トピックス -企業家倶楽部

2019年07月19日

インターネット広告領域で圧倒的な存在になる/カルタホールディングス会長 宇佐美進典 氏

企業家倶楽部2019年8月号 核心インタビュー


2019年1月に東証一部上場企業であるVOYAGE GROUP(以下、ボヤージュG)と電通100%子会社のサイバー・コミュニケーションズ(CCI)が経営統合して、CARTA HOLDINGS(カルタHD)がスタートし、約半年が過ぎた。統合前の目的通りに相乗効果が生まれているのか、会長である宇佐美進典氏に話を聞いた。聞き手:本誌編集長 徳永健一



組織の価値観を体現できるオフィス作り

問 5月7日に渋谷の最新のランドマーク・オフィスビル「渋谷ソラスタ」に引っ越しされましたね。前回のオフィスも社名であるVOYAGE(航海)をイメージしたメッセージ性の高い独創的なオフィスデザインでしたが、宇佐美会長にとってオフィスとはどんな場所だとお考えでしょうか。

宇佐美 会社の成長とともに拠点が分散していましたが、今回の移転で1拠点に再結集させました。会社の考えや価値観を体現したオフィス作りを意識しています。前オフィスからさらに進化させて「グレイトボヤージュ」というテーマで作りました。組織の価値観をどう浸透させていくのかを考えています。その一つの手段として、オフィス空間があると思います。

問 1月にCCIと経営統合して、5カ月が経ちました。以前、取材した際には、1つ目に大手電通グループとベンチャー企業の融合であること、2つ目にネットとオフラインの融合であること、3つ目に上場という形を残したまま大手の伝統的なデジタルシフトを行うモデルになることなど、新しいチャレンジであるとのことでしたが、経営統合後の率直な印象はいかがでしょうか。

宇佐美 当初から想定していた取り組みが出来ています。具体的にはこの半年間で複数のプロジェクトが動いており、CCIと協業で新しいブランド向けの広告プラットフォームを作っているところです。また電通とは音声広告に一緒に取り組んでいます。

 両社の統合で相乗効果を生むという定性的な部分での取り組みに関しては比較的順調に進んでいると感じます。一方で定量的な部分でいうと、先日の経営統合後の初の決算が好調でした。個別の数字が良かったので、まだシナジーが出て数字が改善された形ではありませんが、ここに関してはこれからが本番という感じですね。

問 電通グループ・CCIとの経営統合の動機として、ブランド広告主が従来のマス広告だけでなく、ネット広告にも魅力を感じているという背景がありました。大手のクライアントを抱える電通グループとネット企業としてサービスを開発できるボヤージュGが経営統合することで、複雑化するニーズに応えられるということでしたね。

宇佐美 はい、我々だけではアプローチできなかったというより、課題やニーズを感じ取れなかった部分について、統合したことでブランドの広告主の動きや課題、ニーズがよりビビットに分かるようになりました。解像度が上がったという印象です。さらに解像度が増したので、「より具体的なサービスを一緒に作ろう」「こういう機能が必要だね」という議論が出来ています。

 社内からは、以前よりクライアントの声や情報が集められるようになったと聞いています。

問 それでは逆にボヤージュGが電通側に影響を与えている点は何かありましたか。

宇佐美 CCIは、6月3日にデータを活用したコンサルティング会社「DataCurrent」を分社化しました。この10年ほどCCIは子会社を作らずに社内で事業を作っていたのですが、ボヤージュGが子会社を作るのと同じように事業を切り出してみようという試みでした。経営統合をしていなかったら、違う形になっていたかもしれません。


 組織の価値観を体現できるオフィス作り

暗黙知を言語化し共有する

問 CCIとはネット広告領域の健全性を守るなど、大切にしている価値観が似ているとのことでした。今後さらに相乗効果を生むために、現在の課題は何でしょうか。

宇佐美 経営統合後は概ね順調に進んでいます。一方で、これは例え話ですが、結婚する前にはお互いの理想としている部分ばかり見ていたところ、実際に暮らしてみるとアラが見えてくるといったことが、現場では一部ですが出てきているように思います。

 お互いの理解をより深めていくプロセスがもう少しないとその壁を乗り越えていけないと考え、対応しているところです。

問 社会的に事業継承の問題もあります。今後様々な形で経営統合が増えることが予想されています。差し支えなければ、経営統合後の課題について、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか。

宇佐美 大きな問題ではなく、違う文化の組織が一緒になるのですから、認識のズレは存在するでしょう。例えば子会社を作る時に、ボヤージュでは、「どういうときに子会社を作るのか」「子会社に対してどこまで権限委譲するのか」という点が言語化されていませんでした。

 子会社を作ると、権限委譲がセットになってついてきます。というのも、子会社にするのが目的ではないので、自律的に動けるように、どこまで権限委譲するのかが重要なわけですが、それが明文化されていませんでした。今まではその必要がなかったのです。しかし、例えば「採用は別々にするのか」という議論になった際、お互いが持っている権限委譲という言葉のイメージが異なり、言葉のすり合わせが必要だと感じました。

 現在は、お互いが暗黙知で仕事をしてきた部分をもう一度、形式知、いわゆる言語化させて共有するように進めています。

問 これまで別々の組織でしたから、意思決定のプロセスも違うと思います。新しいルールを作るということでしょうか。

宇佐美 ルールを決めるというよりは、グループ内の原理原則を明文化していくというイメージです。お互いに暗黙知的に決めてきた部分の抽象度を上げて一度言語化させてから、共通言語として定義して、それらをすり合わせていくということを今、まさに進めている段階です。

 最終的には個人の目標設定にも絡んできます。会社の計画と予算、事業部や個人の目標は全て一気通貫で繋がっていて、あちらが変わればこちらも変わるという形が理想です。

 プロジェクトの見直しが適宜出来る風にしていかないと、結果が出た際に、全体として何の調子が良くて何の調子が悪いのか分かりません。もし悪いのであれば悪いところから人を動かしたり、ある部署を強化したり、あるいは投資を多くしたりという部分を横断的にカルタ全体で見られるようにしていくベース作りをしています。

問 一般論としては大手企業の方が仕組みは出来ていて、ベンチャーはないものづくしと言われますが、どうですか。

宇佐美 これは良し悪しで、予算に関してサイクルが半期や1年ベースと比較すると、四半期ベースと短い方が管理体系の仕組みとしては優れているでしょう。一方で労務の部分はCCIの方が良く出来ていると思います。そういう意味ではどちらか一方が優れているということはなく、良い方をベースにそれぞれの分野で共通言語化させていくことを今は選択しています。


暗黙知を言語化し共有する

さらなる成長領域を目的に経営統合

問 カルタの中期計画を発表されています。元々経営統合も更なる成長意欲の形として電通グループを選んでボヤージュG側から提案したということでした。両社が経営統合するとインターネット広告市場の約1割を占めます。中期計画には何を込められていますか。

宇佐美 経営統合の発表をした時、まずは「インターネット広告領域」において圧倒的な存在を目指していくと掲げ、より長期では広告に限らず「インターネット業界」で圧倒的な存在を目指すと掲げていて、それを実現していくための一つのマイルストーンとして22年に向けて中期計画を作りました。

 売上げの部分はグロスからネット計上に変えました。売上げではなく、取扱高でいうと、昨年ベースで10%弱くらいのシェアを占めていると思います。一方でグロスからネットに変えたのは事業として中身の部分、利益を伸ばさなければいけないからです。規模だけ拡大しても結局利益が出ていないのであれば意味がありません。それよりも売上総利益をしっかり伸ばしていくことをベースとして今回の中計では考えています。

問 以前、取引先の方針の転換で、既存売上げの3分の1がなくなってしまう危機がありましたね。「ハリケーン」と名付け、ピンチはチャンスになるという教訓にされて、御社では常に新しい事業に投資する事業開発会社を掲げていますが、現在注力している事業はありますか。

宇佐美 4月にブランド戦略室を新設し、ブランド広告領域を強化するため、CCIと共同でサービスを作りました。ブランド広告主向けの「PORTO(ポルト)」という、ブランディングを重視する広告主向けに安心して出稿できるアドプラットフォームです。ボヤージュGが保有する独自データを活用できるメリットがあります。将来的には、デジタル領域だけなく、テレビやラジオ、OOH(OUT  OF  HOMEの略。屋外広告のこと)など、オフラインメディアを含む多様なプレミアムメディアフォーマットへの対応を計画しています。

 経営統合して1年目は、共通言語を作り、今後のビジネスを進めていく上でのベース作りをしっかりやるというフェーズにしています。

問 商業インターネットが誕生して30年が経ち、ネットは完全に普及しました。今後、大きく産業が変わろうとしていると感じます。デジタルシフトがいよいよ始まったという印象が強まっていますね。

宇佐美 そうですね。今までは「インターネット」という切り口で捉えているところだったのが、「デジタル」という言葉が復権してきているイメージがあります。デジタルトランスフォーメーションのような既存の産業がネットで変わる、IoTやAIも含めて、デジタルを起点に変わっていく状況になってきています。今後は経営統合の本当の意味が問われることでしょう。これからが本番だと考えています。ネット広告市場において業界をリードする圧倒的な存在を目指します。

P R O F I L E

宇佐美進典 (うさみ・しんすけ)

1996年、早稲田大卒業後、トーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)に入社。1999年にアクシブドットコム(現CARTA HOLDINGS)を友人と創業。2001年サイバーエージェントと資本業務提携し、2005年から2010年まで取締役も兼務。2012 年にサイバーエージェントよりMBOし、2014 年東証マザーズ上場、2015 年東証一部へ市場変更。2019 年のCCI とVOYAGEGROUPの経営統合に伴い、CARTA HOLDI NGS の代表取締役会長に就任。


さらなる成長領域を目的に経営統合

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