トピックス -企業家倶楽部

2019年04月15日

金融・行政・ヘルスケアの架け橋に/日本ATM社長 中野 裕

企業家倶楽部2019年4月号 モチベーションカンパニーへの道 vol.35





 ATMオペレーションセンターを核として、ATM監視、障害対応など、ATMに関する様々な業務を行うのが、日本ATMである。長年の知識と経験を基に、現在では日本のATMの55・6%を占める約11万2200台の監視を行っている。

 同社は1999年、システムやソフトウェア開発を手掛ける日本NCRから独立して誕生。20年に渡って社を引っ張ってきた社長の中野裕は「会社というものは必ず成熟して衰退期が来る。その流れの中で成長を維持し続けるためには、新しいことに取り組まねばならない」と語る。そしてその言葉通り、日本ATMは今、大きな挑戦の真っ只中にいる。



日本初のATM

 金融機関のサービスを受ける際、各行の店舗やATMに行かなければ名義変更、口座開設はできない。利用者としてはとても不便なこの現状を打破すべく、日本ATMが目指しているのが、複数の金融機関の窓口・ATMを共同化する取り組みだ。

 まずは、ATMの共同化である。ATMには本来、複数のアプリケーションを入れることができ、複数の銀行の業務に対応できる。しかし、現在は1つのアプリしか入っていないため、1つの銀行の業務しかできないのである。そこで日本ATMは、2社のアプリケーションの入った日本初のATMを導入した。

 これにより、金融機関もATMの設置コストを大幅に削減できる。「ゆくゆくは1台で様々な金融機関のサービスを受けられるようにしたい」と中野は語る。



金融から行政まで1つの窓口で

 都心にいながら、地方銀行の氏名・住所変更を行いたい場合にも不便がある。その銀行の窓口に直接出向かねばサービスが受けられないからだ。そんな時に役立つのが、日本ATMの手掛ける首都圏型共同窓口である。30行の地方銀行の氏名変更、記帳、相続手続きなどのサービスを土日祝日関係なく受けることができる。現在この窓口は都内に東京駅店、新宿駅店の2店舗しかないが、将来的には全国主要都市への展開を予定している。

 日本ATMは都内だけではなく、地方にも目を向ける。地方は人口が減少し、地方自治体や金融機関は経営が厳しくなっているのが現状だ。そうした企業が撤退した結果、ATMだけが取り残されているところも散見される。

 しかし、「地方にはシニア層が多い。そのため、ATMよりも窓口のような有人サービスを受けたいという要望がある」と中野は語り、そのニーズに対応するために地域型の共同窓口を計画している。

 今後は一般的な金融機関のサービスに加え、戸籍謄本や住民票など、証明書交付の行政サービスを全て郵便局の窓口で受けられるようにする予定だ。これが実現すれば、利用者の利便性に貢献できることは間違いない。



行政と金融機関のハブになる

 行政と金融機関にとって敬遠したい業務に、預貯金照会と税公金収納がある。これらの業務は、行政と金融機関の間で何度もやり取りをしなければならず、コストも労力も大きいからだ。そこで日本ATMは両社の間に立ち、ハブとして機能することで作業の効率化を図っている。

 預貯金照会業務は、生活保護の支給や納税の督促をする際、該当する人が口座を持っているか否かを行政が確認するため行われる。したがって、行政はそれぞれの金融機関に個別で照会をせねばならず、金融機関としても一つひとつの照会にその都度応じなければならなかった。

 このような非効率な作業を無くすべく、日本ATMは「預貯金照会システムDAIS」を導入。これによって預貯金照会が集約でき、行政・金融機関が一括で照会・回答を行うことが可能となった。

 税公金収納において、日本ATMは2つの部分で関わっている。1つ目は、地方自治体の受付への税公金セルフ収納機の設置。これにより、職員の業務負担を軽減するだけでなく、「お金が合わない」といった現金事故を減らすこともできる。

 2つ目が、税公金業務仕分け処理のシステム化である。税公金業務も預貯金照会業務と同様、行政と金融機関の間でやり取りをしながら行うため、複雑化している。そのやり取りを全て日本ATMが担うことで、税公金業務における行政と金融機関の負担軽減に繋がる。

 日本ATMは、地域の自治体や金融機関、企業と協力してキャッシュレスの地域通貨発行も計画している。この施策は、単に地域の電子マネーインフラを形成するだけではなく、もう一つ大きな狙いがある。

「地域通貨のインフラに、電子決済のWeChat Payやアリペイも乗せる。そうすれば、特に中国の方々が来て買い物をしやすくなる」と中野。地域通貨の発行を契機として電子決済インフラを整えることにより、外国人観光客の購買を促し、地域経済の活性化まで見据えているのだ。



ヘルスケア領域も視野に

 日本ATMが行政の業務を担う中で、課題として出てきたのがヘルスケア領域だ。「私たちが持つ郵便局とのネットワークを使えば、何か問題解決に繋がるような取り組みができるのではないか」と考えた中野。そうして誕生したのが、「検診勧奨・予約サービス」である。ここでは、地方自治体が送った健康診断のお知らせを受け、市民が健診予約を行うのを日本ATMがサポートする。

 この際、同社はWEB予約システムから電話での予約まで全てに対応。そして、市民が受けた健康診断の結果を病院と共有する。結果が悪い人には受診勧奨の電話を、日本ATMが行っている。

 中野は「私たちの作る窓口に来れば、金融や相続に関する相談から、眼科や歯科の遠隔診療まで、様々なサービスを受けられる。そのようなネットワークができれば良いですね」と笑顔で構想を語った。



衰退期が一番おいしい

 日本政府は現在、キャッシュレス化を進めている。この流れが本格化すれば、自動的にATMは必要なくなっていく。こうした状況は日本ATMにとって逆風のように思えるが、中野は「市場が衰退していく時は、競合会社も無く、新規参入もありませんから大きな新規投資も必要ない。ATM市場にあって高いシェアを持つ私たちとしては、衰退のタイミングこそ一番収益性が上がるのです」と持論を述べる。

 だが一方で、中野はキャッシュレス化における懸念についても語った。

「キャッシュレスが完全に主流になっても、現金が全く使われなくなることはないでしょう。確かに、キャッシュレス化によって約70%の現金は削減されると思います。しかしむしろ、約30%の現金流通が残ることの方が問題です」

 現状の約30%でも現金利用者がいる限り、日本ATMとしても現在運用している現金利用インフラサービスから撤退するわけにはいかない。そのためには、AIやIoTなどの最新技術を駆使し、今以上にローコスト・オペレーションを行えるかが勝負の鍵を握る。

 今後の展望について中野は「現在、日本ATMの収益は9割がATM監視業務です。ですが今後はATMが5割、行政が2割、ヘルスケアが3割という収益構造に持っていきたい」と語る。そして、「日本ATMとして取り組みたいのは地方創生です。地方ごとに課題も違いますし、変化を望むか否かも自治体次第。私たちはそれぞれに対して、一番良い環境を提供したい」と続けた。

 金融・行政・ヘルスケアを結び、地方創生をも目指す日本ATM。今後のチャレンジに期待したい。



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