トピックス -企業家倶楽部

2019年10月08日

お客様視点で独自の事業を切り拓く/サインポストの強さの秘密

企業家倶楽部2019年10月号 サインポスト特集第2部


銀行業務とシステム周りの双方を熟知し、独自のポジショニングで成長を続けるサインポスト。徹底したお客様視点から生まれる数々の施策は、顧客を感動させ、永続的な信頼関係を生んでいる。通常のコンサルティング企業とは一線を画す同社の強さの秘密に迫る。(文中敬称略)




  2019年7月19日(金)18時、東京・日本橋の会議室にて、四半期に一度行われるサインポストの全社総会「和同会」が開かれた。集まった社員たちを前に、社長の蒲原寧が展望を語る。「今年の5月、東証一部に上場しました。これで『名実』のうちの『名』はできましたので、次は『実』を取りに行きます。世界から日本を代表する企業と認めてもらわねばならない。皆さんと一緒ならば、必ず夢を実現できると信じています」

 銀行出身の蒲原が率いるだけあり、これまでサインポストは着実に歩を進めてきた。東証一部上場は、その努力が結実した一つの形と言えよう。では、サインポストのいかなる部分が評価されてきたのか、その細部を見ていきたい。



強さの秘密1・ポジショニング

通常のコンサルとは一線を画す

 近年は無人AIレジで注目されるサインポストだが、その基盤は銀行向けのコンサルティング事業にある。ただし、一口に「コンサル」と言っても、一般的なコンサル企業とは一線を画す。

 通常、コンサル企業は「このようにすれば上手く行く」といった課題解決策を提示するに止まることが多い。その実行に必要なパートナー企業くらいは紹介するかもしれないが、自社部隊が顧客企業の末端にまで入り込んで直接手を動かすことは無い。なぜなら、万が一自分たちが立てた戦略の通りに実行して成果が出なかった場合、責任問題に発展するリスクをはらむからである。

 では、顧客側はなぜ高いお金を払ってまでコンサル企業を雇うのか。それは、その会社の経営者が経営責任を軽減できるからである。自身の経営が唯我独尊ではなく、コンサル企業に相談した上での戦略策定となれば、株主もある程度は納得せざるを得ないという寸法だ。

 一方、サインポストは「お客様のIT部門の一員」として顧客の中に入り込み、銀行と二人三脚で基幹システム開発、システム統合、ネットワークの性能改善といった課題解決に当たる。そもそも顧客企業の現場が本当に求めているのは「課題解決そのもの」であり、「課題解決策の提示」ではないことを、彼らは知っているのだ。

銀行業務とシステムの双方を熟知

 銀行のシステムを担っている開発企業にも問題点はある。

 一つは、システム会社が銀行の業務内容を深く理解していないこと。現状では、銀行側が業務内容を説明し、将来展望に応じてシステムを発注する。システム開発会社はそれを制作し、さらにそのシステムを他の銀行にも拡販して収益を上げるというビジネスモデルが成り立っている。

 もう一つの問題は、銀行とシステム開発会社が利益相反関係にあることだ。例えば、銀行が何らかのシステム開発を発注したとしよう。これを受注したシステム開発会社の仕事が遅かった場合、人月単位でコストがかかるため、かえってシステム開発会社がどんどん儲かる仕組みとなっているのだ。

 仮に途中でトラブルでも起きようものなら、システム開発会社の収益はさらに増す。したがって、意図的な現象とは思いたくないが、お客の不信感が募らない程度に、最大限に失敗した方が、システム開発会社が儲かる構造であることは確かだ。

 銀行員時代、銀行の合併に際してのシステム統合を担当した蒲原は、この矛盾点を早くから見抜いていた。銀行の業務とシステムの双方を熟知した上で、本質的に「銀行経営が良くなるため」のコンサルを行う。その姿勢に共鳴した多くの銀行から、サインポストは選ばれている。

システム開発会社にもメリット

 ではサインポストは、システム開発会社から煙たがられているかというと、そんなことは決して無い。むしろ真面目に業務を行っている大多数のシステム開発会社にとって、サインポストはありがたい存在となっている。

 銀行が基幹システムを刷新した場合、「システムだけ変えて終わり」というわけにはいかない。日本全国にある全支店の全銀行員の事務訓練を行わねばならない上、あまり引きの無い商品については、お客と交渉して無くすなどする必要もある。

 そもそも、銀行は同じシステムを平均20?30年は使っており、これまではシステムの改修しかしてきていない。仮に30年間刷新していなければ、システム導入の際に40歳で働いていた担当社員は、現在70歳となって定年退職している。銀行の業務とシステムを両方分かっている人間は、もはや銀行にはいないのだ。

 システム開発会社としては、業務が絡む様々なシステム部分を銀行に決めてもらわねば始まらないのだが、銀行側がシステムを理解できていないため、遅々として開発が進まない。こうした状況下でも、開発会社はシステム稼働開始日を約束するわけだが、それに遅れると、最悪の場合は訴訟になることすらある。

 この難局で頼りになる存在がサインポストだ。同社は銀行業務の定義を行い、経営側の人間とも話して、プロジェクトが円滑に進むように整理してくれるため、システム稼働日に間に合う可能性が高まる。

 この結果、サインポストは顧客である銀行だけでなく、パートナーのシステム開発会社からも感謝されることが多い。近江商人が伝える「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」はよく聞くが、蒲原がそこに「パートナーよし」を加えた「四方よし」を標榜しているのも頷ける。

大企業不在の領域を突く

 従来のコンサルやシステム開発会社のやり方では、銀行の経営課題の解決には繋がっていないことを悟った蒲原は、自身での起業を決意した。しかし、大企業とまともにやり合って勝てるほど、世の中は甘くない。

 ランチェスターの法則によると、強者と弱者が戦った場合、その実力差は兵力の二乗に比例する。つまり、1対4ならば1対16、5対1000ならば25対100万。これでは勝てるわけがない。

 ただ、蒲原には勝算があった。上記の法則には「広い戦場で戦った場合」という条件が付くからだ。敵がどんな大軍であっても、狭い谷間で戦えば、個人の実力がモノを言う。これは、社員数を始めとする経営資源の少ないベンチャー企業が大企業を打ち破る際の定石でもある。

 サインポストは徹底して顧客である銀行側に立ち、銀行の経営や業務、システム周りまで理解して、プロジェクトを管理。顧客の下に出向してでも、事務から交渉事まで全て対応するため、付加価値が高く、銀行から圧倒的な支持を得ている。

 ただ、そうした業務を行う社員を育てるのは至難であり、仕事自体にも非常に手間がかかるため、大企業は手を付けない。大手からすれば、「何万人月もするシステム開発の仕事を売った方が効率的」というわけである。

 ゆえに、サインポストは唯一無二のコンサル企業としてのポジショニングを堅守し、成長を遂げてきたのであった。


強さの秘密1・ポジショニング

強さの秘密2・チャレンジ精神

ピンチをチャンスに変える

 そんなサインポストが飛躍するきっかけとなったのは、とある地方銀行での案件である。1年間かけて勘定系システムを移行するプロジェクトで、時間的な余裕こそ無かったが、前年に同じような仕事を受けたことがあったため、筋道は見えていた。

 しかし、ここで思わぬ壁が立ちはだかる。偶然ながら、行政による抜き打ち検査が入ったのだ。システム刷新のためにサインポストが呼ばれている時点で、不完全な部分があるのは当然。システムは1年間の計画で制作が進行しているところであったが、まだ半年という状態で検査を迎えたため、未完成の部分を指摘され、それまで積み上げてきた業務までも否定されて、振り出しに戻ってしまった。

 しかも、この時ばかりはサインポストの誇る二人三脚のコンサルが裏目に出た。検査の内容について、サインポストの社員がやり取りしているのが検査官の目に留まってしまったのだ。

 当然ながら、行政検査の内容は極秘事項で、検査対象組織以外の人間に知られてはならない。「お客様のIT部門の一員」として働くサインポストは言わば身内なのだが、銀行からすれば「他社」であることは明白だ。この結果、行政から銀行のガバナンスさえ疑われる事態を招き、万事休すとなった。

 蒲原は、直ちに現地まで飛んだ。顧客の信頼を失いかねない状況の中、蒲原が銀行の副頭取と真摯に話すと、「トップがこういう人ならば信頼できる。現場も安心して任せる」とお墨付きを得た。「検査官にはちゃんと話をするから、君たちは安心して仕事をしてほしい」

 蒲原のこの言葉に勇気付けられたサインポスト社員と行員が一体となり、諦めずに奮闘したことで、システムは期限通りに稼働を開始。検査の厳しさは業界では周知の事実であったため、「よくぞあれを乗り切った」と評判になり、口コミが口コミを呼んで、サインポストの地方銀行向け案件が広がっていった。

 この時、システム移行を指揮した地銀側の担当者は、今でも現場で共に汗を流したサインポスト社員の名前を全員覚えている。そして蒲原に会うと必ず、「あの移行の時は、本当にお世話になりました」と言って、深々と頭を下げるという。ここまで感謝されるコンサル企業はそうそうあるまい。



強さの秘密3・お客様視点

時には撤退も辞さず

 プロジェクトを進めるばかりがサインポストの仕事ではない。

 前述の口コミを聞きつけ、また別の地方銀行から案件が舞い込んできた時のことだ。同行では、システム移行のプロジェクトが上手く行かずに困っていた。現地に入った現専務の西島康隆も、話を聞けば聞くほど、必要な段階が何一つ踏まれていないことを痛感した。

 サインポスト側の出した結論は、プロジェクトの中止。既に開発から1年が過ぎていたものの、このままでは確実に上手くいかないとの判断からであった。

 この「勇気ある撤退」について、本件の責任者であった銀行側の専務が腹を決めることができたのは、蒲原が何度も現地まで赴いて、「なぜ中止せねばならないのか」を腹落ちするまで根気強く伝えたためである。

 サインポストが代替案として提示したのは、現状システムの延命。ただし、ソフトウェアはそのままにしつつ、寿命のあるハードウェアを変える方向に舵を切った。

 顧客のための最善策ならば、たとえそれが「撤退」という選択肢であっても真摯に伝えるのがサインポスト流。傷が浅いうちにプロジェクトを止めたことについて、同行からは感謝され、今でも関係が続いている。

顧客第一を徹底

 サインポストのお客様視点は、コンサルティング事業以外にも染み付いている。IT技術を生かして顧客の課題を解決するソリューション事業。その主軸となっている「ユニケージ」導入もその一つだ。

 ユニケージは、大量のデータを一括処理する「バッチ処理」を10倍以上高速化できるパッケージ商品である。銀行は、給与の支払いやクレジットカードの口座振替、定期預金の満期案内送信など、数えきれないほどの「バッチ処理」業務を抱えている。この処理をできる限り早く終わらせ、万が一システムエラーなどのトラブルに見舞われた際に、対応する時間的猶予を持ちたいというのが銀行の本音だ。

 そこにユニケージを導入すれば、高額なデータベースソフト不要で高速処理を実現でき、開発費も従来の3分の1に抑えられる。

 実はこのユニケージ、流通小売業界では既に普及しているものだが、金融機関には入っていなかった。システム開発会社としては、自社の売上げが減ってしまうため、意図的に導入が見送られてきたのである。

 しかし、サインポストは銀行側に立っている。顧客にとって良い商品があれば、薦めるのは当然だ。こうして銀行にも、ユニケージが導入されることとなった。


強さの秘密3・お客様視点

強さの秘密4・全員営業

高付加価値の仕事をせよ

 絶妙なポジショニングとお客様視点のサービス展開で支持を集めるサインポスト。確かに、口コミで仕事が来ることも多いが、その裏には同社の地道な営業努力がある。

 サインポストでは「全員営業」を標榜している。営業には3種類あり、1つ目は完全なる新規営業、2つ目は既存顧客の新たなニーズを汲み取る営業、3つ目は顧客が満足する高品質な仕事をする営業である。

 特に重要なのは3つ目で、これは例えば、先回りして頼まれていない資料を事前に準備しておくといった、お客が驚いて感動するような仕事のことを指す。

 蒲原も「3つ目が無ければ、営業は砂上の楼閣。反対に、そうした価値の高い仕事をしっかりできていれば、オンリーワンの事業をしていますから、価格競争も無く、仕事は自動的に弊社に来ます」と言う。

相手の輪郭を探る

 蒲原は、営業において相手を知る上で、「輪郭を探ることが重要」と説く。

「ものの真ん中を突くことができるのは、輪郭があるからです。しかし、人の心は流れている水と同様に輪郭が無いので、真ん中を突けない。そこで、輪郭をはっきりさせる必要があります」

 そのためには、相手の夢、趣味、趣向など、あらゆることを聞き、輪郭を探るしかない。しかも難しいのは、人の心は出世、結婚、出産などで輪郭が変わってしまうことだ。したがって、常に追い続けなければならない。

 輪郭を探らないまま営業を行うと、とんでもない所を突いてしまうことになる。よくある例が、相手のニーズも推し量らず、勝手に提案書を持ってきて必要無いサービスを売りつけてくる営業だ。忙しい中で相手が話を聞いてくれればまだ良い方で、大抵は「その会社と二度と取引をしない」という選択肢が取られる。

決裁権は誰にあるか

 相手の立場になって考えられるかどうかで、営業の実績も変わってくる。例えば、顧客にある提案をしたい場合、その決裁権を持つのは誰かを見極める必要がある。

 それが目の前の相手であれば、その人を説得すれば良いので簡単だ。しかし、往々にして目の前の人物は一担当者であり、決裁者はその上にいることが多い。その際、目の前の担当者の任務は、決裁者たる上司への報告である。

 したがって、この担当者をいかに上手く言いくるめようが、意味が無い。真にやるべき交渉とは、その担当者がどのように説明すれば、決裁者である上司から判子を押してもらえるか、丁寧に教えることなのだ。

 ただ、ここで忘れてはいけないのは、担当者にも心があるということ。「決裁者と直接交渉した方が早い」と考えて担当者を飛ばすと、何らかの禍根を残す可能性も否めない。よって営業には、状況に応じて関わる人々の立場や気持ちを勘案し、臨機応変に動く能力が問われる。


強さの秘密4・全員営業

強さの秘密5・人づくり

人生は階段である

 サインポストを支えているのは社員、すなわち人である。彼らに対して、蒲原は父親のような眼差しで諭す。

「成長は階段です。スロープではありません。だから、3日努力したからといって3日分伸びるということはない。しばらくはずっと平らです。そして、ある日突然、ふっと成長します。成長できない人はそれが分かっていないので、途中で努力を止めてしまう。そんなことを繰り返していると、未来永劫成長しないまま、人生が終わっていく。だから、不断の努力を続けてください」

 蒲原は、「どんな職業でも、一人前になるには10年必要」と説く。サインポストの説明会でも、「1年で一人前になれるというような会社には入るな」と言っている。

 その蒲原の考えがよく表れているのが、採用活動で学生向けに流す動画だ。主人公はサインポストの3年目の社員。仕事は忙しく、上司は厳しく、辛い日々を送っている。何度もプロジェクトから外してもらおうとするのだが、厳しいながらも愛のある上司の言動によって、次第に前向きになっていくーー。 

 ラストこそハッピーエンドだが、こんな暗い雰囲気の動画を学生に見せる企業もなかなか無いだろう。だが、蒲原は「誰でも良いから来てほしいわけではない」と意に介さない。仕事の厳しさを最初から知った上で、それでも一緒に夢を追いたいという学生にこそ、入社してほしいと願っているからだ。

 コンサルティングを主力事業とし、かつ社員が顧客企業に常駐することも多いサインポストでは、業務を任せられる人材を育てるのに時間がかかる。やはり、最終的に企業の強さを生むのは人づくりなのだ。

 蒲原がどんなに人を大切にしているかは、リーマンショックの際のエピソードからも明らかだ。倒産さえ覚悟した蒲原が真っ先に考えたのは、社員の再就職先であった。

 そんな愛情溢れる蒲原に育てられた社員たちが、それぞれの空へ巣立ち、サインポストをさらなる高みへと押し上げていくのだろう。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top