トピックス -企業家倶楽部

2019年07月30日

米国の標的、ファーウェイの次はどこか?ー先鋭化する米中ハイテク摩擦

企業家倶楽部2019年8月号 グローバル・ウォッチ vol.25


貿易摩擦に端を発した米国と中国の対立が、米中ハイテク摩擦へと先鋭化している。和解に向かうかと見られた通商交渉も、華為技術(ファーウェイ)副会長逮捕を機に雲行きが怪しくなり、対立は両国の技術覇権争いの様相を強めている。攻めるトランプ政権と意地を張る中国政府、そして怯える中国企業…。トランプ大統領がファーウェイの米国市場からの完全追放を5月に決めると、市場の関心は「ファーウェイの次」の米国の標的がどこかに向かっている。




 トランプ米大統領は5月15日、海外の敵対者を米国の通信市場から排除する大統領令に署名した。「情報通信技術及びサービスの供給網に関する安全性確保」に関する大統領令で、敵対者が米国の通信網を脆弱にしてサイバー攻撃を容易にし、米国の機密を盗み出しているとし、「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づいて国家非常事態を宣言。敵対者の製品やサービスを米国企業・団体、個人が購入することを制限するとした。敵対者については明記しなかったが、150日以内、すなわち10月までに公表するという。

 敵対者にファーウェイが含まれるであることは容易に想像がつく。なぜなら同日、米商務省産業安全保障局がファーウェイへの米国製品の輸出を事実上禁止する措置を発表したからだ。商務省はファーウェイが米国の国家安全保障または外交政策の利益に反する活動に従事していると判断し、ファーウェイ及びその海外子会社68社を安全保障上懸念のある企業のリスト(エンティティ・リスト)に登録。登録企業に米国製品を供給するには、商務省の許可(原則拒否)が必要になる。

 トランプ政権は5月10日に中国からの輸入を規制する関税引き上げの追加措置を実施したばかり。米国は当初、18年9月に家電など中国からの輸入2千億ドル分に10%の関税をかけ、19年1月にそれを25%に引き上げる予定だった。18年12月1日の米中トップ会談で25%への引き上げを3カ月見送ることで合意し、中国の構造問題を協議してきた。しかし中国側が譲歩しなかったことから追加措置の実施に至った。

 ファーウェイ問題が火を噴いたのも18年12月の米中トップ会談での合意の直後。カナダ司法省が12月5日にファーウェイの創業者の実の娘、孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を逮捕したことを発表した。経済制裁中のイランにファーウェイが違法輸出したとして、米司法当局が孟氏の拘束を求めていた。しかも逮捕の日はトップ会談が開催された1日だったという。関税引き上げという中国全体への制裁と、個別の中国企業への制裁を組み合わせて、段階的に中国に圧力をかけていく。個別企業へはまず米国製品の供給を止め、次に米国への製品輸入を止める。まさに「アート・オブ・ディール(交渉の技術)」(トランプ大統領の自伝のタイトル)。「ディールを楽しむ」というトランプ氏の真骨頂発揮といったところか。

 米国による一連の措置を受けて、ファーウェイ包囲網は狭まっている。ブルームバーグによれば、インテル、クアルコム、ザイリンクス、ブロードコムなど米半導体大手がすでにファーウェイ向けに製品を供給しない旨を社員に伝えたという。中国にとって半導体の調達はアキレス腱だ。ファーウェイは子会社に海思半導体(ハイシリコン)という半導体設計会社を持つが、設計に不可欠な技術を持つ英アームもファーウェイとの取引を停止する見通し。さらにスマホ向けのOS「アンドロイド」を開発しているグーグルも、有償部分の提供を中止したという。Gメール、地図機能が使えなくなるという。ファーウェイは今秋にも自前のOSを投入するとしているが、同社のスマホの中古品の価格は暴落している。

 「聞くことすべてを信じるな。私たちに会いに来てほしい」。ファーウェイは米国のメディアにサイトでこう語りかける。これまでほとんどメディアに出ず「謎のベール」に包まれていたとされる創業者の任正非最高経営責任者(CEO)が盛んにマスコミの取材に応じ、「法律違反はしていない」「中国共産党の言うことは聞かない」「米国から部品が調達できなくても大丈夫」などと声高に叫んでいる。語れば語るほど、追い込まれて窮地に立たされている現状が透けて見える。先にやはり米国からの制裁で、経営危機の瀬戸際にまで追い込まれた中興通訊(ZTE)の姿とだぶる。



■ 次は監視カメラ、AI関連企業

 中国側は5月13日、液化天然ガス(LNG)など米国からの輸入製品600億ドル相当に対して最大25%の関税を課し、米国の制裁に対する報復措置を6月1日に講じると発表した。米国の脅しに屈しない姿勢を示した形だが、中国が意地を張れば張るほど、トランプ政権は新たな制裁措置を繰り出してくる。米国も同日、中国制裁第4弾として、携帯電話など中国からの輸入分約3千億ドルに最大25%の関税を6月末以降にも課す方針を打ち出した。関税引き上げ合戦は中国が米国に輸出している金額の方が、その逆よりも大きいため、米国に有利だ。中国が人民元切り下げで対抗しようと思っても限界はある。そして米国による中国企業への攻撃はほぼ無限大。中国企業はいつ標的になるかもしれない現実に怯えている。

 ファーウェイが米国のターゲットとなったのは、イランとの違法取引に加え、米通信会社TモバイルUSのスマホ検査ロボット技術など米国企業のトレードシークレットを違法に獲得していると疑惑があるからだ。さらに次世代通信規格5Gの実用化でファーウェイが特許取得などでリードしており、その通信機器が世界各国に普及すれば、米国の安全保障上の脅威になりかねないと米国側は見ている。5Gはあらゆるモノがネットでつながる「IoT」の基幹技術であり、水道や電気などインフラの管理にも不可欠となる。インフラの破壊をしようと思ったら、通信網に侵入すればいい。

 安全保障という観点から見れば、中国のスパイ活動に役立ちそうなビジネスを手掛けている企業が次の米国のターゲットになるだろう。その筆頭が世界各都市で画像情報を収集できる立場にある監視カメラのメーカーだ。そして画像情報を処理して、有益な情報を抽出する技術を持つ画像認識などの人工知能(AI)関連企業もだ。

 ブルームバーグによれば、米政府は中国企業5社を商務省の「エンティティ・リスト」に新たに載せて、米国製品のこうした企業への供給を禁止することを検討しているという。5社とは監視カメラの世界最大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン、杭州市)、同2位の浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー、杭州市)、そして曠視科技(メグビー・テクノロジー、北京市)、科大訊飛(アイフライテック、合肥市)、美亜柏科信息(メイヤ・ピコ・インフォーメーション、厦門市)だ。

 ハイクビジョン、ダーファについては米国政府への製品納入は事実上できなくなっている。「2019年度米国防権限法(NDAA2019)」が超党派で18年8月に米議会で可決され、トランプ大統領が署名して成立したからだ。同法では中国を「国家安全保障上の脅威国」として位置づけ、ファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファ、そして警察など向け無線通信機器メーカーの海能達通信(ハイテラ・コミュニケーションズ、深セン市)を対象に、米国政府機関の取引を19年8月以降禁止する。さらに20年8月からは、こうした企業の製品を使ってサービスを提供している企業と、米政府機関の取引も禁止となる。米国で通信事業を手掛けるソフトバンクは、基地局に採用していたファーウェイ製品を排除する方針を決め、5Gの通信設備についてもスウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアから調達する方針に転換した。

 メグビーは香港の商湯科技(センスタイム)と並ぶ、AIを使った画像認識技術を開発するユニコーン企業。監視カメラで集めた顔の画像から人物を特定する技術「FACE++」を持ち、アリババ集団も出資。アリババの決済サービス「アリペイ」の顔認証システムにも採用された。アイフライテックは音声認識技術のAI企業で、自動翻訳の分野では国内最大手。百度、アリババ、騰訊控股(テンセント)のBATと並ぶ、AIプラットフォーム企業に中国政府によって選定されてもいる。メイヤ・ピコはデジタル・フォレンジック(科学捜査)サービス会社で、ハードディスクに残された情報の痕跡を見つけたり、失われたデータを復元したりする。最近では正体不明のドローンを発見したり、警告を発したりする防衛システムの開発に乗り出すとの報道もある。各社がどれほど米国製の部品やソフトを使っているかは不明だが、リスト掲載の噂が流れただけでも信用は失墜する。



■ ドローンのDJIの名前も

 空飛ぶ監視カメラともいえるドローン(小型無人機)も規制の対象になるかもしれない。深センのドローンメーカー、大疆創新科技(D J I)だ。CNNの5月20日の報道によれば、米国土安全保障省が「中国製のドローンが機密のフライトデータを中国の製造元に送り、その情報に政府がアクセスできるようにしている」と警告するレポートをまとめたという。DJIを名指しはしてないが、同社は北米市場の8割のシェアを持ち、警告がDJIの製品に対するものであることは明白だ。

 米陸軍はDJIのセキュリティ上の脆弱性を懸念し、17年に同社のドローンの調達を禁止した。17年8月のWIREDの記事によれば、DJIの16年4月のプライバシーポリシーでは、「DJI製品とサービスは、米国、中国、香港でホストされているサーバーに接続しています」と書かれているという。DJIやファーウェイがいくら中国政府に情報は提供していないと言い張っても、中国は17年6月に「国家情報法」を施行し、第7条で「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」と定めた。中国企業にとってスパイ活動への協力は義務化されているのだ。

 世界最大のパソコンメーカー、聯想集団(レノボ・グループ)も米中ハイテク摩擦の中で微妙な立場に置かれている。主要な情報機器としてその地位をスマホに譲りつつあるパソコンだが、18年の出荷台数は2億6千万台ある。そのうちレノボは23%のシェアを握る。もともとは中国政府系の研究機関で北京にある中国科学院計算技術研究所からスピンオフした中国企業である。米IBMのパソコン事業を買収して事業を拡大したこともあり、米国内でも10%以上のシェアを持つと見られる。

 5月にファーウェイ製品の米国市場からの締め出しが報道された直後、レノボがファーウェイに製品供給を止めているとの噂が中国国内で流れた。するとレノボの愛国心を問うネットへの書き込みが相次ぎ、レノボは「ファーウェイは重要な顧客であり、供給を止めたことは一度もない。営業している国々の法を厳格に適応し、ファーウェイへの製品供給を続けていく」と噂を否定する声明を出した。レノボは自らをグローバル企業と主張するが、いずれは中国企業として米国市場を断念する事態に追い込まれかねない。

 米中ハイテク摩擦の主戦場は今ところ通信・情報機器だが、ネットサービスを提供している中国のテックジャイアントに波及する可能性もある。BATはいずれも米国市場では大きなビジネスをしてない「内弁慶」だが、米国の金融市場とは密接な関係にある。アリババと百度はそれぞれニューヨーク証券取引所、ナスダックに上場している。

 ブルームバーグは5月28日、アリババは19年後半にも香港取引所に再上場し、200億ドル規模の資金調達を計画していると伝えた。アリババはかつて種類株が禁じられていた香港市場から撤退し、14年に米国で再上場した経緯がある。香港取引所はその後、中国のネット企業の上場を呼び込むため種類株を解禁した。報道は「米国と(中国の)緊張が高まる中、自国にいる、より友好的な投資家との距離を近くする」「香港上場でアリババと北京の関係が強化されるかもしれない」としている。アリババの香港上場の狙いは、米国市場からの資金調達から締め出されるリスクをヘッジしようしていると考えられる。

 粉飾決算などの違法行為をしないかぎりニューヨーク証券取引所から上場廃止になることはないだろうが、米国の投資家の中国企業離れの流れは食い止められないだろう。逆にこれは米国から引き上げる可能性を示唆した揺さぶりかもしれない。5月24日、半導体受託生産の中国最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)は、米ニューヨーク証券取引所からの自主的上場廃止を発表した。今後、同社の株式の取引は香港取引所に一本化される。米中ハイテク摩擦はマネーの流れにも着実に影響を与え始めている。

P r o f i l e  

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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