トピックス -企業家倶楽部

2019年10月11日

イノベーションの恩恵を積極的に活用せよ/ベーシック社長 秋山 勝

企業家倶楽部2019年10月号 企業家は語る


ウェブマーケティングSaaS「ferret one(フレットワン)」を提供し、マーケティングの大衆化を目指すベーシック。今回は同社の秋山勝社長に「経営者としてどのようにイノベーションと向き合うべきか」というテーマについて、シェアリングエコノミー、サブクリプション、クラウドソーシングといった具体的な事例と共に語ってもらった。




 私は2004年にベーシックを創業し、現在はウェブマーケティングSaaS「フェレットワン」を提供しています。ウェブマーケティングの領域でビジネスをしていると、イノベーションによる社会の変化について考える機会が多くあります。そこで今回は「経営者はどのようにイノベーションと向き合うべきか」についてお話したいと思います。



現代は価値観が混在している

 イノベーションとは「新しい技術や考えを取り入れて新しい価値を生み出し、社会的に大きな変化をもたらす」ということです。ここ数年の変化の激しさは周知の事実ですが、様々な産業の事例を見ながらイノベーションについて考えてみましょう。

 まず「シェアリングエコノミー」です。現在、Airbnb(家のシェア)やUber(運び手のシェア)、エアークローゼット(洋服のシェア)など、様々なサービスが生活の一部になっていますね。なぜここまで浸透してきているかというと、今まで「所有」でしか得られなかった体験を、「借りる」ことで味わえるようになったからです。つまり「所有」から「利用」へと価値観が変わってきています。

 ここ数年間ずっと「若者の車離れ」が叫ばれています。これも、価値観の変化の影響です。「若者の車離れ」を指摘する方々は、「所有する」ことが当たり前だった時代を生きてきました。それに対して若者は、「車を持つことはコスト」と考えており、「借りる」べきだと思っています。このように、今の時代は「所有したい」世代と、「所有したくない」世代が混在している面白い時代なのです。



利便性が重視される時代

 次に「サブスクリプション」です。月々決まった金額を払って、サービスを利用できるというものですが、これが社会にどのような影響を与えているのでしょうか。

 サブスクリプションの恩恵を受けたのは音楽業界です。デジタル化が進む中で、音楽を手に入れる際の顧客行動は「CDを買う」から「ダウンロード」へと変わりました。その過渡期に海賊版などの違法アップロードが続々と現れ、音楽業界の収益は右肩下がりでした。しかし、これが現在ではV字回復を果たし、権利者に正当な利益が流れるようになりました。その要因となっているのがサブスクリプションです。

 音楽業界の事例から分かるのは、手間をかけて無料の海賊版を使うより、月額料金を払ってでも企業が手掛けるサービスを利用する時代に来ているということ。つまり、ユーザーは「無料」より「利便性」を重視しているのです。私たち経営者は「なぜユーザーは無料ではなく、有料に流れているのか」に着目せねばなりません。

 少し前にフェイスブックが「Libra(リブラ)」という仮想通貨を発表しました。この仮想通貨の特徴は、通常通貨と連動していて、ビットコインのように価格が乱高下することが無い点です。フェイスブックがこうした施策に打って出たのは、海外送金など金融分野の覇権を狙っているからでしょう。

 今まで海外送金をする場合には、面倒な手続きに加えて手数料も割高でした。しかし、それしか方法が無いので仕方なかった。リブラが登場すると「利便性」は圧倒的に高くなりますから、世界中に大きなインパクトを与えるに違いありません。

 リブラの発行と同時に、そのプラットフォームを使う30社のパートナー企業も発表されました。その中にはVISA、マスターカードといった世界トップクラスのカード会社やUberなど世界的企業が名を連ねていました。

 この事実からも、「利便性」が今まで以上に私たちにとって欠かせない価値となってきたことが分かります。私たちは、フェイスブックがリブラを発行するに至った真因を追求し、その本質的な部分をどのように自分のビジネスに取り入れるか考えるべきです。



信用経済が社会を良くする

 あとは「クラウドソーシング」です。現在、日本企業は正規雇用が難しくなっています。多くの企業は正規雇用に固執していますが、その明確な理由は持っていません。そして厳しい言い方をすると、固執することは「思考停止」と同じです。

 このような状況だからこそ、考え方を変えてクラウドソーシングを積極的に使い、優秀な人材を社内に取り込むべきでしょう。実際に、私たちのプロジェクトでもハイスキルな方々を取り入れています。彼らには言わば教育コストが掛かっていないわけですが、ものすごいスピードで仕事をしてくれるので、弊社としてはメリットでしかありません。

 クラウドソーシングを使う際、「その人は本当に信頼できるのか」という疑問が出てくるかと思いますが、心配する必要は無いでしょう。クラウドソーシングで仕事をする方は、信用経済の中で生きており、外部からの評価を大切にします。

 分かりやすい事例としてはタクシーが挙げられます。タクシーに乗ると、様々な運転手に出会いますよね。これは私の見解ですが、UberやJapan Taxiの運転手は接客や運転がとても丁寧なように思います。それは、UberやJapan Taxi はお客から「このタクシーは〇〇点」と評価を受けるからでしょう。評価が低いと自分の生活に直接響いてくるため、自然とサービスが良くなるのです。

 信用経済の中で仕事をする方は、わざわざ自分の評価を下げるような真似をしませんので、安心して仕事を任せられます。私たちは従来のマインドセットを変えて、こうした人材を積極的に取り入れましょう。実はそのような人材こそ、業容を拡大する大きなきっかけとなるかもしれません。



共感で繋がる社会

 私がベーシックを立ち上げた04年当時は、資金調達のハードルがかなり高かったのですが、今ではベンチャー企業でも1億円以上調達できるのが当たり前になっています。その背景には、CAMPFIRE(キャンプファイヤー)といったクラウドファンディングの広まりがあるでしょう。

 クラウドファンディングのサイトで「こんなことをしたい」「こういう製品を作りたい」と声を上げると、それを見た人が「これを解決してくれるのか」と期待して、出資をする。つまり、ある人の「想い」に共感することで、金銭が支払われるという仕組みです。

 クラウドファンディングで「共感」によって金銭が支払われるのと同様に、働く際にも「この会社で働きたい」という共感から、その会社の門を叩く事例が増えてきました。要するに、共感で繋がる社会になってきているのです。

 
 最近、共感社会を実感した出来事がありました。私の息子は人気ユーチューバーのHIKAKIN(ヒカキン)が好きで、しょっちゅう彼の動画を見ています。そこで、なぜここまで人気があるのかと思って一緒に見ていると、様々なことに気付きました。

 彼の動画のクオリティーはテレビと比べると落ちますが、素人が作るが故の人間味がありました。ゲームをプレイする動画でも、決して上手くはないのですが、「自分もここで失敗するな」と思えた。これこそまさに共感です。ヒカキンが人気になった理由がよく分かりました。

「ユーチューブは一過性のメディアだ」と言われることもありますが、テレビも登場した当時は同じことを言われていました。新しい製品やサービスが出てきた時、一過性のブームだと無下に一蹴するのではなく、「なぜそれに人気が出ているのか」と本質を考えることが大切です。



世界に取り残される日本

さて、話を資金調達に戻しましょう。以前メルカリが約50億円の資金調達をしたことが話題になりました。これに止まらず、近年は未上場の会社が巨額の投資を受ける事例が後を絶ちません。

 巨額の資金調達を行っている会社に共通して言えることは、既存の業界を大きく変えて社会に大きなインパクトを与える可能性を秘めている「ディスラプター(破壊者)」ということです。「ディスラプター」と認められれば、創業して間も無いベンチャー企業でも資金調達ができるのです。

 ディスラプターという点に注目すると、日本の悲しい現実が浮き彫りになります。07年と17年の日本企業の時価総額ランキング上位10社を比較してみると、顔ぶれもさることながら時価総額も変わっていません。要は、この10年間で成長していないのです。

 一方、世界を見ると日本とはまるっきり違います。GAFAが台頭し、直近でアップルが時価総額100兆円を超えたように、時価総額の規模が7.4倍に増えました。国際的にはイノベーターに対しての理解が深い一方で、日本は既得権益を守る意識が非常に高いということが分かります。



イノベーションのジレンマ

 クレイトン・クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」という理論を提唱しました。それは、「製品が改善を繰り返していく過程で、顧客が求める性能を超えてしまう。しかし企業はその製品の市場を捨てきれず、新興企業に遅れを取る」というものです。

 カメラ業界で説明しましょう。約20年前、デジタルカメラが市場に現れました。当時は画質が悪かったのですが、そこから改善を重ね、コンパクトデジタルカメラ、一眼レフまで登場しました。ただ、一眼レフは持ち歩くのも不便で、あくまでも趣味の範囲のカメラとなってしまい、一般大衆のニーズからは完全に外れました。

 一方、約20年前と言えば、カメラ付き携帯電話が出てきた時期でもありました。こちらはまだまだ実用には耐え難いものでしたが、今日、旅行する時にデジタルカメラを持っていく人は少なくなっています。ほとんどの人がスマートフォンで撮影するからです。

 
 このように、スマホのカメラはデジタルカメラの市場を完全に上回ったと言えるでしょう。まさにデジタルカメラがイノベーションのジレンマに陥り、その間にスマートフォンがディスラプターとなって登場したのです。

 イノベーションのジレンマを外から見ていると、「既存の会社が自分たちで新たな製品を作れば良かったのではないか」と思うことでしょう。しかし、マーケットリーダーは自分たちの市場を拡大して守ることを優先するため、自分の市場を自ら壊すような真似はできないのです。そして、それによって新興市場に大きく出遅れる結果となります。

 イノベーションのジレンマは様々な業界で起きています。テレビはユーチューブに、ヤフオクはメルカリにディスラプトされています。あのフェイスブックですら、モバイル利用を軽んじた結果、スマホの爆発的な普及に際して遅れを取ってしまいました。

 人間は、どうしても今あるものに固執してしまいます。それは仕方無いことかもしれませんが、私たちは可能な限り、イノベーションのジレンマに陥らないような視点を持つことが大切です。



ユーザーのニーズに敏感になる

 ここまでの話で、イノベーションを取り込み、人の感情に寄り添った企業が大きな資本を手に入れて、社会を変えていることが理解できたと思います。これからの社会は今まで以上に、イノベーションによって変化が加速します。過去の成功体験は意味を持ちません。過去に縛られるのではなく、未来を予見した行動が求められるでしょう。

 そして「顧客は何を求めているのか」「何を重要視しているのか」に敏感になるべきです。経営者はイノベーションの恩恵を積極的に活用し、未来を描き、そこに向かって恐れず実行することが重要になります。

profile

秋山 勝(あきやま・まさる)

1972年生まれ。高校卒業後、企画営業職として商社に入社。97年、グッドウィルコミュニケーション入社。物流倉庫の立ち上げやEC事業のサービス企画を担当。2001年、トランス・コスモスに入社し、ウェブマーケティング関連の新規事業など数々の事業企画を手がける。04年、ベーシックを創業。オールインワンマーケティングツール「ferret One」、ウェブマーケティングメディア「ferret」や「フランチャイズ比較ネット」などのメディア事業を展開。一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)理事。



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