トピックス -企業家倶楽部

2019年04月16日

eスポーツを通し価値を生み出したい/Samurai 工房 代表取締役 高野大知

企業家倶楽部2019年4月号 出でよ!ガレージベンチャー 2





 このところ、「eスポーツ」という言葉を聞く機会が多くなった。コンピュータゲームでの対戦競技をスポーツと捉えて生まれた造語だが、「たかがゲーム」と侮るなかれ。日本経済新聞(2018年10月5日付)によると、世界における競技人口は現在1億人超。その市場規模も、16 年の4億9300万ドルから、21年には16億5000万ドルまで急拡大する見込みだという。

 こうした潮流の中、プロゲーミングチーム「クレイジーラクーン」を運営しているのがSamurai工房と、その代表を務める高野大知だ。クレイジーラクーンには15名の個性豊かなプロゲーマーが所属。高野はチームのTシャツやキーホルダーといったグッズの製作・販売を行う他、プレイヤーたちの健康面・精神面のサポートも手掛ける。



全世界2億人がプレイ

 数多あるゲームの中で、クレイジーラクーンが「戦場」に選んだのは、現在世界中で大ブレイク中の「Fortnite(フォートナイト)」だ。

 ゲームの趣旨は至って簡単。プレイヤーは、約100名のライバルたちと共に無人島へ降ろされる。そして、島中に散らばった武器やアイテム、資源を早い者勝ちで奪いつつ、それらを駆使して最後の一人になるまで戦い抜くというものである。多人数で戦うため、背後から突然銃撃されることもしばしば。そうした心理戦の中で100人の頂点を極めるのは至難の業だ。

 フォートナイトの特徴的な要素が、建築である。その名の通り、自由自在に壁や階段を作ることができる機能で、ライバルたちより高い場所から狙撃するなど、戦略性と創造性が試される。

 クレイジーラクーンがこのゲームを選んだ理由の一つは、ユーザー数の圧倒的な多さだ。17年9月の正式配信開始からわずか1年余りで、登録プレイヤー数は全世界2億人を突破。この数は現在も増え続けている。

 この爆発的な広がりの要因としては、あらゆるゲームプラットフォームに対応していることが大きい。パソコンやスマートフォンの各OSはもちろん、プレイステーション4、ニンテンドースイッチ、Xbox One といった主要な家庭用ゲーム機でもプレイが可能だ。また、完全に無料でダウンロードできる上、インターネット接続を通して、どのゲーム機からでも同じ戦場で戦えるため、汎用性が高いと言える。

 銃で撃たれても血が出ないなど、暴力表現が少ないことも好感されてか、海外ではゲームに全く興味の無い人でも大人から子供まで名前を知っているほどの知名度を誇る。



賞金100億円超を奪い合う

 日本でもプレイヤー数は徐々に増えており、現在約600万人。その中でも「クレイジーラクーンにはトッププレイヤーが揃っている」と高野は自負する。事実、一試合で倒した人数の世界記録を打ち立てた選手もおり、クレイジーラクーンは日本におけるフォートナイト関連の仕事を大部分請け負う。

 クレイジーラクーンがフォートナイトに特化する理由としては、開発元である米エピック・ゲームズが大会開催に意欲を見せていることも挙げられる。19年夏秋にはフォートナイトのワールドカップ開催が予定されており、その賞金総額はなんと約110億円。海外で行われるゴルフ主要大会の賞金総額が約10億円であることを考えれば、これがいかに巨額の賞金かは一目瞭然だ。こうしたインパクトの大きさからも、今後フォートナイトが注目を集めることは間違いないだろう。



動画の広告価値を高める

 もちろんクレイジーラクーンとしては、こうした大会で優勝を狙っていくものの、彼らのビジネスモデルの本質は、賞金獲得よりも各プレイヤーが投稿するゲームプレイ動画の高い広告価値にある。大会を含む試合での戦績が重要なのは、圧倒的なゲームスキルの高さこそ、ファン層の拡大、ひいては動画の視聴者数に直結するからだ。

 これまでゲームビジネスと言えば、ゲームを開発・配信するソフトウェア市場が主流であった。しかし近年、インターネット動画サイト「YouTube」に動画を投稿し、その再生回数に応じた広告収入を得る「YouTuber」の広がりから、ゲームプレイ動画の投稿によって大きな収入を稼ぎ出すケースが増えている。言わば、ゲームによるマネタイズの方法が多様化したわけだが、クレイジーラクーンが狙うのも、投稿した動画の視聴数増加と、それに伴う広告価値の向上だ。

 クレイジーラクーンの生放送では、約1万5000人が同時に視聴していることもあり、累計再生回数となると一つの動画だけで数十万単位に上ることはざらだ。これだけの人が見る動画の中に、常に自社のロゴが貼られているメリットは大きく、ゲーム用PCを手掛けるレベルインフィニティなど、クレイジーラクーンには既に複数社のスポンサーが付いている。

 スポンサーはゲーム関連企業に止まらない。クレイジーラクーンの配信する動画は、視聴者の大部分が10~20代であることが分かっている。そのため、その層に向けて商品を打ち出したい企業であれば、必ずしも業界を問う必要は無いのだ。

 洋服ブランド「XLARGE(エクストララージ)」もそのうちの一社。プレイヤーのユニフォームをデザインしたり、普段着る洋服を提供したりしている。また、食品関連の大手企業とも話を進めているという。

 10~20代にターゲットを絞って情報を発信できることから、採用活動の一環として知名度向上のためにスポンサー契約をしているJTEKTのような企業もある。同社はトヨタグループに属する、自動車のステアリングなどを手掛ける会社だ。B2B企業ではあるが、これから就職する高校生や理系学生の目に少しでも触れたいとの思いから、スポンサーになることを決めた。



広告の常識は変わった

 多くの人の目に触れることを強みとし、広告を募って収益化に繋げるビジネスモデルは、本質的には新聞広告やテレビCMといった従来型のメディアと変わらない。ただ、動画の再生回数、視聴者の年齢層や男女比率、広告のクリック率など、あらゆるデータを数値的に見られるのがネット動画の真骨頂だ。

 テレビCMの放映には巨額の費用がかかるが、録画やインターネットでのオンデマンド放送もあるため、視聴者から本当に見られているのか効果を測定するのは難しくなりつつある。これまで唯一と言って良い指標であった視聴率も、もはや当てにはならず、10~20代はテレビをほとんど見ていないという統計データさえあるのが現状だ。

 一方ネット動画への広告は、見ている層が明白なため、ミスマッチが起こりにくく、費用対効果は高いと言えるだろう。高野も「広告のモデルが変わりつつある」とネット動画への期待を露わにする。

 ただその高野も、eスポーツ市場の行方については一抹の不安を抱く。「今でこそeスポーツという言葉が流行っていますが、これが薄れてきたらスポンサーは一気に離れ、業界が廃れてしまう可能性もある。だからこそ、私たちが動画としての価値を伝えて行かなければなりません」

 そもそも彼がクレイジーラクーンを結成したのは、未成熟な業界の現状に危惧を抱いたことがきっかけだ。「eスポーツ」への期待感だけを武器にスポンサーを集めている企業もあったが、高野はそうした在り方に懐疑的だった。

「今後の目標は、実利を把握した上で、リターンに納得して広告を打っていただける方々を増やすこと。私たちは価値を生み出したいのです。そして、クレイジーラクーンを世界ブランドにしたい」

 そう熱く語る高野の挑戦は、まだ始まったばかりだ。(相澤英祐)



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