トピックス -企業家倶楽部

2019年08月30日

サインポストの未来戦略/新しい価値を生み出し社会問題を解決する

企業家倶楽部2019年10月号 サインポスト特集第1部


労働力不足、人手不足があらゆる業界で叫ばれるようになって久しい昨今。その解決策としてロボットやAIといった人に代わるテクノロジーに注目が集まっている。「人々が困っている社会問題や課題があったら、それを解決するソリューションを提供するのが仕事」とサインポスト社長の蒲原寧は言う。今、小売業は人手不足で店舗運営がままならない状況だ。同社が開発した「無人AIレジ」が未曽有の社会問題解決の特効薬になるのか注目が集まる。創業から12年、一代で東証一部上場企業にまで育てた稀代の企業家の挑戦に迫る。



生かされた命と先人に感謝

「先人によって立派に作って頂いた豊かなこの国を次の世代に引き継ぐために、私の残りの人生を使おうと決めました」、登壇したサインポスト社長の蒲原寧は晴れ晴れとした表情で話し始めた。

 2019年7月11日、東京・霞が関にある日本記者クラブで『第21回企業家賞授賞式』が開催された。同社は世界初の独自AI(人工知能)を搭載した「無人レジ」を開発、人手不足という大きな社会問題の解決に挑戦している点が評価され『ベンチャー賞』を受賞。審査員長でありジャパネットたかた創業者の髙田明より表彰状とトロフィーが授与された。喜びのスピーチで先人への感謝と創業の目的について力強く語った。

 一個人や一企業の話ではなく、常に歴史観や国家論を語る蒲原の言葉には大局観があり、独特な雰囲気が漂う。世の中の人が困っている問題があれば解決策を考え続けるのが蒲原のライフワークだ。損得勘定ではなく、問題の本質論からブレない蒲原の思考には、私利私欲がない。聞く者は「純粋さ」を感じ取り好感を持つ。実際に蒲原の人となりに惹かれ集まってくる仲間は社内外を問わず多くいる。

「年齢も肩書も関係なく、お客様に対しても、社員に対しても同じ行動で、言動が一致している。相手が何を知りたいか常に理解しようとしている。物事を俯瞰で見て、先読みすることに長けている」と同社常務取締役西島雄一は、蒲原の稀有なリーダーシップについて語る。

 現在はバイタリティー溢れる蒲原だが、小学生の時には3年間入院生活を送り、大学生時代には交通事故で九死に一生を得た為か、「生かされている」という気持ちが強いという。大成する企業家は、大病や事故などで死にかけた体験がある人が多くいる。「死生観」があるかどうかも経営者の資質に関係しているのかもしれない。

「私は無邪気で、『する』と決めたことは信じて疑わない。IT業界では誰も成し遂げていない日本発のグローバルスタンダードを作りたい。未熟者の経営者ですので、諸先輩の経営者の方々からご指導を賜りたい」と受賞の挨拶を締めくくった。



人手不足問題に光明

「鉄道はタッチアンドゴーで、高速道路はETCがあってスムーズに行けるのに、なぜスーパーやコンビニだけレジ待ちで並ばないといけないのだろうか?」、蒲原は普段の生活シーンの中で問題意識を持っていた。きっと自分以外の他の人も無駄な時間を過ごしたくないはずだと。

 無人レジのアイデアは創業時から持っていたが、当時は開発資金がなく、今から7年前に「無人AIレジ」開発をスタートさせた。すると労働人口の減少から人手不足も大きな社会問題となってきた。外的要因であったが追い風が吹いてきたのだ。

 東京、名古屋、大阪、仙台、広島、博多などの都市部はまだいいが、それ以外の地方においては労働力の確保はより深刻で、店を開けたいにも働き手がなく店舗運営自体がままならない状況まで陥っている。レジの無人化による業務効率化は急務となっていることから、主力である金融機関へのコンサルティングと並ぶ事業の柱に育てるべく「AI事業」に先行投資することを決断した。

 具体的に17年からJ R東日本と協業し、大宮駅と赤羽駅のホームに特設店舗を開設し、一般客を対象に実証実験を重ねてきた。システムの精度を高めるためには社会実装が最も効果的とされる。しかし、日本はサービスの品質に完璧を求める国民性から米国や中国に比べて、社会実装の面は弱いと言われている。

 その点、同社が協業の相手としてJR東日本グループを選んだメリットは大きい。すでにコンビニ店舗の運営実績があり、小売りのノウハウがあること、そして何より実証実験をする場所と店舗がある点が挙げられる。JR東日本側もグループが大規模で意思決定に時間を有しスピード感に欠けるなど、小回りのきくベンチャー企業と協業するメリットがあった。グループ内での注目度は高く、JR東日本の経営幹部が連日見学にやってきた。


人手不足問題に光明




独自AI技術を活用

 今、世界中の小売業界が注目しているレジ無しスルー型の無人決済システム「スーパーワンダーレジ」とは、いかなるものか。

 同社が独自開発したAIによる「画像認識技術」と「物体追跡技術」を活用し、入店した客を追尾し、手に取った商品を認識する。そして購入金額の「計算」から「決済」まで一貫して自動で行うので、レジ待ちは不要になるという訳だ。

 店内の天井や商品が陳列されている棚に100個以上のカメラが設置されており、画像認識で商品を特定するため、客は手に取った時点で精算が終わっている。人を介さずに済むので鉄道の改札や高速道路のゲートと同様にスピーディーに行動でき利便性が向上する。人手不足で悩む小売業にとっては救世主となるだろう。

 また、カメラの新設工事が難しい既存の店舗向けには、小型の設置型AI搭載レジ「ワンダーレジ」を開発した。利用者自らが購入したい商品をレジの中に置き、画面をタッチするだけで精算可能な無人レジである。こちらも同社の画像認識技術が使われている。



アマゾンとは真逆の発想

 去る6月25日、無人AIレジの普及を通じて、小売店舗の人手不足や地域店舗の維持の社会問題を解決するため、J R東日本スタートアップと出資比率50 %ずつの折半で合弁会社TOUCH TO GOを設立した。満を持して本格的に世界に打って出る準備は整った。

 海外に目を向けると無人コンビニでは、「Amazon GO(アマゾンゴー)」が話題になっているが、実際には多くのスタッフが店内で働いている。正しくは、レジがない「レジレスコンビニ」である。ユーザーはアマゾンのアカウントが必要で、スマホにアプリをダウンロードする必要がある。店内に入り、購入したい商品を手に取ったら、ゲートでQRコードを読み込ませて店を出れば買い物は終了。決済は完了し、スマホにレシートが届く。一見、人を介したジでの精算と決済がない点はサインポストの無人AIレジと似ているが、蒲原はアマゾンとは「そもそもの考え方が違う」と否定する。

「アマゾンは産業支配をしようとしているが、当社は困っている小売業界の人手不足問題を解決するのが目的であり、店舗フォーマットのシステムを販売している。アマゾンとは真逆のことをしている」と、自然と言葉に力が入る。

 お客が困っていることや社会問題があったら、解決方法を考え提供するのが仕事であり、誰かの仕事を奪うことではない。

「雇用を増やし、社会に新しい価値を作り続けること」が蒲原の信条である。

「2021年2月までに3万台相当の導入を目指している」と強気の姿勢を崩さない。

 同社は17年11月に東証マザーズに株式上場し、19年5月東証一部に指定替えを果たした。前期19年2月期の売上げは26 億8400万円、営業利益2億7200万円を計上し、今期は売上げ32億5000万円(前期比21%増)、営業利益3億6500万円(同比34・1%増)と増収増益を見込んでいる。


アマゾンとは真逆の発想

バンカーとしての知見

 労働者不足の問題は国家単位で解決に当たる社会的な課題であるが、民間企業の知恵と活力に大いに期待したいところだ。サインポストが開発した「無人AIレジ」は解決策のひとつとして今後も世界中から注目が集まるだろう。

 同社を率いる蒲原とは一体どんな人物であろうか。07年にサインポストを創業する以前は、銀行員として何不自由ない生活を過ごしていた。1988年に三和銀行(現三菱UFJ 銀行)に入社し、システム部に配属され、業務を通して正確かつ高度な情報処理・管理を司るシステムの原理原則を習得した。すぐに頭角を現し、銀行業務を支える次期基幹系システムを構想するプロジェクトリーダーに抜擢されるなど、同期の中でも出世が最も早かった。

 そして、90年代後半から都市銀行は再編・統合の時代へと突入していく。その渦中にいた蒲原は三和銀行と東海銀行の合併対応を担当、次期基幹系システム構想に沿って合併システムを構築するなど重要な仕事を任されていた。

 02年に両行は合併しUFJ銀行が発足後もグループ各社システムの構想・構築・管理を統括する立場で、続いて三菱UFJ 銀行の合併対応を推進した。金融機関という社会インフラのため、求められる要求水準が高く厳しい環境の中で鍛えられた。稀にみる大型の統合プロジェクトのマネージャーとして、システムの企画・設計・開発・運用まで一貫して見られる貴重な体験を積むことが出来た。この経験が後に生かされる。

 大幅なシステム移行は20年から30年に一度という頻度で行われるため、前任者が既に退職していたり当時のことを知っている人がいないケースも多い。金融機関の人間は業務については知っているが、システムのことはよく分からない。一方、システム開発を行うベンダーのエンジニアは金融業務について知らないため、お互いの共通言語がなく、システム開発に必要な仕様書を作るだけでも一苦労である。

 蒲原は銀行出身であるため業務についても詳しく、システムの特性も知っているので、双方の立場で物事を考えることが出来る。この相手の立場になって考えられる「柔軟さ」と「専門性」が、サインポストが支持される理由といえよう。同社主力事業である金融機関へのコンサルティング事業については、第2部で詳しく述べるとしよう。


バンカーとしての知見

孫の代まで豊かな国を

 蒲原は幸運にも人に恵まれた。というよりは、彼の仕事や人生に対する「純粋さ」、新しいことに挑戦する際の「無邪気さ」が、人を引き寄せ、巻き込むといった方が合っているかもしれない。

「ピュアさなど目に見えない価値を評価できる人たちが周りにいて彼を支えている。仕事の枠を超えて手伝ってあげたくなる人」と正林国際特許商標事務所所長の正林真之は全幅の信頼を寄せる。

「先輩から奢ってもらったことは懐に入れずに後輩に奢れ」と教えらた。先人から有難く育ててもらったら、独り占めするのではなく惜しみなく後進に伝え、人を育てなさいということである。

「このような豊かな日本があるのは先人が頑張ったからに他ならない」、それを思うと感謝の念に堪えない。恩返しを出来るとしたら何だろうかと考えた。豊かな国を引き継ぎ後世に継続するのは現役である自分たちの役目であると自覚した蒲原は、「孫の代まで豊かな日本を創る一翼を担う」が人生のテーマとなった。起業はその目的を達成するひとつの手段に他ならない。

 銀行内で大型の統合プロジェクトのマネージャーを任され、最年少昇格記録を続けていた蒲原も不惑の年を迎えていた。この国の未来の発展のために貢献できるとしたら、新しい付加価値を加えることである。また、雇用を増やすことも国益にかなうと考えた蒲原は、07 年3月に起業した。

 顧客の経営課題を解決するソリューションを提供し、目指すべき将来の姿を実現する「みちしるべ」になるという想いを「サインポスト」という社名に込めた。



リーマンショックで倒産の危機 

 あの蒲原が銀行を辞めるという話は当時、業界内で話題となった。ならばウチに来ないかと高額のオファーが絶えなかったが、転職するつもりで辞めた訳ではない。自宅に帰り、「年収3600万円で打診があった」と妻に話すと、「お父さんのやりたいことではないでしょう」と一蹴された。起業する際のリスクでもっとも大きいのが、家族の理解であるが、蒲原家には関係のない話であった。

 転職せずともコンサルティング契約で手伝ってほしいという依頼は多かった。大手銀行という看板を下ろしても声を掛けてくれることが何より嬉しかった。最初に仕事をくれたお客に対する感謝の気持ちは今でも忘れられない。「有難い」という感覚がこんなに深く広いものだと心にしみた。

 上々の滑り出しだった。しかし、創業の翌年、状況は一変する。08年9月にリーマンショックが起こり、連鎖的に世界規模の金融危機が発生。日本の金融業界も例外ではない。金融機関がシステム周りやコンサルへの出費を止めたことにより、仕事が激減した。このままの状態が続けば会社の存続も危ぶまれる。「倒産」の二文字が頭をよぎった。

 会社にもしものことがあった場合、社員には3カ月分の給料を支払おうと生命保険に入っていたが、予想以上に社員が増え、賄えないと分かった。すると蒲原は知り合いのIT企業経営者に社員の誰を引き取ってもらうかと全社員分の転職先をまとめたのだ。それが社長の責任だと考えていた。


リーマンショックで倒産の危機 

企業家としての心構え

「竹に節があるように、企業はこうして逆境や危機を乗り越え成長する」と蒲原は言う。リーマンショックの経験を通して、外的要因にどう備えるか、会社を潰さないために何が出来るのか、転ばぬ先の杖を普段から考えるきっかけになった。

 金融業界では、「株や経済はどうなるのだろう?」と考える。しかし、企業家は「どうするのだろう」と当事者意識を持って主体的に考える。それが経営者の本分である。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というビスマルクの言葉を引用し、経営者自らが学び続けなければ企業の成長は見込めないと蒲原は説く。通勤中に音声で、松下幸之助や井深大、盛田昭夫の経営の話を聞くのが日課となっている。実際の声を聴くことで、実業家の前向きで明るい性格が伝わってくるという。ユーモアを愛する心に社員が付いてくるのだと理解できるという。

 世の中は常に変化があり、進化していく。新しいことに挑戦しないことが最大のリスクとなるのだ。今、世界の産業構造が音を立てて変わろうとしている。ITが普及しデジタルインフラが当たり前になった今日、既存産業は変わらなければ衰退の一途を辿る運命だろう。既存サービスのどこに課題があり、新しいシステムで私たちの生活はどう豊かになるのだろうか。サインポストが提案する新しい価値に注目したい。



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