トピックス -企業家倶楽部

2019年06月20日

令和時代AIは人間を超えない 経済は統制できるか/日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝

企業家倶楽部2019年6月号 日の丸キャピタリスト風雲録 vol.66


村口和孝 《むらぐち かずたか》

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 

 1958年徳島生まれ。慶應大学経済学部卒。84年ジャフコ入社。98年独立、日本初の独立個人投資事業有限責任投資事業組合設立。06年ふるさと納税提唱。07年慶應ビジネススクール非常勤講師。社会貢献活動で、青少年起業体験プログラムを、品川女子学院、JPX等で開催。投資先にDeNA、ジャパンケーブルキャスト、テックビューロ等がある。



経済を統制したい人類

 人類の歴史は、自然災害や争いを避けるために、環境の変化を制御しようとしてきた努力の歴史である。人口が増加すると、家族が村の規模になり、コミュニティーがグループに分かれてくる。それに伴い、衣食住の消費規模も増える。農業が生産性を高め、余剰物資の交換経済が、通貨の発明によりさらに発展して、商品が市場で流通してくる。一方、毎年のフローの経済活動の余剰がストックとして蓄積され、さらに翌年の経済活動の拡大の基礎となって、経済活動が拡大した。やがて技術の進歩により、交通の発達、内燃機関、電気が人間の可能性を広げるとともに、資本の集中と統制が必要となって、株式会社制度が発展し、世界に巨大企業が生まれ、株式市場が拡大した。

 グループ同士の紛争によって国が成立した。最初は宗教と結びついた王国で、後に革命によって元首を選挙で選ぶ民主国家となった。どの国家も、自由な消費と生産の経済活動をベースにしつつも、ルール(規則・法律・宗教)を作り、国を維持するため、法律により徴税して、国民の行動を制御しようとしてきた。現在、世界は法律の異なる国同士が、軍事的な緊張関係にある。政府そのものも経済単位であり、通貨を発行して、交換レートがあり、ストックを蓄積し、経済を強くしようとしてきた。

 一方、貨幣がデータであって、容易に国境を越えられるため、経済活動は、相互に依存しあっており、交易がグローバルに国境を越えている。20世紀に生まれた通信とセンサーによる電子制御技術の発展が凄まじく、IoTによるセンサーデータの収集とAIによってシンギュラリティ(特異点)を超えて、「人間の知性をコンピュータが超える」と言われているが、本当だろうか?



平成元年ベルリンの壁崩壊(1980年代)

 経済活動とは、人類の誰かが生産した「商品やサービス」を、別の誰かが、自由に、しかるべき価格で買い、使ったり食べたりして(消費して)満足することである。商品サービスを提供する活動を生産活動、使用する活動を消費行動という。商品サービスの多様さは、地球上にあまりにたくさんあるので、一人の人やチームがすべてを理解し、体験するなど不可能だ。それは、貴方がよく行くコンビニエンスストアで、自分がたくさんの商品の中の、たった数種類しか買っていないことを思えば、明らかだ。また、それら商品サービスには価格と仕様があって、日夜価格は変動していて、とても追いかけきれるものではない。

 消費行動は、どの人も使えるお金に制約があるので、範囲はある程度限定することは可能だが、自由な生活の嗜好に基づいているから、基本的に予測不可能である。例えば仮にA子さんが、今日の朝、お寿司を食べたいと言ったとしても、夕方にはA子さんは、気が変わることもよくあることだ。流行は時間とともにどんどん変化し、それがネットで情報として拡散し、さらに予測できない変化を起こしていき、ラーメン屋に行列が出来たり、流行が去ったりする。さらに数年にわたる消費行動の長期のトレンド変化は、累積する地殻変動が引き起こす大地震のようだ。

 さらにその商品を提供しようとして、豊洲市場に魚を仕入れに行ったら、仕入れたい魚が、希望の価格で仕入れられるかどうか、事前に分かったものではない。天候や物流や、材料を購入したい別の人の事情によって、価格が暴騰したり、在庫がなくなったりしているかも知れない。つまり、消費活動のみならず、生産活動の詳細を事前に、完全に計画化することなど出来ないのである。ストックが積みあがって、翌年の生産活動になり、その働きの報酬を得た人が、貯金をしながら消費活動を行う、という構造はモデル化できても、詳細の予測は不可能だ。

 それが出来ないことが歴史的に証明され、91年の計画経済を可能だと運営してきた「ソ連邦の崩壊」に繋がった。メインフレームなどの巨大コンピュータを駆使して、政府などが計算しても、経済活動を予測して計画運営することが、事実上不可能であることが明らかとなり、その衝撃波は、ベルリンの壁をも崩壊させ、中国の経済を市場に解放させた。20世紀末の、歴史的な崩壊だった。それが平成元年だった。



PCインターネット登場(1990年代)

 20世紀が、ソ連中国の旧計画経済体制の崩壊で幕を閉じたが、コンピュータの世界でも、PCとインターネットが登場し、メインフレームの終焉で幕を閉じた。90年代は、NECのPC98等DOS時代が発展し、アップルとマイクロソフトのPCOSとオフィスアプリ戦争の10年だった。当時はワープロ専用機やジャストシステムの一太郎も元気だった。PC部品のカナメであるCPUはインテルが勝ち、メモリは当初日本勢が元気だったが、サムソン製が市場を凌駕した。プリンターも進化し、音楽は、レコード・カセットからMD・CDになり、ITデジタル革命とも言われる。

 フロッピーディスク経由が主流だったデータ転送は、LANでつながり、90年代の最初はニフティーサーブAOLなどパソコン通信が、テキストデータでやり取りした。後半はインターネットが登場した。最初は、PCのブラウザ(95年NETSCAPE上場)を道具として、個人がホームページで情報を発信し、電子メールで情報のやり取りをした。超小型PCのPDA(日本ではザウルス)市場もあった。世界中にプロバイダによってウェブサーバが設置され、ネットがルーターで網の目のように繋がって行って、ネット共和国が出来た。当初は政府の介入も法律の制限もない、国境もないユートピアだった。

 ルーターのシスコシステムズはスタートアップで成功しあっという間に巨人になった。最初、サーバやルーターは、全世界にてんでバラバラに散在して、それが低速の専用回線やダイアルアップ回線(56kbps等)で相互につながって、お互いにコンテンツを閲覧しあうだけだった。サーバOSのLinuxは、オープンソースの世界的なデファクトOSとなりPCでサーバを組み立てられたために、サンマイクロのサーバなどは売れなくなった。当時のネットサービスは、ノロノロ遅くて大したコンテンツでもないのに設備投資が大きく、ほとんどが無料サービスで、投資収益がとても合わなかった。2000年頃、シリコンバレーに最初のネットバブルでIPOブームが来て、投資したVCは最初儲けたが、あっという間にバブルが崩壊し、インターネットの終焉だと言われた。(98年独立のNTVPでは、XMLのインフォテリア、オークションのDeNA、広告のエイケアシステムズ等に投資した。)



XMLブロードバンド時代(2000年代)

 21世紀に入った2000年代、そのサーバやルーターのインフラをつなぐネットワークが、光ファイバの普及もあり、100倍1000倍と早くなりブロードバンド(1.5~100Mbps)になった。ネットの規格も、HTMLからXMLへと整備され、単なる閲覧から、ネット空間をデータベースのように使えるようになり、Webサービスと呼んだ。オークションやECサイト、ブログコミュニケーションが急成長した。eBay やネット証券が台頭して上場しスターになった。動画も何とか鑑賞に堪えるようになり、YouTubeやスカイプがサクサク使えるようになった。

 それまではサーバやルーターは大企業のシステム部が保有して管理すべき代物だったが、ブロードバンド時代には、どこかのデータセンターがその役割を集中的に担う事が可能となったため、急速に大企業からサーバが無くなっていった(ITのクラウド化)。06年Gスイートも始まった。アマゾンのAWSもこのころスタート。さらにPDAや日本のiモードを出し抜いて進化させる形で、07年iPhone、アンドロイドのスマホが登場して、大ヒット。アプリゲームと、TwitterなどSNSが大発展した。十分ではなかったが、任天堂などゲーム専用機や、携帯電話、TVなどをネットが置き換え始めた。ネット広告市場も急速に広がった。(NTVPでは、フィリピンとの動画サービスのIPSや、動画視聴率データ分析のPTPなどに投資した。)



スマホGAFA対中国時代(2010年代)

 2010年代、スマホの普及、およびCPUの高性能化と、メモリのコストダウンを背景に、ビッグデータ時代になった。特に発展途上国などでは、有線PCより無線スマホの方が社会背景的に発展しやすかった。サービスに関係する情報が、世界中から自社のデータセンターに集中して大量に入ってくる。それらデータを、世界中の自社システムで照合して加工し、結果を返さないといけないため、低レイテンシで、リアルタイムでサクッと処理するデータセンター網が不可欠だ。データセンターをいかに効率化するか、人類の大問題となっている。この歴史的大問題に立ち向かうのは、世界的巨大企業であり、残念ながら日本企業は振り落とされて、そこにはない。

 そのビッグプレイヤーがGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)である。それに対抗して人口の大きさを背景に、アメリカからの帰国中国人をベースとして大発展したのが、中国スタートアップ勢だ。それが、テンセント、アリババ、ファーウェイなどだ。世界の巨大企業は明らかに、最先端の技術で人類70億人全体をリアルタイムでトレースし、個人プロファイルを分析し、最適解を産み出す、データセンター網を、整備し続けているのである。それが、IoT、ビッグデータ、AIの時代と言われる理由である。自動運転もやがて可能になるとも言われる。



令和時代AIは人間を超えるか?(2020年代)

 89年に世界史から計画経済が崩壊して、計算して経済活動を予測できないことが証明されてから30年経った。その間、ネットが普及し、世界中のデータセンターが、スマホやシステムにつながっている。また、人類70億人のプロファイルや地理情報など、蓄積が進み、より細かく分析できる前提が整いつつある。ブロックチェーンなどで改ざんされないようなイノベーションも起こっている。さらに、分析する情報システムの演算能力が高まり、チェスでコンピュータが勝つなど、大量の情報を複雑に、また量子コンピュータ開発により高速に分析できる状態にある。

 このことで人類の行動を予測できるようになっただろうか?データを集め、データの構造を仮説モデル化して、最適解を計算してフィードバックして、さらにモデルを最適化する。一人一人の行動のデータの多様性が無限に複雑である上に、その人がさらにコミュニティーで70億人と複雑に関係する、という中から最適解を出し、人類の行動を予測するという計算を、詳細に、簡略化なしに行うことは、政府であっても無理だ。(大まかな傾向は予測可能だろうし、単純なプロファイルの超高速照合には有効だ。)

 振り返ると、あくまでコンピュータは、人間行動の詳細を予測できない限り、人間が使う道具であり、その本質を超えられない。人間の尊厳を超えて、コンピュータや組織やロボットが、人間を超えると言う社会は未来永劫ない。包丁がよく切れるようになるからと言って、寿司職人が居なくなるはずがないのである。我々が考えるべきは、仕事がなくなることではなく、いかにコンピュータや組織やロボットを道具として使えるようにするか、なのである。

 令和時代が何十年続くか分からないが、平成の30年同様、世界の大発展を覚悟したい。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top