トピックス -ビッグベンチャー

2019年06月04日

テクノロジーで不動産業界を変える/GAテクノロジーズ社長 樋口 龍 氏 

企業家倶楽部2019年6月号 新興市場の星たち




情報掲載から販売まで一気通貫

 不動産業界にテクノロジーを掛け合わせ、業界を変革せんと躍進している企業がある。GAテクノロジーズだ。2018年7月には東証マザーズに上場するなど破竹の快進撃を続け、現在は東京・六本木の高層ビル40階という好立地にオフィスを構える。

 彼らが運営しているのが、中古マンションの情報などを扱うサイト「Renosy(リノシー)」だ。それだけ聞くと、不動産情報を一括で検索できる「ホームズ」や「スーモ」といったサイトが思い浮かぶかもしれないが、GAテクノロジーズの立ち位置はこれらと少し異なる。

 詳しく説明しよう。現状の不動産情報サイトでは、サイトを運営している会社と、そこで紹介されている不動産を取り扱う会社は異なるのが当たり前。しかし、それでは情報サイト側がいかに検索性能を高めても、様々な不動産会社の物件が出て来るため、アフターフォローや問い合わせに対する返答スピードといった「質」の部分が担保できなかった。

 一方、GAテクノロジーズは「リノシー」というメディアを持ちつつ、自社で宅地建物取引業免許、建設業許可などを取得。同社社長の樋口龍は「不動産の情報掲載から仕入れ、販売、果てはリノベーションに至るまで一気通貫して行うことで、顧客満足度向上に繋げられるのが私たちの強み」と自信を見せる。

 客層のうち約70%を占めるのは20~30代の若年層だ。売れ筋は東京、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡など全国の主要都市。購入動機としては、居住用と投資用の双方があり、価格帯は前者で5000~6000万円(リノベーション工事費を含む)、後者で2200~2300万円程度という。



売れる物件をAIが精査

 近年インターネットが爆発的に普及したことで、金融、証券、保険といった業界には「IT化」の波が押し寄せた。当然、不動産業界もその煽りを受けることとなったが、他の業界と同じ道は辿らなかった。

 ネットを駆使した銀行、証券、保険は、インターネット上で完結するモデルだが、不動産はそうは行かない。もちろん、不動産情報サイトが登場したことで、物件探しは圧倒的に楽になったものの、インターネット上で売買が完結できるようにはならなかった。

 これには、不動産業界特有の構造に理由があった。不動産を購入することになった場合、物件を登記せねばならず、不動産業者の他に銀行、保険会社、司法書士といった多くの「第三者」が登場する。確実に人を介在させねばならないことから、全ての工程をネット化することができなかったのだ。

 ただ、GAテクノロジーズは一定の人を介在させながらも、そのプロセスを可能な限りテクノロジーで効率化している。例えば、営業効率化のための顧客管理ツールを自社のエンジニアが作っている。

 極めつけは不動産仕入れのシステムだ。GAテクノロジーズに毎日500~600枚届く不動産の図面を、AIが自動でデータ化する。図面入り不動産広告はただでさえ認識が難しく、未だに手書きのものもあるため、認識率は90%だが、それでも自動的にデータベース化されることで、網羅性が格段に高まった。

 ちなみに普通の不動産会社では、こうした大量の図面を人間が目視で確認し、良し悪しを判断する。当然、何百件もある図面の全てを高い精度で判断するのは難しいため、どこかで抜け落ちが発生している可能性は否めないだろう。

 また、従来型の不動産会社は、社員によって不動産を見る目にばらつきが生じるという問題もはらんでいる。入社2~3年目の新人と、15年のキャリアがあるベテランでは、目利きの能力が異なるためだ。また、ベテランはベテランで「1年前、この筋の物件は早く売れた気がする」といった勘に頼っている部分がある。

 一方GAテクノロジーズでは、提案した物件がどの程度の期間で売れたのか、全てデータで管理しているため、新たな物件がデータベースに登録された瞬間、その物件の売れる可能性が算出され、ランキングになって表示される。

 判断指標は、不動産のあるエリアとその周辺環境、駅からの距離、築年数、間取り、広さなど様々。そうしたデータと、成約までにかかった期間のデータを掛け合わせ、順位を構成している。この結果、GAテクノロジーズはAIが売れると判断した不動産だけを仕入れれば良いため、均等に高品質な物件を高効率で紹介することが可能となっている。


売れる物件をAIが精査

エンジニアの採用が肝

 現在GAテクノロジーズの社員数は約350名。そのうちエンジニアが100名近くを占める。「財閥系など売上げが1兆円を超える会社も含め、不動産会社は12万社もあるが、これほど自社エンジニアに力を入れている企業は他に無い」と樋口は誇る。

 GAテクノロジーズでは、自社のサイトやシステムを全て内製化している。未だに飛び込み営業や電話攻勢を中心とした「プッシュ型」の営業を行う不動産企業が多い中、同社は自社メディアを持っているので、月間で約1500名の不動産を買いたい「顧客予備軍」から引き合いがある。GAテクノロジーズとしては、問い合わせを受けてから対応すれば良いため、効率的だ。

 しかし、こうしたシステム内製化への道は困難を極めた。樋口自身、「一番苦労したのはエンジニアの採用」と明かす。創業から1~2年間は1~2人のエンジニアが入社しては辞めることを繰り返していた。

「私にエンジニアに関する知識が全く無かったので、この人に話しても伝わらないと思われてしまったのでしょう」

 創業にあたって「テクノロジーでイノベーションを起こす」と高い志を掲げたにも関わらず、システムの内製化すらままならないようでは元も子もない。エンジニアの採用は最重要課題であった。

 そこで樋口は専門の学校に2カ月間通い、基礎からプログラミングを習得。またグリーの初期メンバーをITの顧問に付け、インターネットについて歴史から全て教えてもらった。その他にも、スーツ着用から私服勤務に変えたり、樋口自身がエンジニアたちの席に移動したりするなど、エンジニア採用のためにありとあらゆる取り組みを行った。

「エンジニアに力を入れると言っているのに、私が彼らを理解していないようでは説得力が無い。採用のために本気度を見せたかった」と樋口は語る。



3度事業に失敗しマーケットインに転換

 樋口は現在のビジネスモデルに行きつくまでに、実は3回、新規事業の失敗を経験している。創業から1年半は全く上手くいかなかった。

 そんな時、世界最高とも称されるシリコンバレーのスタートアップ支援プログラム「Yコンビネーター」を創立したポール・グレアムの言葉に触れる機会があった。そこで彼は、「新規事業が失敗する理由」を語っており、その中の「新規事業はプロダクトアウトではなくマーケット-インで考えろ」という言葉が樋口の胸に刺さった。

 それまで樋口は「何か良いアイデアは無いものか」と考えを重ねていた。しかし、そうしたプロダクトアウトの発想では上手くいかない。新規事業が失敗する最大の理由は、「そのうちの70%が、そもそも世の中にニーズが無いから」なのである。

 またグレアムは「市場にある課題を、テクノロジーを導入して解決しろ」とも語っていた。これに樋口は目を開かされる。

 樋口は6年半に渡って不動産売買に関わっていながら、自身の業務をアナログだと思ったことは一度も無かった。しかし、先述したグレアムの言葉に沿って考えた結果、初めて不動産売買仲介の業務がアナログであることに気付いたのだ。「これをテクノロジーによって効率化しよう」と考えて組み上がったのが、現在のビジネスモデルである。



社員に最も求めるのは人間性

 そんな樋口が、採用にあたって最も重視しているのは人間性である。「嘘をつかない、言い訳をしない、不平・不満を言わない、人の悪口を言わない、誰かのために尽くす、仲間を大切にする。そうした、人としてあるべき姿にこだわっています」

 週に1度の朝会で樋口が話すのは、会社の戦略的な話よりも、事業への想いや、人としての考え方に関することが多い。

 樋口が人格の重要性を痛感したきっかけは、プロサッカー選手への夢を諦めた過去にある。挫折を経験することとなった原因を考えるにあたって、樋口は「実力不足もあるが、何より人間的に未熟だった」と吐露する。当時、樋口は壁にぶつかると、ふてくされて落ち込むことが多かった。ついつい言い訳をし、真摯に反省することができなかった。

 一方、スポーツ界で活躍する選手たちは人格的に優れていることを目の当たりにした。プロ野球選手の大谷翔平が高校1年生の時に書いたビジョンシートには、スキルの改善に関する目標と並んで、「審判への対応」「運を引き寄せるためのゴミ拾い」といった項目が載っていた。

「サッカーで言えば、長友佑都選手、本田圭佑選手、長谷部誠選手など。もちろん一般の人よりは才能があるでしょうが、彼らが本当に優れているのは人間性なのです」



不動産売買のストレスを解消

 樋口は「不動産売買仲介の領域では、引き続き人を介しての取引が行われるだろう」と予測する。高額な商品なので、簡単にネットで売り買いするのは難しいとの判断だ。「不動産業界が日本より10年進んでいる」と言われるアメリカでさえ、個人間での売買は5%に留まる。しかも、2.5%は親族間での取引なので、実質的に個人間売買を行っているのは2.5%と言える。

 しかし、そうした状況下でも効率化せねばならない部分があるのは間違いない。日本の場合、未だに不動産の売買契約書を書くのに1時間以上を要し、審査に1週間、それから登記までに3日といった具合で日数がかかる。このプロセスをアナログから脱却させることができれば、時間は大幅に短縮する。

「お客様からすれば、物件を探して契約するまでがストレス。これを経験すると、二度と不動産など買おうとは思わないでしょう。そこで、面倒な契約書を何枚も書かずに済み、滑らかに購入に至るような仕組みを作れば、もっと不動産市場は活性化するはずです」

 最終的には、不動産の契約もインターネット上で完結するようになるかもしれない。ワンクリックで買えるようになれば、これほど楽なことはないだろう。

「世の中は確実に便利な方向に流れる。人が想像し得ることは絶対に実現します」と語る樋口。不動産業界の若きエースが、テクノロジーを駆使して未来を切り拓く。



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