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2019年08月13日

スタートアップは帰納的プロセス 予感をはぐくむ企業家人生を!/日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝

企業家倶楽部2019年8月号 日の丸キャピタリスト風雲録 vol.67


村口和孝 《むらぐち かずたか》

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 

 1958年徳島生まれ。慶應大学経済学部卒。84年ジャフコ入社。98年独立、日本初の独立個人投資事業有限責任投資事業組合設立。06年ふるさと納税提唱。07年慶應ビジネススクール非常勤講師。社会貢献活動で、青少年起業体験プログラムを、品川女子学院、JPX等で開催。投資先にDeNA、ジャパンケーブルキャスト、テックビューロ等がある。



創業期経営は帰納的

 私は、スタートアップ活動の可能性は、無限で、常に挑戦だと思っている。だが、現実に、永久なことなどない(No Forever!)。事業には販売や供給に制約があり、限られたスタッフやお金で、限定的な市場の中で、組織的に経営をして行かねばならない。

 事業を志し、事業領域にたどり着いて、自らの人生のミッションを定めるのは自分自身である。何をやっても自由であり、変転極まりない変化の時代にあって、事業機会も無限である。現実の未来に、何が起こるか分からない。分からない未来を切り拓く作業なので、哲学的に言えば、「経験論的な帰納」の世界が広がっている、と言っていいだろう。つまり、未来の経済がどうなっているか、たどり着いてみないと分からない。

 真理のモデルがあって、それを論理展開することで、事実を説明できると考えるのが、ギリシア哲学由来の「演繹法」である。演繹の世界観に対し、「帰納法」を明らかにしたのが、16~17世紀に英国で活躍したフランシス・ベーコンである。帰納法は実験を重視し、統計を使う事で、現代的な科学が飛躍的に発展し、英国のニュートン(万有引力の法則)やアダム・スミス(経済学の父)につながり、産業革命を生んだ。イノベーションは、内にこもった演繹の中から生まれるのではなくて、エジソンの試行錯誤に代表されるように、帰納の中から生まれるのだ。



帰納法では冒険しないことがリスク

 帰納の世界は、常識にとらわれずに、冒険的で、限りない観察と実験に価値がある世界だと言えるだろう。帰納的に生きる者にとっては、「冒険しないことがリスクだ」。(演繹的な常識で、「冒険がリスクだ」という考え方と逆である。)

 スタートアップの創業の景色は、正に混とんとして未来が不明な中での試行錯誤が継続するから、創業者の人生は、偶然の出会いなどに支配されていて、帰納的である。それが創業期を脱し、会社が出来て、商品が売れる様になって、経営に自信が出来てくると、事業も組織的に運営されてくるから、無駄が排除されて、世界観が演繹的になってくる。伝統が重んじられ、経営が内向きになって、冒険をリスクと危険視するようになってくる。これは、スタートアップの事業組織拡大のジレンマである。

 スタートアップ経営は、当初帰納的に冒険をし、事業が立ち上がってきて、成長とともに、事業活動が演繹的に組織化され、IPO上場時の質疑応答は、演繹的な答えを求められるから、上場準備とともに、スタートアップの事業組織は演繹的になり大企業病化する、とも言われている。上場後の経営で、もう一度演繹的になってしまった経営を、帰納法的な思考方法に戻すことが重要だと思っている。Goog leが一時期、仕事時間の二割を、組織的活動以外の仕事をするべきだ、と組織を挙げて取り組むなどは、帰納法的な経営の一例だ。

 また、世の中の大企業が重篤な演繹的な病気を抱えていることから、世の中の変化のフロンティアに向いた経済活動が、演繹的な大企業活動のイノベーションに期待されることではなく、帰納的なスタートアップ活動に、より大きな期待やチャンスがあることの、逆証明になっているように思う。つまり、政府や経済産業省などは、大企業を中心にイノベーションなどの経済政策を委ねる傾向にあるように思うが、これは間違いであって、イノベーションは、スタートアップ経済の強化でなされるべきなのである。私は、現代社会では、スタートアップ経済政策が経済政策として、最も重要だと考えている。



帰納は経験量が重要

 スタートアップ経済が帰納法的だと言えるのだが、帰納法的世界で重要なことは、実験の試行錯誤の質量である。様々な冒険的な仮説に基づく質の良い実験を大量に行うことが、ノウハウの蓄積になり、成功の確率を上げる。ある地域で、冒険的挑戦のない経済は、その地域経済は、十年単位の長期で見ると低迷するしかない。このことから、若者の起業の数と、IPOの年間の数は、日本経済や地方経済にとって、極めて重要だ。

 私見の仮説ではあるが、「人口10万人当たり、10年に1社、IPO上場会社が出れば、平均的経済であって、それ以下なら衰退地域、それ以上なら成長経済」と言えるのではないか、と考えている。あなたの地域経済に当てはめてみてテストしてみたらよい。

 地域経済をスタートアップ経済で発展させるためには、いくつかの政策が有効だ。①スタートアップ教育を小中大学校で充実させる。起業体験プログラムが有効である。②大学で起業家の若い卵を育てるインキュベーションを運営する。③活発なベンチャーキャピタリストを活躍させる。④出資を受けられるベンチャーキャピタル投資組合を活動させる。⑤上場IPOの環境を整備する。



未来の予感を豊かに

 創業経営が最初帰納的で、試行錯誤の冒険だとすると、「どこを冒険するべきか?」と言うことが、常に問題になってくる。どんな領域のどんな事業が、自分が創業すべき事業で、成功するのかどうか?インターネットの領域か、レストランの事業か、老人介護か、シェア事業か?最近流行の事業か?一度取り掛かったらすぐにはあきらめてはいけないが、最初どうやって、人生の中で自分がなすべき事に、着手すればいいのか?さらに、正に試行錯誤で事業転換を図りながら、最終的な人生の事業にたどり着けばいいのか?

 どんな偉大な起業家も、なぜ今現在の事業にたどり着いたのですか?と聞かれれば、様々な運命的な経緯だ、と答える人が多いように思う。しかし、そのきっかけが、十代から二十代の青春期に出発点をたどることが多いように思う。高校生から大学生ころの経験がきっかけになって、医学や工学などの勉強をしたとか、経済社会で事業に興味を持ったとか、人の活動に共感したとか、影響を受けたとか、パートナーに出会った等である。途中、どこかの大企業組織でサラリーマンをやっていた人もいれば、スタートアップでインターンをやっていた人もいる。

 一言で言えば、創業領域の発見は、帰納的な出発点であり、試行錯誤の中から、年月をかけて、人生の決断に結びついて行った、としか言えないかも知れない。とするならば、もはや「人生の未来への予感」に向き合って、予感の音に耳を傾け、試行錯誤の努力をしてみるべき、としか言いようがない。これも、予感みたいな曖昧なもので生きるのはリスクである、という演繹論者の常識とは、かけ離れている。予感こそが、試行錯誤の原動力である。むしろ、自分の人生の中で感じる未来の予感を大切にして、予感を感じる場所に積極的に身を置き、そこから聞こえてくる予感に耳を澄ませるべきなのだ。中高大学生のサークル活動や、名作の読書や、シリコンバレー旅行などが重要だと言っているのは、このことに他ならない。



予感の中にも文法がある

 未来の予感と言っても、何も約束事がないかと言えば、そうではない。いわば、事業実現の3つの文法と言うべき構造は必要である。

●事業の3つの文法

1.課題を抱えた顧客に対して、課題を解決できる商品やサービスを開発し、満足させること

2.商品やサービスを、ある価格で、プロモーションして、市場に一定量売れること

3.市場に売れる量の商品サービスを、取引先との契約や、加工、在庫を通じて、調達した資金と、採用した人とを投入して、過不足なく供給すること 

 この3つのシナリオのどれが欠けても、事業としての体を成さない。つまり、事業計画はこの3つの構造を説明する道具である。日本では一部、事業計画の事を財務予測と混同されることが多いが、財務は重要な一部であることは間違いないが、あくまで事業の結果を測定する財務数字に過ぎない。

 この事業の構造を説明できるアイデアを、人生の中で100個くらいメモに出来れば、起業の準備が出来たと言えるのかも知れない。何を勉強すればいいかとよく聞かれるが、日経新聞は経済が半分だが、日経産業新聞には、スタートアップが最近記事になっているから、毎日読んでアイデアを考える参考にしたらよいと思う。

 そのなかから、学生の時でも、副業でも、いくつかは実験的に始めてみたらいい。いくつか失敗もし、いくつかは、そこそこ成功もするだろう。そうしているうちに、段々と自分が人生の中で何をやればよいか、何をすべきか、帰納法的に見えてくるはずだ。



ストックの成長

 どんな事業も事業機会を捉えて製品サービスを提供しなければならないが、それを実現するのに必要な資金や人材ノウハウ、販売商品群、顧客基盤など経営資源を、広義のストックと呼ぶ。期間のオペレーションの業績である売上や利益をフローと呼ぶ。商品サービスを顧客が買ってくれたオペレーション業績の尺度であるフローを成長させるためには、ストックを強化せねばならない。例えば、不動産事業の場合、フローを生み出すストックを、あるマンションの資産価値(1億円)、フローをその収入の家賃(5百万円)と考え、対比すれば概念を理解しやすいだろう。なおストックは、自分で持っている必要はない。社会から調達すればよい。スタートアップ向けの必要資本は、ベンチャーキャピタルが提供する。

 資金を調達するための資本組織が、株式会社である。定款によって、発行する株式を定義し、集めた資本を勘定(アカウント)で継続管理する。ある時点のストック(資産と負債)の残高を、貸借対照表で表す、ある期間の経営活動フロー(売上と費用)を、損益計算書で表す。ストックがフローを生み出すのだから、「フロー/ストック」を、ROI、ROEと言って、投入したストックが生み出すフローの生産効率を表す。

 起業経営のもっとも重要なポイントが、ストックの強化であるが、広義のストックは資金だけの狭い概念ではない。資金および人材の採用、販売商品サービスの準備、供給設備、顧客基盤など、ストックを整備するのだ。広義のストックの質量の充実が、フローのオペレーションの業績のスコアをアップさせる、と考えると経営活動を理解しやすいと思う。



場成功が地域ストックを好循環に

 日本経済は、ここ二十年、経営全体が内部統制コンプライアンス、ガバナンス強化によって、演繹的になり過ぎている。演繹的世界観は、西洋の暗黒時代、魔女狩りの中世を彷彿とさせる。それを打破したのがルネサンスであり、帰納法的世界観の発見だ。スタートアップ経済こそ、地域を現状打破する特効薬だ。



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