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2019年03月14日

「食の職人」+経営者/「365日」オーナーシェフ ウルトラキッチン代表 杉窪章匡

企業家倶楽部2019年4月号 先端人

高島屋新館の顔として

 今、日本橋が面白い。銀座に続く中央通りは続々と高層ビルが立ち、再開発が進む。中でも2018年話題となったのが、9月にオープンした日本橋高島屋新館のショッピングセンターだ。115店舗が展開する中、その目玉として1階入り口正面に出店したのが「365日と日本橋」である。

「365日」といえば、個性派オーナーシェフの杉窪章匡氏が率いる人気ベーカリーだ。それが日本橋高島屋新館の顔として選ばれたのだから驚いた。約3年前から出店要請があったというが、敏腕プロデューサーが杉窪氏を口説き落としたことになる。それはまさに正しい選択だったといえよう。

「日本橋の朝をつくる」という触れ込みで、朝7時30分からオープンしているが、目玉は「365日と日本橋」である。9月25日の開店以来、杉窪氏のパンを求めて行列が続き、連日夕方の16時には完売となる。


高島屋新館の顔として

パン屋だけでない「365日」

 そんな人気のパン屋とはどんな店なのか。代々木公園の「365日」をご存じない向きに少し紹介しよう。

「こんなパン屋さん、初めて!」。13年12月、東京・代々木公園に、「365日」がオープンした時、誰もが叫んだ。オーナーシェフの杉窪氏が創り出したのは、パン屋ではない「食のセレクトショップ」である。

 ベーカリーというより老舗の和菓子店を思わせる店構え、店名の「365日」は、「毎日の食事こそ身体にも心にもいいものを食べましょう」という想いを込めて名づけたものだ。表の看板には365日の下に「食+食-食× 食÷食」という数式が書かれている。これまで見たこともない常識破りのパン屋が出現したと話題を呼んだ。


パン屋だけでない「365日」





 引き戸を開けて店に入ると目に飛び込んでくるのは、3種の食パンやバゲットなどの食事パンである。ブティックのようなショーケースには、ソンプルサン、カレーパン、あんぱんなど60種類のパンが並ぶ。いずれも小ぶりだが洗練されており、ここにしかない形、味わいを持つ。

 店内には、コメ、コーヒー、オリーブオイル、そして食にまつわる道具や器も並んでいるが、これらは杉窪氏が全国から選び集めたものだ。カウンターではパンだけでなく、朝は焼魚など和定食も提供する。「パン屋という括りでは見ていない」と杉窪氏。自分はパン職人ではなくまさに「食の職人」だというのだ。



「365日と日本橋」

 それから5年、日本橋に「365日と日本橋」が登場した。和風の設えやパンの品揃えは、代々木公園とほぼ同じだが、「前田さんのキタノカオリ」や見た目も美しい「レモンミルクフランス」は、この店限定だ。奥には10席のイートイン席もあり、朝食やランチに対応する。

 そしてここにもコメや調味料など、杉窪氏のお眼鏡に適った日本全国の「いいもの」が並ぶ。

「もったいない!パンをもっと並べた方が」と思うところだが、「パンだけ置いたら、パンを買う人しか来てくれないでしょう」と杉窪氏。なるほどと納得する。


「365日と日本橋」




本質を追求する異端児

 水分をたくさん含み、みずみずしい杉窪氏のパンは独創的で衝撃的だ。あまりミキシングせず素材の味を生かしきる。従来製法のパンづくりに疑問を投げ、本質を追求、自分流を貫く杉窪氏は、パン業界の重鎮から「あれはパンではない!」と否定されることもあった。

 しかし、慣習で続けているパンづくりの工程に、「それは本当に必要か?」と、独自路線を貫く杉窪氏。「その考え方が面白い、パンも美味しい」と評判を呼び、今や人気店としてファンを呼び寄せる。

 こうした異端児の原点は小学校時代に生まれたという。「僕は小学生のころから学校教育を放棄してきたから洗脳されていない」。常に何が本質かを考えてきた。従っていろいろ言われても科学的に正しいか、根拠があるかを見てきたという。

 365日では小麦粉も副材料も限りなく国内産を使用。ジャムや、あんこ、カレーなどのフィリングも全て自家製。「コーヒーも自分で焙煎したい」と、16年には1号店近くにカフェ「15℃」をオープンさせたほどだ。さらに「安全で体に良いものを」と、ベーコンやソーセージ、スモークサーモンも自家製にこだわる。まさに「食の職人」を実践する。

 杉窪氏が創り出すパンは優しい味がする。一つひとつの素材を吟味、納得のいくものだけを使い、味への追求に妥協はない。「その工程は必要か」と常に本質を問い、美味しさ、食べやすさの追求に余念がない。


本質を追求する異端児

プロデューサー杉窪

 杉窪氏の凄さは「365日」「15 ℃」「ジュウニブン」「365日と日本橋」の4つの直営店を成功させているだけではない。そのプロデュース力にある。1店舗目の「365日」オープン前から、ウルトラキッチンを設立、名古屋や九州などカフェベーカリー数軒をプロデュースした。「365日」が評判を呼ぶと、さまざまなところからプロデュース依頼の声がかかった。16年にオープンした、イオンスタイル碑文谷と池袋東武百貨店の中にある「サンチノ」もその一つだ。懐かしいレトロなパンも杉窪氏の発想でリメイクすると、ユニークで面白いと評判となっている。

 直営のカフェレストラン「15℃」は、その店構え、内装、店名にいたるまでユニークだ。世界の平均気温は15℃というところから名付けた。

「世界は皆繋がっていることを意識して欲しい」という意図がある。ここはこだわりのコーヒーはもとより、本格的料理、パン、菓子、そして雑貨も取り扱う。朝7時から夜23時までオープンしているが、一日中使い勝手の良い店として賑わっている。

 さらに18年春には新宿の京王百貨店に直営店「ジュウニブン」を出店。店名にも、メニューにも杉窪流を炸裂させている。


プロデューサー杉窪

世界からインプット

 そのユニークな発想はどこからくるのかと問うと、本から学んだり、国内外を食べ歩くことで常にインプットしているという。今、関心があるのは「行動経済学」という杉窪氏。4店舗を経営するリーダーとしての顔を覗かせた。

 
 18年はエチオピアとベルリンを旅したという。エチオピアはコーヒー豆の産地だ。コーヒーにこだわり、焙煎機まで導入しているほどだから、学ぶことが多かったろう。ベルリンは「新旧の文化が混在していて、最先端をゆく街」と評する。

 そしてこの2月には北欧を視察するという。「コーヒーも料理も今やフランスやイタリアではなく、北欧が進んでいる」と目を輝かせる。「世界ベストレストラン50」で1位に4度も輝いた「noma」があるのはコペンハーゲンだ。「北欧家具やカフェ文化などいろいろ吸収したい」と語る。帰国後のアウトプットが楽しみだ。

 いまや「365日」以下4つの直営店を展開する杉窪氏、今年の年商は7億円になるという。今46歳だが、「50歳までには10億円を目指したい」と語る。ただ、2020年には大型のカフェを出店したいと目論んでおり、売上げ10億円はすぐにも達成するであろう。

 パート・アルバイトを合わせるとスタッフは140人に及ぶが、そのリーダーとして、働きやすい労働環境を守るのも重要な仕事だ。


世界からインプット


 だからこそ「365日と日本橋」は、夕方に完売しても、それ以上はつくらない。今の状態で無理して強行すればスタッフが疲弊し、効率が上がらず、誰もハッピーになれないという。

 個人店として創業して5年。ここまで成長できた秘訣は、組織づくりにあると杉窪氏。独立する前から組織づくりに着目、デザイナー、広報、ブランドマネージャーなどを置き、組織力を強化してきた。そこにはまさに敏腕経営者としての一面がある。

 多忙な中でも、「新麦コレクション」の副理事長として、生産者と作り手、そして消費者をつなぐ活動にも熱心だ。「次は農業をやりたい!」と夢を語る杉窪氏。「自分が使う材料は自分で作りたい」という熱い想いがあるからだ。既に郊外に土地を確保、スタートさせている。まずは小麦づくりに挑戦するというが、自分で育てた小麦でどんなパンを創り出すか楽しみだ。

 日本の食材にこだわり、日本のパンに特化、独自の路線を切り拓く杉窪氏。「菓子パンや惣菜パンはまさに日本の食文化そのもの。いずれ世界に受け入れられる。もっと日本のパンに自信をもつことが重要」と力を込める。

 両祖父が輪島塗の職人という杉窪氏には職人としてのDNAが息づいている。「食の職人+経営者」として、独自の食文化創りに挑むサムライは、まさに時代の先端人なのである。



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