トピックス -企業家倶楽部

2019年06月28日

遥か彼方だった「宇宙」を身近な存在にする/宇宙ビジネスの未来

企業家倶楽部2019年8月号 宇宙ベンチャー特集


夢のビジネスと言われた「宇宙産業」が、いよいよ現実のモノとなってきた。数百億から数千億円規模の費用が必要なため長く国家主導の域を出なかったが、今日ではその主役は民間の宇宙ベンチャーが担っている。宇宙旅行やロケットなど華やかなニュースに注目が集まる中、地に足の着いた宇宙事業を作っている日本発の宇宙ベンチャーがある。超小型衛星を活用したビジネスを手掛けるアクセルスペースである。社長の中村友哉は「あと10 年もすれば『宇宙ベンチャー』という言葉自体がなくなる。宇宙を生活インフラの一部にしたい」と語る。現代版ニューフロンティアを開拓している宇宙ベンチャーの今に迫る。(文中敬称略)



宇宙産業の幕開け

「今日は歴史的な日になります」

 5月31日、アクセルスペースが本社を構える東京都中央区日本橋本町のオフィスに宇宙産業関係者が集まった。会場は満席で立ち見が出るほどの熱気に包まれていた。会見の冒頭で社長の中村友哉は、晴れ晴れとした表情で念願であった自社サービスのスタートを宣言した。

 同社は、08年に設立された超小型衛星を活用したビジネスを展開する「宇宙ベンチャー」である。足掛け10年を経て、自社の衛星を打ち上げ、画像データを提供する地球観測網「Axel Globe(アクセルグローブ)」のサービスを開始した。挨拶をする中村の言葉には、苦楽を共にしてきたスタッフへの感謝の気持ちが込められていた。

「サービスを開始するまで長い道のりでした。それでもエンジニアの皆さんが頑張ってくれたおかげで今日この日を迎えることができ、とても嬉しいです」。中村自身も人工衛星を製造するエンジニア出身であるため、苦労が報われた嬉しさを述べずにはいられなかった。



地球全域を観測可能

 この日サービスインした「アクセルグローブ構想」とは、一体いかなるものか。同社では地球観測用超小型衛星「GRUS(グルース)」を製造し、順次打ち上げていく計画だ。衛星が鶴の群れのように地球を周回することから、英語でつる座を意味するGRUSと名づけた。最終的には50機ほどを予定しており、上空600キロの同一軌道上に南北一列に順次打ち上げていく計画だ。

 地球は自転しているため、地球上空を周回している衛星から世界のあらゆる地域を毎日観測することが可能となる。人々が多く住む都市だけでなく、人が入って行けないような過酷なジャングルや砂漠地帯などの上空から撮影した画像データを送ることもできる。まさに次世代の地球観測プラットフォームが完成する。

 遠く離れた上空からでも衛星に積まれた高性能カメラにより、地上における2.5mの物を撮影できる。つまり1台の車を認識するだけでなく、ドアの開け閉めまで分かるのだ。画像データは蓄積されるため、世界中の最新の状況が把握できるだけにとどまらず、過去に遡って比較することで、未来の予測を立てることができる。

 例えば、農業で利用するとしよう。観測画像から作付面積や生育の状況を把握し、過去のデータと比較することで最適な収穫期を決めることができる。

 また、世界的に問題となっている森林の違法伐採の早期発見や森林火災の被害状況の把握に活用できよう。国境をまたぐような長距離のパイプラインやメガソーラー、プラントなど、大規模なインフラ施設の警備は広範囲を撮影できる衛星画像の得意とするところである。

 18年に観測衛星初号機を打ち上げており、次回は20年4月以降に、中央アジアのカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地からロシアのロケットに載せて打ち上げる。この時、福井県が開発した衛星も打ち上げられ、アクセルグローブのサービスに活用される。自社所有の3機と福井県所有の1機を加え合計4機体制での運用となり、22年までに50機体制を完成することが目標だ。

 これまで衛星利用は気象観測、軍事関連が主であったが、今後は農業、都市開発、セキュリティー関連、通信など幅広い分野での利用が考えられる。「宇宙先進国ではない、まだ自国の衛星を持っていない新興国は、今後都市開発などで衛星活用の需要がある」と中村は潜在的な市場の大きさについて語る。


 地球全域を観測可能

月面着陸から50年

 人類史上初の月面着陸は1969年7月のことである。米国のアポロ11号計画でアームストロング船長がその偉大な一歩を踏み出した。あれから50年が経った現在の宇宙産業の動向を見ていこう。

 6月7日、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、国際宇宙ステーションを1泊400万円で民間に開放すると発表した。民間企業が商業利用することを認めたのだ。NASAの宇宙飛行士が民間企業の取り組みに従事することも可能としている。国際宇宙ステーションの運営には年間3000億から4000億円と多額の費用がかかることも、民間への開放へと背中を押した。

 このように宇宙事業には莫大な資金がかかる。ここに小さな資金で創意工夫することが得意なベンチャー企業が参入するビジネスチャンスがあったというわけだ。

 アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスが設立した航空宇宙ベンチャー「ブルーオリジン」は、有人宇宙飛行を目標にロケット開発を進めている。すでに再使用型ロケットの垂直離着陸に複数回成功しており、近い将来には観光客を宇宙に連れていく計画である。宇宙旅行のチケット価格はおよそ20万ドル(日本円約2100万円)と言われている。

 宇宙ベンチャーのもう一人の雄は、電気自動車メーカー(EV)テスラCEOのイーロン・マスクであろう。彼が率いる宇宙開発ベンチャー「スペースX」は、観測衛星ではなく通信衛星を使い、全世界を高速インターネットでつなぐ「スターリンク構想」を発表し、この5月にその第一歩となる小型衛星60機の分離に成功した。最終的に1万2000機を打ち上げるのが目標で、20年のサービス開始を目指している。

 また、スペースXのドラゴン補給船は約1カ月間国際宇宙ステーションに係留し、再び大気圏に突入して地上へ帰還した。今回で17回目の補給ミッションを完了し、有人飛行への実績を着々と積んでいる。


月面着陸から50年

宇宙産業は成長市場

 成功したベンチャー企業家が自らその資産をリスクのある新領域に投資し、果敢に挑戦し、重い宇宙産業の扉を開いた。民間企業による宇宙事業はすでに成功事例が多数出てきていることからも、今後も宇宙産業市場は拡大し続け、さらに世界中で新規参入が増えることが予想される。

 ご存じの通り宇宙に国境はない。宇宙ベンチャーとは生まれながらにして、グローバル企業なのである。また、業種も問わない。そもそもプレイヤーが少なく、自分の好きな領域に旗を立てればいいのだ。宇宙ベンチャーが盛り上がりを見せているといっても、市場はレッドでもブルーでもない。スペースオーシャンなのだから。

 そんな中でもロケット打ち上げ領域ではライバルたちの熾烈な競争が見られる。小型ロケットや再利用ロケットなどのテクノロジーは日進月歩である。かつては、衛星やロケットに使われる部品は一度打ち上げたら修理・交換ができないため、どうしても高価な一級品を使用していたが、最近では秋葉原で購入できる民製品も一部使われている。低コストかつ高品質であることが求められているのだ。宇宙ビジネスは製造面でも身近になっていると言える。

 国家プロジェクト時代の衛星といえば、重量は1トン単位で、製造コストは数百億円というから、いかに高コストだったか分かる。アクセルスペースが得意とする超小型衛星は小さいもので30センチ立法で重量は数十キロ、大きいものでも冷蔵庫サイズで重量は100キロとコンパクトだ。製造コストは1億から3億円とされる。用途に応じて衛星に搭載する機器も違うが、主要部品としてコンピュータ、高性能カメラ、通信機器、バッテリーから成る。クライアントのニーズによって、種類の違うレンズや温度センサーなどを加える。

 宇宙産業の市場規模は、10年に約27 兆円であったが、17年には38兆円まで成長し、同じペースで進めば30年代には倍増の約70兆円、40年代には100兆円規模になると予測されている。


宇宙産業は成長市場

宇宙ベンチャー「ニュースペース」勃興

 現在、世界には約1000社の宇宙関連企業が存在すると言われている。10年以降を「第3次宇宙ベンチャーブーム」と呼び、宇宙へのアクセスが以前にも増して容易になり、宇宙を活用した新しいサービスを考えるプレイヤー「ニュースペース」たちが登場してきている。

 彼らの一番の特徴は、ファイナンス面で民間から資金調達し、民間で商業利用しようという流れがあることが挙げられる。つまり、投資家が充分なリターンを見込めると判断し、リスクマネーを投入しているのだ。

 17年12月、月面探索を目指すアイスペース(東京都港区、袴田武史最高経営責任者=CEO)が株式未上場のまま、産業革新機構や日本政策投資銀行などから約101億円を調達すると発表し、世間を驚かせたのは記憶に新しい。製品開発段階のシリーズAでの桁違いの資金調達であり、このことからも宇宙ビジネスへの期待の大きさが伺える。

 日本政府も、宇宙ベンチャー企業向けに1000億円の支援枠を新設すると発表。18年度から5年間、日本政策投資銀行や産業革新機構を通じて実施する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とニュースペースとの人事交流を促進するなど、民間の活力を宇宙分野でも取り込む方針を打ち出した。こうした政府からの支援は、宇宙ベンチャーにとて追い風となっている。

 併せて政府は30年代早期に日本国内の宇宙産業の市場規模を2.4兆円に倍増する目標を掲げている。

 今や宇宙産業は、国家主導のプロジェクトから民間主導へシフトしたと言える。国鉄や電電公社の民営化の成功を見れば、民間でできることは民間でやる方がコストも下がり、サービスの質も上がることは歴史が証明している。

 ビジネスは健全な競争があってこそ適正なマーケットが形成されるのだ。さらなる「ニュースペース」たちの参入に期待したい。


宇宙ベンチャー「ニュースペース」勃興

テストから実用段階へ

 世界の宇宙ベンチャー業界を見渡すと、ブルーオリジンのジェフ・ベゾス(アマゾン創業者CEO)、スペースXのイーロン・マスク(テスラ創業者CEO)、ヴァージン・ギャラクティックのリチャード・ブランソン(ヴァージングループ創業者)と欧米の著名企業家が名を連ねる。

 19年は後に、宇宙ビジネスが本格的にスタートした年と言われるようになるだろう。2月、ヴァージン・ギャラクティックは世界で初めて乗客を乗せての宇宙飛行に成功したと発表した。有人宇宙船「スペースシップ2」が宇宙空間とされる高度80キロメートルに達し、乗客は数分間無重力を体験して宇宙港に帰還した。先のブルーオリジンやスペースXのロケット離着陸の成功など、続々と成功事例が報告されている。宇宙ビジネスは、テスト段階から実用段階に突入している。

 日本で実用段階に入っている宇宙ベンチャーの筆頭と言えば、アクセルスペースだろう。5月に地球観測網「アクセルグローブ」のサービスインを発表。これに先立つこと6年前の13年には民間気象情報最大手ウェザーニューズの専用衛星の打ち上げに成功しており、すでに収益モデルを確立している点にも注目したい。資金調達段階のライバルをしり目に頭一つも二つも先行している。



大学の研究から起業へ

 創業者の中村が宇宙ベンチャーを起業するに至った経緯は何だったのか。中村は、高校生の頃は化学が好きで東京大学に進学。しかし、入学してみると次第に化学への興味を失っていった。自分が夢中になれる研究テーマを探す中で、航空宇宙工学専攻教授・中須賀真一から「学生が人工衛星を作る」という話を聞いた。「本当にそんなことができるのか!」と驚くと同時にエンジニアとして心が躍るのを抑えきれなくなった。「衛星を作るなんて他では経験できないと思った」と宇宙との出会いについて中村は語る。しかし、起業まではまだ遠い。研究室でカメラの開発を担当した中村は、衛星から地球の姿を撮影した画像を自分たちだけでなく、外部の人にも楽しんでもらいたいと考えた。

 そこで、登録者に観測写真を配信することにしたら、写真を見た人から「感動しました」「今後もお願いします」といったお礼のメールが中村に届いた。宇宙業界の先輩たちからは、「学生が作った衛星が動くわけがない。ふざけるな」と言われ、不安になる中で激励の声に救われた。

「自分たちの研究の成果を喜んでくれる人がいる。どんな意味があるのかを考えるきっかけになった」

 その後も衛星作りに没頭し、博士課程まで進んだ。いよいよ卒業する時期になり、超小型衛星を作る企業に就職しようと探したが、世界中どこを見ても存在しなかった。

 そんな折、政府が国内の産業競争力を強化して経済活性化を図るため、大学内の研究成果を事業化する「大学発ベンチャー1000社計画」を発表し、助成金などの資金支援を行った。東大はそのプロジェクトの中心的存在で、中村もその一つに参加した。

 宇宙関連は開発に時間がかかり、数年があっという間に過ぎてしまう。会社を設立しないと助成金が打ち切りになるというので、営業活動を始めたが、企業からは相手にされない。困っていたところで、運命の出会いがあった。



ウェザーニューズ石橋との出会い

 まだ収益モデルも確立できていない段階で、民間企業に対して「自社の専用衛星を持ちませんか?」と前例のない無謀な提案をする方もする方だが、何の実績もないベンチャーに対して「チャレンジすることが大事だ」と受ける方にも勇気がいる。そんな破天荒な意思決定ができるのはベンチャー企業家しかいないだろう。

 ウェザーニューズ創業者の石橋博良は、「我々は発注者ではない。一緒に価値を作っていく仲間だ。同志だ」と言って中村を励ました。気象観測の領域を国家主導から民間企業へシフトさせたのは他ならぬ石橋本人である。常識を覆してきた自身の姿を若い中村に重ねたのかもしれない。

 中村はこの契約をもとに08 年、超小型衛星に関わるサービスを展開するアクセルスペースを設立し、社長に就任した。

「企業を知らない私に会社経営を教えてくれた。ウェザーニューズの背中を見て学ばせてもらった。当時はまだ投資家が見向きもしない頃で、石橋さんがゴーサインを出してくれたので起業できました」と中村は石橋の英断への感謝の言葉を述べる。

 受注から5年後の13年、ウェザーニューズ専用衛星が無事打ち上げられた。

「衛星が日本上空に差し掛かった時は一生忘れられません。発注書を頂いた時も嬉しかったが、初めて星からデータが送られてきた瞬間が一番嬉しかった」と中村は振り返る。

 ただ一つだけ中村には心残りがある。それは一番の理解者であり、応援団であった石橋が病に倒れ、初号機の打ち上げを一緒に見ることができなかったことだ。

「初めにウェザーニューズに出会えたことは奇跡です」と中村は言う。
 


ウェザーニューズ石橋との出会い

宇宙産業のアップル

 企業家はそこにビジネスチャンスがあれば、実績のあるなしに拘らない。自ら需要と雇用を創り出そうと挑戦するのみである。すでに宇宙は人類が次に手にするフロンティアなのだ。だからこそ多くの若者が企業家精神を持ち、果敢に挑戦しているのである。

 国もその動向を無視できなくなってきた。17年5月、政府は「宇宙産業ビジョン2030」を発表。宇宙産業は、第4次産業革命を推進する駆動力となると明記している。さらに、宇宙産業以外の生産性向上に加えて、新たに成長産業を創出するフロンティアと位置付けている。これはIoTや5Gなどの次世代通信やAI(人工知能)・ビッグデータの領域を指しているのだろう。

 宇宙産業全体の国内市場規模は現在の1兆2000億円から30年までに2兆4000億円と倍増を目標にしている。

「私たち宇宙ベンチャーにとって追い風です。国家主導の宇宙開発の予算が増えない中で民間企業を活用しようという動きになっている。ベンチャーの突破力を活用しない手はない」と中村は時代の風を感じている。

 今後の課題は人材であろう。これまでは衛星を製造するハード面のエンジニアが中心であったが、観測データを配信するプラットフォームの運営となるとサービスを提供するオペレーションや営業といったソフト面のエンジニアが必要になる。

 また、サービスはグローバルに展開されることから、法務面の人材も必要だ。画像データの分析やマーケティング担当者など総合力が問われる。優秀な人材の確保は急務だろう。

「将来的にはインターネットのように、一般の人が宇宙を感じないまま、実は宇宙を活用したサービスを使っている状態にしたい。生活インフラの一部になることが目標」と中村はビジョンを語る。

「予定通りに観測衛星を50機打ち上げた後、衛星画像がどのように使えるのかは70億人の知恵を使って考えればいい。スマホのアプリケーションと同様に新しい使い道は勝手に生まれてくるでしょう。宇宙産業のアップルを目指したい」と夢を語った。


宇宙産業のアップル

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