トピックス -企業家倶楽部

2019年05月13日

感性のプラットフォーマーになる/感性AI社長 虻川勝彦 & ブロードバンドタワー代表 藤原 洋

企業家倶楽部2019年6月号 特別対談


徐々に社会に普及しつつあるAI(人工知能)。今後、ますます多くの企業がAIとは切っても切れない関係となっていくだろう。今回は、そんなAI領域の先駆者としてひた走るブロードバンドタワーの藤原洋代表と、AIによって人の感性を可視化する取り組みを行っている感性AIの虻川勝彦社長の二人に、AIが人類に与える影響や、それによってもたらされる未来について対談してもらった。



人の感性を可視化

藤原 まずは御社についてご説明いただけますか。

虻川 私たち感性AIは、京王電鉄と電気通信大学の坂本真樹教授の共同出資で誕生した会社です。取り組みとしては、人間が五感から得る感性を人工知能によって定量化し、それを生かした製品の開発から販売までをトータルサポートしています。

藤原 一般的にAIは知性の代替とされていますが、感性に特化したAIというのはあまり聞きませんね。どのようなサービスがあるのですか。

虻川 まず一つ目が、ブランド名や商品名から感じられる「音の印象」の可視化です。名前の音の響きが人々にどのような印象を与えるのか、AIが判断します。「明るさ30%、清潔さ50%、古風さ10%」といった具合に、音の印象が数値化されて出てきます。

藤原 凄いですね。今まで気にしていなかった音の印象が可視化されることで、思わぬ発見があるかもしれません。

虻川 仰る通りで、私たちが普段目にしている商品の名前は、音の印象だけを考えると逆のイメージを与えていることも多いので驚きました。一方、洗剤や柔軟剤の名前は素晴らしいですね。音からも「清潔さ」や「ツルツル」といった的確な印象を消費者に与えており、名前の付け方が非常に上手い。

藤原 このサービスは、名前の音の印象を可視化するだけなのですか。

虻川 それだけでは終わりません。例えば「もう少し明るさと清潔さが欲しい」という要望を持つお客様に対して、「このように名前を変えると印象が変わりますよ」のようにご提案しています。名前は商品イメージに直結しかねないので、そこを私たちがお手伝いしていければ幸いです。



商品をオノマトペで表す

虻川 私たちは「商品の感覚的価値の可視化」も行っています。商品の素材データをAIで分析し、その特徴を「ザラザラ」「ツルツル」といった擬声語(オノマトペ)で表してマップ化します。

藤原 このサービスはどのように使われるのですか。

虻川 とあるメーカーで使われている事例をご紹介しましょう。製品の特徴を適切な言葉でお客様に紹介し、提案するのは困難です。そこで私たちがその会社から商品情報を提供していただいて、「ザラザラ」「ふわふわ」といったオノマトペで表しました。

 オノマトペで表すことで、お客様への説明がスムーズになるだけでなく、「もう少しツルツルしたものをご所望ならこれですね」という具合に、お客様のニーズに合った商品をご提案できるようになりました。

藤原 お互いにとって、手間が省けて良いサービスですね。

虻川 オノマトペで表すということから派生して、商品開発もサポートしています。例えば、お客様がもっと「ツルツル」した印象の製品を作りたいとします。そのような時に「この素材を合わせると『ツルツル』としたイメージが出せますよ」とアドバイスができます。

 また、これに加えてシステム上にデータを入れると、製品のシミュレーションをすることも可能です。こうした感性の可視化により、これまで製品開発にかかっていた時間やコストの削減に貢献できます。

藤原 これだけのサービスを提供するには、それなりの量のデータが必要になるかと思います。データ収集に関しては日夜行っていくということですか。

虻川 実は、このようなオノマトペの研究自体は坂本教授が10年以上行ってきていますので、現段階でも多くのデータがあります。このようなデータは、企業からいただくだけでなく、時には一般の方がどう感じるかを調査せねばならないので、普通のAIのディープラーニングよりも労力がかかります。しかし、私たちはそうした手間を惜しまずに挑戦せねばなりません。



AIが作詞家に

虻川 私たちは、写真などの画像をもとにAIが作詞をするサービスも行っています。

藤原 この歌詞はどこから出てくるのですか。

虻川 写真の中の要素となるものを取り込んで、AIがそのイメージに紐付く歌詞を引っ張ってきています。

藤原 このサービスは実用化されているのですか。

虻川 前身の研究室時代ですが、女性アイドルグループ仮面女子の曲を作詞しました。仮面女子のメンバーの方に、新曲に対するイメージを絵で描いてもらい、その絵に基づいて作詞をするという形で携わりました。ただ私たちとしても、このサービスを今後どのように生かしていくかは試行錯誤の段階です。

藤原 確かに、作詞に限定してしまうとサービスの幅が狭まってしまう気がします。このサービスの本質は「画像からイメージや言葉を引き出す」ことですから、裾野を広げると良いサービスになるかもしれません。例えば、カメラの前に立つと、服や化粧が周囲にどのような印象を与えるか言語化されて分かれば面白いですよね。



場の雰囲気を読み取る会議室

虻川 まだサービス化はしていないのですが、空間の雰囲気をAIで読み取ってコーディネートする空間プロデュースも行っていきたいと思っています。

藤原 それは具体的にはどのように行うのですか。

虻川 その場所の雰囲気に合った映像や音楽を流したり、香り、温度などを調整したりすることで行おうと考えています。険悪な雰囲気の場合は、穏やかな映像や音楽を流し、落ち着く香りを焚くといった具合です。

藤原 場の雰囲気は会話で左右されることも大いにあります。趣味の話や新しいビジネスの話をしていれば良い空気になりますが、悪口や噂話をしていると雰囲気は悪くなってしまいますよね。

虻川 実はそうした会話の言葉もAIが全て読み取っています。読み取った言葉から「雰囲気が悪い」と判断すれば、場の空気が明るくなるような働きかけをします。

藤原 怒りは映像や音だけでは解消しないこともあるでしょう。そこに内容的なアドバイスを入れてみると良いかもしれません。怒っている人がいれば、その人に向かって「そんなに怒らなくてもいいでしょう」と語りかけるとかね。

虻川 なるほど。可愛いロボットを机の上に置いておいて、「怒りすぎですよ」と言ってもらえば良いかもれませんね。

藤原 先ほど「サービス化はされていない」と仰っていましたが、実際の導入はいつ頃になる予定ですか。

虻川 今のところ明確には決まっていませんが、この空間プロデュースに関しては昨年電気通信大学の図書館の一室を借りて実験してきました。そして今年は新宿三丁目にある京王電鉄の事務所に一室を作り、さらなる実験を行いたいです。やはりAIは情報がインプットされるほど精度が上がるので、試してみたいお客様がいれば、積極的に提供していくつもりです。



ニーズありきのAI事業

藤原 様々なサービスがありますが、これらはどのような収益モデルになるのですか。

虻川 現在は先ほど述べたような、お客様のニーズに合わせて発注をいただくコンサルティングが主流になっています。ただ、今後はそれに加えて、名前を検索すると音の印象が自動で表示されるウェブサイトを作成し、ユーザーの方にこれを自由に使っていただくSaaS事業も同時進行で進めていきたいですね。

藤原 ゆくゆくはSaaSのビジネスモデルに移行していく予定ですか。

虻川 お客様との会話を通じて新しい発見が多くありますので、コンサルティングは今後も継続します。しかし、SaaSでの収益もしっかり上げていきたいですね。

藤原 コンサルティングを通してクライアントと直接向き合うマーケットイン型だけでなく、まずは御社側からSaaSのサービスを提供していくプロダクトアウト型という二つのアプローチを確立していくということですね。マーケットイン型のモデルを持ち、常にユーザーのニーズにアンテナを張る手法は、企業経営として素晴らしいと思います。

虻川 実はプロダクトアウトで作るSaaSのサービスも、お客様のニーズに合わせて構築していきますので、完全な押し付けではないと考えています。マーケットインで作られたサービスを汎用化し、できるだけ早く、多くのお客様に使ってもらうためのSaaSです。

藤原 多くのAI事業は、技術が先にあり、それをどのように活かしていくか考えるシーズオリエンテッド型です。一方で御社は、まさに顧客のニーズに合わせて技術を変えていくユーザーオリエンテッド型のAI事業を構築しています。人々のニーズを反映して、日々進化していくことでしょう。



新しいタイプの起業

藤原 AIとは無縁に感じる京王電鉄がなぜ感性AIという会社を作ったのでしょうか。その経緯をお聞かせください。

虻川 京王電鉄には以前から「AIを活用した業務改革を行いたい」という意志がありました。そこで、AIについて坂本教授に講演してもらったのです。その講演の後の雑談で、坂本教授が「会社を作りたい」という想いを語られた。京王電鉄としてもAIの会社を設立したいという気持ちがあったので、双方の想いがマッチしての起業となりました。

藤原 これは新しい形ですね。今までは自分のリスクで起業するスタイルが一般的でしたが、感性AIは京王電鉄と電気通信大学の出会いから会社が誕生した。このような形がもっと増えたらいいですね。虻川社長も起業には興味があったのですか。

虻川 実は、学生時代から会社を興したいという気持ちはありましたね。

藤原 起業してもう少しで1年が経ちますが、苦労はありますか。

虻川 京王電鉄から出資を受けているので、一番大変な資金の部分については心配ありませんが、苦労しているのは「人」の部分です。私たちのようなサービスをお客様に提供するには、エンジニアを中心に採用しなければなりません。ただ、坂本教授の研究室の卒業生の方に声をかけて、実際に入社してくれた社員もいます。

藤原 優秀な人材を獲得することができるのが、大学の研究室と協業するメリットですね。おそらくご本人も御社での仕事が面白いと感じているのではないでしょうか。

虻川 それでも、入社してくれるのはごく一部で、「兼業でも良いから来てほしい」と声をかけてもなかなか入社には至りません。今でも人材は絶賛募集中です。



人間を補完する存在に

藤原 今後AIは人類にとってどのような役割を果たしていくと思いますか。

虻川 AIは人の仕事を奪うのではなく、人を補完する役割を担うと思います。クリエイティブな部分に人を集めて、人間がやりたがらない、手間がかかる部分はAIにやってもらえば良いでしょう。

藤原 AIは「知性の代替」と考えられていて、感性とは無関係だとされてきました。しかし、御社の事業は二つの相反するものを結び付けた新しいジャンルです。感性を可視化することで、人間のクリエイティブな仕事が科学的に根拠付けられることになるでしょう。

 最後に御社の未来展望をお聞かせください。

虻川 先ほども述べましたが、AIは人間を補完する役割を持ちます。私たちはその「補完」を、感性を軸に行っていきたい。そのためには多くの企業に私たちが提供する感性を軸としたサービスを使ってもらわなければいけません。そこで、私たちは様々な企業が簡単に感性を使えるようなプラットフォームを作っていきたいですね。

藤原 今回虻川社長とお話して感じたのは「人間は感性の動物である」ということです。知性はAIによって代替されますが、感性は代替できない。まさに感性は、人間が人間であるための最後の砦です。その感性をAIによって可視化することで、人の役に立てようという試みはとても面白い。これからも頑張って下さい。


人間を補完する存在に


藤原 洋(ふじわら・ひろし)

1954 年生まれ。77 年、京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒業。日本IBM、日立エンジニアリングを経て85 年、アスキー入社。96年、インターネット総合研究所(IRI)を設立、代表取締役所長に就任。99 年、東証マザーズに上場。2000年、第2 回企業家賞を受賞。05 年5 月に子会社のIRI ユビテック、8 月にブロードバンドタワーをヘラクレスに上場させる。18年、IRIをイスラエル・テルアビブ証券取引所に上場。




虻川勝彦(あぶかわ・かつひこ)

1995 年、京王電鉄入社。様々なシステム構築等を手掛ける。また、京王ネットワークコミュニケーションズ(現:京王IT ソリューションズ)の会社立ち上げを担当し、会社設立・ネットワークの構築・運用から営業活動まで幅広く携わる。2012 年から京王電鉄バスに出向し、I Tを活用した業務改革を推進した。17年に京王電鉄に復職し、I T 管理部長に就任。同年兼務で京王I T ソリューションズ 取締役、京王パスポートクラブ 取締役にも就任する。18 年5 月感性A Iを設立、代表取締役社長に就任。



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