トピックス -企業家倶楽部

2019年03月15日

日本を動物先進国に/DogHuggy CEO 長塚翔吾

企業家倶楽部2019年4月号 出でよ!ガレージベンチャー 1


 犬との生活は楽しい。愛らしく、飼い主に忠実で気持ちに寄り添ってくれる。ただ、出張や旅行の際には、代わりに世話をする人が必要だ。これまで、預ける先がなければペットホテルという選択肢しかなかったが、他の犬と同じ空間に置かれたケージの中で愛犬が過ごすことに抵抗のある飼い主も多い。この問題を解決し、犬を預けたい人と、自宅で犬を預かりたい人をマッチングするシェアリングサービスを提供しているのが、22歳の若き経営者、長塚翔吾率いるDogHuggy(以下、ドッグハギー)だ。



預けたい人と預かりたい人をマッチング

 ドッグハギーは主に関東圏で、宿泊を伴った犬の預かり、数時間のショートステイ、散歩のマッチングサービスを展開している。ドッグホストと呼ばれる個人の家で犬を預かってもらえるため、愛犬に快適な環境を提供できると評判だ。

   サービスの利用はドッグハギーのサイト経由で行う。犬を預けたい人は会員登録後、近隣のドッグホストを探す。ドッグホストのページには飼育経験年数、注意事項などの詳細や写真に加え、利用者のレビューまで掲載されている。

   初めてのドッグホストに依頼する場合には、サービス利用前にドッグホスト宅で犬を伴った事前面談を行い、飼い犬について伝えておきたいことなどを直接伝えられる。実際に会って納得した上でサイトから予約、サービス開始となる。サービス期間中は毎日、サイト内メッセージで愛犬の写真付きレポートが届く。ドッグホストによって違いはあるが、利用料は犬種に関わらず、1泊6500円前後だ。

   犬の預かり手であるドッグホストは現在70名ほどで、ドッグハギーの厳しい審査を通過した愛犬家のみ登録されている。現状は事情があって飼うことが出来ないものの、ドッグホストとして犬と関わり続けたい人が多いという。

   ドッグホストの審査は2段階。1次の書類審査では犬の飼育知識などを問う記述試験、2次は書類審査を踏まえたビデオ通話による面談審査と、同時に犬を預かる部屋の確認が行われる。現在の合格率は1割弱と狭き門だが、難関を突破したドッグホストだからこそ安心して愛犬を預けられ、リピーターが多いのが特徴である。


 預けたい人と預かりたい人をマッチング

高校卒業間際に起業

 ドッグハギーは2015年2月、長塚が高校3年生の時に起業した。彼は幼い頃から大の犬好きで、獣医を目指し、獣医学部のある麻布大学附属高校に進学。そんな中、大学との交流授業で動物福祉の講義を受講した際、日本におけるペット環境の後進性、犬の殺処分が1万件もあるという事実にショックを受ける。

「この問題の本質的な解決に取り組むためには、寄付などに頼ったNPOでは難しい。営利企業として継続的に関わっていく方が社会貢献になるのではないか」

   そんな考えが、長塚の頭には浮かんだ。折しも高校3年生に進級し、進路希望調査が行われる時期。長塚は「獣医だけが犬のためになる選択か」と自問自答を繰り返した。

   そうした葛藤の末、「誰かに任せていては、現状は変わらない」と起業を決意した長塚。まずは家族にプレゼンした。学区外にあった高校に入るため、一家で引越しまでするほど、長塚の獣医への夢を後押しして いたからだ。しかし、家族は戸惑いながらも長塚の意思を尊重し、祖母が貯めてくれていた大学進学費用は起業資金になった。

   とはいえ、起業の方法など全く分からない。そこでSNSを利用し、手当たり次第ベンチャー企業家に連絡を取ってみると、意外にも多くの人から親切な指導を受けることが出来た。起業の苦労を知り、後進への指導をいとわない企業家は多いのだ。

   資金調達先としてベンチャーキャピタル(VC)についても教わった。コンタクトを取ると、エンジニアが加わることを条件に、サイバーエージェント・ベンチャーズから資金調達が出来た。こうして長塚は、高校卒業間際の2月に登記。15年5月からサービスを開始した。



安心安全を作る

 マッチングサービスと言っても、ウェブ上にシステムを作っただけでは何も始まらない。飼い主にとって犬は家族同然の存在であり、ドッグハギーは言わば「人と人とを繋ぐ」サービスだからだ。そのため、ドッグハギーでは「安心・安全を作る」ことに注力してきた。

   その一環として、365日24時間、電話でのサポートに対応。また、犬が第三者に噛みついたり、飼い主の物を破損したりした場合に適用される保険は費用に含まれる。さらに運営局として培ったノウハウをまとめ、ドッグホストへの勉強会も行っている。

   前述のドッグホスト審査の方法も、試行錯誤の中で生まれたものだ。サービス立ち上げ当初は、長塚自らが面談して審査を行っていたが、獣医師やドッグトレーナーなどと連携して独自の審査方法を作成した。加えて、試験に受からなかった人にも再度チャレンジしてもらえるよう、ドッグホストになるためのテキストも用意されている。

   また、ドッグハギー運営の情報サイト「ドッグハギーマガジン」では、犬のトレーニング方法や飼い主が知っておくべき知識なども発信し、飼い主の学びの場となっている。



兆円市場に楔を打つ  

 矢野経済研究所によれば、18年度のペット関連総市場規模は1兆5355億円(見込み)であり、毎年1%増を更新し続けている巨大市場だ。犬の飼育頭数は減少傾向にあるものの、約890万頭(ペットフード協会発表)と依然としてパイは大きい。まずは飼い主の大多数がいる大都市圏での展開を拡大していくことがドッグハギーの目標だ。

   日本に競合はないが、ペット大国アメリカでは同様のサービスを提供する「Rover.com」が既に1億ドル以上の資金調達を行い、18年にはソフトバンク・ビジョン・ファンドが犬の散歩代行アプリを運営する「Wag!」に3億ドル出資したことが話題となった。

   長塚は「かなり投資体力がなければ大きな成長は見込めない」としながらも、「動物と飼い主に寄り添った質の高いサービスは自分たちにしか出来ない」という自負を持っている。経営者としての若さがアドバンテージであり、中長期的な視点で戦略を練られる長塚に焦りは見えない。

   ドッグハギーが蓄積している食事や運動など犬の生活全般のデータを、将来的にはヘルスケアや医療、保険など様々な方面に活かしていく構想もある。また、ドッグハギーの利用者に向けたグッズの販売など、犬の飼い主を軸とした総合的なプラットフォームづくりも可能だろう。

「日本を動物先進国に」がドッグハギーの経営理念だ。長塚を起業へと突き動かした動物福祉問題も一朝一夕には解決できないが、「様々な施策を打つことで少しずつ世の中が良くなっていく」という長塚の信念のもと、事業を通じて「世話する力のシェア」を広めるのがドッグハギーの使命だ。「理念をぶらさず、そのために必要な事業を展開する」と表情を引き締めた長塚とドッグハギーの今後に期待したい。(庄司裕見子)



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