2019年08月09日
ぶれないリーダーを育てよう/日本経済新聞社参与 吉村久夫
企業家倶楽部2019年8月号 教育への挑戦~新しい日本人を求めて~ vol.20
Profile
吉村久夫(よしむら・ひさお)
1935 年生まれ。1958年、早大一文卒、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員、日経ビジネス編集長などを経て1998年、日経BP社社長。現在日本経済新聞社参与。著書に「本田宗一郎、井深大に学ぶ現場力」「歴史は挑戦の記録」「鎌倉燃ゆ」など。
良き市民の三つ目の要件-「自分で考える」とはどういうことでしょうか。文字通り、自分で考えて、自分の意見を持つことです。付和雷同しないのです。忖度なんてもってのほかです。
日本は総〇〇の好きな国でした。総動員をしたり総懺悔をしたりです。日本人一人一人が主役になって自分の意見を持つようになれば、もう右顧左眄の総〇〇時代には別れを告げることになるでしょう。
世論は元来、多種多様なものです。それでいいのです、なぜなら人は多種多様ですから。もちろん百人百色では困りますが、過半数で意見が一致していれば、それでいいでしょう。
全員一致というのは嘘です。ありえません。本当に全員一致なら、それは仕組まれたものです。全体主義です。また非国民という言葉が復活します。言論統制の時代に逆戻りです。
良き市民の四つ目の要件-「志を持つこと」は、人は志を持った自立した存在であるべきだということです。民主主義の大前提は有権者が自立していることにあります。
有権者が志を持った自立した人であれば、政府の愚民政策には迎合しません。財政が赤字なのに減税するといった迎合策には反対するでしょう。減税は、結局は財政赤字を拡大するからです。
かつてケネディ米大統領は米国民に「政府からの恩恵を願うよりも、むしろ国にどう貢献するかを考えてほしい」と訴えました。権利を言う前に義務があるということを思い出させたのです。
自立するということは、国に頼らないということです。自分のことは自分で責任を持つという志のことです。この堅い志を持つ人は上司に諌言することを恐れない信念を持っている人です。21世紀の主役たり得る人といっていいでしょう。
では、不動の信念、つまり揺るがない胆力とはどこから来るものでしょうか。一口にいえば教育、修身です。中国の古典『大学』にあるように「修身斉家治国平天下」なのです。
人は生まれながらの個性を持っています。この個性を伸ばす幼少児の環境、青少年時代の師、成人になってからの異質の体験、こういったものが人間性、人格を形成する大きな要因となります。
そうした修養、勉学、体験を通じて、人はリーダーシップを身につけて行くのです。リーダーシップとは知識、体験、思考が創り出す人格、人間性、さらには哲学だと思います。
最近の政治家、経営者には信念、哲学といったものを持ち合わせない人が多いように思います。政治家は有権者に媚びることに専念し、経営者は任期中の無事だけを祈っているといった風潮です。
これでは有権者、従業員は大迷惑します。国会が空転し、企業がデータを改ざんするのも無理はありません。こんなリーダーばかりですと、世の中が馬鹿らしくなって、青年は将来に夢を託さなくなります。
もちろん、このことに気が付いている政治家、経営者もいます。とりわけ、激しい国際競争を戦っている心ある経営者は、人材が最大の資本ですから、真剣です。
そうした経営者が集まって、新しく中高一貫の全寮制の海陽学園を開校しました。大変有意義な試みですから、現場を取材した本『海陽学園が変える日本の教育』(鈴木隆祐著、日本実業出版社)を参考に同校を紹介します。
その学校は愛知県蒲郡にあります。中高一貫校です。いま注目されているボーディング・スクール(全寮制学校)です。開校は2006年です。この学校は私立です。それも出資した中核企業はトヨタ自動車、JR東海、中部電力という、いわば中部財界の企業立学校なのです。企業の日本の教育に対する危機感が生んだ学校なのです。
海陽学園は有名な英国のエリート校、イートン校を参考に設立され、交流が続いています。男子の全寮制の中高一貫校です。
授業料は高いです。しかし、授業料免除の奨学金制度があります。開校の狙いは、新時代にふさわしいリーダーを養成することにあります。
最初の卒業生101名のうち13名が東大に合格しました。慶応、早稲田には51名が合格しました。外国大学にも8名が合格しました。東京芸術大学にも1名合格しました。
日本では東大合格数で高校を評価しがちですから、その点でも滑り出しはなかなかのものです。しかし、海外の大学や東京芸術大学に合格した生徒もいます。それまでの進学校とはちょっと趣が違います。
海陽学園は東大受験校ではありません。生徒には個性に合った大学への進学を勧めています。これからは直接、海外の大学に進む学生が増えてくるのではないでしょうか。
生徒の一日は朝6時40分に始まります。7時20分から朝食です。ぼやぼやしてはいられません。手早く行動することが大事です。否応なしに規律が要求されます。
授業は8時10分から、昼食を挟んで午後4時10分まで続きます。それから課外授業。寄宿舎に帰るのは6時です。それから夕食、自由時間。8時から10時まで夜間学習。就寝は10時半です。つまり睡眠時間は8時間です。これは中学生の例で、高校生は勉強時間が延びます。
指導してくれるのは、フロアごとのフロアマスターです。企業から派遣された20代のエリートたちです。いわば兄貴分で、公私ともに指導をしてくれます。この上に寮全体の監督をするハウスマスターがいます。
学内に閉じ込めておくのではなく、時には出資会社の工場見学に行ったり、校外学習をしたりします。企業若手との接触と工場見学で、生徒たちは見聞を広めるわけです。フロアマスターにとっても人材育成の勉強になります。
寮生同士だけでなく、すでに社会人としての訓練も積んだフロアマスターも含めた切磋琢磨の場が設けられているのが特徴です。しかも、生徒の個性、志向に応じたバラエティに富んだ進学の道が用意されているのです。
このことは学園がいろいろな分野でリーダーになり得るようなバラエティに富んだ人材の育成を狙っていることを意味します。中部財界が中心になって開校したとはいえ、経営者の育成だけを狙っているわけでは決してないのです。
さて新時代、つまり宇宙開発、AI時代のリーダーというのはどんな人なのでしょうか。宇宙時代の地球市民は四つの要件をバランスよく備えた、人間性豊かな人物でなければならないと思います。そうでなければAIを駆使する立場には立てないと思うからです。
霊長類の研究をしてきた京都大学の山極総長はこれからのリーダーの条件として「直感力と感動させる能力」を挙げています。そうした考えから、山極総長は京大に体験型の海外渡航支援制度「おもろチェンジ」を始めました。
21世紀は主役である個々人がAIを駆使できるような直感力、行動力を身につけるよう迫っているように思います。海陽学園や京大に限らず、新しい学校や実験がそうした地球市民を一人でも多く創り出すことを期待したいものです。
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