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2019年08月19日

超小型衛星を作り続けたい/アクセルスペース代表 中村友哉

企業家倶楽部2019年8月号 宇宙ベンチャー特集 編集長インタビュー


超小型人工衛星を使って全世界を観測するサービス「アクセルグローブ」の展開を本格的に開始したアクセルスペース。宇宙領域を商業利用するなど不可能とされていた創業当初から比べると、隔世の感がある。今回は同社の中村友哉代表に、宇宙との出会いから創業、そして未来展望に至るまで余す所なく語ってもらった。



宇宙は夢から身近な存在へ

問 最近の報道を見ていると、宇宙産業はすでに夢のビジネスではなく現実のものとなっていますね。

中村 はい、その通りですね。2016年段階では私たちが国内で唯一衛星を打ち上げた経験があったのですが、今年は他の宇宙ベンチャーでも実際に打ち上げ実績が出始めています。ロケットベンチャーのインターステラテクノロジズは、高度100キロ以上の宇宙空間への打ち上げに成功するなど、ブームと言われていた段階から実を結んでいくフェーズに入りました。

 ここからが各宇宙ベンチャーにとっては腕の見せ所です。社会や投資家の期待通りの結果を出していけるかを試されており、身が引き締まる思いです。

問 アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンやテスラ創業者イーロン・マスク氏のスペースXなど、ロケット垂直離着陸のニュースに注目が集まっていますが、宇宙産業はアメリカが最先端と言えるのでしょうか。

中村 そうですね。どの観点から見るかによりますが、一口に「宇宙ベンチャー」と言っても様々な種類があります。宇宙旅行ビジネスや火星移住などに関しては仰る通りアメリカが先進国です。

 しかし、私たちは「地球観測」の領域を得意としています。さらに、今最もホットな分野が衛星通信です。先日、スペースXが何千機という衛星を打ち上げて高速インターネットサービスを提供する「スターリンク計画」を発表し、初の打ち上げがありました。このように多くのカテゴリーがあるため、それを一括りに議論するのは難しいのです。

問 宇宙産業にはどのような事業があるのでしょうか。

中村 まず、ロケット(輸送系)は分かりやすいですよね。衛星などを宇宙空間に運ぶビジネスです。

 次に「衛星ビジネス」にも幾つかあり、ベンチャーが取り組んでいるという意味で言うと、私たちのような「地球観測」があります。さらに細かく分類すると、地球観測でも光で見る「光学」と電波で見る「レーダー」の2種類があります。

 そして衛星通信です。アフリカや南米などネットワークインフラが未整備なエリアをカバーしようということで、大きなビジネスチャンスがあります。他にも測位衛星や気象衛星がありますが、そこは国家インフラの側面が強くベンチャーはなかなか手を出せません。

 他には月面探査や資源開発、まだ先の話ですが火星移住など多種多様です。本来「宇宙」は場所であって、業種ではありませんよね。空間や場所を一つのカテゴリーとして語られるという不思議な分野ですから、その中で実に様々な種類のビジネスが誕生しています。一般論として語るのは難しいのですが、今後は各分野で成功事例が出てきて、より細分化されると予想しています。

 また、私たちが行っている地球観測はそれだけで独立する事業ではなく、地上のビッグデータといかに融合していくかが重要になってきます。



人生を大きく変えた一枚の写真

問 衛星開発のため試行錯誤をされる中で、印象に残っている出来事はありますか。

中村 宇宙に対する考え方が変わった出来事があります。「キューブサット」という重さわずか数キロの超小型衛星を打ち上げるプロジェクトでのことでした。チームの中で、私はカメラの開発を担当し、衛星から地球の姿を撮影するミッションに挑戦しました。撮影に成功したら、せっかくですので多くの人に見てもらいたいと思い、メールアドレスを登録してくれた人たちには画像が配信される仕組みも作りました。

 ただ、私たちはそれまで衛星開発の経験など無く、JAXAの方からも「こんなもの、動くわけがない。宇宙をなめるな」と言われていたので、本当に撮影できるか不安でした。たとえ撮影できても、質の保証などできません。そこで登録してくれた人には、「送られてきた画像について、返信をしないでください」という約束まで取りつけました。

問 キューブサット打ち上げの結果はいかがでしたか。

中村 打ち上げは成功。しかも、綺麗な地球の姿を撮影することもできたので、皆さんに配信しました。すると、「返信をしない」という約束であったにも関わらず、多くの方から返事が届いたのです。恐る恐るその内容を見てみると、「綺麗だね」「感動した」といった温かいメッセージで占められていました。

 それまで私は、衛星開発において研究室の人としか関わってこなかったので、自分たちの取り組みが外の世界とどのように結びついているのかなど考えたこともありませんでした。しかし、一枚の衛星写真に感動の声が寄せられたことによって、私たちの研究は意味があることなのだと実感することができました。


人生を大きく変えた一枚の写真

起業するしか方法はなかった

問 大学卒業後はどのような進路を選択したのですか。

中村 もっと人工衛星の開発に関わりたかったので、博士課程まで進みました。ただ、いずれは大学院を卒業したその先のことを考えなくてはなりません。一緒に博士課程まで進んだ同期は、JAXAやメーカーに就職が決まっていましたが、私はどうするか決め切れずにいました。

問 なぜ進路に迷われていたのでしょうか。

中村 超小型衛星の開発を諦め切れなかったからです。私たちは研究室で日々衛星を開発してきて、あと一歩で実用化ができるところまで到達していました。そのようなタイミングで研究を打ち切ってしまうのは惜しいと思いました。

 しかし、超小型衛星を作る環境が無いのも事実です。同期が就職したような企業に行っても、国の大きな衛星やロケットは作ることができますが、超小型衛星は開発していません。そもそも超小型衛星を作っている企業など、どこにも存在しなかったのです。

問 最終的にどのような決断をしたのでしょうか。

中村 将来について思案していた際、研究室で「大学発ベンチャーを作るためのプロジェクトがある」と紹介されました。正直、初めは「ベンチャー」と言われてもピンと来ませんでしたが、あまり深くは考えずにそのプロジェクトに入りました。

問 大きな決断ですね。どこかに起業したいという気持ちはあったのですか。

中村 いえ、起業ということ自体、考えたこともなかったですね。周りに企業家がいれば「起業」という選択肢も出てくるのでしょうが、私はごく一般的な家庭で育ちましたから、まさか自分が企業を立ち上げるなど思いもよりませんでした。

 当時はただ、「超小型人工衛星を作り続けたい」という一心で起業という方法を取りました。もしその時点で、宇宙ビジネスはマネタイズが困難で、ビジネスとして成立させるのは難しいことを知っていたら、起業などしていなかったでしょう。



宇宙時代のシェアリングエコノミー

問 観測衛星の市場規模はどのくらいなのでしょうか。

中村 衛星画像の市場は現在約3000億円と言われており、政府の安全保障事業がその多くを占めます。安定はしていますが、このままでは大きく成長することはありません。これまでビジネスとして、B2G(政府や自治体)しかありませんでしたが、B2B(民間企業)に変えていくことで爆発的な普及を促そうとしています。

 単に衛星画像を提供するだけでなく、画像から情報を抽出して分析することで新しい需要が生まれます。このように民間企業が広く活用できるサービスを提供できる環境、プラットフォーム作りを進めています。

 課題は価格です。衛星画像が1枚100万円では、誰にも使ってもらえません。適正な価格を設定し、活用事例を作ることです。ある程度まで導入事例が出てくれば、あとは事業会社の方から使い方を考えてくれるようになるでしょう。

問 電気自動車もそうですが、新しい産業は価格が下がらないと市場が育ちません。宇宙ビジネスのコストも気になるところです。仮に専用衛星を自社で保有するとなると、製作コストは3億から5億円とのことでした。それに加えて、打ち上げの料金はいくらくらいかかるのでしょうか。

中村 衛星の用途にもよりますが、どのロケットを使うかで打ち上げコストは決まります。一般的には10億円はかからずとも、数億円かかる場合が多いです。このように費用面での課題があり、大学や国との共同プロジェクトで衛星を作ってきました。

 具体的にはJAXAの衛星を作るなど専用衛星の実績を積んできていますが、これまで純粋な民間企業の顧客はウェザーニューズが唯一です。

 当社では創業以来「Spacewithin Your Reach」というビジョンを掲げています。宇宙を特別な場所ではなく、普通の場所にしたいと考えています。

 今やインターネットを意識しないで生活しているのと同様に、あと10年もしたら「宇宙ビジネス」という言葉自体がなくなる時代が来るでしょう。しかし、まだ宇宙は特殊すぎて一般的には際物扱いです。そこから脱するのが私たちの使命だと考えています。

問 現在、注力している事業は何でしょうか。

中村 宇宙を夢の場所ではなくし、宇宙の価値を社会に広めるサービスを作っています。創業当初は、お客様専用衛星を作ることがベストだと考えていましたが、超小型衛星でも設計から仕様決定、そして実際の打ち上げまでには5年から10年ほど時間を要します。それではビジネス展開としてはスピードが遅い。私たちが使命を遂げるのに100年かかってしまいます。

 また、民間企業に専用衛星を持つリスクはなかなか取れません。それならば専門家の私たちが衛星を保有し、衛星データだけを使ってもらえば良いと考え、ビジネスモデルを進化させました。今後、誰でも衛星画像が使えるプラットフォームを構築します。宇宙ビジネス時代のシェアリングエコノミーモデルとも言えるでしょう。



ニーズありきの開発に転換

問 起業してどのようなことが変わりましたか。

中村 お客様のご要望を実現するためにはどうすれば良いのかを考える機会を得ました。学生時代は技術的に難しいことがあれば、「安全のため」などと理由を付けてその機能を搭載しないという選択肢を取ることができました。しかし、これがお客様の衛星となると話は違います。「難しい」はあくまでエンジニアの考えであって、その機能を搭載しなければお客様のニーズを満たせません。どのように設計すればご要望に沿えるか、今までは考える機会が無かったので、とても勉強になっています。

問 中村代表は元々エンジニアですが、今でも衛星開発に携わっているのですか。

中村 会社を立ち上げて数年間は、社長業と並行し、エンジニアとして人工衛星開発にも携わっていました。しかし、本格的にアクセルグローブを展開するために、資金調達をしなければならないフェーズに入った段階で、経営に専念することにしました。現在は信頼できる若手に任せているので、開発は見ていません。

問 自らの手で衛星を作るために起業したとのことでしたが、寂しくはないですか。

中村 正直、寂しくないと言えば嘘になります。しかし、会社の経営も大変なりに楽しんでいます。

問 最後に、未来に向けた展望をお聞かせください。

中村 現在私たちが力を入れているアクセルグローブ構想は、5年後には完成しているでしょう。その頃には、アクセルグローブの地球観測サービスをどのように横展開していくか、また新たな機能を追加してどこまで機能拡張できるか具体的に考えていると思います。

 そして、そう遠くない将来、人間が月や火星などに行く時代が来るでしょう。そこに私たちの超小型衛星がどのように活かせるかも見据えていきたいですね。

profile

中村友哉 (なかむら・ゆうや)

1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中、3 機の超小型衛星の開発に携わった。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015 年より宇宙政策委員会宇宙産業・科学技術基盤部会委員。



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