トピックス -企業家倶楽部

2019年04月18日

産業構造を21世紀型に変革する ラクスル社長 松本恭攝 

企業家倶楽部2019年4月号 ラクスル特集第3部 編集長インタビュー


縮小傾向にあると言われる印刷業界の仕組みを、インターネットという切り口で変革し、右肩上がりで成長してきたラクスル。2018年7月期の売上高は111億7400万円と100億円を突破した。社長の松本恭攝は「生産性」の重要性に着目し、「効率的な21世紀型産業構造が所得水準をも押し上げる」との信念を持つ。プラットフォームビジネスの若きニューリーダーに、起業の経緯から経営哲学まで語ってもらった。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)



効率化で業界の構造を変える

問 右肩上がりで売上げを拡大し、2018年5月には東証マザーズに上場されました。国内は人口減で既存マーケットがシュリンクしていく中、なぜ印刷業界で起業されたのでしょうか。

松本 外資系のコンサルティング会社に勤めていた時、リーマンショックの影響を受けた大企業のコスト削減に従事しました。通信、システム開発、PR、流通など、あらゆる費用の削減を行いましたが、最も削減率が高かったのが印刷費でした。

 調べてみると、印刷業界は6兆円市場の半分を大手2社が占め、下請けとして3万社がひしめく、ダブル下請けの構造になっていることが分かりました。非効率が構造的に存在する大きな市場なのだから、変えられればインパクトが大きく、ビジネスになると気付き、09年9月に起業しました。

 印刷業界自体は確かに縮小していますが、そのほとんどが出版印刷です。チラシや名刺といった商業印刷や、封筒など事務用印刷の市場規模は大して変わっておらず、私たちはその領域で事業を展開していますので、実はそこまで影響を受けていません。

問 成長市場でなくても、インターネットで効率化を図ればシェアを取れるということですね。

松本 事業を始めた頃、印刷業界における印刷機の稼働率は4割を切るくらいでした。ならば、空いた印刷機を活用して、インターネットと掛け合わせれば効率性が高まり、お客様にもより良い価値を提供できると思ったのです。

問 ラクスルのサービスで稼働率は改善していますか。

松本 6兆円市場に対し、当社の売上高はまだ100億円ですから、稼働率にインパクトを与えるほどの数字は出せていません。しかし、リーマンショック時から需要が戻っていますし、印刷会社が2万社まで減ったことにより、印刷の値段が上がって、印刷業界全体の収益性が改善しています。稼働率は6割くらいまで来ているのではないでしょうか。

問 印刷機を持たないプラットフォームビジネスを最初から目指されていたのですか。

松本 始めから目指してはいましたが、Eコマースは大きな資本が必要なビジネスです。「印刷したい人と印刷会社をネットで繋げる」というビジネスモデルを作っただけでは、売上げは一切上がりません。売上げを作るためには、生産性を改善するためのノウハウを得たり、広告などに投資したりする必要がありますが、起業段階ではそのような投資資金は無かった。ですから3年間「価格比較サイト」を運営し、12年に資金調達が出来たタイミングで今のビジネスモデルに切り替えました。

 未上場で調達した80億円のうち、50億円がラクスル事業のための投資資金です。それくらいの資本が無ければ事業は立ち上がりません。Eコマースでは、資金が作れないタイミングでいくら良いビジネスモデルがあっても大きくはなれないのです。



破格の値段でCM制作

問 資金は何に使ったのですか。

松本 ソフトウェア開発のための採用とプロモーションへの投資です。投資額の半分近くを使って、14年6月からテレビCMを打ちました。

問 御社自身が広告事業も展開されていますね。

松本 テレビCMの制作と放映を手掛けています。スポットで地上波の希望の番組にCMを流すことも可能です。さらに、タクシー内で流れているCMも30万円程度で制作から放映まで行っています。

問 その価格は広告業界を揺るがしますね。コストカットどころか、桁が違うので驚きです。

松本 新しい仕組みですから話題にはなっています。また、新聞への折込やチラシのポスティング、制作したポスターのターミナル駅での掲示なども最低5万円からご利用できます。Eコマースで営業し、中間コストが発生しないからこそ実現できました。

問 業界の抵抗のようなものはないのでしょうか。

松本 小口案件すぎて大手は取り扱わないので、競合にはなりません。印刷も同様に大手印刷会社のお客様とは被っておらず、できるものを線引きして行っている形です。



プラットフォーマーが世界を席巻

問 起業して最初に作ったビジョン「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」はどのように誕生したのですか。

松本 大学2年生の時に読んだ「フラット化する世界」の、インターネットで世界が大幅に縮小していき、世の中で提供されている付加価値が劇的に変わっていくという内容に衝撃を受けました。「産業の仕組みそのものがインターネットによって大きく変わる」という内容が頭にあり、その言葉が出てきました。

問 ラクスルをどんな会社にしていきたいですか。

松本 大企業が製造装置を持ち、沢山の営業マンを抱えて販売するという垂直統合された20世紀型の産業構造から、今後はデジタルによって水平化、分業化された21世紀型の構造に変化していきます。その中心にいるプラットフォーマーが、当社の目指すところです。

 プラットフォーマーの飛躍は、将来の話ではなくもう既に起きています。アップル、グーグル、アマゾン、テンセント、アリババーー世界の時価総額トップ10の企業のうち、6~7社がプラットフォームの会社です。アメリカの時価総額の3分の1はこうしたプラットフォーマーで、これは日本でも必ずそうなっていきます。なぜならば、その方が生産性が高いからです。

 現状では、元請けから下請け、孫請け、ひ孫請けへと仕事が投げられるたび、手数料が抜かれていきます。ならばプラットフォームを通じてダイレクトに結びついた方が、実際に製造する人はより代金をもらえます。中間に位置していた会社は仕事を奪われるかもしれませんが、何も価値を生んでいなかったところの取り分が無くなることで、支払う側はコストが下がり、プラットフォームが需給のマッチングを上手く調整することになるでしょう。

問 ユーザーに実利があるのですね。

松本 この流れはC2Cの世界から始まりましたが、効率が良く生産性が高いので、B2Bの世界にも必ず普及していきます。私たちは目下、印刷や物流、広告の領域でプラットフォームを作っています。今後もその領域を拡大していきたいですね。


プラットフォーマーが世界を席巻

生産性向上に待ったなし

問 産業構造の転換は、色々な業界で起きそうです。

松本 もちろん無くなると困る領域は残るべきですが、デジタル化した方が良い部分は明確に変えていくべきだと思います。特に日本では人手不足の中で生産性が上がらず、賃金が上昇していないわけですから、生産性と向き合うことは非常に重要です。

 生産性が上がれば、働く人の賃金が上がる。GDPを増やすには生産性を上げるか、人口を増やすかの二択しかありません。大企業の賃金が高いのは生産性が高いからで、だからこそ大企業が中小企業を買収すると、中小企業の生産性が上がって働く人の賃金が上がるのです。私たちはそれをM&Aではなく、プラットフォームを通してできるのではないかと考えています。

問 一方、御社のサービスはFAXでも利用できるそうですね。

松本 できれば使いたくないんです(笑)。しかし、インターネットに至るまでにきっかけが必要なことも多い。日本では変化に対する拒絶感が強い印象があり、それはOECDの中で日本の生産性が一番低い要因にもなっていると思います。

問 日本人が変化を嫌うのはなぜだと思われますか。

松本 昔の成功体験をそのまま引きずっているのでしょう。「GDP=人口× 生産性」ですから、人口が増えていた高度経済成長期は、生産性が上がらなくても成長できました。その結果、自動車、製造装置、半導体など特定の産業以外は生産性を上げてきませんでした。そして、生産性向上に向き合った業種に従事する人は1割程度しかいません。

 こうした事情から、いきなり「生産性を上げましょう」と言っても響かないのです。まずは「変化なしでも、もっと上手くやれます」と、例えばFAXの効率的な活用を提案し、その後上手く行ったら徐々にインターネットに移行していくのが現実的です。



チーム経営で危機突破

問 創業してから一番大変だったのはいつですか。

松本 13~14年の時期ですね。資金調達を行い、組織を拡張していくタイミングで、採用したものの社風に合わなかったり、スキルが追いつかなかったりという人が増えて、組織がバラバラになってしまいました。

問 それをどのように変えていったのですか。

松本 当時はかなり人が辞めていきました。そこで「自分より優秀なメンバーを採用する」ことをポリシーに現取締役陣を迎え、ワンマン経営からチーム経営に変えました。彼らと役割分担をしたのが大きいですね。自分より優秀な人がいないと、結局は自分が全てのマネジメントをやることになってしまい、現状と変わりませんから。

問 何かユニークな取り組みはありますか。

松本 「プロジェクト」という取り組みを行っています。インターネット企業はいかに短期間で成果をあげるかを追求しがちですが、私たちはインターネット企業である一方で、印刷や運送など製造業の一面も持っています。製造業は事業計画も数年単位ですし、数週間で成果など絶対に出ません。産業がリアルな領域に近づくほど、小手先の取り組みは価値に繋がりづらいのです。

 私たちも成果を3カ月単位に区切って見ていた時期は、あまり上手く行きませんでした。そこで途中から、「1~2年かけた大きな改革に全リソースの50%を割く」という形に変えました。

 当社の最初の株主はミスミ創業者の田口弘さんで、非常に影響を受けているのですが、「プロジェクト」の取り組みはミスミの三枝匡さんの手法「3枚のシナリオ」を参考にしています。「本質的な原因は何か、どのようなビジョンでその課題を解決するか、具体的にどんなステップで解決するか」をプレゼンテーションし、計画した本人が半年から1年かけて実行します。これにより、カスタマーサポートの拠点移行や生産の抜本的な改善、年賀状のプロジェクトなどが実現しました。



経営者の仕事は3つ

問 どのような心構えで経営をされていますか。

松本 経営者の仕事は3つあります。1つ目はビジョンを掲げ、意思決定をして、方向性を示すこと。2つ目は資金調達や採用など、資源を調達すること。3つ目は人事と投資によって、資源を配分することです。

 資金を調達するかどうかはビジネスモデル次第ですが、会社作りが人作りであることはどの企業にも共通しています。良い組織を作ることが一番難しく、一番重要です。組織が作れない企業はすべからく売上高5億~10億円で頭打ちになってしまいます。

 また、売上げや利益はあくまで結果の数値ですから、それを目的化しない方がいいですね。本質的には、現場やお客様が喜ぶ価値を生まなければいけません。ラクスルならば顧客に対する価値が売上げで、印刷会社や運送会社に対する価値が利益に繋がります。短期的な売上げを追いかけるのではなく、「価値ある事業を作る」「組織を作る」という2つにフォーカスする。

 もし大きなスタートアップを短期で作りたいなら、資金調達に応じてくれる資本家としっかりと向き合うことも重要ですね。

問 良い組織を作るために何をされていますか。

松本 まずは採用です。採用できない人は、大抵の場合きちんと時間を使っていません。私も13~14年は自分の時間の6割くらいを採用に使いました。

問 今後、新たなプラットフォームのアイデアはありますか。

松本 ありますが、まだお話できません。楽しみにしていてください。

p r o f i l e

松本恭攝(まつもと・やすかね)

1984年富山県生まれ。慶應義塾大学卒業後、A.T. カーニーに入社。コスト削減プロジェクトに従事する中で印刷業界に注目し、2009年9月ラクスルを設立。印刷機の非稼働時間を活用した印刷のシェアリングプラットフォーム事業「ラクスル」を展開。2015年12月、物流のシェアリングプラットフォーム事業「ハコベル」開始。2018年5月、東証マザーズに上場。2018年、Forbes JAPAN 誌が選ぶ「日本の起業家ランキング」で1位獲得。



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