斜陽産業のソリューションに果敢に挑む姿に感心する石川。彼もまた古い体質の残るアパレル業界で、セレクトショップからSPAに転換し、サブスクリプションビジネス「メチャカリ」、飲食店やホテルが併設された「koetokyo」、ネットショッピングのプラットフォーム「ストデパ」など、さまざまな分野にチャレンジ、アパレルからライフスタイル業へと変身を遂げてきた。

 松本は、その石川をして「彼はロジックがしっかりしていて新たな価値観をどんどん創造していくタイプ。世の中を良くしていこうという意欲に溢れる、地に足ついた企業家」と語らしめる。

 今やネット時代だが、松本はFAXを使う。それはネットに馴染んでいない印刷会社に合わせてのことだ。自分主義ではなく相手の立場に合わせる柔軟性があるという。

 深センやシリコンバレーなど最先端の情報を持ちながらも、行動は地道。印刷業界は6兆円市場と言われており、「今後も着実に成長していくのでは」と、その成長性に期待する。

 松本の行動で石川が感心するのは、そのリサーチ方法だ。それは、アンケートや面談ではなく現場を観察してソリューションを導き出す「観察論」だという。「観察論においては日本で一番」と、石川は絶賛する。

 ラクスルは印刷業界のソリューションとして名高いが、今度は「ハコベル」事業を通して、運送業界の構造改革にもチャレンジしている。そのために松本は3日間、トラックの助手席に座り、ドライバーの行動を観察したという。そこから誰も気付いていない課題を見抜くのだ。

 アースミュージック&エコロジーなどのリアル店舗を展開する石川は、自分でも店頭に立つことがあるが、「松本さんにぜひ店を観察してもらいたい」と語る。

 仕事第一の二人だが、お互いにアート好きであり、地方創生にも熱心だ。石川の故郷愛はつとに有名だが、松本からは地方創生についての質問が多いという。メセナ的活動に目覚めているのであろう。

「若くしてIPOを果たしているが、全く浮足立っておらず、一緒にいて安心感がある。ぜひ松本さんしかできないソリューションに挑み続けて欲しい」とエールを送った。



戦略性と人間性の掛け算


戦略性と人間性の掛け算


リーディングマーク代表 飯田悠司 Yuji Iida

「すごくノリが良い方」

 松本の第一印象についてそう語るのは、人材マッチングサービス「レクミー」などを手掛けるリーディングマーク代表の飯田悠司だ。大学時代に所属していたサークルで松本の後輩であった飯田は、当時から彼の行動力や人柄に触れてきた。

 サークルでは日本、韓国、中国から学生を募り、1週間に渡って寝食を共にしながら、チームを組んでビジネスプランを考案し、プレゼン大会を行うイベントを開催。当時から飯田は、松本の戦略性の高さと、相手の懐に入ってすぐに密な人間関係を構築してしまう人間性に魅力を感じていた。

 サークルにおける松本の担当は、イベント参加者の集客であった。彼はイベントに集めたいターゲット層や、アプローチ方法を戦略的に分析。最良の方法とは何か仮説を立てると、躊躇なく実行に移した。「授業に飛び込んで告知をするなど、戦略を立てて終わりではなく、人を巻き込んでの行動を伴うバランス感覚に当時から長けていた」と飯田は回想する。

 戦略性と人間性を兼ね備えた松本の人柄は、ラクスルにおいても強みとなっている。元々彼が創業したきっかけは、コストカットの余地がある印刷費への着目から、「ファブレス経営によって消費者に安く印刷物を届けられるのではないか」という戦略的な着想に端を発する。にもかかわらず、印刷業という古い業界の中で各印刷会社と密な関係を構築したり、老舗印刷会社の出身者を会社に迎えたりと、その経営手法は思いのほか泥臭い。

 様々なバックグラウンドを持つ人と一つの目標に向かい、協力体制を築いていく能力や、常に問題意識を持って行動する姿勢などは、学生時代から現在に至るまで一貫している。

 今でも定期的に飲みに行くという2人。飯田は松本に会うたび、その進化のスピードに驚かされる。松本は計画を実践に移す際、持ち前の行動力を生かして、第一人者に自ら教えを請うことが多い。ヤフーからの出資を受けた際にはウェブ事業の立ち上げ方を学び、東南アジアや台湾のユニコーン企業の経営者と関係を築くと、そこから貪欲にアイデアを吸収した。

「ビジネスモデルが硬直している印刷業界に変革をもたらすだけでなく、物流、広告と異業種へ事業を拡大し、大手には出来ないような新たな選択肢を提供していく姿勢は勉強になります」

 飯田は同じ経営者として、松本から助言を受けることも多い。5年ほど前、事業は着実に成長しているものの、「世の中を変える」という本来の目標になかなか手が届かない状況にあった時、松本からもらった「人から学んだことを通じて物事の考え方を磨き、人やお金を効率良く生かしていった方が良い」というアドバイスが印象に残っている。飯田は「世の中の優れたやり方を常に自ら学び、それを自分のものとして内部化することが大切だ」という松本の言葉をいつも心に留めている。

 現在の松本に対して、「ビジネスマンとしての尖った部分を持ちながら、人間的な丸さも増してきており、よりバランスが取れた経営者として進化している」と日々変化を感じている飯田。そんな彼にとって、松本は追い続ける目標だ。少し追いついたかと思うと、以前の数倍先にいる。だからこそ刺激を受け、「もっと頑張らねば」と鼓舞される。

「これからも大きくてカッコいい背中を見せ、憧れの存在であり続けてください」



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