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2019年04月08日

起業大国アメリカ 多様化するアクセラレーター 大学系が台頭、地域・分野特化型も/梅上零史

企業家倶楽部2019年4月号 グローバル・ウォッチ vol.24


スタートアップ・ムーブメントが続く米国。中国に追い上げられているとはいえ、スタートアップ大国としての存在感は際立っている。米国におけるスタートアップ量産のエンジンの一つが、起業家を育成するアクセラレーターだ。起業家に経営指導しビジネスモデルを磨き上げ、投資家につなぐ役目を果たしている。ベイエリアのYコンビネーターが開拓した新しい投資形態だが、この10 年余りで数多くの競合が出現し多様性も増している。




 世界的なスタートアップ投資ブームが続いている。2018 年の世界のベンチャーキャピタル(VC)投資額は前年比21%増の2070億ドルに達した(米CBインサイツとプライスウォーターハウスクーパース調べ)。うち米国は同30%増の995億ドルと拡大し、全体の5割弱を占めた。中国を中心とするアジア地域は同11%増の810億ドルにとどまり、その勢いに陰りがみられる。7~9月期以降は前年割れとなっており、米中貿易摩擦が激化した6月以降の情勢と重なる。

 起業大国・米国の地位は安泰だ。CBインサイツが公表しているユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)数を見ても、米国企業が全体の約5割を占める。中国の存在感が高まっているとはいえ米国の背中は遠い。中国のスタートアップ創業者の中にも米国で教育を受けた人材は多く、起業家を生み出す文化・風土は米国が圧倒している。米国の中でもサンフランシスコ地域に本社を置くユニコーンは6割弱で、ニューヨーク地域の4倍以上。18年のVC投資額でもベイエリア(北カリフォルニア)とシリコンバレー(南カリフォルニア)合計で米国全体の5割弱を占め、13%のニューヨーク地域に大差をつける。

 米国がスタートアップを量産できる背景には、スタートアップを経営指導する「起業塾」アクセラレーターの存在がある。アクセラレーターはインキュベーション施設ほど長期間オフィスを提供しないが、3カ月とか半年間とか複数の起業家を一カ所に集めて、彼らのビジネスモデルや試作品を精査し磨き上げる。その間の運営資金を提供する代わりに、株式数%を取得するのが一般的だ。指導期間の終わりに、エンジェル投資家やVCを前に「デモデー」「ピッチ」などと呼ばれるプレゼンテーションを起業家にさせ、シード資金との出会いの場とする。アイデア段階から、投資家が出資できるほどまでにスタートアップの成長を「加速(アクセラレート)」するのが役目だ。



先駆者Yコンビネーター

 アクセラレーターの走りとなったのが05年に設立されたYコンビネーターだ。ポール・グレアム、ロバート・モリス、トレバー・ブラックウェルの3氏がマサチューセッツ州ケンブリッジで始め、シリコンバレーのマウンテンビューに拠点を移した。グレアムらは電子商取引関連のヴィアウェブを創業し、米ヤフーに売却して大金を得た。その資金で投資家に転じようと始めたのがYコンビネーターだ。

 起業家が持ち込むアイデアのどれが大成功するかは予測できない。そこでなるべく多くのアイデアに少額の資金を投じて、試行錯誤を短期間に繰り返させる。ある程度形になったビジネスモデルを、「デモデー」でエンジェル投資家に紹介する。教育プログラムは年に2回開催。起業家たちはシリコンバレーに3カ月間缶詰になって指導を受ける。Yコンビネーターは15万ドルを提供する代わりに、株式7%を得る。

 Yコンビネーターが一目置かれるのはその育成実績だ。これまで1900社以上のスタートアップ、4千人以上の起業家を指導し、企業の総評価額は1千億ドル(10兆円)を超えるという。Yコンビネーターは育成企業のうち評価額の高い百社を公開しており、筆頭は民泊仲介サイトのエアビーアンドビー。09年の卒業生で、10年たった今では評価額は約3百億ドルに達する。決済支援システムのストライプが続き、評価額は2百億ドル。3番目はクルーズ・オートメーションで、16年に米ゼネラル・モーターズ(GM)に買収され、GMクルーズとなった。4番目がデータ保管サービスのドロップボックスで、18年3月に米ナスダックに上場。現在の時価総額は約百億ドル。5つ目が仮想通貨取引プラットフォームのコインベースで、80億ドルの評価額を誇る。


先駆者Yコンビネーター

家族的経営のエンジェルパッド

 Yコンビネーターと並び称されるのがサンフランシスコに拠点を置くエンジェルパッド。ライス大学、ジョージア大学、南カリフォルニア大学の研究者が毎年実施している「アクセラレーター・ランキング・プロジェクト」では、Yコンビネーターとともにトップグループを形成している。エンジェルパッドはグーグルで製品開発などを担当していたトーマス・コルテ氏とその妻カリーヌ・マゲスカ氏が10年に設立した。ニューヨークでもプログラムを開催し、年2回、15社ずつ経営指導する。1回で百社前後を集めるYコンビネーターに比べて小規模で、その家族主義的な運営で「アンチYコンビネーター」とも称される。

 これまでの育成企業は140社以上。Yコンビネーターの10分の1にも満たないが、資金の総調達額は14億ドル。1社当たり平均1千万ドルを得ている計算だ。1期生でスマホ向け広告の取引サイト、モーパブはツイッターに7億5千万ドルで13年に買収された。買い物を代行し1時間以内に届けるサービス、ポストメイツも1期生で、ユニコーン企業だ。お薦めの場所を地図上に表示するスポットセッターはアップルに14年に買収されるなど、出口に至った企業も数多い。ドローンによる飛行・撮影を自動化したドローンデプロイは6期生で、日本ではソフトバンクも日本の販売代理店となっている。



スタンフォード大発のスタートX

 18年の「アクセラレーター・ランキング」では26のアクセラレーターをプラチナ・プラスからシルバーまで4段階にランク付けしており、そのうち9社がベイエリア(シリコンバレー含む)に位置する。ゴールド以上は約半分がベイエリア企業だ。サンフランシスコ地域にスタートアップが集中するのもアクセラレーターの集積と関係がありそうだ。

 そのベイエリアにあってYコンビネーター、エンジェルパッドと並ぶ評価(プラチナ・プラス)を得たのがスタートX(エックス)。17年の評価では一つ下だっただけに躍進が目立つ。

 スタートXはスタンフォード大学発のアクセラレーター。Yコンビネーターもエンジェルパッドもベイエリアに位置し、スタンフォード大卒の起業家を数多く育てているが、直接の関係はない。スタンフォード大といえば、フレデリック・ターマン工学部長がサイエンス・パークを整備して、卒業生が創業したヒューレット・パッカードを誘致・育成。シリコンバレーでパソコン産業が急成長する種を巻いた。スタンフォード大こそがシリコンバレーの生みの親ともいえる。ハードウェアからソフトウェア全盛の時代となり、起業の中心がYコンビネーターなどのアクセラレーターに移った今、スタートXでスタンフォード大が再び主導権を取り戻そうとしているかのようだ。

 スタートXはスタンフォード大に在学していたキャメロン・タイテルマン氏が09年に始めた。スタートXの特徴は非営利であること。スタンフォード大からの助成金やカウフマン財団やマイクロソフトなどからの寄付金で運営している。指導するスタートアップに出資をして、スタートアップが上場したり買収されたりした時にキャピタルゲインを得る、一般的アクセラレーターとは一線を画す。参加の唯一の条件はスタートアップの関係者にスタンフォード大出身者がいることだ。

 スタートX自身は自らを「アクセラレーター」ではなく、スタンフォード大の教授や出身創業者などの結びつけるコミュニティーであるとしている。タイテルマン氏はシリコンバレーの多くの創業者にインタビューした結果、彼らが失敗してもすぐに立ち直ることができるのは支援ネットワークがあるからだと判断。気軽に立ち寄れる、そうしたコミュニティーを作ることを思いついたという。スタートXは年間120社を支援し、すでに1200人の創業者コミュニティーを構築した。出口に成功した事例も出ている。室内位置情報分析技術を持つワイファイスラムはジョセフ・ファン氏が11年に創業し、13年にアップルに買収された。そしてファン氏は17年にタイテルマン氏(現会長)の後任CEOに就任している。



UCバークレーはスカイデック

 スタンフォードと並ぶ、シリコンバレーにある世界有力大学といえばカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)。UCバークレーはスタンフォード大に比べると起業家輩出という面では後塵を拝してきた。そこで起業家育成を本格化するために設置したアクセラレーターがスカイデックだ。12年に設立されたばかりだが、アクセラレーター・ランキングでは17年から2年連続でゴールドの評価を得ている。UCバークレーはスカイデックと連携するファンド(スカイデック・ファンド)を17年に設け、5%の出資と引き換えにスタートアップに10万ドルを提供している。バークレーのみならずUCのほかのキャンパスに関連するスタートアップも含めて、半年ごとに20社を受け入れる。シリコンバレーでの活躍を目指す海外のスタートアップにもワーキングスペースを提供している。

 スカイデックの卒業生で最も有名なのは電動スクーターのライムだろう。17年に設立されたばかりのライムは1年余りでユニコーン企業となった。自転車シェアからキックスターターのような電動スクーターのシェアサービスに展開する。サンフランシスコを中心に都市のラストワンマイルの移動を変革しつつある。広州市の中山大学を出てUCバークレーに留学したトビー・スンら中国人が設立したスタートアップで、ニュージーランドや英国、フランスなどにも展開し事業を急拡大している。



専門分野特化型も

 アクセラレーターは純粋な民間系を軸にベイエリアを中心に発展してきたが、次第に学生や研究スタッフを背後に抱える大学系が台頭し、そしてここ数年は専門分野に特化したアクセラレーターへと多様化している。

 ベイエリアではモノづくりスタートアップを支援するハックス(HAX)(11年設立、中国深セン市にも展開)、クラウドでソフトを提供する「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」分野のアクセルプライズ(12年設立)、企業向けサービスに特化したアルケミスト・アクセラレーター(12年設立)、バイオ分野に特化したインディーバイオ(14年設立)などがある。HAXとインディーバイオはニュージャージー州プリンストン市にあるVCのSOSVが展開するアクセラレーターだ。SOSVは地図ソフトを起業して儲けたシーン・オサリバン氏が94年に設立したVCで、ニューヨークではフードビジネスに特化したフードX(エックス)、上海では中国企業を支援するチャイナアクセラレーター、台北ではモバイルアプリ系スタートアップを育成するMOXなどを運営し、世界各地でその地に相応しい分野の起業家を応援している。

 ベイエリア以外でも医療機器系スタートアップに焦点を当てたゼロトゥー510がテネシー州メンフィスに、農業分野のザ・イールド・ラボがミズーリ州セントルイスに、エネルギー関連のサージ・アクセラレーターがテキサス州ヒューストンにある。有名な医療機関のあるヒューストンやシカゴでは医療分野を推進するアクセラレーターがある。スタートアップやエンジェル投資家を取り込もうとする、アクセラレーター間の競争は今後激化していくとみられる。総合力や専門性などそれぞれ特徴を出して、拠点を置く地域で存在感を高めていかなければ生き残れない時代になりつつある。

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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