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2019年09月26日

【佐藤綾子のパフォーマンス心理学】vol.52  トップ政治家の演出力/佐藤綾子

企業家倶楽部2019年10月号 トップの発信力 


Profile

佐藤綾子(さとう・あやこ)

博士(パフォーマンス心理学)。日大芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究第一人者。累計4万人のビジネスマン、首相経験者など国会議員のスピーチ指導で定評。「佐藤綾子のパフォーマンス学講」主宰。『部下のやる気に火をつける33 の方法』(日経BP社)など単行本191冊、累計321万部。



1.劇場政治、今盛ん

 2019年6月30日、ドナルド・トランプ大統領と金正恩委員長が一緒に歩いて北朝鮮と韓国の間の軍事境界線を越えたというので、そのやり方を含めて大変な話題になっています。

 でも日本でこのドラマティックなやり方を最も一般化させた政治家は誰だと思いますか?

 おそらく、劇場政治とか小泉劇場の名前がついた小泉純一郎首相(2001年~06年)が一番有名でしょう。しかしさらに遡ると「ロン」「ヤス」とお互いのファーストネームで呼び交わし、レーガン大統領(1982年~87年)を陣羽織と茶室でもてなした中曽根康弘首相(81年~89年)の時代まで辿ることが出来ます。その時も日米のメディアは二人のこの茶室での仲睦まじい様子を盛んに映しました。

 劇場政治は、おそらくその頃から日本人にも馴染の深いものになったのでしょう。



2.古い古い本当の歴史

 ではレーガン大統領や中曽根首相、小泉純一郎首相、時には小池百合子東京都知事も、常に「あれは劇場型の『アテンション・プリーズ』に違いない」などと悪口を言われるのですが、本来政治家というものはどうだったのか。それを考えると、まさに「劇場政治」こそ正統派だということが分かります。

 時代は古代ギリシャまで遡ります。かの有名なギリシャの哲学者アリストテレス(BC.384~322)は人を引き付ける力強い喋り方に対して「弁論術(レトリケス)」という名称で詳細に研究し、また実際に教育もしました。ギリシャの国家都市アクロポリスの住民に、自分の考えの良いところをきちんと分かるように話してあげることが出来る人を政治家とし、政治学を「ポリティケス」と名付けました。英語の「politics」の語源です。高級な素晴らしい政治家を指すときに現在英語では「statesman」と呼び、一般的な「politician」というとちょっと政治家として「statesman」よりもイメージが大衆的になります。しかしその語源はいずれにしても今から2000年以上も前のギリシャにあったということ。常に政治家は、自分の見せ方が当時から大切なテーマで、どう見せ、どう語るか、どうやってインパクトを出すかが重要なテーマだったのです。


2.古い古い本当の歴史

3.この演出力を見よ

 このような正統的劇場政治の歴史から考えれば特に珍しいことでは無いのですが、最近になってからの各国首脳の演出ぶりは強烈です。18年4月27日南北首脳会談が板門店で開かれて文在寅大統領と金正恩委員長は手をつないで軍事境界線を歩いて渡った。これは同じハングルを話す民族であり、国境も近くルックスもアジア人同士似ているから、なんとなく「おい、兄弟よ」という感じはします。

 
 18年6月12日シンガポールの高級ホテルでトランプ大統領と金正恩委員長の首脳会談です。ここではトランプ氏が積極的に手を差し伸べて正恩氏の肩をタッピングしたり、握手の手を差し伸べたりしました。しかし金正恩委員長の表情は固かった。テレビで表情分析を頼まれていた私も、「ここは成果が上がりにくいな」と直感した雰囲気でした。

 
 ところがどうでしょう、19年6月30日のトランプ氏と金氏の対談。「一体これはなんなんだ」と世界中が目を向けたのも無理はない。そもそもこのトランプ大統領と金正恩委員長の対談自体が降って湧いたような瓢箪から駒のなりゆきで発生したのです。

 トランプ氏がツイッターで、この会談を呼びかけ、ポンペイオ米国務長官の説明によると「トランプ大統領がツイートしたら小一時間で北朝鮮側からレスポンスがあった」というのですから。このポンペイオ氏も「金正恩委員長が来るまで半信半疑だった」とも言っています。実際にこの会談が成立した直後にトランプ氏はまたツイッターに書きました。

「ソーシャルメディアに書き込んで貴方が出て来てくれなければ、またメディアに叩かれるところだった」。なにかメディアに発表しては言葉尻を捉えられて、バッシングを受けているトランプ大統領が、厳しい大統領選の直前に賭けに出た。その賭けに応えるように金正恩委員長が会談に応じた。まさにこれは歴史的会談で、韓国側メディアの興奮気味の放送の声を聴くとそれがよく分かります。国営朝鮮中央通信はこの模様を「歴史的」と表現し、ニュースを聴いていても叫ぶような調子で「この会談が電撃的成功を収めた」と言っています。

 その象徴は二人の歩く姿で分かるでしょう。金委員長が、到着して簡単な挨拶をし、例によってトランプ大統領が利き腕の右腕を伸ばして、金委員長の左の肩をポンポンと軽くタッピング。「よう、久しぶりだね」という感じです。この時点で既に金委員長は満面の笑みです。そこでトランプ氏が「『私に線を越えてもらいたいですか?』と問いかけて、それを受けて金氏がトランプ大統領を北朝鮮側に招き入れた」とトランプ氏が言っています。

 多分それは事実でしょう。ツイッターを連続射撃的にバンバンと書くことでトランプ氏は有名ですが、この大きな会談をツイッターでまさに「瓢箪から駒」で実現してしまったところも、世界をあっと言わせる演出効果でした。

 どうやら昨今の政治家は、政治の実力の中に社会的に大きなインパクトを与える表現(まさにこれを私のパフォーマンス学でピークパフォーマンスと呼んでいます)ができることが、有能な政治家の条件のようです。この後非核化の話がどうなるかは別として国際的、国内的インパクトは100%以上だったと言えるでしょう。経済リーダー、政治リーダー共にトップは常に注目されている。そうであるならば自分の見せ方に最高の演出力を加えることは、最早仕事の内であるに違いありません。



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