トピックス -企業家倶楽部

2019年06月14日

経営者の本気が企業を変える

企業家倶楽部2019年6月号 モチベーションカンパニーへの道 vol.36


経営コンサルティングなどを手がけるリンクアンドモチベーション(以下リンク)は3月、ベストモチベーションカンパニーアワードを東京・港区の八芳園で開催した。本アワードは、2018年に「従業員エンゲージメント調査」を実施した1213社から選出された、エンゲージメントスコア(企業と従業員の相思相愛度を数値化したもの、以下ES)が特に高かった上位10社を表彰するもので、今年で9回目を迎える。今回も例年通りパネルディスカッションが行われ、トップ3の企業を率いる経営者たちが登壇した。(文中敬称略)




 近年、経済全体のソフト化、サービス化が進展している。経済産業省によると、GDPに占める第三次産業の比率は既に70パーセントを超えている模様だ。

 ただ、新しい商品やサービスは次々と発表されるものの、いかに優れた商品であっても、すぐに模倣されてしまい、生き残れるのはほんの一握りだ。こうした状況の中、リンク会長の小笹芳央は表彰式の冒頭で「企業にとって最も重要な資源、手堅い資産は人材である」と述べた。

 SNSで一度「バズる」と、どんな小規模の会社の製品であれ瞬く間にヒットする時代。インフルエンサーと呼ばれる人々が生計を立てられるのは、それだけの企業がSNS広告に力を入れている証左でもある。ビジネスの在り方が大きく変容していく中で、「人材に備わっているアイデア、ホスピタリティー、モチベーションこそ、他社との優位性を生み出すポイント」と小笹は説く。



会社を変えたアスパラガス

 今回も行われた経営者同士のパネルディスカッションでは、各社が抱えていた問題とその原因を紐解きつつ、どのように改善を行っていったかが語られた。

 最初に発言したのは、大阪府を中心にスーパーを展開している佐竹食品社長の梅原一嘉。昨年に引き続きESの高さで首位となり、見事二連覇を果たした。

 そんな佐竹食品だが、かつては顧客視点の欠落に悩まされていたという。原因は企業理念が無かったこと。梅原自身が大の理念反対派で「商売は日々額に汗をかき、歯を食いしばってようやく売上げと利益が出る」と強く主張していた。しかし、その考えが大きく変わる出来事が起きる。

 ある日、梅原が店舗巡回をしていた際、カビの生えたアスパラガスが売られているのを発見し、主任を呼び出した。すると彼は「10円ならば売っても良いでしょう」と悪びれる様子もなく答えたという。この反応を見た梅原は「うちの会社は潰れるかもしれない」と危機感を覚え、改善策を模索し始めた。

 そんな時に出会ったのが、リンクのモチベーションサーベイを含む各種サービス。そして改善策として、ビジョンや理念の共有・浸透に力を注いだ。理念反対派であった梅原が転向した瞬間である。



能動的に行動する組織に

 具体的には、社員一人ひとりとコミュニケーションをとり、理念を理解してもらった。そのためのコストは惜しまず、全店を1日休業しての大規模なビジョン研修や様々な懇親会も行った。

 梅原は「今回の二連覇によって、10年前に掲げた『日本一モチベーション高く働ける組織を作る』という挑戦は達成できた」と喜びを語った。モチベーションが上がったことにより、社員が能動的に判断・行動できるようになり、業績以外の手ごたえも感じているという。

 それが顕著に現れたのは、台風や地震といった災害の時だった。地域一帯が停電となり、周辺のコンビニやスーパーは休業状態。もちろん佐竹食品も、停電でレジはおろか冷蔵庫の電源も切れてしまっており、営業などできる状態ではなかった。しかし、その真っ暗な店の前に集まり、食料を求める人々がいた。

 すると、従業員は本部に許可を得るでもなく商品を店の前に運び出し、売り始めたのだ。「レジは使えないから全部ぴったり100円で」「アイスは溶けてしまうからタダでどうぞ」という具合に、各人が今何をすべきか考え、行動した。「モチベーションの低い会社で、こんなことは考えられません」と梅原は熱く語る。

「ESを上げるためには様々な施策があるが、何よりたった一人の経営トップがいかに本気で変わるかで組織が変貌する」と総括した小笹。理念経営反対派から理念経営者へと自らが大きく変わることで、会社を人気スーパーへと導いた梅原を称賛した。



社員が働く部署を選ぶ

 次にマイクを握ったのはリブ・コンサルティング社長の関巌。語ったのは、企業の多くが拡大期に直面する「マネジメント機能の不全」についてだ。関は会社が拡大するにつれて、一体感の薄れを感じたという。最大の要因はマネージャーや事業部長などミドルクラスの機能不全であった。

 この壁に突き当たる多くの企業は、「ミドルに登用する人材をスキルや経験値で選んでいる」と小笹は説く。会社や経営者の理念を全体に伝える役割を担うはずのミドルがビジョンを語れないため、理念という共通項を失うことで会社と従業員にズレが生じ、モチベーションの低下に繋がるのだ。

 この打開策としてリブ・コンサルティングで行われたのが「相互選択制度」である。入社してすぐに配属先を決めるのではなく、一定期間様々な部署で働き、社員自身にどこで働きたいか希望を取る。反対に、事業部側も欲しい人材を指名するという制度だ。

 事業部と社員が互いに選び、選ばれるという状況を作り出すことにより、事業部が労働市場と向き合えているか、自分たちの施策は言行一致しているかなどを見つめ直す機会となった。

 こうして、言葉だけでは変わらなかったミドルのアワードではパネルディスカッションも行われた意識改革も大幅に進み、社員としても自分の働きたい部署に配属されるため、モチベーションが向上した。

 一方、この施策のデメリットは、会社が人材の偏りをコントロールできなくなることだ。実際に、人数が半数以下になってしまった部署もあった。関が「過激なやり方をした」と言ったのも頷ける。

 ただ、これは一企業の枠に留まらず、社会全体に共通する課題だろう。人口減少や人材の流動化が進む今、企業は商品市場だけでなく、労働市場も意識しなければならない。5年10年単位での戦略構築が求められる。

 効果が大きかった施策として関がもう一つ挙げたのが「教育制度の充実」である。リブ・コンサルティングでは売上げの約5パーセントを教育費として充てており、年々上昇させている。

 近年「好きなことで生きていく」という風潮が強まり、転職が珍しくない社会になりつつある。新卒社員の3年以内の離職率が約3割というデータも出ている。「今の日本は人口が少なく、競争していない。このままでは国としての総和が増えず、世界で勝てない」と関は危機感を募らせる。

 これからの時代に求められるのは、流れていく人材を見送るのではなく、会社側が教育に力を入れ、若者が仕事にやりがいを見つけられるよう押し上げる体制を整備することだろう。



徹底した価値共有が会社を一枚岩にする

 最後に発言したのは、経済メディア「ニューズピックス」を運営するユーザベース社長の稲垣裕介。同社が直面した課題は、事業や社員が多角化したことによる「組織の分離」であった。先述のリブ・コンサルティングが「上下のズレ」であったのに対し、ユーザベースは「横のズレ」と言える。

 エンジニアやコンサルタント、商社マンといった様々な背景を持つ社員が所属するユーザベースでは、共に働いていく中で、仕事に対する価値基準や優先順位の違い、互いに理解できないこだわりが課題となって表れた。

 そこで同社では、ルールを作って守らせるのではなく、「なぜこうするのか、何を成果として判断するかといった部分を共有すること」で乗り越えたという。

 しかし、さらに会社が成長していく段階で、新たな課題が浮上した。稲垣ら経営陣の多忙と社員数の増加から来る「コミュニケーション不足」だ。共有すべきことが曖昧となり、以前の状態に戻りつつあった。

 そこで、改めて自分たちが何を根拠に経営をし、何を大事にしているのかを「原則化・言語化して伝える」ということを徹底した。ここで生まれたのが「MISSION&VALUE」である。

 個別のルールをあえて作らず、強い原則を共有することで、社員一人ひとりがそれに基づいて考え、行動するようになったという。守るべきものが明確になったことで、稲垣自身が原則から外れそうになった際には、それを正してくれる社員も現れた。「MISSION&VALUEを作ってから、会社が本当に一枚岩になった」と稲垣は実感している。

 会社が成長することで出てくる多様性を、リーダーの個性や人間性だけで束ねていてはいつか限界が生じる。そうなった時に必要になるのが強い原則なのだ。稲垣は「ひたすらに『MISSION& VALUE』。今後ユーザベースがどんなに多角展開しようとも、この二つがグループである証明です」と固い意志を見せた。



実情に合った制度を設ける

 ユーザベースでは、制度を会社側が先回りして作ることはせず、社員が「本当に必要である」と提出してきたものを採用する形をとっている。

 例えば、オフィスに託児所を作ろうとしたが、「いずれにせよ都心のオフィスに小さい子どもを連れてはいけない」と社員からは喜ばれなかった。通勤ラッシュの満員電車を想像すれば、大いに納得できる。

 そうした意見を受け、ユーザベースは託児所ではなく、認可外の保育園に入った場合の補助金制度を設けた。都会で働く親にとって、子どもを認可の保育園に入れるのは困難だ。このように社員の実情に合った制度をその都度設けることも、ES向上の大きな要因と言えよう。

 各社の取り組みに共通していたことは、理念を明確にして浸透させることである。トップ一人が変われば企業も変わる。いかに本気で変わろうとするかが、今後のESに表れてくるだろう。



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