トピックス -企業家倶楽部

2019年08月11日

【佐藤綾子のパフォーマンス心理学】vol.51  努力は人を裏切らない/佐藤綾子

企業家倶楽部2019年8月号 トップの発信力 


Profile

佐藤綾子(さとう・あやこ)

博士(パフォーマンス心理学)。日大芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究第一人者。累計4万人のビジネスマン、首相経験者など国会議員のスピーチ指導で定評。「佐藤綾子のパフォーマンス学講」主宰。『部下のやる気に火をつける33 の方法』(日経BP社)など単行本191冊、累計321万部。



1.『令和』発表者菅官房長官

 現在の上皇陛下が早めに退位の決意を表明し、「次の天皇陛下が使う新しい元号が何になるか」多くの人の憶測が飛び交いました。『令和』と命名。この発表が2019年4月1日(月曜日)11時40分のことでした。

 私は元々、フジテレビからこの際の画像の分析取材を頼まれていたので、熱心にテレビ画面を見つめました。そしてハッと気が付いたことがあるのです。『令和』の発表スタイルが、当時『平成』を発表した時の小渕官房長官と丸きり違うということです。

 小渕長官が『平成』を発表した時、今から31年前のその日、それは急な出来事でした。昭和天皇の崩御に伴い、新しい時代の命名が大急ぎで始まったのですから。そのせいでしょうか、おそらくこの元号発表のリハーサルが出来ていなかったのでしょう。座って肘の一部を机に載せ、両手で「平成」と書かれた額縁を掲げて、「次の元号は、『平成』です」と発声。ドッとカメラのフラッシュが焚かれ『平成』がスタートしました。後で画像を起こすと、額縁の左の角がご自身の顔の右の頬に被り、頬の形がくっきりと見えません。しかも肘をついているので、なんとなく安定しない自分のスピーチを机で支えているという感じが漂いました。

 翻って菅長官は、立ち上がって「次の元号は、『令和』です」と言って、あまりいつも表情筋を動かさないのに口の両サイドの「口角挙筋」をほんの少し持ち上げて、よく見れば「微笑情」のスマイルだと分かる程度のスマイルをしました。立った状態で額縁を両手で掲げ右に2回、左に2回と同じ様に、居並ぶ記者団に平等にその額縁が見えるように左右への「ヘッドムーブメント」を揃えました。立っていて自分に自信がなければ、揺れ動きます。けれど何度もリハーサルした結果でしょう。掲げた額が全く動きませんでした。

『令和』発表のシーンこそ、彼の日頃の努力が全部出ていたと言えるでしょう。


1.『令和』発表者菅官房長官

2.苦労人

 菅長官は、苦労人です。秋田県の農家に生まれ、集団就職で高校卒業後すぐに就職しました。2年働いてから、法政大学法学部へ。そこを卒業して当時衆議院議員だった小此木彦三郎さんの秘書として就職。アルコールが一滴も飲めないことでも有名です。その後、通産大臣の秘書官を務めました。そして、今あまり知られていない彼の過去の仕事ですが、横浜市議会議員にも立候補し市議会議員としてもいくつか活躍をしています。その後、自民党横浜支部の連合会長、ついには衆議院議員にも立候補し、現在の安倍首相の片腕にまで上り詰めました。

 彼は1948年12月6日生まれ、満70歳。

 安倍首相が難局に際して常に「それは菅ちゃんに聞いてよ」と言うのは有名なセリフです。 沖縄の基地問題で沖縄県民が真っ二つに分断され、揉めている最中も菅官房長官は何度も沖縄に足を運び、当時の沖縄県知事、沖縄県民とも会談しました。

 そして「菅さんの言うことだから」と、耳を傾けてもらえる実績を作りました。本当に誠実な苦労人なのです。

 これだけ長い間腕を振るっていれば、「ポスト安倍に向けて一番陰で根回しをしているのは菅さんだ」くらいの噂が出てきてもよさそうですが、全くその噂が出てきません。多分、官房長官として安倍首相に仕えると決めた以上、その信念を変えないのでしょう。苦労人だからこそ簡単には美味しい話に飛びついたりしない。そこが菅官房長官への信頼の元です。

 これをパフォーマンス学では、「エトス(信憑性)の獲得」と呼びます。「この人の言うことなら本当だ」と、聞いた人が本気にする力です。



3.我慢強さ  

18年1月11日(木曜日)の記者会見で伝説に残りそうな面白い場面が発生しました。東京新聞の訳の分からない主張を長々と言う望月衣塑子記者が生活保護者の状態について質問した時のことです。

「詳細は厚労省に聞いてほしい」と、前回菅官房長官が答えたばかりですが、またしても「生活保護の方々の方が、低所得で本当に困っている人よりも収入が増えるということですか?説明してください」などと畳み掛けます。しかも何を聞いているのか、くどくどと蜷局を巻いて質問の趣旨がさっぱり分からない。

 その後「様々なことを検討したとは?」とまた被せます。聴いている菅官房長官はさすがに顔にうんざりした様子が見え、左右に体が小さく揺れて落ち着かない時の「貧乏ゆすり」の上半身だけのような動きが現れました。余程蜷局を巻いていたのです。聴いている記者仲間からも、「端的に言え」と野次が飛び、司会者も「まとめて言ってください」と二度も言う始末。

 これに対し、菅官房長官は「厚労省の詳細な言い方を聞いてください」と、同じことを言っただけであって、「おまえは何を言っているか分からない」とか、「蜷局を巻くな」とは言いませんでした。

 忍耐力が並はずれて大きい証拠です。この記者会見があまりに有名になり、なんと再生回数は1,119,366回。政治家の記者会見としては、ありえないほどの再生回数で、SNSも炎上。圧倒的多数が、質問している記者への非難でした。

 中には、「菅さん、よく我慢したね」というものもありました。

 麻生大臣ならこういったでしょう。「貴方の質問は何を言っているか分からない」過激な言葉を吐いて墓穴を掘らない。ここにベテランの力がはっきりと出ていました。



4.今後の菅官房長官の動き

 誰しもここは一番気になるところでしょう。ポスト安倍が安倍なのか、そうでないとしたら誰なのか。最初に注目されるのは、絶えず安倍首相の隣にいる菅官房長官です。けれど、彼は自分の言葉できっぱり言うのです。「自分は党においても、己の信念に基づき正しいと考えたことを、筋を通し続けていきますと。だからちょっとくらいおだてられたからと言って首相選に躍り出て安倍首相を蹴落とそうという動きはおそらくしないでしょう。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top