トピックス -企業家倶楽部

2019年04月27日

プロ意識を持った組織で社会問題解決に挑む/ベーシックの未来戦略

企業家倶楽部2019年6月号 ベーシック特集第1部


今や欲しいものがあればネットで調べ、比較し、購入できる。企業はネット上で自社サービスの情報を発信しなければ、この世に存在しないも同然であるかのようだ。必然的にウェブマーケティングの重要性は高まる一方である。しかし、社内を見渡してもマーケティングの知識があり、かつITスキルの高い人材はそう簡単に見つからないのが現状だろう。「問題解決型」のビジネスが得意というベーシック社長の秋山勝は「ウェブマーケティングを大衆化したい」という志を抱き、まい進する。自称パチプロから社長に転身というユニークな経歴を持つ企業家の挑戦を追った。(文中敬称略)



アグレッシブに挑戦する組織へ

「社員の人生の時間を会社に投資してもらっていることに返す意味でも、皆が本気でぶつかって、各人が成長を実感できる組織でありたい。後で振り返った時に良い会社で働けたなと思ってもらえると信じています。過去の失敗や学びを活かして新しい経営チームを作れたので未来に向かって行きましょう!」、ベーシック社長の秋山勝は150名の社員の前で檄を飛ばした。

 春の陽気が漂う3月18日、東京都文京区にある椿山荘で会社設立15周年を祝う記念パーティーの冒頭で挨拶に立った秋山は否が応でも高揚していた。それもそのはず、約1年かけて新しく経営陣を入れ替えての出陣式である。

 これまで手掛けた事業は順調に伸びていたが、「突き抜ける推進力が足りず、ひとつのことを深堀り出来ていない」という違和感が拭えなかった。秋山が求めていたのは安泰ではなく、自由闊達に議論を戦わせ、アグレッシブに新しいことに挑戦する組織の姿であった。その実現のために事業領域をウェブマーケティングに絞り、それ以外の事業は売却したのだ。組織も事業に合わせて戦える人材を求めた。

 実は10周年の際は記念パーティーをしなかった。というよりもそんな気持ちになれなかったといった方が正しいだろう。

 当時、社員は和気あいあいと仕事をして、社員満足度も高い組織であったが、「果敢に挑戦できる状態にまだなっていない」と秋山は物足りなさを感じていた。会社を設立してから節目の10年が経ち、そもそも会社の目的とは一体何だろうと原点に立ち返ったのだ。そして、出した答えが組織の大転換である。

「ベーシックはプロかプロになりたい人で構成される組織である」と新年の挨拶で宣言した。秋山にとってプロとは「有言実行の人」だという。例えていうなら、甲子園を目指すと宣言したからには、遊びや趣味で野球をしたい人は草野球チームに行くべきで、本気で甲子園を目指す人だけが集まる組織にするというのだ。「頑張ったから結果は負けてもいいじゃないか」というのは敗者のメンタリティーである。

「ハッピールーザー(幸せな敗者)ではダメで、お互いに高みを目指し研鑚しあう仲間でなければ到底目標は達成できない」と秋山は社長としての信条を語る。新生ベーシックの船出である。



マーケティングは恋愛である

「マーケティングは恋愛と同じ」と秋山は語る。想いを寄せる相手に自分のことをどのように伝え、良い関係を作るか。根本的には個人も企業も同じだ。ポイントは相手の期待の斜め上を提案すること。勝負のポイントは、期待通りではなく、その半歩先、または自分が加わることで向上するイメージを伝えられるかどうかにかかっている。

 それにはまず相手(ターゲット)の期待を知らなければならないだろう。マーケティングとは、顧客のニーズを正しく理解し、適したコミュニケーションをどう作るかに尽きる。しかし、通り一遍の正解がなく、これがなかなか難しい。

 企業活動もネット戦略抜きでは考えられなくなった現在、国内に400万社あるといわれる中小零細企業のマーケティング担当者は頭を抱えている。多くの中小企業が新規顧客の獲得、販売の拡大を熱望しているが、顧客がどこにいて、何を望んでいるのか、時代の変化のスピードに対応できずに苦しんでいる。ウェブマーケティングにもっと力を入れなければならないことは百も承知だが、資金力のある大企業と違い中小企業は、IT人材に多くの費用を割けないという事情もある。マーケティング分野の人材の質と量ともに追い付いていないのが現状だ。

 マーケティングの定義は広義で時代や人によって様々だが、シンプルに言うと「誰に、何を、どのように伝えるのか?」そして、どうやって売上げを拡大していくか」というプロセス全般である。

「結果にコミット」でお馴染みのライザップが展開するマーケティングは俊逸である。一般人だけでなく誰もが知る芸能人の減量前と後のビフォーアフターを軽快な音楽にのせて見せるのみ。どんな内容のダイエットプログラムかの説明は一切ない。しかし、ユーザーはいちいち問い合わせたりしない。ターゲットは短期間に痩せたい人で、目的も明白だ。ダラダラと食事法やトレーニングの説明をする必要はない。ユーザーにいつ始めるか、決断力のみ求める戦略で反響を呼んでいる。


マーケティングは恋愛である

トライアンドエラーから正解を導き出す

 自社の商品やサービスの情報を絞り込んだターゲットに発信し、販売につなげる「仕組み」をどう作るのか、日々各企業は試行錯誤している訳だ。それぞれサービスも違えば、顧客も様々なので、マーケティングに正解はないといわれる所以である。

 マーケティングとは、それぞれの企業に合った顧客との最良のコミュニケーション方法を見つけることである。そのためには、仮説を立てたら素早く実践し、トライアンドエラーを繰り返して、より良い答えを導き出すしか方法はない。それこそがマーケティングなのだ。

 そこでベーシックでは、ITやプログラム言語などの専門知識がない人でも、デザインを選びテキストや画像を差し替えるだけで簡単に自社のサイトが作れるサービス「ferret One(フェレットワン)」を提供している。これまでなら、完成したサイトの編集や更新は外注先に依頼し、余計な時間やコストが掛かったり、思ったようなデザインと違った場合、イメージを伝えるのに苦労した人は多いと思う。フェレットワンはサイトの編集・更新をオンタイムに自社で行えるメリットがある。

 デザインで迷ったら制作した2つのページを使って簡単にAB テストも可能で、写真やキャッチコピーを変えて効果の高いページに改善していくことが出来る。アクセス解析も他社のサービスを使わず確認でき、ウェブマーケティングに必要な一通りの環境を集約していることが特徴となっている。正解がない以上、何度でもPDCA(仮説・実践・検証・改善)のサイクルを回した者がゴールに最も早くたどり着くという訳だ。顧客との良いコミュニケーションを見付けたところが業績を伸ばしている。


トライアンドエラーから正解を導き出す

自己肯定感が得られる仕事

 秋山の経歴は大変ユニークで興味深いので紹介したい。小学生の頃、「なぜ勉強をするのか?」と教師に尋ねた。すると「皆がするから」という答えに納得がいかず、勉強することを放棄した秋山少年。それ以降、テストはいつも0点。クラスメイトからバカにされた。中学生の頃は、肥満体であったため心無いイジメも受けた。企業家となった今では想像もつかないが劣等生であった。

 しかし、秋山は少し風変わりな子であった。周りの人々をよく観察していたのだ。「なぜ、自分は周りからからかわれるのか?」と客観的に考えていた。それはテストの点が悪いからだと考え、必死に勉強して100点を取るとクラスメイトの態度は変わった。また、人より太っているからだと気付き、減量すると周りの評価が一変した。

 幼いころから、「なぜこの状況でこの人はこんなことを言ったのか?」と考える癖のあった秋山少年。大人になり、それは心理学用語の「メタ認知」と知った。何事も「なぜ?」と考える習慣は後のビジネスで役立ったが、体系化できたのはもう少し後のことだ。

 話を続けよう。高校を卒業したが、勉強をする目的が見つけられず大学進学の道は選ばなかった。そこで好きなパチンコで生計を立てることにした。最終学歴を「パチンコ大学」としているのは秋山のユーモアである。

 4年間パチンコの収入で暮らした。勝負事には強く、一般的なサラリーマンより月収はあったが、勝ち続けても「自己肯定感」を得られなくなった。自分が何の上に立脚しているのか、人生の意味や意義が感じられるものが欲しくなった。



誰にも奪われない「資産」とは

 人生をかけて打ち込むものを探すため、初めて就職しサラリーマンになった。数社渡り歩く中、仕事を通して秋山が得た教訓が今日に活かされている。

 1社目は売るものが決まっておらず、何でも売っていいという変わった商社であった。しかし、客は本当に欲しいものしか買ってはくれない。いくら良い商品だと説明しても売れないものは売れない。秋山はビジネスの基本を学んだ。

「世の中のビジネスには2種類あって、1つはそれがないと皆が困る『問題解決型』のビジネス。2つ目は、それがあると人々がより豊かになる『エンターテインメント型』ビジネスで、自分は問題解決型の方が性に合った。だから、ベーシックは問題解決型の会社にしようと決めた」と秋山は言う。

 サラリーマンになりたての頃は、自分で納得がいかないと上司の指示に逆らっていたという。しぶしぶ仕事をしていると効率が悪い。ある時、開き直って上司の言う通りにやってみると、目線も変わり、効率も上がった。上司の言うことも「あながち嘘ではないな」と思うようになると、任される仕事も変わってきた。以前は「経験が人を育てる」と諭されても反発していたが、出来ることが増えると「仕事の面白さ」に目覚めた。

 反発心を押さえ上司の言葉に心を開くと、課題に対して自ら知恵を出して創意工夫しようと考えるようになる。その働く上での考え方こそが「成長」であり、「資産」であると気付いた。

「これは誰にも奪えない自分だけのもの」だと胸が高鳴るのを抑えられなかった。働く上で大切な心構えを手に入れた瞬間だった。この原体験が現在の秋山の「仕事観」のベースになっている。

「社員にもベーシックで働いたなら、何かしら『自己成長』を感じて欲しい、それこそが会社が与えられる資産である」

 秋山が新経営チームに課した命題は、「属人的ではない、自己成長を与えられる『仕組み』を作ること」である。



ビジネスの肝

 仕事の面白さに目覚めた秋山はこれまでの人生を取り戻すかのように猛烈に働いた。メキメキと頭角を現し、一従業員ではなく、マネージャーの視点で仕事を考えるようになると、どうしたらアルバイトを束ねることが出来るか、性格やスキルの違うスタッフを適材適所に配置するかなど、独自の基準で判断してマネジメントする術を会得していった。

「極論を言えば裏側の構造は全て同じ」と秋山は事業立ち上げ時のポイントについて語る。2004年にサラリーマンを辞め、起業した。最初のサービスは、引っ越しの一括見積もり比較サイトであった。矢継ぎ早に、留学、フランチャイズ、ネット証券、ウェディング情報の比較サイトを立ち上げていった。

「業界は違えど、情報を欲しているユーザーとそれを解決する事業者をマッチングする以外にない。業界特性が違うという人は多いが、ビジネスモデルの構造は一緒です。分解しすぎてはダメで、一定の塊で理解することがポイント」と事業立ち上げの要諦について語る。

「情報を欲する人」と「情報を提供する人」がいるという分解レベルで理解できれば、広い業界で応用が効くとは、商売人秋山の独特の感性かもしれない。


ビジネスの肝

ウェブマーケティングの大衆化

 ベーシック自体が複数の比較サイトを運営するために、多くのユーザーを集め、良いコミュニケーションを築き、最終的には収益を上げる「仕組み」を作ることを実践していた。その際の数々のトライアンドエラーこそがウェブマーケティングのノウハウであり、広く一般的に使えるように体系化したものが今日主力事業になっている「フェレットワン」である。クラウド型であるため、ソフトは日々ブラッシュアップされ、バージョンアップされる。いつでも最新のウェブマーケティング情報を入手でき、新しい機能を自社のサイトに実装できるメリットがある。この作業を担当者が自ら探し、比較検討し、導入するとしたら、手間がかかりすぎて最後までやり抜くことは困難であろう。

「マーケティングの専門性が必要な部分は、プロのベーシックに任せて、自社の得意なコアビジネスに集中して、会社を成長させてほしい」と秋山は語る。

 これまで50もの新規事業を立ち上げては収益化させてきた事業創出のプロ秋山が、満を持して深堀りしたいとウェブマーケティング事業一本に絞り、経営資源を投下する意思決定を下した。

「そのために組織もスリム化し、これまでにない推進力を得た」と胸を張る秋山。新生ベーシックを共に牽引するボードメンバーも経験豊富で強力な布陣を敷くことができた。時代はデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せてきた。日本企業の救世主となるか、ベーシックの挑戦から目が離せない。


ウェブマーケティングの大衆化

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