トピックス -企業家倶楽部

2019年07月17日

いつまでキューバをいじめるの?/日本経済新聞社客員 和田昌親

企業家倶楽部2019年8月号 地球再発見 vol.21


和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。




 その昔、コロンブスはアメリカ大陸に初めて到達した。一体どこに着いたのか、モノの本によると、実は大陸ではなく、キューバやエスパニョーラ島(ハイチ)に上陸したとされる。つまりキューバはコロンブスが最初にアメリカ”大陸”に足を踏み入れた場所と言ってもよい。

 コロンブスの計4回の航海のうち、2回目はカリブの島々、3回目はベネズエラに上陸したもののコロンブスは「群島の一部」と判断、4回目にようやくパナマなど「大陸の一部」の中米地域に到達している。

 言ってみれば、西欧にとってアメリカ大陸史の始まりのようなキューバをアメリカはなぜ敵視するのか。国同士の歴史には戦争も平和もあり、時代によって関係は変化する。宗教対立は別にして、いつまでも敵視し続けるのはどうか。

 アメリカがキューバを「いじめ続ける」理由は当然ながらキューバ革命だ。アメリカがキューバを植民地化して、首都ハバナはカネもうけを狙うアメリカ人によるカジノが繁栄していた。それをひっくり返したのが1959年の故フィデル・カストロ率いるキューバ革命だ。

 金持ちキューバ人やアメリカ人は命からがらマイアミに逃げた。アメリカの植民地主義は反省すべきなのだが、革命後にキューバが旧ソ連に支援を仰いだことがアメリカを刺激した。だから何度もフィデル・カストロ暗殺を企てたがすべて失敗に終わる。

 現代ではアメリカへの不法移民もほとんどなく、今や軍事的脅威も消え、オバマ政権時代の2015年に国交も回復した。同年7月に利益代表部を大使館に格上げし、16年3月にはオバマ夫妻のハバナ訪問が実現、キューバ国民の大歓迎を受けた。

 それにもかかわらず、である。トランプ政権はオバマ氏の実績を無視、再び両国の関係に緊張感をもたらしている。

 2019年4月17日、何を意図したのか、アメリカ政府は天下の悪法と世界中から総スカンを食った1996年発効の「ヘルムズ・バートン法」を復活させると突然発表した。

 特に問題視されているのは同法第三章で「革命後にキューバ側に没収・国有化されたアメリカ資産を利用する商業行為に対しては、アメリカ国民はどんな国の企業にも損害賠償を請求できる」というものだ。

 当時のヘルムズ上院議員とバートン下院議員の2人の名前が付いたこのアメリカ法は、対キューバ経済制裁のひとつとされた。しかし、発効直後からキューバはもとより、世界中から様々な批判を浴びた。

 激怒したのがカナダ、スペイン、メキシコ、EU(欧州連合)、日本など元々キューバに進出していた国々。「アメリカは国内法(米裁判所での訴訟)を域外適用している」とWTO(世界貿易機関)に提訴、余りの反発にアメリカは同法の執行を踏みとどまった。それ以来、おそらく誰もが「あの法律は凍結」と思っていたはずだ。

「4月17日」という日は特別な日である。あのキューバ革命から2年後の61年にアメリカ軍がキューバのプラヤ・ヒロン(海岸の名前)に軍事侵攻し、旧体制を復活させようとして失敗した「記念日」でもある。

 歴史的にはアメリカにとって悪夢のような記念日を選び、お蔵入りしたはずの”休眠法”を引っ張りだしたのは「逆襲」の意図を込めたものだろう。

 駐日キューバ大使のペレイラ氏は今年5月の日本記者クラブの講演で「一度は世界で無視された法律を今になって持ち出すのはアメリカの孤立化を招くもの」と冷静にコメントした。

 オバマ政権時代に55年ぶりの仲直りをしたはずのキューバとの関係をまた元に戻そうとするトランプ政権。大票田マイアミにいる亡命キューバ人のご機嫌を取りたいのだろうが、悔し紛れのいじめは見苦しい。



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