トピックス -企業家倶楽部

2019年05月24日

もう銃乱射は西部劇で十分/日本経済新聞社客員 和田昌親

企業家倶楽部2019年6月号 地球再発見 vol.20


和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。




  子供のころ、アメリカ映画の西部劇をよく観た。「駅馬車」や「黄色いリボン」に名優ジョン・ウェインらが登場、悪漢を銃でやっつける。インディアンとの戦いも最後は銃で決着をつける。ストーリーは勧善懲悪だから、日本のチャンバラ映画のように気分は爽快だった。

 でも、今になって考えてみると、いいように騙されていた。アメリカ映画は他国の映画に比べ銃撃シーンがやたらに多い。アメリカ人の多くは「銃の所持は憲法が認める国民の権利」と考えるから、銃の使用にはさほど抵抗がないのだろう。

 アメリカでは毎年どこかの学校で銃乱射事件が起きる。銃は事実上野放しだから、子供でも銃撃は可能だ。日本人には理解できないが、アメリカ政府はこれを変えようとしない。

 オバマ氏が大統領時代に「銃規制の強化」を国民に訴えたことがあるが、米議会は動かなかった。全米ライフル協会という圧力団体が銃規制に反対しているからだ。アメリカでは年間1万人以上が銃の犠牲になっているが、トランプ大統領は銃規制には見向きもしない。

 アメリカだけでなく、世界各地で銃乱射事件が目立つ。移民・難民流入問題を抱えるフランス、オランダ、ベルギーなど欧州各国ではテロ活動による銃撃事件も相次いでいる。

 アジア太平洋地域も例外ではない。19年3月にニュージーランドで起こったイスラム教モスクの銃乱射では50人の死者が出た。白人至上主義者の犯罪のようだ。アーダン首相は事件後、自動小銃など殺傷能力の高い銃の保有を即座に禁止した。

 元々治安の悪いブラジルでは銃による強盗殺人は珍しくないが、同じ3月にアメリカに似た学校を狙った銃乱射事件が発生した。政治的背景はなさそうだが、生徒と教職員8人が死亡した。犯人の2人は元在校生で、自殺した。

 ブラジルの場合、19年初頭に就任したボルソナーロ大統領が「自分の身は自分で守れ」と銃の規制を緩やかにしたばかりで、批判も出ている。ボルソナーロ氏は元軍人の極右の人。就任後すぐに銃規制を緩和したのはその証左だ。これからブラジルの銃取引は増え、治安はさらに悪化するに違いない。

 銃は狩猟などを除けば、言葉は悪いが「人を殺すための道具」である。自動小銃や機関銃は大量殺人が目的で、だからこそ常識的には戦争や騒乱の鎮圧でしか使われない。

 ところが、そんな危険な銃の所有を一般に許している国が世界にはたくさんある。

 銃所有を認めている国は北米ではアメリカやカナダ、中南米ではブラジル、ホンジュラス、パナマなど。北欧のノルウェー、スウェーデンなどは狩猟の伝統があるため、ライフルなどは今でも必需品扱いだ。

 異色なのはスイスで、世帯数の約3分の1が銃を所有している。銃社会とは無縁の永世中立国だが、いざ戦争となったら国のために武器を取って戦うというのがスイスの考え方だ。

 逆に銃所有を禁止する国は日本、中国、ロシア、そして英国など。日本の場合はご存知のように厳しい規制があり、拳銃発射と聞くと、反社会勢力や警察、自衛隊といった特殊なイメージしか思い浮かばない。

 諸外国で銃乱射事件が起きるたびに、考えることがある。五輪種目にある射撃競技のうち、「殺人だけを目的にした」ピストル5種目を廃止すべきということである。ライフルやクレー射撃は許すとしても、ピストル競技に金メダルを出すのはおかしい。

 2020年の東京五輪で復活する野球・ソフトボール、空手は2024年のパリ五輪では除外されるらしい。でもピストル競技を外せば「空き」ができる。

 もう銃で撃ち合うのは映画の世界だけにしてほしい。



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