トピックス -ビッグベンチャー

2019年06月03日

M&Aは人の想いで出来ている/ストライク社長 荒井邦彦 (文中敬称略)

企業家倶楽部2019年6月号 注目企業




多くの企業が抱える「後継者問題」

 経営者の高齢化などにより、後継者不足に悩む中小企業の経営者は多い。一昔前は、「実家が自営業なら、子どもが家業を継ぐ」ことが良しとされる傾向があった。しかし平成から新元号に変わる現在では、その価値観は徐々に変わりはじめている。子どもが別の仕事に就いている場合や、親が「辛い思いをさせてまで、子どもに無理に継がせたくない」と考えているケースなど、企業により理由はさまざまだ。

 そんな事業承継問題を解決するのが、ストライクが展開するM&Aの仲介サービスである。

 後継者問題などを抱える「譲渡側」の企業と、会社を買いたいと考えている「買収側」の企業を結びつける。譲渡側の企業は、年商が約1100億円の黒字経営で、未上場のオーナー企業が中心である。

 ストライクが運営する『M&A市場SMART』のウェブサイトには、業種、所在する都道府県、大まかな売上高、従業員数、企業の特徴などが一覧で表示される。サイト上では企業名は公表されないので、特定される心配もない。

 まず「会社を売りたい」と掲載の申し込みが入ると、ストライクのコンサルタントがその企業に赴き、直接話をする。コンサルタントが信頼たる企業であると判断した場合のみ、情報が掲載されるので、買収側にとっても安心して利用できる仕組みになっている。

 一つの案件あたりの成約までにかかる期間は、平均で約半年間。早ければ3カ月で決まることもある。

 とかく後回しにされやすい企業の事業承継問題。昨年10月には中小企業庁と若手経営者団がタッグを組み、「全国事業承継推進会議」が発足するなど、政府による対策も進む。経営者が亡くなったり、病気に罹って初めて取りかかるのでは遅いのだ。


 多くの企業が抱える「後継者問題」

インターネット黎明期にいち早くサービスを開始

 幼い頃から漠然と「将来は社長になる」と考えていたという荒井。大学卒業後、まずは企業の金の流れを知ろうと、公認会計士の資格を取得し、監査法人で働きはじめた。

「M&Aの案件も担当しました。企業提携により、その会社が大きく変わっていく様子を目の当たりにして、すごく心がときめいたのを覚えています」と、荒井は当時を振り返る。もちろん学問としてM&Aについて学んではいたが、ビジネスの現場で見るのとは全く別物で、荒井の心を強く惹きつけた。

 そして1997年、いよいよ起業となった折、荒井はインターネット上でM&Aのマッチングを行うことに着目する。アメリカでは、すでにこうしたサービスが存在していた。情報量の多いもの同士ならインターネットだ」と直感したという。そして、98年10月に「SMART」をネット上に開設し、99年1月より本格始動に踏み切る。

 ところが、当初はまったく仕事がなかった。インターネット自体が珍しかった当時、「インターネットで企業を売買するなんて、何だか胡散臭い」という見方をされてしまったのだ。おまけに営業未経験だったので、イチから営業を教わった。



ノウハウがなく苦戦した初仕事

 サービスを開始して半年が経った頃、一通の問い合わせメールが届いた。差出人は、埼玉県のビルメンテナンス業を営む会社の社長だった。病気を患ってしまったが、後継者がいなくて困っていると言う。

 会って話を聞くと、偶然にも社長の息子と荒井が同い年で、社長と荒井の父も同い年だった。そんな縁もあって、M&Aを任せてもらえることになった。ようやく舞い込んだ初仕事。意気込む荒井だったが、まだ経験も浅く、苦戦してしまう。

「話し合いでの踏み込み方が甘かったり、逆に踏み込みすぎてしまったり。最初のお客様からは、本当に貴重なノウハウを得ました」と苦笑する。無事に買い手が見つかり成約できたのは、受注してから1年半もの期間が過ぎた頃だった。

 その後、譲渡側の社長とは年賀状のやり取りが続いた。成約から5年経った時のこと、年賀欠礼の知らせを受け、社長が亡くなったことを知った。線香だけでも、ということで社長の自宅に訪問すると、社長夫人が迎えてくれた。彼女によると、成約後、入院中に専務たちから社内の様子を聞き、社長はとても満足した様子だったという。その話を聞いて、荒井は「ああ、私の仕事は終わったのだ」と安堵した。

「私たちの仕事は、成約した瞬間が一区切りではありますが、本当は、数年、数十年後に振り返ってみて、『あの時の決断は正しかった』と思うことで、初めて価値がわかるものだと感じました」



M&Aは人の想いでできている

「本当に、M&Aは人の想いでできていると思います」と荒井。人工知能でマッチングを行ったとしても、契約書へ判を捺す段階で、最終的な意思決定を促せるのは「人」である。状況によっては、ダメだと思っていた契約が、逆転ホームランで成約に結びついたり、反対に、ほぼ成約だと思われた案件が最後の最後で覆ることもある。

 荒井が営業として回っていた時、ある案件で譲渡側と買収側で金額が折り合わず、なかなか話し合いが進まないことがあった。すると、譲渡側の社長が「分かった。この金額でいこう。そうすれば、荒井さんの顔も立つだろう」と言ったのだ。担当である荒井の顔を立ててくれようとするということは、社長が荒井を「仲介人」として認めてくれた証だ。仲介コンサルタントには、M&Aの知識はもちろん、「この人の言うことだったら聞いておこうか」と思ってもらえる人間力が必要なのだ。

 譲渡側の企業と、買収側の企業、そして仲介コンサルタント。どれ一つとして同じものはない。「まるで再現性のないドラマ」だと荒井は言う。



上場することで自らに発破をかける

 最初はたった一人で、一つの案件に四苦八苦していたが、現在は従業員数も増え、会社の規模も大きくなった。メーカーなどと違い、材料や工場もなく、依頼先の企業を成約へと導き、その報酬をもらうというシンプルな経営スタイル。「このままで良い」と思ってしまえば、利益も出ているし、ゆるく経営を続けられる。しかし、荒井の考えは違った。

 2016年6月、東証マザーズに上場(翌年東証一部へ市場変更)。外部の目が入れば、否応なしに利益を出して成長することが求められる。これからストライクという会社を大きくするためであり、改めて、自身に喝を入れるためでもあった。

 荒井は、「向上心を持たず、ある程度の利益で満足するのではなく、M&Aの意義を世間に問う意味でも、上場するという決断に至りました」と語る。

 将来的には、「M&Aならストライク」と一番に名前が挙がる企業になることが目標だと言う。インターネットが世間に普及してまだ間もない頃に、M&Aのプラットフォームを造り上げ、20数年に渡りノウハウを蓄積してきたストライク。事業承継は「今存在しているものをなくさない」ための事業だが、今後はM&Aを活用して「何か新しいものを生み出す」ための、新たな挑戦を考えている。



「ワンカンパニー・ワンプロダクト」の未来

 それが、スタートアップ企業のM&Aである。アメリカではM&Aが主流になっている一方、日本では、現在スタートアップ企業のエグジット手法は、株式上場(IPO)が6割、M&Aが4割と、IPOに偏っている。近い将来、日本でもM&Aが増えていくだろうと荒井は予測している。

 その理由の一つに、若手経営者で、M&Aに対して抵抗がない人が増えてきていることが挙げられる。上場すれば、知名度の向上や資金調達がしやすくなるなどのメリットもあるが、業績や組織体制を整える必要があるし、膨大な書類を処理する事務作業なども増える。

「そういったことに費やす時間がもったいない」「その時間を、良いサービスや良い商品を作ることに使いたい」。そう考える若い経営者が少なくないのだ。とあるイベントで、若手経営者が登壇する座談会に参加した荒井は、「VCすら入れたくない」と考える経営者もいて驚かされたという。

 サービスや新製品を開発したら、それを育て、世間に売り出してくれる企業に買ってもらう。買い手側となる大手企業も、開発費として考えれば、安い出費と言えよう。「ワンカンパニー・ワンプロダクト」の発想だ。

 そもそもIPOするためにはさまざまなハードルがあるが、この循環ができれば、比較的成果は得やすい。事業成長の選択肢は多いに越したことはない。

 そうなれば、起業しようと考える人が増え、より速いスピードで、どんどん新しいサービスが世に生まれるだろう。

「M&Aは、世の中のお金の生産性を上げることです。この事業を通じて、皆さんに豊かな生活を送るお手伝いができたらと考えています」

 これからM&A市場にどのような変化が起こるのか、期待が膨らむ。


「ワンカンパニー・ワンプロダクト」の未来

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