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2019年10月23日

渋沢資本主義に磨きをかけよう~企業家賞に期待~/千葉商科大学名誉教授 三橋規宏 Tadahiro Mitsuhashi

企業家倶楽部2019年10月号 緑の地平 vol.49


三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授

1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。
 



企業経営の基本は「経済と倫理の両立が必要」と説く

 令和時代を特徴づける変化として、1万円札の顔が福沢諭吉から渋沢栄一に変わる。渋沢は日本資本主義の黎明期に、「企業は経済(利益追求)と倫理を両立させなければならない」と主張し、自ら実践した経営者である。日本最初の銀行、第一国立銀行(現在のみずほ銀行)の創設を皮切りに、日本郵船、JR、東京ガス、サッポロビール、東京海上日動火災、清水建設など日本を代表する500社を超える企業の創設に携わった。渋沢のユニークなところは、三井、三菱、住友のような財閥を形成せず、軌道に乗せた企業の舵取りは惜しげもなく有能な若手に譲ったことだ。会社は個人の所有物ではなく、広く人材と資本を結集して社会に役立つ事業をすべきだ、との強い信念を持っていた。企業は世のため人のために役立つ存在でなければならないとする渋沢資本主義は企業性善説が原点になっている。企業は放っておけば利益追求のために、地球環境破壊、コンプライアンス(法令)違反、貧富の格差拡大など社会悪をもたらしかねないので厳しい規制が必要だとする米国流の「企業性悪説」とは対極の考え方だ。

 明治の近代化からバブルが弾けた1990年以前の日本では、渋沢の影響を受けた多くの企業が労使協調路線を定着させ、「経済と倫理」を基礎に置いた経営を実践してきた。この日本独特の資本主義を渋沢資本主義と呼ぶ。その渋沢資本主義だが、90年代に入り、「失われた20年」の長期デフレ不況で経営が悪化した多くの日本企業は重荷になった労使協調路線を捨て、利益至上主義のアメリカ型資本主義に移行した。



資本主義は一つではなく様々なタイプが存在

 一般に生産手段が私有化され、自由な市場で生産者と消費者が様々な財貨・サービスを交換する経済システムのことを資本主義と呼んでいる。その資本主義は一つではなく様々なタイプが存在する。経済システムを支える消費者行動、企業行動はそれぞれの国の歴史、文化、宗教などの経済外的要因に大きく影響を受けるからである。日本型、アメリカ型、英国型、ドイツ型、中国型など国の数と同じぐらい多様な資本主義が存在する。

 第二次世界大戦後、パクス・アメリカーナ(アメリカ支配の平和)の時代が始まった。圧倒的な軍事力、経済力で超大国にのし上がったアメリカが覇権を握る平和である。この過程でアメリカ型資本主義が世界経済を席巻し、資本主義といえばアメリカ型を意味するようになった。アメリカ型資本主義は、複雑な歴史、特別な文化、宗教に影響されず教科書通りの資本主義経済として出発した。

 
 複雑な消費者行動、企業行動の中から数式化できる部分だけを取り出し独特の経済学を創り上げた。新古典派経済学である。新古典派経済学は、経済活動から数式化できないモラルの部分を排除し、利益至上主義の経済学として開花した。



アメリカ型資本主義は時代に合わなくなり破綻

 企業は株主のもの、短期的利益追求、市場万能主義に要約されるアメリカ型資本主義は世界経済の発展に大きく貢献したが、半面、地球の限界(環境悪化、資源枯渇など)、労働環境の悪化、所得格差の拡大、中階級の没落、法令違反の頻発など負の遺産を噴出させ行き詰まった。輸入関税の一方的引き上げなど「アメリカファースト」を掲げて登場したトランプ米大統領の保護貿易政策は、アメリカ型資本主義の破綻が生み出した歴史的産物といえよう。

 あらためて歴史を振り返ると、世界には多様な資本主義が存在している。アメリカ型に圧倒され、その存在が隠されていただけだ。フランスの経済学者、トマ・ピケティは自著「21世紀の資本」の中で、ドイツには「ライン型資本主義」が形成されていたと指摘している。企業は株主だけのものではなく、労働組合、消費者団体、教会、地方政府など利害関係者すべてのものだとする経営モデルだ。今流の言い方では「ステークホルダーモデル」である。日本には、江戸時代に源流を持つ近江商人の「3方よし」、明治に入ってからは渋沢資本主義が実際の経済活動の中で脈々と息づいていた。

 
 この数年、世界の主要企業がESG投資(環境、社会、ガバナンス重視の投資)や国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)投資に意欲的に取り組んでいるのは、破綻したアメリカ型に代る新しい経済システム構築への挑戦である。

 ICT(情報通信技術)革命の進展によって農家と異業種企業が連携し、高齢化と低生産性に喘いでいた農業部門を成長産業として復活させようとする試みが各地で進んでいる。インターネットやAI(人工知能)を活用したシェアリングエコノミー(共有型経済)が急速に普及し始めた。エネルギー分野でも一極集中型の原子力や石炭火力に代って、自立、分散、循環を特徴とする太陽光や風力などの再生可能エネルギーが存在感を増してきた。



渋沢資本主義に現代の光を当て磨きあげるその先兵役が企業家賞受賞者群

 地球限界時代の企業は、その存在が世のため人のためにならなければ存続が認められなくなるだろう。その意味で、これからの企業は公共財的性格がより強く求められるようになる。「経済と倫理の両立」が経済発展の条件だと主張した渋沢資本主義にこの数年、急速に世界の研究者の注目が集まっている。

 破綻した利益至上主義のアメリカ型に代って、経済活動に参加する様々なステークホルダーが互いに結びつき、助け合い、経済成長の成果を分かち合う「ウイン、ウインの関係」を支える新しい経済モデルは、渋沢資本主義に現代の光を当て磨きあげることで誕生してくる予感がする。

 
 その先兵役として期待するのが本誌企業家賞の受賞者群の活躍だ。本誌主催の企業家賞は今年で21回目。受賞者数も120人を超えた。受賞の選考条件として最も重視されるのが社会への貢献である。「わが社は、世のため人のために何ができるか」を明確に語れる経営者でなければ受賞対象から外れる。単なるお金儲けの天才は受賞できない。

「無から有を創り出す」イノベーションによって、様々な形で社会に貢献する人材発掘が企業家賞の目的である。受賞者である孫正義ソフトバンクグループ会長、永守重信日本電産会長、柳井正ファーストリテイリング会長、澤田秀雄エイチ・アイ・エス会長などの経営姿勢は渋沢資本主義の現代版実践といってよいだろう。本誌企業家賞受賞者が結束し、渋沢資本主義に磨きをかけ、新しい経済モデルを完成させて世界に発信してもらいたい。



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