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2019年08月08日

寿司職人のプラットフォーマーになる/東京すしアカデミー CEO 福江 誠 

企業家倶楽部2019年8月号 モチベーションカンパニーへの道 vol.37


 寿司職人の養成を手掛ける東京すしアカデミー。その代表を務めるのが福江誠だ。

「東京でオリンピックが開催される2020年は、過去最高に外国の方が日本にやってくるだけでなく、私たちの業界としても、寿司が考案されて400年という節目の年です。これを大きなチャンスにしたい」

 そう福江が語るように、寿司業界には今、またとない好機が訪れている。



様々な目的の生徒が受講

 東京すしアカデミーの主力事業となっているのは、寿司職人の養成である。養成コースはいくつかあるが、特に人気のコースは2つだ。

 1つ目が東京すしアカデミーの看板でもある「江戸前寿司 集中特訓コース」。ここでは寿司屋での修行3年分に相当するスキルを、2カ月という短期間で習得できる。

 もう1つは、週末のみ受講して約11カ月で技術を習得していく「江戸前寿司 週末特訓コース」だ。全ての講義が週末に入っているため、仕事をしながら寿司の技術を身に付けたい人にもってこいである。2つのコースはどちらも受講料60万円(入学金15万円)となっている。

 さらに3年前から、外国人を対象とした英語で寿司作りを教えるコースも築地に開校した。このように、社会の変化に適応したコースも順次作っている。

 養成コースの受講生は高校を卒業したばかりの若い世代から、定年退職したシニアまで老若男女問わず在籍する。年齢層が幅広いこともあって、「寿司職人になる」という目的以外の人も多い。

 早期退職後を見据えて手に職を得るために来ているサラリーマン、料理の幅を広げるために通うシェフ、「自ら寿司を握って外国人をおもてなししたい」という中高年など様々だ。

 福江は「スクール事業を別の料理に横展開してコースを開設するのではなく、あくまで寿司にこだわり、その中で多様化するニーズに応えたい」と語る。



効率的に寿司を教える

 従来、寿司職人として一人前になるには「飯炊き3年、握り8年」と言われるほど、長い修業が必要とされてきた。東京すしアカデミーはその常識を覆し、2カ月で寿司職人を育成することで注目を集めている。しかし、2カ月という短期間で本当に寿司職人を養成できるのだろうか。

 寿司職人に必要な技術は握りや仕込みなど「比較的すぐに身に付けられるもの」と、お客に対する気配りや魚の目利きといった「時間を掛けて習得するもの」に大別される。寿司屋の徒弟制度では、弟子はすぐには技術を教えてもらえず、当分の間は皿洗いや掃除などの仕事に従事させられる。握りや仕込みといった技術を教わるのは最後になるため、時間がかかるのは当然だ。

「私たちは、握りや仕込みのような短期的に成果が見込める技術を2カ月で集中的に教えます」と福江が説明するように、東京すしアカデミーでは生徒に対して効率的に寿司の技術を伝授する。

 もちろん、気配りや目利きといった時間がかかるスキルも疎かにはしていない。東京すしアカデミーが開講するコースには「寿司職人養成インターンシップコース」というものもある。そこでは寿司に関する技術だけでなく、店舗マネジメントなどの座学を学んだり、提携する寿司屋で4カ月間の実践経験を積んだりすることが出来る。

「長期的なスキルは実店舗に出なければ得られません。そのため、技術が身に付いた生徒は提携先の寿司屋に送って、どんどん経験を積める仕組みを作っています」


効率的に寿司を教える

寿司職人を増やすために起業

 福江が寿司に携わるようになったきっかけは、約25年前に遡る。転職先の経営コンサルティング会社で、寿司屋の経営者向けに勉強会を行うこととなった福江。そこで寿司屋の経営とは何か、じっくりと考えた結果、寿司屋の経営に詳しいコンサルタントとして独立することを決意した。

 ただ、独立した当時の寿司業界は、格安の回転寿司ブームが起き、個人店が淘汰されていく冬の時代だった。そのような厳しい状況の中、福江は新しい寿司の業態開発や人材採用などに奔走した。

 そうした活動をするうちに、「寿司業界は深刻な人材不足に陥っており、売上げと利益を増やす以前に、寿司職人の成り手を増やすことが最も重要だ」と気付いた福江。「何年も店で修行を積んで一人前になっていく徒弟制度は、もはや時代に合っていないと感じました。寿司職人になるハードルを下げたかった」と東京すしアカデミーを創業した時のことを振り返る。



寿司屋とwin-winの関係を築く

 徒弟制度の下、長い間修行して寿司職人になるという常識を打ち破った東京すしアカデミー。改革者は業界からの批判に晒されるのが常だが、彼らはむしろ厚い信頼を得ている。

 その理由として大きいのは、寿司業界の人材不足という現実だ。寿司屋が人材を募集し、採用まで繋げるのは至難の業。入社しても一人前になる前に辞めてしまうケースも多い。それに加えて、寿司屋自体に人材を育成している余裕が無いのが実情だ。

 そんな中、東京すしアカデミーは言わば、寿司屋の代わりに寿司職人を育成してくれる存在となっている。「寿司屋としては、東京すしアカデミーを卒業した良い人材が欲しいのです。基本的なスキルが身に付いているので、一から教えなくて良い。これは寿司屋にとって大きなメリットになる」と福江は考察する。



職人が成長する機会を創出

 東京すしアカデミーは寿司職人の養成以外にも、国内外で自社店舗を経営している。今後は寿司職人の養成と同時に、卒業生や外部から来た経験者と協力して、人材育成の場となる実店舗をさらに増やしていく構えだ。寿司屋はそれぞれに独自の風土があり、同じ寿司屋は存在しない。そのため、様々な店舗で働くことでこそ寿司職人として大きく成長できる。

 経験を積む機会を創出するためには、ただ店舗だけを増やしても意味がない。寿司屋には掲げている価格帯があり、各店舗でターゲットに据える客層が異なるからだ。多様な寿司職人の志向に合わせた価格帯の店を用意することも大切である。

 そのため東京すしアカデミーでは、卒業生が店長やオーナーとなっている寿司屋と提携して、自社店舗では補えない部分も含め、生徒が様々な価格帯の店で経験を積める環境を提供している。

 単にスクール事業として人材育成の環境を作るだけでなく、自社で店舗を構え、さらには提携先も含めて卒業生を送り出している東京すしアカデミー。「寿司職人を循環させたい」と語る福江は、まさに東京すしアカデミーを業界における人材の結節点にしようと夢を描いている。職人の養成を通じて、言わば「寿司業界のプラットフォーマー」となり、新風を巻き起こさんとする彼らから目が離せない。



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